姫、目を覚ます
13-①
「ううっ……良かった……敵じゃなかった……」
余程、張り詰めていたのか。武光達が敵ではないと知って緊張の糸がブツリと切れてしまったのだろう、さっきからボロ泣きし続けているクレナの両肩に、武光はそっと手を置いた。
「落ち着け、ゆっくりでええから何があったか教えてくれ」
「ううっ……ぐすっ……わ、私達……姫様と一緒に…ここまで逃げてきたんです……」
「逃げてきた……!? どういう事や!?」
「姫様は……ここ数年、先の大戦で傷付いた人々を慰労する為に各地を精力的に回っておいででした。今回も姫様は慰労の為にシューゼン・ウインゴに向かっていたんですけど……影魔獣を引き連れた、《聖剣士》を名乗る男に襲撃されて……命からがらここまで逃げてきたんです」
武光は後方に立っているフリードの方を振り返った。
「聖剣士……? フリード、お前知ってるか?」
「直接会った事はありませんけど、聖女シルエッタと同じく暗黒教団の《六幹部》の一人で、《聖剣士》の称号は、教団内で最も優れた剣士に授けられる称号です」
「三十人以上いた護衛の兵士達も、その聖剣士にことごとく斬り捨てられてしまって……うっ……うっ……」
俯き、嗚咽するクレナに代わり、ミナハとキクチナが続ける。
「戦いの最中、姫様は私達を庇って傷を負われてしまい……」
「ご、護衛隊長のベン=エルノマエさんが、影魔獣を食い止めてくれている間に……」
「君らは負傷したミトを連れてここまで逃げて来た、と?」
三人の少女は沈痛な面持ちで頷いた。
「ミトは今どこにおるんや?」
「この先にある洞穴にお隠れ頂いてます」
「傷がかなり痛むご様子で、高熱も出しておいでです」
「わ、私達は解熱薬代わりになる薬草を探していて……」
「そしたら、私達に遭遇したというわけね?」
ナジミの問いに、三人の少女達は再び頷いた。
「よっしゃ、ほんなら急いでミトの所に連れてってくれ!!」
「で、でもまだ解熱に使える薬草が見つかっていないんです」
「大丈夫!! お姉さんに任せなさい!!」
不安げな表情で薬草がまだ見つかっていない事を告げたキクチナに対し、ナジミは握り拳を作り、自身の薄い胸をぽんと叩くとスタスタと歩き始めた。
「あ、あの……そっちじゃありません!!」
「そ、そっか……あはは……」
本当に大丈夫なんだろうか……不安に思う少女達であった。
13-②
薄暗い洞穴の中、アナザワルド王国第三王女、ミト=アナザワルドは全身を襲う痛みと高熱で朦朧とする意識の中、夢を見ていた。
……三年前、自分の前に現れた異界の剣士。
人一倍ヘタレで、ビビリで、セコい所もあるけれど、人一倍優しく、いざという時には体を張って自分を守ってくれる……初恋の相手。
結局、最後まで自分の気持ちに素直になれずに、きちんと自分の気持ちを伝える事も出来ないまま初恋の相手は元の世界に帰ってしまった。
その相手が……自分の名を呼んでいる。
おそらく、これが人が死の間際に見るという走馬灯というものなのだろう。身体が、痛みや苦しみから解放されて楽になってゆく……自分にもいよいよ『その時』がやってきたのか……
最期くらい自分の気持ちに正直になっても良いだろう。
ミトは、自分の名を呼び続けている幻影に向かって言った。
「武光……私は……貴方の事を……愛しています」
それを聞いた幻影は困った顔をした。
「ご……ゴメン!! 俺、ナジミの事が好きやし……お前の気持ちには応えてやられへん!!」
「ふふ……もう、幻影のくせに生意気なんだから……処刑するわよ?」
「いや、幻影ちゃうし……」
「………………………………………………………………………………ふぁっ!?」
ミトは 飛び起きた。




