斬られ役(影)、魔王(笑)と闘う
147-①
キョウユウは反逆者を皆殺しにする為に魔王城最上階の王の間から階段を駆け下り、謁見の間までたどり着いた。
「クソ共が……一人残らずブチ殺してやる!!」
キョウユウは謁見の間の扉を荒々しく開けた。
「遅かったなぁ、魔王様(笑)よぉ」
「テメェは……!!」
キョウユウの視線の先には、一人の男が立っていた……影光である。
影光は悪党丸出しの顔でニヤリと笑った。
「WEB小説だったら城に突入してから中枢に到達するまで5~6話かかってもおかしくないんだがな? こうも容易く中枢まで来られるとは……つくづく人望が無いな、魔王様(笑)よぉ?」
「て、テメェ……!!」
「お前の手下は全員斬った。もうお前の出番は終わりだ……この舞台からとっとと退場してもおうか!!」
「ふざけるな……このゴミがぁぁぁっ!!」
キョウユウは荒々しく吼えると、刀身の長さは五尺(=約1.5m)、厚みは三寸(=約9cm)はあろうかという両刃の大剣を振り上げ、影光に突進した。
力任せに振り下ろされた剣を影光は右に跳躍して回避した。0.5秒前まで影光が立っていた場所に叩きつけられた切っ先が、床に敷き詰められた石材を粉々に破砕した。
真横に跳躍して攻撃を回避した影光は、着地と同時に地を蹴ってキョウユウの懐に飛び込んだ。
「その首……もらったぁぁぁっ!!」
影光はキョウユウの無防備な喉元目掛けて平突きを繰り出したが……
“ガッ!!”
「なっ!?」
渾身の刺突はキョウユウの全身を覆う強固な鱗と分厚い皮膚によって阻まれてしまった。
キョウユウは耳元まで裂けた口の端を歪めてニヤリと嗤った。
「何かしたか……虫ケラがぁぁぁっ!!」
「チィッ!!」
横薙ぎに振るわれたキョウユウの大剣を、影光は前回り受け身を取りながら間一髪で潜り抜けた。素早く起き上がり、再びキョウユウに真っ向から斬りかかったが、影光の攻撃は再びキョウユウの鱗に阻まれてしまった。
「グワハハハハ!! 貴様の貧弱な攻撃など俺には効かぬわ!!」
「フン……相棒みたいに一刀両断とはいかないか……それならッッッ!!」
影光は三度、攻撃を回避してキョウユウの背後に素早く回り込んだ。
キョウユウの左肩に影醒刃の刃を押し当てると、物打付近の峰に左の前腕を乗せ、体重をかけながら袈裟懸けに引き斬ろうとしたが、やはり頑強な鱗に阻まれてダメージは与えられなかった。
「無駄だぁぁぁッッッ!!」
「ぐうっっっ!?」
キョウユウが横薙ぎに振るった尻尾が影光を捉えた。丸太のように太く強靭な尻尾による一撃は影光の左脇腹を直撃し、影光は凄まじい勢いで壁に叩きつけられた。
それは、生身の人間であれば……いや、例え人間より強靭な肉体を持つ魔族であったとしても、マトモに喰らえば肋骨はバラバラにヘシ折れ、内臓が破裂する程の威力を持つ強烈な一撃だった。現に影光の左の脇腹も指で力を加えたアルミ缶のように凹んでいるが……
「ぬぅおあああああーーーっ!!」
影魔獣の肉体を持つ影光は、圧し潰された体を再生させ立ち上がった。
「なっ!? 馬鹿な……!!」
「ハァ……ハァ……オイ、どうした、くそワニ番長? そんな貧弱な攻撃が俺に効くとでも思ってんのか!!」
実際はめちゃくちゃ効いている。痛くて痛くてたまらないが、影光は目一杯の虚勢を張──
“ブチィッ!!”
「ぐあっっっ!?」
影光の左腕が一瞬で無くなった。突進してきたキョウユウに一瞬で食い千切られたのである。
キョウユウは口に咥えた影光の左腕をペッと吐き出し踏み潰すと、荒々しく吼えた。
「ククク……次は頭だ、虫ケラァァァッ!!」
これは……(笑)などと言ってられない、影光は影醒刃を低く構えた。