虎娘達、思い返す(後編)
126-①
トポンツ砦の南にある小高い丘から、砦を見据えていたキサイは気合いを入れるように、自分の両方をパンパンと叩いた。
「さぁ……ガロウさん、レムのすけさん、ヨミさん、作戦開始です!! 闘鬼幻術……百鬼夜行!!」
キサイの幻術によって、オーガの幻影が出現した。その数、およそ三十体。
「さぁ、行きましょう!! 皆さんの武勇……あてにさせて頂きます!!」
「任せておけ、キサイ」
「ゴァッ!!」
「ガリ鬼、アンタこそしっかりやんなさいよ!! 戦いの真っ最中にアンタの幻影が消えたりしたら私達袋叩きに遭うんだからね!?」
「はい、お任せを!!」
キサイが立てた策は至ってシンプルだった。
キサイが幻術で生み出した偽の軍団を操って影魔獣軍団を砦から誘い出し、伏兵として待機しているガロウ、レムのすけ、ヨミの三人で影魔獣を強襲して足止めしている間に影光とフォルトゥナ、そして竜人三人組で手薄になった砦に密かに接近して奇襲をかけるというものだった。
キサイの読み通り、幻影がある程度砦に接近した所で、砦を守備していた影魔獣が迎撃に出て来た。四十体近くはいるだろうか、キサイは幻影の軍団をやられているように見せかけながら徐々に後退させてゆき、それを追って影魔獣の群れもどんどん砦から引き離されてゆく。
「おー!! 釣れた釣れた!! ワンコ親父、準備は良いわね!?」
「フン……小娘、お前に言われずとも、俺は常に常在戦場の心構えだ!!」
そう言って、ガロウは鋭い爪を研いだ。
「イワ男は!?」
「ゴォァッ!!」
レムのすけはその両手に、厚さおよそ20cm、畳一畳ほどもある巨大な金属板に1m程の長さの柄を取り付けた対影魔獣用の武器、《風月》を握り締めた。
「フフフ……それじゃあ、派手に殺戮してやるとしましょうか!!」
ガロウ、レムのすけ、ヨミの三人は猛然と影魔獣の群れに襲いかかった。
126-②
一方、影光達、奇襲班はトポンツ砦に肉薄していた。
遥か後方で戦いの音が聞こえる。まんまと影魔獣達は誘い出されたようだ……『計画通り!!』と影光はしたり顔でほくそ笑んだ。
影魔獣はキサイの陽動にひっかかるという確信が影光にはあった。
影魔獣は、自分やインサンのような自律型を除けば、知能はそれほど高く無い。術者が『敵を倒せ!!』と命じれば、息の根を止めるまで目標を執拗に追い続ける。そして砦から出てきた影魔獣は、倒せるはずもない幻影の息の根を止めようと、後退する幻影をひたすらに追いかけ続けている。
「だ、大丈夫かな……ヨミ姉達……」
「シンジャー氏、ネッツレッツ氏、か……必ず生きて帰ろうぞ!!」
「お、おう……武勲を立ててヨミ様に褒めて頂くのだ!! なっ、ネッツレッツ氏!!」
「ああ……や、やってやる……やってやるぞ!!」
緊張しまくりのフォルトゥナ達に、影光は笑いかけた。
「大丈夫だ!! お前らはあのカクさんに鍛えられた双竜塞の兵士……だろ?」
影光の言葉に、四人は顔を見合わせた。
「で……この作戦は、お前達双竜塞の精兵中の精兵達をまんまと出し抜いたウチの知将枠が立てたんだ。だから安心しろ、絶対に大丈夫だ!!」
戦いに『絶対』など無い。戦闘の経験が少ないフォルトゥナ達ですらそんな事は分かっている。だが、影光の不敵な笑みを見ていると、不思議と絶対大丈夫な気がしてくる。
「さぁ、本番行くぞ……突入だッッッ!!」
影光が影醒刃で、砦の門をブチ破る。
影光とフォルトゥナ達は、雄叫びを上げて砦に突入した。