死神、指摘する
106-①
「魔王シンが倒された後しばらくして……勇者リヴァル=シューエンは人々の前から姿を消した」
ロイはそう切り出した。ロイの言葉を聞いて、武光は唖然とした。
「……そんな奴が『影魔獣の脅威から人々を救うために旅立つ』と私の下に挨拶に訪れたのが、およそ三ヶ月前の事だ。一体今までどこで何をしていたのかと聞いたら、奴は……名を変え、身分を隠し、山に篭って、親しい友人以外は殆ど誰とも会わず、世捨て人の如く自給自足の隠遁生活を送っていたらしい」
「え……? 何で……?」
頭上に疑問符を浮かべまくる武光に、ロイは問いかける。
「なぁ……唐観武光よ、お前に聞きたい事がある」
「な、何や?」
「私はずっと違和感と疑念を抱いていた……三年前、空に映し出された勇者リヴァルと魔王シンの最終決戦……あの時、リヴァルが斃したのは、本当に魔王シンだったのか……とな」
「ど……どういう意味や?」
ロイは武光の目をジッと見た。
「単刀直入に言うぞ? あの時……魔王がその身に纏っていた漆黒の鎧と鉄仮面……あの中身は、お前だったのだろう?」
「……お奉行様、言いがかりは止して頂きましょう!! 一体何の根拠があって──」
遠◯の金さんで、お白州に引きずり出された悪党ばりにしらばっくれようとした武光だったが……
「間合いの取り方、動きの癖、足の運び方、闘いの呼吸、剣捌き……あと5~6個の根拠があるが……聞くか?」
それを聞いた武光はぐぬぬ……と唸った後、観念して盛大に溜め息を吐いた。
「はぁ……お前程の武芸の達人相手に隠し通すのはやっぱ無理かー?」
「フッ……お前もそれが分かっているから、人払いをしたのだろう?」
「まぁな……なぁ、誰にも言うなよ?」
「お前がそう言うのなら……更に言うならば、本物の魔王を斃したのも……お前だな?」
「……何でそう思うんや?」
「本当にリヴァルが魔王を仕留めたのなら、わざわざあのような大芝居を打つ意味などあるまい? それに……あの場にいたであろう面子で、そういう突拍子も無い奇天烈な事をやろうと言い出すのは……お前くらいしかいないだろう?」
「誰が突拍子も無い奇天烈美男子やねん!?」
「美男子とは言ってないぞ……だが、これで得心が行った」
「何やねん、『得心が行った』って……?」
ロイはゆっくりと武光を指差した。
「リヴァル=シューエンが人々の前から姿を消したのは……お前が原因だ」
「はあっ!? 俺っ!? 何で!?」
「考えてもみろ、奴の性格を……奴は高潔過ぎる程に高潔で、清廉過ぎる程に清廉で、 “ド” が付くほどに生真面目だ」
「お、おう……」
「そんな奴が、自分が斃したわけでも無いのに『魔王を討った勇者』として崇め讃えられる事は……お前の功績を横取りしているように思えて、苦悩していたに違いあるまい……」
ロイの指摘を武光は慌てて否定した。
「いやいやいや、確かに最後の一撃をブチかましたのは俺やったけど……勝てたのは俺一人の力やなくて皆の力やし!! ヴァっさんがおらんかったら俺、何べんも死んでたで!? それに何より……ヴァっさんが助けた人達の数は、俺なんかより桁違いに多いし……勇者以外の何者でもないやん……勇者でええやん!?」
「それで割り切れる奴なら良かったのだろうがな……奴はそれが出来る男ではない」
「あわわわわ……」
武光は頭を抱えた。あの時はめちゃくちゃ良いアイディアだと思ってやった事が、まさか親友を苦しめていたとは……
「……あああああああああーーーーー!! ヴァっさん……スマーーーーーーーーン!!」
武光は居たたまれなくなり過ぎて、壁際まで全力ダッシュすると、窓を全開にして、空に向かって全力で叫んだ。
「おいやめろ、営業妨害だぞ」
「あああああああああーーーーー!! あああああああああーーーーー!!」
「……フンッ!!」
「おげぇっ!?」
ロイの ボディーブロー!!
会心の一撃!!
武光は 悶絶した。
〔大丈夫か武光!? しっかりしろ!!〕
〔こんの……クソ骸骨がーーー!! よくもご主人様に……表に出ろコノヤロー!!〕
武光を心配するイットー・リョーダンと、『シャーーーッ!!』とロイを威嚇する魔穿鉄剣だったが……
「大丈夫や、お陰で少し落ち着いた」
「本当に大丈夫か? 死ぬ程手加減したつもりだが……」
「あの威力でかよ……」
ドン引きしつつも、武光はゆっくりと立ち上がり、再びソファーに座った。
「で、本題や……ヴァっさんの行方について、情報は──」
“ガッシャアアアアアン!!”
武光が本題に入ろうとしたその時、下の階でガラスが激しく割れる音がした。
直後、ウンギョウさんが慌てて応接室に入ってきた。
「何事だ?」
「向かいの肉屋と服屋と花屋が襲撃してきました!!」
それを聞いたロイは武光に視線を向けた。
「……あんなに大声で叫んで……周りの店に迷惑をかけるからだぞ?」
「俺!?」
異常事態にもロイは冷静だった。ロイは、不敵に笑うと武光に言った。
「仕方ない、下に降りて一緒に謝ってやろう…………剣を忘れるな」




