#六匹目 便利なNP
『で、なにからはじめるでちゅ?』
やる事は決まったものの、何から始めるべきかお互いに認識していない為そこから始まった。
「んーそうだな。まずは国を何処に作る?」
『あんぜんなばしょがよいでちゅね』
「安全か。人の近寄らない森の中とかどうよ?」
『もりはまものがおおくてきけんでちゅ』
「魔物?動物か?」
野生動物の事かと思い、ニアにそう聞いても曖昧な答えしか帰って来ず、取り敢えず『search』を使って調べる。
調べた所、魔物とは穢れた魔力を体内に蓄積させ過ぎて変質してしまった生物の事らしい。
魔力ってあれか。魔法とか使うのに必要なあれ。
ますますファンタジー成分が増した事に辟易としながらも取り敢えずは納得しておく。
しかし、森に魔物が生息しているとなると非戦闘員しか居ない今、もし魔物に出くわした場合そこで詰みだ。
かと言って、魔物が居ない場所は既に人間や多少知性のある生物が住み着いているだろうし。
他に安全そうな場所と言えば空の上とか水の中があるが、そんなのはっきり言って無茶。
となると自ずと答えは見えてくる。
「地下に作るか」
『ちかていこくでちゅか。かっこよちゅ~』
地下帝国…確かに浪漫溢れる響きだ。
現代の世界で最も安全な場所と言えば、まずは核シェルターがその一つに挙げられる。
シェルターは基本的に地下に作られる物だしやはり地下は安全の代名詞である。
「それでだな…」
まずはニアにNPについて簡単に伝える。
ポイントを消費すれば穴も掘れるし素材も出せる。
しかし、人間を撃退してNPを増やす方法以外の方法が分からない為出来るだけNPは節約したいと。
なので自分達で可能な事は出来るだけ自分で行う有無を伝える。
『なるほどでちゅ。ならニアはあなをほるでちゅ』
ニア達ディグマウスは地上にて木の実や昆虫等を餌として集め、土の中に作った巣穴で食べる習性があるらしく、穴を掘るのは得意分野だそうだ。
なので、ニアがこんな岩肌に囲まれた空間に現れた理由が分かり喉の奥の小骨が取れた様な感覚を得る。
『あと、ニアひとりであなほりするのはちゅかれるでちゅからともだちとかもよんでくるでちゅね』
「確かに数がいた方が効率が良いな。分かった。ならそれで頼む」
対価は美味しい食べ物で良いそうなので、それに関しては何とかなりそうだ。
ニアが友達とやらを何匹連れてくるのかは知らないが、多少多くなった所で掌サイズの鼠の食べる量など知れている。
ニアが早速出発したいと言うので、お弁当としてパンの欠片を破いたレジ袋に包み手渡す。
ニアは袋の結び目に器用に尻尾の先端を滑り込ませ、そのまま軽々と持ち上げて見せた。
「おぉ。そんな事も出来るのか」
『えへんでちゅ。さてと、ならさっそくいってくるでちゅ』
そう言うとニアは岩肌に爪を立て岩を削り始めた。
ボロボロと地面に落ちる岩の破片とニアの爪を交互に見て感心する。
あんなにも小さい爪なのに岩を削るとは。爪の強度は俺の爪とは比較にならないんだろうな。
そして、あっという間に俺の指が四本位は入りそうな穴が開けられる。
穴掘りが得意なのは本当らしい。
『ここであってたでちゅ』
たった今ニアが開けた穴は先が続いており既に掘られていた通路に開通したみたいだ。
どうやら、この通路はニアがここに来る前に掘った穴らしく気が付いたら塞がっていたのでもう一度開けたとの事。
この穴を通って地上に出て友達を呼んでくるそうだ。
『このあな、ちゅぎはふさがないでね~』
そう言い残すとニアは元気よく穴に頭から突っ込むと、そのまま穴の中に走って行ってしまう。
「ふぅ、行ったか」
久しぶりに会話が出来た相手が行ってしまったことに一抹の寂しさを感じる。
しかし感傷に浸っている暇等なく早急に鼠の国、ネズミーランド建国の算段を立てなければ。
まだNPは多いのかどうかは分からないがどちらにしろ、このまま増加が無ければいつかは無くなる時が来る。
やはり分からない事があれば調べるに限る訳で、早速『search』を使いNPの増加方法やそれに関する情報を漁っていく。
『search』によるとNPを増加させる手段は幾つかある様で、その内の一つが既にアニメや漫画から得た知識にもあった、ダンジョンを作ってそのダンジョンに入って来た人間を撃退してNPを稼ぐ方法。
『search』によればこれが最もポピュラーな手段だそうだ。
人間一人で得られるNPは書かれていなかったのが少し残念である。
次に挙げられるのは生物を殺す事。
力のある生物をダンジョン領域内で殺した場合強さに応じたNPが得られるそうだ。
これは生物なら何でも良いらしく魔物や人間でも特に問題は無いらしい。
そして、その他細々としたあ物もあったが特に俺の目を引いた方法がある。
それは物質・物品の変換と言うもので、ありとあらゆる物質、更に加工された物品の全てを価値に応じてNPに変換出来ると言うものだ。
