斬られ役、渋りまくる
104-①
翌日、ナジミはロイの伝言を伝えて、武光と共にロイが拠点としている『パン屋・白銀の死神☆』に行こうとしたのだが……
「行きましょう武光様、皆も宿屋の前で武光様の事を待ってますよ?」
「嫌やーーー!! 行ったら絶対殺されるーーー!!」
武光はめちゃくちゃ渋っていた。まるで注射を嫌がる子供である。ダダをこねまくる武光を見て、ナジミは小さく溜め息を吐いた。
「大丈夫ですって、ロイ将軍は『武光様に危害を加えるつもりは無い』って仰ってましたし……」
「いやいやいやいや、それは罠や!! だって俺……いや、正確には俺に取り憑いた火の神様やけど、シュワルツェネッ太の事、ボッコボコのめったくそにシバき倒したんやぞ!? 俺の事、恨んでへん筈がないやろがーーー!?」
〔大丈夫だって、じゃあ聞くけど、フリードは……君を恨んでいるか?〕
イットーの言葉に武光は唸った。
〔フリードは君に、セコイ不意打ちでやられたけど、今でも君を恨んでいるか? クレナ達は? 京三は?〕
「イットー……」
イットーの言葉にナジミも続く。
「そうですよ、武光様はあの魔王とだって仲良くなれたじゃないですか。だから……きっと大丈夫です!! 武光様の故郷には、ええと確か……『雨降って、地あるふぃー』って言葉があるんでしょう?」
「……『固まる』や『固まる』……けどなぁ、うーん……」
いまいち煮え切らない態度の武光を今度は魔穿鉄剣が励ます。
〔安心して下さいご主人様!! もしシュワルツェネッ太の奴がご主人様に危害を加えようとしたら……この私が原型を留めないくらいグッチャグチャのズタズタに斬り刻んでやります!!〕
「あのなぁ……」
ガックリと肩を落とした武光を見て、ナジミはクスリと笑った。
「何が可笑しいねんな?」
「いえ、久しぶりだなあと思って、こういうやり取り」
〔ああ、懐かしいな、戦いの前になると君はいつもビビり倒して逃げ出そうとして……〕
「その度にミト姫様やリョエン先生と……武刃団総出で、宥めたり励ましたり叱ったり……いつも大騒ぎで一苦労でした」
「ぬぅ……」
「フリード君やクレナちゃん達が仲間になってからはあんまりそういう所を見せなくなったから、てっきりビビり癖が改善したのかと思ってましたけど」
「見せへんようにしてるだけや……」
〔格好つけたがりだからなー、君は〕
「ふふ……ですね」
「うるさいなー、とっとと行くで!!」
「ハイ!! 行きましょう!!」
そうして、宿屋を出た天照武刃団は『パン屋・白銀の死神☆』に辿り着いたのだが……
「こ、これがパン屋……?」
辿り着いたパン屋は異様な雰囲気だった。
104-②
武光はそのパン屋の異様さに唖然とした。
建物自体は至って普通のレンガ造りの建物だ。だが、店の入り口の両脇に、パン屋のエプロンを付けた筋骨隆々の大男が直立不動でニコリともせず……いや、むしろ『ここは通さん!!』と言わんばかりに目を “くわっ!!” と見開いて周囲に目を配っている。
厳つさ満載の二人を見て、武光は中学の時に校外学習で行った奈良の東大寺の金剛力士像を連想した。
武光は心の中で、店の入り口の向かって左に立っている虎髭に『アギョウさん』、向かって右に立っている頰に傷のあるスキンヘッドに『ウンギョウさん』という渾名を付けると、恐る恐る店に近付いた。
「あ、あのー……」
「「いらっしゃい……ませェェェッッッ!!」」
武光達は思わず身体をビクリとさせた。アギョウさんとウンギョウさんのそれは、『元気な挨拶』と言うよりは、『大声一喝』という表現が相応しい、肝が握り潰されてしまいそうな大音声だった。とにかく、迫力と威圧感が尋常ではない、武光は即座に回れ右して帰ろうとした。
「すすすすみませんでしたぁーっ!!」
「ちょっと武光様!?」
大慌てで武光の腕を掴んだナジミを見て、アギョウさんとウンギョウさんは顔を見合わせた。
「おい、そこのお前ッッッ!!」
「は、ハイッ!?」
「お前か、ロイ将軍が仰っていた唐観武光と言うのは?」
「ちちち違います!!」
「武光様!? 違わないでしょう!?」
「無理無理無理無理無理!! 怖いもん!! めっちゃ怖いもん!!」
アギョウさんとウンギョウさんは互いに頷きあったあと、ウンギョウさんが『少し待て』と言い残し、店内に入って行った。それから少しして、今度はアギョウさんが『よし、入れ』と、武光達に入店を促したが……
「ご、御冗談を……」
武光は恐怖のあまり入店を拒否したが、アギョウさんは何故か満足げに頷いた。
「フッ……流石だな」
「はい!?」
「三年前……リヴァル=シューエンが初めてロイ将軍の下に現れた時も俺達は同じ事をして奴を試そうとしたが、奴は俺達の企みを見事に見抜いた」
「あ、あの……言ってる意味がよく分から──」
その時、店の入り口から先程店に入って行ったウンギョウさんが再び現れた。その手には見るからに重くて破壊力抜群そうな戦斧が握り締められている。
どうやら、入り口脇に潜み、店の入り口を潜った瞬間に襲い掛かるつもりだったらしい。
……武光は思った。
か、帰りてぇぇぇぇぇーーーーー!!