斬られ役、極意を語る
179-①
武光とイットー・リョーダンによって、サンガイハオウは三つに分断された。
三つに分断された塊がモゴモゴと動き、徐々に人型に戻ってゆく。
「どうだ……!?」
〔こ、これは……!!〕
なんとか人型には戻ったものの、三人の姿はまるで泥とヘドロで作られた人形のような醜悪な姿であった。
「お前らー!! 大丈夫か!?」
「アア……アアア……」
「オオ……オオオ……」
「ウウ……ウウウ……」
武光の呼びかけに対しても苦しそうな呻き声を上げるのみだ。どうやら、肉体を再生させようとしているようだが上手く再生出来ないでいるようだ。
その様子を階段の踊り場から見下ろしていたシルエッタは嘲笑った。
「フフフ……愚かですね、敵を救おうなどと──」
「うるせぇ!!」
武光はシルエッタに向けて “ブッ!!” と屁をこいた。
「なっ!?」
「お前なぁ、『役者でもプロレスラーでも、悪役に必要なのは優しさと礼儀正しさ』って言葉を知らんのかっ!!」
『いや、知りませんけど……』と、困惑するシルエッタを無視して、シスターズの側に屈み込んだ。
「しっかりしろお前ら!!」
「フン……そんな失敗作達を救おうなどと……愚かで、無意味で、無駄な行為ですよ?」
「武光様の優しさを……無駄なんて言わせません!!」
「アスタトの巫女……!!」
ナジミは武光に寄り添い、暖かな光を纏った右手を、苦しむシスターズに翳した。ナジミの癒しの力によって、シスターズが徐々に元の姿へと戻ってゆく。
「ナジミ……俺のワガママを許してくれるんか?」
「あそこでワガママ言ってくれなかったら、ちょっとだけ嫌いになってたかもしれません。それに……優しさと礼儀正しさが必要なのは、巫女だって同じです!!」
その光景を見ていたシルエッタは忌々しげに舌打ちした。
「どこまでも不愉快な……!!」
シルエッタの持つ聖杖の先端に嵌め込まれた紫の宝玉から無数の触手が出現した。現れた触手は無防備な二人の背中を貫こうとしたが……
「させるかコノヤロー!!」
「武光は……やらせない!!」
フリードが、ミトが、そして三人娘とリョエンが、二人の盾となって迫り来る触手を斬り飛ばした。
「皆……すまん!!」
「へっ、農家だって優しさと礼儀正しさが必要なんだよ? アニキ」
「全く……本っっっ当にバカなんだから!!」
「ムッ、《素敵☆ポイント》と言え《素敵☆ポイント》と!! 惚れ直させて悪いな?」
「アホか!! 優しさと礼儀正しさが必要なのは、王女だってそうです!!」
「その侍女である私達だって!!」
「うむ!!」
「そ、その通りです!!」
「術士だって例外ではありません!!」
「ちょっと待てやお前ら!? 皆がそれ言うてもうたら……俺の特別感無くなるやん!!」
「良いからアニキは姐さんをしっかり守って!! コレ……隊長命令だからね!!」
「お、おう!!」
鉄壁の防御陣形を組んだフリード達に対し、シルエッタは微笑んだ。
「ふふ……無駄な事を」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるぜ!! アニキ達には……指一本触れさせねぇ!!」
「これでもですか?」
「ゲェーーーッ!?」
上の階からシルエッタが階段を降りて来た。だが、現れたシルエッタは……二十人もいた!!




