『花』
「こんにちはー宅配便です」
「きたー」
廊下を走ってくるパタパタという音が聞こえていた。
二階建てのしゃれた家。だが、どこか昭和っぽいところが残っている。
ガラガラと目の前にある扉が横にスライドしていく。と、
出て来たのは中学生くらいの女の子だった。女の子は箱を取り上げると、「はい、ハンコ。自分でおしてね」
と言って戻っていった。
「え⁉︎」
宅配便の人はびっくりして、目の玉を大きくしながら瞬きがとまらないようだった。
「天音、ちゃんとハンコ押してきた?」
男の低い声が聞こえる。
「ううん。ハンコ渡してきた」
「えっー。大変」
ドテと音がなったと思うと中年男性がすぐ目の前にたっていた。ちょうど帰ろうとしていたところらしく、なんとか間に合ったそうだ。
「それで、何が届いたの」
「だーめ。雲さんには内緒」
「えーなんで?天音のケチ!」
「ただいまー」
男の少し低い声が玄関からきこえてきた。
「あっ竜也だ」
と、天音が走っていくと、竜也の後ろに人のようなものが隠れている事に気付いた。すると、竜也が、肩を後ろに下げて、「どうぞ」と言った。後ろには、若い女の人がいる。赤いワンピースを着た綺麗な女の人だ。
「行方不明?」
「はい、私の恋人のリラ君が、突然メールを残して消えたんです。」
「へー詳しく聞きたーい」
と言って天音はマイノートに書く準備をしていた。
「そのメールを見せてくれませんか」
竜也の言葉にカナさんはかばんをごそごそあさっている。と、天音は、カナさんの手にアザがあることにきづいた。
「そのアザ、どうしたんですか?」
「ああ、これ?転んだの。あたし、ドジだから」
「ふーん」
天音はノートに手のアザということをこっそりと書いていた。
「あっこれです」
「ほーどれどれ?」
『花』
リラさんのメールはこれだけだった。