斬られ役(影)、企む
129-①
トポンツ砦の西に、オーガ一族によって築かれた《百鬼塞》という砦がある。
天驚魔刃団は、百鬼塞に攻め寄せていた影魔獣軍団を背後から奇襲していた。せっかく奪ったトポンツ砦を放り出して何をしているのかというところだが……
……話は2日前に遡る。
天驚魔刃団の面々は焦っていた。トポンツ砦を奪還したら、砦を防衛するための援兵が送られて来る手筈となっていたのに、待てど暮らせど援兵が現れないのだ。
敵がトポンツ砦が奪還された事を察して再び兵を差し向けていたとしたら、明日……いや、今日にでも姿を現してもおかしくないのである。
「おいおいおい、何で魔王(笑)は援兵を送ってこねーんだ!?」
「恐らく……元より援兵を送るつもりなど無かったのでしょう。と言うか……最初から僕達がこの砦を奪還出来るなどとこれっぽっちも思っていなかったんで、援兵の準備すらしていないのでしょう」
キサイの言葉に、軍議の間にいた影光と他の四天王は、メロスもドン引きするくらい激怒した。
「あの……くそワニ番長がーーーーー!!」
「おのれキョウユウめ……!!」
「グゴォアッ……ヤク……ソク……チガウ!!」
「全く……ナメたマネしてくれるじゃない……こんな時に敵軍が大挙して押し寄せたりしたら……」
ヨミの言葉に、キサイは即答した。
「今のままでは守りきるのは難しい……と言うか無理ですね」
「ちょっとガリ鬼!? そこをなんとかするのがアンタの仕事でしょうが!!」
「無茶を言わないで下さい、城攻めは寡兵でも奇策を用いれば出来なくはないですけど、防衛はどうしてもそれなりに兵力がいるんです!! それにこの砦は本来周囲の砦の後方支援用の砦で、防備もそんなに厚くないですし……」
「み……皆ーーーっ!! たたた大変だーーーーーっ!!」
頭を抱える影光と四天王のもとに、見張りをしていたフォルトゥナが、ドアをブチ破らんばかりの勢いで転がり込んで来た。
「どうした猫娘!! 落ち着いて話せ!!」
「う、うん!! 敵が来たんだ!!」
「数は!?」
「二百近くいるよ、多分!!」
それを聞いた影光はぐぬぬと唸った。
応戦か撤退か……魔王軍に潜り込み、キョウユウに近付く為には何としてもトポンツ砦を死守しなければならないが……そもそもたった九人では砦を守れないというのが知将枠の判断だ。撤退するならすぐに行動しなければならない。迷う影光に更にフォルトゥナが告げる。
「大変なのはそれだけじゃないんだ!! 敵軍の中に……勇者の仲間がいる!!」
それを聞いた四天王達は騒然とした。
「勇者の仲間だと……間違いないのか猫娘!?」
「アタシ、視力には自信があるんだ!! アイツらは間違いなく三年前に魔王様と勇者の決戦の場にいた奴らだよ!!」
「くっ……よりにもよって……影光、ここは退くぞ!!」
「……影光さん、ガロウさんの言う通りです!! ここは即時撤退しましょう!! 影光さん……!?」
ガロウとキサイは影光に即時撤退を進言したが、影光はそれには答えずフォルトゥナに質問した。
「フォルトゥナ……お前さっき『勇者の仲間達がいた』って言ってたな?」
「う、うん!!」
「間違いないな!?」
「この目でしっかり見た!!」
「それじゃあ……勇者リヴァルは敵軍の中にいたか?」
「ううん、筋肉ムキムキの大男と扇を持った女……あとはもう一人若い男が影魔獣の群れの中にいたけど……勇者リヴァルは見てない!!」
影光はフォルトゥナの両肩に手を置き、念を押した。
「本当だな!? 間違い無いな!?」
「う……うん!!」
「おい影光!! 何をしている!?」
「早く撤退を!!」
「グモァ……」
撤退を進言するガロウ・キサイ・レムのすけだったが……影光はニヤリと笑って首を左右に振った。
「いや……応戦しよう」
「影光、お前正気か!?」
「ああ、フォルトゥナの報告が正しいのなら……この砦は絶対に落ちない!!」
影光の言葉の意味が全く理解出来ずに困惑する一同だったが、唯一、ヨミだけは読心能力で、影光の言葉の意味を理解した。
「うっわぁ……影光アンタ本気でそれやるつもりなの!?」
「どう言う事だ小娘!? このバカは何を考えている!?」
ガロウの問いに、ヨミは盛大に溜め息を吐くと両肩をすくめた。
「このバカ……勇者の仲間共目掛けて突撃かますつもりよ」




