#八匹目 オルガ
深い水の中に気持ち良く漂っていた。
真っ暗な水の中だが、微塵も恐怖は無い。
寧ろ安心する。自分がここが良い場所だと知っているからだと思われる。
暫くは気持ち良く漂っていたが急に苦しくなって来た。
深い深い水の中。
息苦しさに不快感を覚え空気を求めて水面を目指す。
「ぷはぁっ!?」
俺は息苦しさに意識を覚醒させ上半身を起こし布団を半分程跳ね上げながら目を覚ます。
寝ぼけ眼に緑スライム…アダムが布団の上をコロコロと転がって行くのが目に映る。
『やっと起きたでちゅ』
「あぁ…えーと?」
頭にニアの声が響いて来て、徐々にだが意識が覚醒して来た。
あぁ……?そうか帰ってきたのか。
脳がゆっくりと起動を始め外に出ていたニアが帰って来たのだと理解する。
布団から出て楽な体制で布団の上に座ると辺りを見渡す。
するとニアが開けた穴の付近に違和感を感じる。
始めは絨毯が敷かれている?のかと思ったが、霞む目を擦り徐々に絨毯の正体が分かってきた。
絨毯だと思ったそれは鼠の集合体だった。
それもその筈である俺は絨毯なんて買った覚えは無いのだから。
「あぁ…ニア帰ってたのか。おかえり」
『少し前から帰って来てたのにナナシが全然起きないから困ってたんでちゅよ?』
「そうなのか。それは素直にすまんかったな」
『うむ。しっかりと反省する様に』
うん?なんか俺、鼠に怒られてる?
まだ、睡魔の残滓が残っている為深くは考えず声の主ニアを探す。
最初は手間取るかとも思ったが案外すぐに見つかった。
鼠の絨毯の中、一番先頭に二本足で地面に立つ見覚えのある一匹が居る。
二本足…?
「ニアなんで二本足で立ってるんだ?しかも心做しか言葉も流暢になってるし」
『そんなんでちゅよー。ニアは賢くなったんでちゅよ。二本足なら前脚二本は自由に使えるでちゅからね』
「ほぇ~」
確かに言っている事は理にかなっては居るのだが鼠が二足歩行しているのは何とも奇妙だ。
「それで、そっちの後ろにいるのが連れて来るって言ってた友達か?」
鼠が二足歩行しているのはさて置いて話を進める。
『でちゅでちゅ。総勢二十七匹。群れの半数を甘い言葉で唆して連れて来る事に成功したでちゅ』
言い方が何とも犯罪的であるが、まぁ良いとしよう。
「そうか。なら、契約に関してだが…えーと俺は労働力を求める。その対価として食料と安全な住処の提供で問題ないか?」
俺が鼠の絨毯にそう問えば、絨毯の中から一匹前に出て来た。
それはニアではない鼠で四足歩行な点は他の鼠と変わり無いが、他の鼠よりも一回り体躯が大きい。
「チューチュチュチュー」
どうしたのだろうか?と様子を見ているとスマホから通知音が聞こえる。
何かと思いスマホを開けば配下申請が一件届いていた。
またしてもディグ=マウスさんからである。
取り敢えず『承認』し、『配下管理』に追加された事を確認。
何気にアダムとイヴも配下に加わっていた事も確認した。
『む、これが二アがいっていた"ぱす"というやちゅか。あるじよ、おはつにおめにかかる。このたびわれわれはあなたのはいかにくわわることにきめた。ふつつかものではあるがなにとぞよろしくたのみまちゅ』
「あぁ、こちらこそよろしくな」
え、何この礼儀正しい鼠さん。
なんか寧ろこっちがお願いしますって感じで恐縮してしまいそうだ。
『ナナシ~腹減った。飯くれ飯』
え?何この礼儀の欠けらも無い鼠。
ニアは先程まで二本足で立っていたのに今はランタンに腰掛け片手を上げてそんな事をほざいている。
取り敢えず、ニアはさて置き他の鼠達はお腹が空いているかもと思い食事にする事にした。
『んでーこいちゅが、そんなに美味いなら俺が確かめてやるって言うもんで連れてきたんでちゅよ~』
ニアはそう言って立ったまま器用に横にいる礼儀正しき鼠をペシペシと叩いている。
その様子は妙に人間臭く、上司が部下を紹介している様であった。
『ふむ。これはたしかにニアがうまいというのもうなずける』
礼儀正しい鼠はそんな事を気にする素振りもなく一心不乱にパンを齧っている。
現在鼠の皆が食べているのは、イチゴ味のメロンパン。飲み物には水を出している。
イチゴ味なのにメロンパンと言うのは謎でもあるが、深くは考えない。
