斬られ役、翻弄する
11-①
少女達は苦戦していた。相手はたった一人、しかも腰の剣を抜いてもいないのに、さっきから翻弄されっぱなしである。
「ちょっ……邪魔だ!!」
「わわっ!? あ、危ないじゃない!!」
「ふ、二人共どいて下さい!! 撃てませんっ!!」
三人対一人とは言え、少女達の練度はお世辞にも高いとは言えず、連携もまるでとれていない。武光は少女達を翻弄し続けた。
武光はまず最初に、黄色い鎧の少女のボウガンによる遠距離攻撃を封じる為に、常にボウガンの射線上に他の二人のどちらかが入るような位置取りをしながら戦った。
斬られ役は《殺陣》……いわゆる、アクションシーンにおいて、常に『主役や周りの斬られ役が動きやすい位置を取る』事を求められる……そしてそれは、『この位置にいては他の役者の動きの邪魔になる』という事を理解していなければ出来ない芸当である。
七年半もの間、ただひたすらに斬られ続けた男は、三人の動きの邪魔になる位置を取り続けていた。
「はああああっ!!」
業を煮やした青い鎧の少女が、斧薙刀を振りかぶり、武光目掛けて突進する。
「でやあああっ!!」
「……よっと!!」
武光は右に跳躍して、真っ向から振り下ろされた一撃を躱した。
「くっ!?」
攻撃を躱された青い鎧の少女は慌てて斧薙刀の刃を左脇に返し、水平に薙ぎ払おうとしたが、その瞬間を狙って飛び込んで来た武光に柄の両端付近を掴まれて動きを封じられてしまった。
「は、離せっ!!」
「フン……もっと自分の体格や筋力に見合った武器を持った方がええな。武器に……振り回されとる!!」
「痛っ!?」
武光は柄の両端付近を掴んだまま、腕力差に物を言わせて斧薙刀を時計回りにぐるりと回した。無理な方向に腕を捻られた少女は痛みのあまり、思わず斧薙刀を手から離してしまった。
「大人しくしてもらう!!」
「うっ!?」
武光は奪い取った斧薙刀の石突きで青い鎧の少女の足を掬い上げて転倒させた。
「こ……こんのぉぉぉっ!!」
「よっと」
今度は赤い鎧の少女が両手剣を大上段に振りかぶって突撃してきたが、武光は少女の攻撃を半身になって冷静に躱すと、少女の左右の足の間に奪った斧薙刀の柄をスッと差し込んだ。
「あっ!?」
突然両足の間に差し込まれた斧薙刀に足を取られた赤い鎧の少女は、派手につんのめってすっ転びそうになったが、武光に鎧の襟首を掴まれ強引に体を引き起こされると、剣を奪われ、背後から右腕を後ろ手に捻り上げられた。
腕の痛みに、少女の顔が歪む。
「くぅっ……は、離せーっ!!」
「近くにいたお前が悪い。これぞ、悪役殺法……《牙悪怒弁斗》ッッッ!! そら……よっと!!」
武光は盾にしていた赤い鎧の少女を、黄色い鎧の少女の方に向けて勢い良く突き飛ばした。
「わわっ!? キクちゃん避けて!!」
「こ、来ないで下さいっ!?」
「きゃっ!?」
「ひゃん!?」
勢いよくぶつかった赤い鎧の少女と黄色い鎧の少女は折り重なるように転倒した。
「す、凄い……」
少女達を軽々とあしらう武光を見て、フリードは思わず呟いていた。
ハッキリ言って、フリードは心のどこかで武光の実力を疑っていた。自分が負けたのは卑怯な手を使われたせいで、シルエッタを撃退出来たのも、『尻での攻撃』という突拍子も無い動きで意表を突いただけではないのかと……
「あの人は、卑怯な手を使わなくても強い……!?」
再び小さく呟いたフリードの視線の先では武器を取り上げられた少女達が、武光の前に跪いていた。
「くっ、野盗如きに……!!」
「二人とも、諦めちゃダメよ!!」
「そ、そうです!! な、何としてもここは死守するんです!!」
目に涙を溜めながら、なおも必死で抵抗しようとする少女達を前に武光は特大のため息を吐いた。
「あのなぁ……だから俺は野盗でも山賊でもないし危害を加えるつもりも無いって言うてるやんか!! 大体、ほんまもんの野盗やったら君らとっくに殺されとるからな!? 俺らはただ……」
その時、近くの茂みから小さな影が飛び出してきた。
「ん? 仔犬……?」
飛び出してきたのは、眉の所に白い模様のある、柴犬によく似た茶色い仔犬だった。仔犬は少女達を守るように武光の前に立ちはだかると、武光に向かってぐるる……と唸り、キャンキャン吠えた。
仔犬を見た少女達は悲鳴に近い叫びを上げる。
「なっ、出て来ちゃダメだ!!」
「私達は大丈夫だから!!」
「に、逃げるのよ!!」
仔犬に向かって、少女達は叫んだ。
「「「逃げるのよ……たけみつ!!」」」
「…………はぁ!?」
武光は こんらんした!




