赤鬼、弐でも泣く
143-①
兵を貸して欲しいという影光の要求にギリは難色を示した。
「モモタロウさん……申し訳ないんですけど、その申し出は受け入れ難いです」
「うん?」
「モモタロウさんも見たでしょう? 今日だってモモタロウさん達が来てくれなかったらこの砦を守りきれていたかどうか……今の俺達には、戦力を他に割ける余裕はありません。」
それを聞いた影光はギリに質問した。
「お前達は……影魔獣の倒し方を知ってるか?」
「い、いえ……」
「俺達は影魔獣の倒し方を知っている、それを教えてやろう」
「ほ、本当ですか!?」
「但し、時が来るまで……他の種族には影魔獣の倒し方を教えるな」
「一体どうして……それに、モモタロウさんの言う『時』と言うのは一体いつなんです……?」
ギリの問いに対し、影光はニヤリと笑い、答えた。
「俺が……キョウユウを斬って魔王軍を乗っ取った時だ」
影光の放った言葉をギリは俄かには信じられなかった。キョウユウを斬って魔王軍を乗っ取るなどと、本気で言っているのか!?
そして、そんなギリの思考を読み取ったかのように影光は笑った。
「本気だぞ、俺は」
「そ、そんな大それた事を軽々しく口にして良いんですか……? 俺がキョウユウに密告するかもしれませんよ?」
それを聞いた影光は、笑いながらギリの肩を叩いた。
「ふふん、強い男はそんな姑息な真似はしない……だろ?」
ギリは思わず身震いした。偽りの功績によってではない、本当の意味で『お前は強い』と認められたのだ。しかもあのザンギャクを倒した男に。
「おい……何故泣く!?」
「す、すんません……」
「ま、五分前までのお前なら、俺も喋る気はなかったけどな。改めて頼むが、俺達に兵を貸してくれ」
「…………分かりました!!」
「恩に着る。それじゃあ、細かい部分は後でウチの知将枠と話し合ってくれ」
その後、影光達は百鬼塞の兵達に影魔獣との戦い方と倒し方を教え、翌朝、ギリから預かったオーガ兵三十人を引き連れて、トポンツ砦に急行した。
143-②
影光達が百鬼塞を発って数日後、魔王城軍議の間にて会議中の諸将のもとに、トポンツ砦の様子を見にやったキョウユウの部下が戻って来た。
「魔王様、報告致します!!」
「どうであった? トポンツ砦の味方は無事か?」
ニヤニヤしながら報告を聞くキョウユウに対し、援兵の要請を無視し続けて見殺しにしておきながら何を白々しい……と、諸将は苦りきった顔をしていた。
しかしながら、配下の次の言葉を聞いてキョウユウと諸将の表情はそっくり入れ替わった。
「旗が……トポンツ砦に我が軍の旗が翻っています!!」
「何だと……!?」
「トポンツ砦は健在……いえ、それどころか防備が強化されまくってます!!」