基本的に形あるものであれば何でもNPに変換が可能らしい。しかし、物質・物品とある様に魂や概念等といった形無き物は不可能だそうだ。
取り敢えずこの方法を使えばどうにかNPを稼ぐ事が出来そうで安堵する。
説明には変換方法も表記されていたので早速試してみようと思う。
変換方法は実に簡単で、まずはスマホのカメラを変換したい物質等に向ける。
今回は手近に何も無いので、先程ニアが掘った岩の残骸にカメラを向けた。
すると画面に表示が現れ、表示には『安山岩の破片 0NP』と表記されておりその下には『NPに変換しますか?』と続き『はい』『いいえ』と書かれている。
0NPだが変換が可能には可能な様で、要らない物とかを捨てるのに役に立ちそうだと思う。
取り敢えず、安山岩の破片なんて要らないので『はい』を選択し0NPに変換する。
すると先程まで足元に存在していた安山岩の破片は綺麗に消え去っていた。
ファンタズィ…
鼠がテレパシーを使って来るのは、何とか許容できた。
しかし、目の前にあった物が一瞬で消える何て現象を見れば流石の俺もこれにはにっこりだ。
兎にも角にも、人間とか言う面倒臭い生き物と関わりを持たなくてもNPを稼げる。
今はその事が分かっただけで充分だ。
まぁ、俺も人間なんだけどね。
それはさておき、まだまだ試しておきたい事や確認したい事は幾つもある。
ニアがいつ戻って来るのか分からないが、出来る事なら戻るまでには終わらせたい。
っと…ついつい仕事の癖でそんな事を考えてしまったが、別に期限や納期がある訳じゃ無いので急ぐ事は何も無かった。
その事に職業病の影響力の恐ろしさを知る。
ま、のんびりやって行きますか。
まずはずっと気になっていた『Nショップ』を使う。
普通こういった通販サイトで注文した商品は、宅配業者によって数日後に届けられる。
しかし、今現在の俺の住所は"岩の中"だ。
この場合、白猫ヒミコの宅急便さんはどうやって商品を届けるのだろうか?
先程からソコが気になって仕方無くこれの確認を一番にしてしまった。
まぁ、あれこれ考えたり悩むよりも実際に商品を購入した方が早い。
NP入手の目処が立ったこともあり、躊躇する事無く購入する商品を選択して行く。
取り敢えず地面が硬くて寝にくいから敷布団と…毛布と掛け布団。枕はやっぱり低反発…と。
次々に最低限必要そうな物をカートにぶち込んで行く。
俺は何故か空腹を感じないし別に食欲も無いので食べ物は必要無いのだが、ニアとその友達が帰ってきた際に餌…ではなく食事が必要だから食料品関係も買っておく。
鼠の好物なんて知らないが、基本雑食だと聞いた気がするので俺が美味しそうだと思う物を適当に見繕っておいた。
取り敢えず寝具一式と適当な食糧。あと、この岩の中は薄暗いだけで光源が無く前が見にくいのでLEDのランタンを一つ購入。安上がりな蝋燭と迷ったが野生動物は火を嫌う?とか何とか聞いた気がするので多少値は張るがランタンを選択。
バリエーションが豊かで色々なデザインが選べたので、岩の中というシチュエーションに合いそうなアンティーク調のデザインのランタンにしておいた。
他にも雑貨や俺の衣服類も何点か購入しているのだがその辺は割愛。
そして、買い物中に色々と普通の通販サイトでは見られない物を見つけた。
普通の通販サイトで凶器があるとすれば包丁やカッターナイフ位だ。
しかし、この『Nショップ』には正に凶器と言える商品の数々が売られていた。
シンプルな鉄製の剣や装飾華美な剣。フランベルジュや日本刀。更には銃火器、爆発物まで取り揃えられており果ては戦車や戦闘機までもがあった。
戦車は一家に一台は必須と思い、カートに入れようとしたが値段を見て指先と脳が震えた。
取り敢えず戦闘機や戦車関係はそれ以上何も見ていない。俺の精神衛生上好ましく無いと言う名医の判断だ。
恐らくダンジョンは戦いが伴う場所である為、こういった銃刀法先輩も真っ青な程物騒な品々が売られているのだろう。
他にも値段は桁が間違っているのでは?と思ってしまう様な商品もあったが、住宅や現代アート風の建造物等も売られていた。
そんな感じでゆっくりじっくりコトコトと様々な商品を見て一喜一憂した後、カートの中身の精算をする。
合計3万6820NPとそこそこ多い出費だが、必要経費でもあるし何よりも確認と検証のためと思えばなんて事は無い。
精算が終わると表示が現れる。
そこには『発送しますか?』『はい』『いいえ』と先程見た表示と殆ど差異の無いものが出てくる。
勿論『はい』を選択した。
すると俺の耳に"チリンチリン"と鈴の音が聴こえてくる。
今の音がスマホからではなく、それ以外の何処かから聞こえてきた事に驚きつつも辺りを見渡す。
そしてソレはすぐに見つかった。
俺の目の前にはいつの間にか段ボールが三列も天井スレスレまで積み上げられており先程ニアが使っていた横穴を完全に塞いでしまっていた。
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