聖女、命じる
180-①
ソウザン城最上階に用意された《聖女の間》にて、本物のシルエッタはほくそ笑んでいた。
机の上に置かれた鏡には、差し向けたシスターズ04~24を前に、『ゲェーーーッ!? なんじゃありゃあーーー!?』と、たじろぐ武光達が映し出されている。
それにしても……と、シルエッタは呟いた。思えばあの塵共との因縁も長く根深いものとなった。まさかこんな所まで乗り込んで来るとは……
まぁ良い、あの塵達もここで終わりだ。特に塵共の中でも最も穢れた存在……異界人の分際で私の邪魔をし続け、あまつさえ私の顔に尻までぶつけてきたあの男……唐観武光、奴は絶対に許さない。
今日まで何度……何度眼前に猛然と迫る尻の悪夢にうなされ飛び起きた事か……!!
「高貴なる私の顔に……尻を……!!」
シルエッタは顔をひと撫ですると、感覚をリンクさせているシスターズ04を通じて、シスターズ部隊に総攻撃を命令しようとした。だが、その時!!
「せ、聖女様ーーー!! 一大事ですーーー!!」
一人の信徒がすっ転びながら部屋に飛び込んで来た。シルエッタは瞬時にいつもの微笑みを浮かべて信徒に近付いた。
「どうされました? 落ち着いて報告して下さい」
「て、敵が……敵が城で向かって来ます!!」
「敵が城に向かっている……!?」
シルエッタの言葉に、信徒は激しく首を左右に振った。
「違うんです、敵が城で……城で向かって来てるんです!!」
「城……で……!? まさか……!!」
シルエッタの顔から微笑みが消えた。シルエッタは机にしまってあった遠眼鏡を取り出し、窓の外を見た。
シルエッタの視線の先には……城があった。甲殻類のような脚が生えた城が、その巨大な脚を動かしながらこっちに向かって来る。
信徒は怯えながら告げた。
「聖女様……わ、私は三年前の大戦で従軍した時に見た事があります。アレは……アレは魔王の城です!!」
信徒は恐怖で発狂寸前になりながらシルエッタに縋る。
「聖女様!! どうか私をお救い下さい!! どうか……」
だが、シルエッタは救いを求める信徒を歯牙にも掛けずに、ポツリと呟いた。
「移動要塞……《メ・サウゴ・クー》……アレが、再び動くだなんて……!!」
シルエッタは縋り付く信徒を乱雑に払い退けると、急いでシスターズ部隊に思念を送った。
(シスターズよ……全軍をもって、メ・サウゴ・クーを止めなさい!!)