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ネズミとダンジョンマスター  作者: ヨコチ=チウム
第二章
38/39

#三十三匹目 アイちゅ


「ちゅー?ちゅちちっちぅ?」


コクリ


「ちゅ〜!」


「ちゅちゅちゅっ?」


フルフル


何か知らんけど、今までが嘘の様にコミニュケーションが取れているんだが?


『オルガ、翻訳頼む』


俺も専攻でネズミ語を習ってはいるがまだ聞き取れない部分もあるので翻訳を頼む。


『お任せを。まず初めに「パンは好きか?」と質問しそれに対して彼女は頷きを返しました』


どんな会話しとんねん。

初手パンは好きかと聞くとかパンの宗教勧誘か何かかと疑われるぞ。


『そして次の質問は「何パンが好き?」そう聞いておりますな。首を振る、つまりは特に無いという事ですかな?』


『そんな事より、親はどうしたのか聞いてくれ』


『お任せを』


それから夕食の準備が終わるまで、ネズミ達を介したコミュニケーションを取り少ないながらも貴重な情報を得た。


『よし、皆。ネズミ達の働きにより、色々と判明したぞ』


パスを通じて全員達へと情報を拡散する。


まず、名前は不明。


親は不明。


パンは好き。


好きなパンの種類は特に無し。


何処から来たのかも不明。


お腹は空いてる。


骸骨怖い。


年齢も不明。


『以上です』


『兄貴、何一つ分かってないじゃないっすか』


『私達は怖いのか……』


『まぁ、何も分からない事が分かっただけでも収穫だったという事で』


『適当だね』


『皆さん夕食が出来ました』


脳内会議を行っているとエレノアから夕食の完成を知らされた。


暇なスケルトン達は配膳の手伝いへと行き、ネズミ達も自分の席に向かったり少女と何やら話したり慌ただしくなる。


『今日はその子の体調の事も考えてあっさりして柔らかいものにしました』


今日のメニューは鶏肉とネギのお粥に野菜の付け合せらしい。


野菜アレルギーなんで、鶏肉だけで十分です。


「みんな揃ったし頂こうか。いただきます」


『いただきまーす』


「ちゅ〜」


『召し上がれ』


いつの間にか定着していた食前の挨拶と共に皆食べ始める。

俺達はいつも通りに食べ始めたのだがやはりと言うべきか少女の手は動かない。


「あー……君も食べて良いんだよ。お腹空いてるだろうし」


俺がそう言うと続いてネズミ達も少女にあれこれ伝えている。


そして、ようやく小さな手を使ってスプーンを掴み少しずつだが食べ始めた。

その様子に一同は胸を撫で下ろし、少女の食べる速度に合わせながらゆったりと時間は過ぎてゆく。


『ジャン、取り引きだ』


『また取引っすか…?』


『あぁ、そうだ。取引内容だが、俺の野菜の付け合せを引き取って欲しい。謝礼として明日の朝食のウインナーを譲ろう』


『ふっ、いいぜ兄貴。その取引乗った』


『取引成立…だな。パターンBで頼む』


『了解』


秘密の取引が成立し俺達は行動へと移す。

ジャンは立ち上がりキッチンまで行き口を開く。


『エレノア姉さん、塩はどれっすか?俺には見分けがつかないっす』


『お塩ですか?それなら……』


そう言って立ち上がり、キッチンへと歩いて行くエレノア。


今です。


心の中でそう呟きながらジャンの空き皿と俺の野菜の乗った皿をハイパーキネティックポジションリバーサーする。


バレる事無く成功し事なきを得て、安堵の溜息と共に視線を動かし少女と目が合う。


「……」


取引の現場を見られてしまった。


某漫画であれば背後からバットのフルスイングであるが、現実でましてや子供にそんな事は出来ない。


人差し指を口の前に持っていき、頷いておく。


これで伝わったはずである。

何も反応が無い為心配である。


食事も終わり、少女は何を考えているのか虚空を眺めていた。


食事に満足したのかどうか分からないが、食器は空になっていたので満足したのだと思われる。


その後も少女は椅子に座りネズミ達と何やら話していた。

と言っても話しているのはネズミ達だけで少女は頷いたりしているだけであるが。


俺は俺でそんな少女の様子をちょくちょく気に掛けつつも、オルガやスケルトン達と地下の状況等について話し合ったり雑談したり、アダムとイヴに採掘の調子を尋ねたり色々とする。