これは『Nショップ』で買った物で、値段は80NPとアダム十二匹分だ。
パン一つでスライムが十二匹も買えるのだから驚き物である。
『むかしたべた、かたくてぼそぼそですっぱくてまずかったパンとはだんちがいにうまい。しかもかじちゅのあじもする!』
他の皆も一様にパンが気に入ったのか、配られたパンに夢中で食らいついている。
中には一名、礼儀正しい鼠は冷静にレビューもしているが。
暫くして二十七匹いる内の成体十八匹はパンをお代わりして、残りの幼体九匹は食後のお昼寝に突入していた。
全員の食事が終わると、先程の一回り大きな礼儀正しい鼠が群れの代表らしく俺とニアとアダムとイヴそして礼儀正しい鼠を交えての話し合いを始める。
『まず始めに聞きたいんでちゅけどそのへんてこりんな生き物は何でちゅ?』
話し合いが始まりまずはニアが俺に問うて来た。
へんてこりんな生き物とはアダムとイヴの事であろう。
「こいつらはスライムっていうモンスターで、さっき俺が購入した。ちゃんと言う事も聞く良い子だからうちで飼います」
『うちは集合住宅でちゅからペットは禁止でちゅ。早く捨てて来るでちゅぁぁぁぁあ!?』
そう言って二足歩行状態でアダムの身体をペシペシしていたニアだったが、体重の掛け方でも失敗したのか哀れにもアダムの体内に取り込まれてしまっていた。
『ぷふぁっ!?ヘルプ!ナナシヘルプみぃ!おぼぼぼぼぼっ』
アダムの体内でニアはバタバタともがいており必死だ。
消化が始まってないのでどうやらアダムはニアを仲間だと理解している様である。
もしかするとアダムがニアに仕返しをしたのかも知れない。うちのスライムはなんて賢いのかしら。
初っ端ニアがアダムに取り込まれるアクシデントがあったが、誰も特に気にする事無く話を続ける。
因みにニアは現在アダムの頭頂部?らしき場所から上半身を出しており謎生物と化していた。
ニア曰く『あ、これ案外気持ち良いかもでちゅ』との事なので無視しておく。
「えーと、ならまず始めに名前を決めておこうか。今後呼ぶ時に困るからな」
『うまいたべものだけでなくなまえまでいただけるとは…きょうしゅくでちゅ』
「名前に希望とかあるか?」
『あるじにおまかせしまちゅ』
「そうか?ならオルガでどうだ?」
オルガって確か女性に多かった名前な気もするが、別に男性でも違和感ないので気にしない。
てか、オスかメスか分からないのでどっちでも良いや。
『オルガ…ありがたくちょうだいします』
「なら今後ともよろしくなオルガ」
『はい』
『あ~良いよ~アダム君。もう少しあわあわで頼むよ』
そんな中ニアが俺のすぐ隣でアダムの炭酸風呂を楽しんでいたので、掌を使って頭頂部から出ているニアの頭を押し込んでおく。
『おぼぼぼぼぼぼっ!?』
その後はオルガから、オルガの居た群れの地上での暮らしや、この空間の地上部がどうなっているのか等を聞いて行く。
オルガ曰く、ニアやオルガの居た群れは計六十五匹の群れらしく結構多い方なのだとか。
そしてこの空間の地上部はちょっとした森が存在しており、ニアやオルガ達ディグマウスはそこに生えている木々の果実や種子、昆虫等を食糧としていたらしい。
しかし、最近になって何処からとも無く魔物達が現れて木々の恵を根こそぎ持っていく様になったらしく、始めは地中に保存していた食糧で食い繋いでいたが次第に食糧が尽き日々の糧を得るのも難しくなってきたとの事。
魔物はなかなかの大食漢らしく森の食べ物は殆ど食べ尽くし、遂にはニア達ディグマウスまで襲い始めたのだとか。
なので今回のニアの地中に逃げ、そこで労働を対価に食料を得ると言う提案に乗ったそうだ。
まさか、雇い主が人間だとは思いもしなかったとも言っていたが。
因みに残った群れの半数は森に残る者達と新たな緑の豊かな地を求めて旅立った者達だそうだ。
オルガ曰く森に残る者達は餓死するか魔物に食べられるまでそう長くは無いとの事。
まぁ、それも自然の摂理と言う奴なのだろう。
可哀想だとは思うが当人の意思を尊重する。
とまぁ、オルガ達という頼もしい仲間が新たに加わった事だし早速国作りをするとしますか。
今日はもう疲れたので明日から。