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斬られ役、異世界を征く!! 弐!!  作者: 通 行人(とおり ゆきひと)
第二回・殴り込み編
132/282

府民、風評被害を被る


 132-①


「うおぉぉぉっ!?」


 影光の頭上から降り注いだ無数の火球は影光の周囲の影魔獣達をも巻き込んで無数の火柱を上げ、影光の周囲を炎の壁がグルリと取り囲んだ。


「あ、危ねー……何つー威力だよ……しかし……」


 これ程の威力の火術の使い手と言えば、ただ一人しかいない。


「気付いてくれたか……!!」


 影光がニヤリと笑っていると、影光を取り囲む炎の壁を突き破って筋骨隆々の大男……『剛力無双の大豪傑』ヴァンプ=フトーが飛び込んで来た。


「来たな……ヴァンプさん!!」


 更に、炎の壁を風で左右に押しのけて扇を持った女性と真面目そうな男性が現れた。

 扇を持った女性……『千能万才の天才術士』キサン=ボウシンと真面目そうな男性……『方正謹厳の監査武官』ダント=バトリッチは目を見開いた。


「……お前、武光なのか?」

「ほ、本当に武光さんなんですかー!?」

「髪の色が違うようですが……」


 困惑する三人に影光は声をかけた。


「お久しぶりです!! キサンさん、ダントさん、ヴァンプさ──」

「……ぬぉぉぉぉぉっ!!」

「むっ!?」


“ガシィッ!!”


 影光はいきなり突進してきたヴァンプとガッシリと組みあい、プロレスで言うところのロックアップの体勢になった。


「ヴァンプさん!? いきなり何を──」


 戸惑う影光にヴァンプが小声で話しかける。


「……周りの目がある、闘うフリをしろ」


 先程の火炎弾で、全身を焼かれた影魔獣達が再生を始めている。影光は小さく頷くと小声でヴァンプに話しかけた。


「単刀直入に言います、ヴァっさんは無事ですか!?」

「……何故それを!?」

「いやいやいや、何故も何も……ヴァンプさんやキサンさんほどの英雄が暗黒教団なんぞに従う理由があるとしたら、ヴァっさんが人質に取られてるくらいしか考えられへんでしょう!?」

「……お前の言う通りだ。今、リヴァルは暗黒教団に捕らえられている」

「そうですか……俺は今、ワケあって魔王軍に潜入して、現魔王のキョウユウを斬るつもりです!! だから協力して──」

「はぁぁぁぁぁっ!!」

「キサンさん!? 何を!?」


 突如として、ふちを鋭く研いだ鉄扇を広げてキサンが襲いかかってきた。影光は慌ててロックアップを解除して鉄扇による斬撃を回避した。


「ふー、危ない危ない。危うく騙される所でしたよー……貴方、武光さんじゃありませんねー?」


 口調こそおっとりしているが、キサンの目には明確な殺意が宿っている。冷たい視線を向けられ、影光は焦った。


「な、何言うてはるんすか!?」

「いくら外見を似せてもー、魔物の気配までは隠せないみたいですねー?」


 生粋の悪役である武光の記憶を持つ影光である。


 悪役のさがで、条件反射的に『ククク……バレちまっちゃあしょうがねえ!!』と言ってしまいそうになった影光だったが、ギリギリの所で影光はそれを飲み込んだ。

 この策のきもは勇者の仲間達をあざむき、味方に引き入れる事なのだ。それが失敗したとなれば、天驚魔刃団は全員討ち死にするしかしょうがねぇのである。


「いやいやいや!! キサンさん、俺の本職忘れてません!? 俺はッッッ……この国中の人々を欺いた役者ですよ!?」

「うー……でも魔物の気配がー……」

「そんなもん、演技に決まってるやないですか!!」

「え、演技ー!?」

「え……いや、逆にキサンさんは魔物の気配とか出せないんスか!? 出せるでしょ、魔物の気配くらい!?」

「出せる訳ないでしょー!?」

「え……マジすか!? この世界の人って出せないんですか、魔物の気配。オオサカの民やったら3歳児でも演じられますよ!?」

「ソレ一体どんなヤバイ民族なんですかー!?」


 余談だが……後に、歴史学者ドイガ=シュラミンによって編纂へんさんされる事となる《異界とそこに住む人々》という本に『異世界にあるニホンという国のオオサカという地には、ワケの分からん狂気に満ちた、とんでもなくヤバイたみがいるらしい』などと書かれてしまう事となるのは、この時ヴァンプ達をなんとかあざむく為に影光が並べ立てた嘘八百が広まったのが原因だったりする。


「うーん、ダントさんはどう思いますー?」


 未だに影光に不審を抱くキサンは、《監査武官》のダントにたずねた。


 《監査武官とは》……兵士達と共に戦場に行き、戦況の移り変わりや、誰がどのような武功を立てたのかを記録したり、戦闘中に逃げ出したり利敵行為を働く者がいないかの監視を行うのが役目で、優れた観察眼と記憶力を求められる。


 ダントは少し考えた後、答えた。


「外見を上手く似せる事が出来たとしても、わずかな動きのクセまで完璧に真似する事は不可能だと思います、僕は……本物だと思います」

「うーん……本職の監査武官がそう言うならー」


 優れた観察眼と記憶力を持つダントの言葉を信頼して、キサンは構えを解いた。


「すみませんダントさん!! 助かります!!」


 影光は再びヴァンプとロックアップを組んだ。もうあまり時間は無い。

 キサンの火炎弾に焼かれた影魔獣達はもうすぐ再生を完了し、再び活動を再開してしまう。


 影光は大急ぎで計画を語り始めた。



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