そんな時、俺はふと全員の自己紹介を少女にしていないと思い出し軽く済ませる事にした。

名前を聞くならまず自分からとか言うし、もしかすると教えてくれるかもしれない。





ダメでした。


名前のある者を一人一人、少女に紹介していったのだが。

何事も無く全員終わってしまった。


まぁ本人が言いたくないのなら仕方ないか。


そろそろ歯でも磨いて寝るかな。


その前にアイス食お。


少女も含めアイスを欲しがった全員にアイスを振る舞う。


『ぁぁあッ…!?頭がぁッ歯がァ!!でも美味いぃぃい』


冷たいからゆっくり食べる様に言ったのに全力で頬張り悶絶する馬鹿(ニア)が一名と、甘味に喜ぶ面々。

少女にとってもアイスは珍しかったのか、少し目を見開き驚きながらも食べていた。


食べる速度が少々遅過ぎたせいで手がベタベタになった少女と、アイスを全身で味わった誰かさんを連れて洗面所へと行く。


少女の足りない身長分はリビングの椅子を持ってきてあげ、蛇口等の使い方を伝えると共に手を洗う。


ニアは洗面器の中でスタンバっていたので全力で蛇口を捻っておいた。


即席のプールで遊び始めたニアは放置して、手を拭かせ戻る。


そして、またしてもふと思い出す。トイレとか教えてなかったと。

少女の手が若干震えているなと気が付いていたがアイスで冷えたのかと思っていたが……まさか。


『エレノアぁぁぁあ!!エマージェンシー!!』


『何事ですかっ!?』


慌てて駆け付けたエレノアに事情を簡潔に伝え少女を引き渡す。


何とか間に合った……か?


兎に角、その辺の事情に関して異性である俺が関わるのは色々とアレなので女性?のエレノアに説明とかは頼み。ソレが終わったら、俺のベッドを使って良いからそろそろ寝かせてあげる様に頼んでおく。


俺は歯でも磨いておこう。


『いぇーい犬かき』


「まだ遊んでたんかい…」





「で、どうしたものか」


現在は地下にてスケルトン達と数名のネズミ達を集め少女に関する話し合いを始めていた。


『取り敢えず傷が回復したのは良かったっすね』


『うむ、足の傷は少々痛々しかったしの』


「あぁ、あれは痛かった」


主に出費が。


『それにしても彼女は無口だね』


『普通子供は元気で無邪気な筈なんじゃがのぅ』


『声帯に問題があるのでは?』


エレノアのその言葉に成程と全員が頷く。


「うーん、外傷は特に無かったし内傷だとしても治ってると思うけどな」


もしかすると先天的な障害によるものかも知れないけども。


『俺、一つ疑問なんすよね。マージさんは匂いで魔物の嗅覚を誤魔化して運良くここまで来たっすよね。でもあの子の場合年齢的に無理があると思うっす。それに聞いた限りでは結構傷だらけだったんすよね?魔物にやられとしてもこの付近に居るのは、オークとバドニックっすよ。普通ならまず間違いなく傷程度では済まないっすよ』


「あ、確かに。流石に銃無しだと俺も無理だし」


『彼女は亜人の様ですし可能なのでは?』


『え?人間じゃないんっすか?』


『そうですよねナナシさん?』


エレノアが同意を求めてくるが、なんのこっちゃ。

亜人ってあれでしょ?トラックに轢かれても、ジュワァって黒いモヤ出て復活する奴。知ってる知ってる。

あのハンチング帽のおじさんかっこいいよね。


でも、俺ってばとっても正直なんだ。


「ごめん、分っかんね」


『耳です。耳が人のそれとは違ったでしょう』


そう言われ改めて考えてみれば、なんか生えてたなと思い出す。


「うん。そういえばそうだった」


『なんと、亜人じゃったか』


マグ爺が少し思案する様に呟く。


『ええ、となるとある程度事情も見えて来ると言うものです』


ごめん、なんか数人が納得といった雰囲気を出してるけど俺は一ミリも分かってないんですが。


と、納得してなかったのは俺だけでは無かった様子で原色パーカーを着ているスケルトン、ピーターが発言する。


『待ってくれ、彼女はエルフだよ。あの整った顔立ちに翡翠色の瞳。間違いないよ』


はぇー、この世界はファンタジーの定番エルフまで居るのか。

凄いなぁー。


本当に凄いとは思ってはいるが、小学生並みの感想しか出て来ない。


『では、あの耳はなんだと言うんですか?私は生前エルフ族を見た記憶はありませんが、人の耳に似た長い耳を持つと聞いた事はあります』


『僕は何度がエルフ族を目にした事があるんだ。間違いないよ』


『俺はどっちも聞いた事しか無いから分かんないっすね』


『わしもじゃ』


話し合いが混迷を深める中、今まで一度も発言をしていなかった人物。オーバーオールを着たスケルトンが口を開いた。


『くくっ、謎が解けましたよ!』


「お?オウル何か分かったのか?」


普段寡黙だが、発作的に発言するオウル。

その喋り方や動きは少し癖が強いが中々に良い意見を出す為、何やかんやで俺は期待している。


そして、オウルはフレミングの法則を模した指を顔に当て自論を述べ始めた。


『あの子は亜人とエルフ、もしくはそれ以上の種族の混血種ですよ!亜人としての特徴とエルフとしての特徴両方が発現しているのです!間違いありません!ええ!』


次回『作者を襲う急激な幼児退行』



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