斬られ役(影)、授かる
151-①
オサナに連れられて、影光はしぶしぶ謁見の間にやってきた。
謁見の間には、マナと各種族の将兵、それに天驚魔刃団の面々がいた。
「よく来て下さいました、影光さん」
謁見の間の最奥、壇上に設えられている豪華な装飾が施された玉座に腰掛けていたマナは、影光の姿を見ると、玉座から立ち上がり、壇上から下りてきた。
「影光さん……この度はキョウユウを討って、我々の窮地を救って頂き、本当にありがとうございました」
「フン……別にぃぃぃ……俺は、俺が天下を奪る為に戦っただけだしぃぃぃぃぃ!?」
「……影光っちゃん!!」
「いいっ!?」
深々と頭を下げたマナに対し、未だに拗ねまくった態度を取った影光は、隣に立っていたオサナに尻を思いっきりつねられた。
「その……すみません、怒っていますよね……? 命がけでキョウユウと戦ったのは影光さん達だというのに……何もしていない私が、魔王の娘というだけでまるで主君の如く祭り上げられているこの状況は……」
「……ぬぅ」
心底申し訳なさそうなマナを前に、影光は気まずさを感じた。彼女に非がない事は、影光も頭では理解しているのだ……頭では。
「今日お呼びしたのは……影光さんからの御恩に報いたいと私なりに考えて……あるものをお譲りしようと決心したからです」
「……あるもの?」
「ゲンヨウ、例の物を」
マナが、執事のゲンヨウに命じると、羊の老魔族は豪華な装飾が施された、黒く細長い箱を恭しくマナの前まで運んできた。
「お嬢様……本当に……本当によろしいのですか?」
ゲンヨウからの問いかけに、マナは静かに頷くと、ゲンヨウが持ってきた箱を開けた。
箱の中に納められていたのは、漆黒の鞘に納められた一振の剣だった。
見るからに年代物で、鞘の形状から恐らく幅広の直剣であろう。護拳部は斜め後ろに大きく翼を広げた黒い竜を模した形状をしており、竜の額には真紅の宝石が嵌め込まれている。柄には紫色の柄糸が巻かれており、柄頭には打突用の四角錐型の鋭い杭が取り付けられている。
目の前の剣が纏う、妖気ともとれる圧倒的な威圧感を前に、影光は思わず息が詰まりそうになった。
「影光さん……この剣を貴方に」
「こ、この剣は一体……」
影光の問いに、マナは答えた。
「その剣の名は、《ネキリ・ナ・デギリ》……父の……魔王の剣です」