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ネズミとダンジョンマスター  作者: ヨコチ=チウム
第二章
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#三十二匹目 げっちゅ あっぷ


「そんな訳で、食事中ですが一応緊急案件な気もするので話し合いを始めまーす」


『いえーい』


皆で食卓を囲み少し遅めの昼食であるロールキャベツを食べながら宣言する。


ニアは無駄にテンションが高いが寝不足によるものだろうか。


その他は食事に夢中であったり、俺のベッドで横になっている謎の少女に興味深々である。


「まぁ、ざっくり説明すると……」


そこから今日起きた事を改めて簡略化して伝えた。


「ともかく、結論から言うと森は危険なのでこの子のが目が覚めるまで面倒を見ます。その後、この子の家族を探して家族の元へと返します」


『うむ、やはり親元へと返すのが正しいですな』


そうオルガ。


『でも、なんでこんな森の中に居たんすかね?マージさんじゃあるまいし』


革ジャンを着たスケルトンのジャンが素直な疑問を口にする。


「んー、それに関しては俺も不思議に思ってる。なんでだろうな?」


『さぁ?本人に聞けば一番早と思うよ?』


ニアの最もな意見にそれもそうだと全員が納得する。


『にしても起きないね』


『そうだね』


アダムとイヴは少女が起きない事を心配しているのかベッドの端でそう述べた。


『でも、そうっすね。確かにマグ爺とエレノア姉さんが言う事にも頷けるっす。俺は事前に兄貴からも言われてたからそうでも無いっすけど本能的に胸騒ぎを覚えるっすね』


『不甲斐ないです』


『私もじゃ』


「いやいや、そう落ち込むなって二人共。幸い何事も無かったんだし」


未だに落ち込みを引きずる二人を励ますが、中々立ち直ってくれないので少女が起きたら優しくしてあげる様に伝えておいた。



「さぁ、取り敢えず少女は目を覚ましそうに無いし仕事するぞ!マグ爺、悪いが今日の散歩は中止だ。この子の目が覚めるかもしれないからな」


各々返事を返すと食器を下げたり、道具を取りに行ったり、そのまま地下へと直行したりと行動を始める。






皆が地下へと向かい、人気の無くなった室内に紙にペンを走らせる音だけが響く。


少女が目を覚ますかもしれないので俺は残り子供用の服を用意したり、最近の事についてや地下での鉱石資源の採掘状況等に関する情報をノートへと適当に纏めたりと出来ることをしている。


時々休憩にやって来る面々は少女が気になるのか俺に目は覚めたかと聞いては戻って行く。


そして日が傾き空の色が変わりつつある頃、俺は朝の出来事の事もあり少し精神的に疲れていた為かコクリコクリと船を漕いでいた。


静寂な室内に布の擦れる音が聞こえ咄嗟に目を覚ます。


どうやら居眠りしていたらしい。


目を瞬かせながら窓の外を見てそろそろ皆が帰ってくる。

こう考えながら座りっぱなしで、凝った気がする全身を伸びをする事で解す。


そして、ふと少女の事を思い出しベッドの方を見やれば此方を覗く翡翠色の瞳と目が合う。


違いに沈黙の時間が訪れ、先に口を開いたのは流石に俺の方であった。


「おはよう」


もっと気の利いた台詞は無かったのかと言った後に後悔するが時既にお寿司。


「……」


少女は特に何を言うでもなく、暫く此方を見た後布団を捲り自分の身体を確認し再び此方を見る。


うん。死ぬ程気まずい。


「あぁ……そのだな。着てた服なんだが汚れが酷かったし、怪我を治すのに邪魔だったから、その……お兄さんが捨ててしまったんだ。そこに代わりの服を用意したから着て欲しいんだが、着れるかな?」


