死神、語る
101-①
「へぇー!! パン屋さんなんですか、じゃあホン・ソウザン名物の激熱溶岩パンとか販売してたりします!? 私、食べてみたかったんですよね、アレ!!」
「クレナお前……素直過ぎかよ!? 絶対違うだろ……」
嬉しそうなクレナにフリードはツッコんだ。
……そのパン屋(?)は異様な風体をしていた。
服の上からでも分かる筋肉質で引き締まった体、腕には間違ってもパンを作る時に出来たものではない無数の傷、エプロンには『モ◯ラの幼虫を握りしめるヘ◯ラ』のような、不気味な生物がパンらしきものを握りしめている絵が描かれている。
この時点で相当異様なのだが、なによりも異様なのは、そのパン屋(?)が、頭部をすっぽりと覆う、異様な光沢を放つ髑髏を模した銀の仮面を装着していた事だ。
「おおお前は…………アーノルド=シュワルツェネッ太!!」
「ほう、私の変装を見破るとは……流石だな、唐観武光」
アーノルド=シュワルツェネッ太……本名ロイ=デスト。
アナザワルド王国第十三騎馬軍団を率いる将軍で、《白銀の死神》の異名を持ち、ロイの率いる第十三騎馬軍団……通称《冥府の群狼》は、六十騎と少数ながらも、兵は王国軍の最精鋭が揃い、軍馬の質も最高の物が揃えられ、『王国軍最強』の名を欲しいままにしている。
三年前の大戦でも、愛用の斧薙刀、《屍山血河》を振るい、屠った魔物は数知れず、そのあまりの武勇に、叛乱を恐れて密かに監視すらされている『王国軍最強の将』である。
ちなみに、アーノルド=シュワルツェネッ太というのは、武光がつけた渾名で、ロイと最初に出会った時に、ロイの頭をすっぽりと覆う銀の髑髏仮面と銀の鎧を見て(うっわ……タ◯ミネーターやんけ……怖っ)と思ったのがきっかけである。
そして、そんな『王国軍最強の将』が自称パン屋の格好で目の前に現れたのだ……武光の思考は混乱のるつぼに叩き込まれた。
「なっ、何でお前がこんな所に!?」
「見ての通り……潜入調査だが? どうだ、どこからどう見ても歴戦のパン屋だろう?」
自身に流れる『大阪人の血』が発動した武光はツッコまずにいられなかった。
「お前のようなパン屋がいるか!!」
「ぬぅ……何故だ!? どこからどう見てもパン屋の服装だぞ!?」
「いや、仮面外せやーーー!! それにそのエプロン!!」
「む? エプロンがどうかしたか?」
「何やねんそのエプロンの『パン屋・白銀の死神☆』って!?」
「うむ、よく出来ているだろう? ちなみにこのウサギの絵は私が描いた!!」
「いや、正体隠す気ゼロかっ!? って言うかウサギ!?」
「しかし……確かに言われてみれば……この店名は私の正体を連想させるやもしれぬ……よし、ならば店名を『冥府のパン屋☆』に──」
「あ、アホかーーー!?」
「貴様……」
「ひっ!? すすすすんませんでしたッッッ!!」
ロイにギロリと睨まれた武光は即座に頭を下げた。
「フ……まあ良い、我が軍団は野戦・攻城は百戦練磨だが、こういった任務は初めてで不慣れな部分が多い」
「いや、不慣れとかそう言うレベルちゃうやろ……」
「しかし、まだ誰も我らの正体には気付いてはおらぬ。露見していれば刺客の一人でも襲ってくるはずだ」
武光はガックリと肩を落とし盛大に溜め息を吐いた。
「いや、それ刺客がお前のアホみたいな武勇を恐れて手ぇ出しあぐねてるだけやって……何でお前らみたいな脳筋連中を潜入調査なんかに……もっとマシな奴がいくらでもおるやろ……」
呆れる武光に対し、ロイは静かに告げた。
「勇者リヴァルが……この街を最後に消息を絶ったからだ」




