天驚魔刃団、到着する
135-①
時は夕刻、オーガ一族が守備する百鬼塞は影魔獣軍団の猛攻を受けていた。
今の所は高く積まれた石積みの防壁を利して、梯子を使って城壁を登ろうとする影魔獣を何とか叩き落としてはいるものの、城壁の上のオーガの兵士達は明らかに疲労困憊の状態であった。
「ハァ……ハァ……クソッ!! キリが無ぇ!!」
「日没まで耐えろ!! 日が沈めば奴らは消える!!」
「そっちから登ろうとしてるぞ!!」
「さ……させるか!!」
「お……おい!! あれは何だ!?」
何かが、真っ黒なインクを紙にぶち撒けたかのように、大地を黒く染めてゆく。それは、体長が2m近くもある巨大な蜥蜴の群れだった。
「何だあれは……!!」
「あれも影魔獣なのか……!?」
「く、来るぞ!! なっ!? 速い!?」
トカゲ型影魔獣は梯子を使う事なく、直接城壁に張り付いて、するすると壁を登り始めた。
「くそっ!! 落とせ……落とせーーー!!」
「ダメだ、落とし切れな……ぐわぁっ!!
「しっかりしろ!! 今行く……うぐっ!?」
「増援だ、増援を呼んで来い!!」
防壁の上はたちまち乱戦状態となった。
そして……そんな白刃煌めき怒号飛び交う百鬼塞に天驚魔刃団は到着した。
135-②
到着するなりさっそくヤバイ戦況を見て、影光は叫んだ。
「おい、ヤバイぞキサイ!! 影魔獣がもう城壁の上に!!」
「ええ、このままでは……ん?」
その時、キサイは敵陣後方にあるものが設置されているのに気付いた。
「あれは投石機……か?」
キサイの視線の先には一台の大型投石機があった。おそらく暗黒教団が設置したものだろう。投石機の周囲には信徒達と剣影兵の群れがいる。
「でも……妙だな」
キサイは妙な点に気付いた。投石機の周囲に当然あるべきはずの物が無い。投石機で……投げられるべき石が。
「まさか……!!」
キサイの予想した内容を信徒達は実行した。信徒達は丸まった剣影兵を岩の代わりに投石機で発射したのだ。
宙を舞い、城壁を飛び越えた影魔獣は、百鬼塞の壁に凄まじい勢いで叩きつけられて、まるで潰れたトマトのように無惨にひしゃげたが、すぐに再生を始めてゆく。
暗黒教団はトカゲ型影魔獣で城壁に守備の兵を集中させ、手薄になった本塞に投石機で影魔獣を送り込むという、二段構えの作戦で百鬼塞を落とそうとしているのだ。
こうしている間にも影魔獣は次々と射出され、百鬼塞の壁には、黒い染みが増えてゆく。
「よし!! ガロウとフォルトゥナ、ヨミと『ヨミ様を愛でる会』は影魔獣共の背後を突いてかき乱せ、俺とレムのすけは投石機を潰しに行く!! キサイも俺と一緒に──」
「待って下さい」
影光の指示にキサイが待ったをかけた。
「どうした?」
「僕も……ガロウさん達に同行させて下さい!!」
「キサイ……?」
「…………必勝の策があります」
キサイの鬼気迫る目を見て、影光は頷いた。
「……よし、頼んだ!!」
「ハイ!!」
影光は影醒刃の刀身を出現させると、切っ先を勢い良く敵軍に向けた。
「行くぞお前ら……蹴散らせッッッ!!」
天驚魔刃団は暗黒教団を急襲した。




