修道女(03)、嘲笑う
112-①
「《シスターズ》……だと?」
正体を名乗ったフェイアを前にリヴァルは唖然とした。
「そう、シスターズ♪ ちょっと前まで暗黒教団の幹部に異界人がいたんですけどね、『シスター』ってのは、その人の世界の言葉で『修道女』を意味するんですって♪ それに、『シスター』って言葉には『妹』って意味もあって、『シスター』の複数形が『シスターズ』なんです。聖女様の影から、聖女様の記憶と人格の一部を引き継いで生み出された影魔獣である私達にはピッタリの名前だと思いませんか?」
「全ては……私を騙す為の嘘だったのか……」
「そうですよ、勇者様ったら、囚われてから数日の間、出された食事をちっとも食べてくれなかったでしょう? だ・か・ら、両親に無理矢理入信させられて辛い目に遭わされている、哀れな少女を演じたんです。究極の影魔獣を生み出す前に、飢え死にでもされたら困っちゃいますからね♪」
そう言って、フェイアは笑った。『食事を食べて頂かないと、私が両親に殴られてしまいますぅ~』と、わざとらしく目をこすりながら。
「それに、私が傷付けられた時、まんまと最大級の光術をぶっ放してくれたんですもの、勇者様は本ッッッ当にお優しい方です……お友達になった甲斐がありました♪ ま、あそこで蹴りではなく光術を出すように絶妙の頃合いで私が封印の手枷を破壊してあげたのも効きましたね♪」
えっへんと言わんばかりに自慢気に胸を張っているフェイアをリヴァルは沈痛な面持ちで見つめた。
「全部……全部……嘘だったのか…………ボシュウチュウ!!」
「え……いや、あの勇者様?」
「何だ、ボシュウチュウ!?」
「あのですね、『名前は募集中』っていうのは、聖女様は私達の事を番号で呼ぶからであって『募集中』ってのが名前じゃないんですよ? ちなみに私はシスターズ03《ゼロサン》です」
「そ、そうなのか!?」
「あの……勇者様? 友達とかによく『天然だね』って言われません?」
「天然……? 当たり前だ!! 私は君のように、人工的に生み出された存在ではないのだから!!」
「あー……うん……ソウデスネー」
(天然ってそういう意味じゃないんだけどなー)と、頰をポリポリと掻くシスターズ03だったが……
「お喋りはそのへんで良かろう、03よ……」
「はっ、教皇陛下」
究極影魔獣へと転生した教皇が前に進み出た。
「勇者リヴァルよ、転生の儀が成された今……もはや貴様に用は無い!! 死んでもらうぞ!!」
「いいや、貴様を今ここで討ち果たし……暗黒教団による争乱を終わらせる!!」
勇者リヴァルと教皇は互いに突進し、そして交差した。
しばらくの間、両者は彫像の様に動かなかったが……
「……ぐはっ!?」
リヴァルがガクリと膝を着いた。ゆっくりとリヴァルの方を振り返りながら教皇が高らかに笑う。
「フハハハハ……素晴らしい!! 素晴らしいぞこの肉体は!! あの魔王を倒した勇者をこうもあっさりと!!」
「くっ……」
「さて……トドメを刺してくれようぞ!!」
教皇がゆっくりとリヴァルに近付いたその時だった。
「私は……ここで倒れる訳にはいかない!!」
「くっ!?」
「キャッ!?」
リヴァルが光を放ち、凄まじい閃光が大聖堂を包み込んだ。教皇と03の視界が白く染まる。光が収まり、二人の視界が回復した時、そこにリヴァルの姿は無かった。
「くっ……逃すな!! 奴を追うぞ……ぐはっ!?」
「教皇陛下!?」
突如として、教皇が膝を着いた。
「お、おのれリヴァルめ……」
先程の交差の際、教皇の一撃はリヴァルに膝を着かせたが、リヴァルの一撃もまた、教皇にダメージを与えていたのだ。
「教皇陛下、貴方様はまだ新しい肉体に転生されたばかり……ご無理をなさらぬよう!!」
「う、うむ……」
「追跡は私めが!!」
「うむ、行けぃ、シスターズ03よ!!」
「かしこまりました!!」
リヴァルは 逃げ出した!!