死神、出迎える
107-①
武光とロイは一階に降りた。
入り口の戸は叩き壊され、店内は激しく荒らされている。
武光は入り口付近に立っている三人に目を留めた。
頭の禿げ上がった初老の男性と、四十代くらいの背の高い男性と、五十代くらいの恰幅の良いおばさんだ。
武光は首を傾げた。見た所、どこにでもいそうな普通のおじさん、おばさんだが……この人達が店を荒らしたのか? さっき俺が叫びをあげまくったせいで?
「……ふむ」
そんな武光をよそに、ロイは小さく頷くと、スタスタと三人に歩み寄り…………瞬時に三人の首をへし折った。
何が起こったのか、武光が状況を理解するまでに数秒を要した。そして、状況を理解した武光は、ロイに詰め寄った。
「なっ……何しとんねんお前は!! そ、そや!!」
武光は慌ててナジミを呼ぼうとしたが……
「慌てるな」
「はぁ!?」
「コイツらは……息をしていない」
「それはお前が首をへし折ったからやろが!? 早くナジミを──」
「そうじゃない、奴らは……最初から息をしていなかった」
「何をアホな──」
その時、首をへし折られた三人がゆらりと立ち上がった。三人共、首が直角に折れ曲がってしまっている。しかしながら、首をへし折られたはずの三人は立ち上がり……獣のような咆哮を上げた。
「グアアアア!!」
三人は右肘から先を剣状に変化させたのを見た武光は即座にイットー・リョーダンの柄に手を掛けた。
「なっ……コイツら……!?」
「ああ……影魔獣だ」
初老の男性とおばさんがロイに、背の高い男性が武光に襲いかかった。
「行くぞイットー!!」
〔応ッッッ!!〕
武光は、脳天目掛けて振り下ろされた剣腕を、抜き打ちの逆袈裟で “すん!!” と、斬り飛ばした。切り飛ばされた剣腕は天井に突き刺さった後、消滅した。
再生する暇は与えない、返す刀で相手の左肩から右腋に抜けるように、袈裟懸けにイットー・リョーダンを振り下ろす。
斜めに切断されて、床にボトリと落ちた影魔獣の上半身が消滅した。
「うおおおおお!!」
〔でやああああっ!!〕
武光とイットー・リョーダンは敵を斬り刻みまくった。そして、掌サイズの肉片になった敵を、核ごと “グシャリ” と踏み潰した。
「よっしゃ!! 次──」
「もう倒したぞ」
ロイを援護しようとした武光だったが、ロイに襲いかかった二体の影魔獣は既に消滅していた。流石は王国軍最強の将、描写する暇すらない程の瞬殺であった。
「相変わらず……バケモンかお前は……」
「ムッ……失礼な……こんな美人を捕まえて」
「ん?」
「ん?」
「ロイ将軍ーーーっ!!」
顔を見合わせる武光とロイのもとに、二階からドタドタとナジミが下りてきた。
「さっきの人達に襲われた店員さん達の治療、終わりました!!」
「すまない、感謝する。それにしても……千客万来だな、今日は」
ロイは入り口の方を見た。剣影兵がゾロゾロと店内に侵入してくる。気配からして、店外にもかなりの数がいるようだ。
「皆……来客だぞ!!」
ロイの呼びかけに応じて、調理場や二階からアギョウさんやウンギョウさんを始めとする店員達が現れた。全員右手には各々の得意とする得物を持ち、左脇には量産が開始された穿影槍を抱えている。
「お出迎えしろ……盛大にな」
店長の命令を受けて、店員達が影魔獣の群れに猛然と襲いかかった。