あぁ、やべぇこの状況自分でも犯罪的にしか感じない。


少女は何も言わずにチラリと枕元の服を見て固まる。


何分程経過しただろうか。


現在俺は窓越しの夕日を眺めながら、パスを通じてエレノアへと緊急招集を命じていた。


『早く早く!助けて』


『ナナシさんっ!?一体何があったんですか!?』


『子供 起きた 大変 分からない ヘルプ』


インターネットで検索するかの如くエレノアへと救援メッセージを送り待つこと暫し。


『大丈夫ですかっ!?』


急ぎ慌てて地下へと続く収納から飛び出してきたエレノアが見たのは枕元の服を見つめる少女と何処か悟った目で夕日を眺める自分の主の姿であった。


いきなり現れたエレノア、もとい白骨に目を見開き掠れる様な悲鳴を漏らす少女。


『ナナシさん……どうしましょう』


『俺に聞かないでくれ。こんな状況、義務教育過程を含む今までの人生で習った記憶が無い』


『私も生前の記憶に子供の世話をした経験がありません』


あっ……エレノア独身だったんだ。


口に出したらぶん殴られそうだったので心の中だけの呟きに留める。


「えーと、彼女はエレノアと言って少し、というか大分肉付きが悪いが良い人?骨だから安心して欲しい。君に危害を加える事は無いから」


「カタカタ」


俺の言葉に合わせて骨を鳴らすエレノア。

そして、俺は背中を小突かれた。何故だ。


『彼女は起きてから何か言っていましたか?』


『いや、一言も喋らないんだよ。だから困ってるの』


『もしかすると、喉が乾いているのでは?』


『おいおい、エレノア天才かよ。確か冷蔵庫の中にジュースがあったよな?』


『持ってきますね』


『頼む』


そして、エレノアが持ってきた果汁百パーセントのりんごジュースを少女に手渡す。


ナイスチョイスだエレノア。りんごジュースは子供なら好きな筈。間違いない。


暫く俺達とコップのジュースを見比べ、俺が飲んで大丈夫だと数度伝えるとスンスンと匂いを嗅いだ後ゆっくりと少しずつだが飲み始めた。


『おぉ、飲んだ』


『良かったです』


『しかし、エレノアよ。この子を改めて見ていて思ったのだが、エレノア程ではないにしろ少し痩せ過ぎでは?』


『はい、間違いなく栄養失調かと。ナナシさんが連れて帰って来た際の傷といい、ここ数日間ろくな環境に居なかったのかと。それはそうと、子供とはいえ女性の裸体をジロジロと見るのは如何なものかと』


『ごめん天井の木目でも見とくよ』





「……こふっ」


天井を仰いでいるとそんな声が聞こえる。


『ナナシさん何時まで上を見てるんですか。飲み終わった様ですよ』


「もう一杯いるかい?」


喉も潤っただろうし何か返事が有るかと期待したが残念ながら無言に終わる。


『取り敢えず彼女を風呂に入れてやってくれないか?濡れたタオルで拭いたといったも流石にな』


女性に対して匂いの話はタブーである為、森の匂いがするとだけ言っておこう。


『私がですか!?』


『そうだ。俺は男だからな』


『私は骨なんですが?怖がられてしまいます』


『え?じゃあ俺が少女を密室に連れ込み身体の隅々までじっくりねっとり洗っても問題無いと』


『くっ……卑怯で最低で変態です』


『ふっ、何とでも言いたまえ……俺は湯でも張ってくるよ』


俺は心に深い傷を負いつつも、何とか押し付ける事に成功する。


湯を貼ったり、タオルを準備したりしている間少女は二杯目のりんごジュースを飲んでいた。





『兄貴?大丈夫っすか?なんか疲れきってますけど?』


「色々と犠牲にしたもんでな……」


『サクリファイっすか』


今は地下から皆が戻って来て、各々寛いでいる。

エレノアと少女に関しては現在入浴中だ。


色々と苦労していると思うが頑張れエレノア君なら出来る。


物凄く適当な応援を心の中でしつつ出てくるのを待つ。


『ねー?あの子名前はなんだったの?何歳だったー?ニアの方が年上かな?お姉さんかな?』


「分からん。あの子喋らないんだよ」


『えー?そうなの?』


「そうなの」


少女とエレノアが風呂場から出てきたのはそれから暫くしてからの事であった。


身綺麗になり新しい服に着替え、血色も良くなっている様に見える。


そして、スケルトンとネズミ達で絶賛無法地帯なリビングを見て半歩後ずさる少女。


「あー、怖がらなくて大丈夫だ。皆優しいから安心してくれ。このネズミ達も、ほらこの通り噛んだりしないから、ね」


俺の言葉に一様に頷くスケルトン達とネズミ達。

逆に不気味な気もするが気にしない。


それとニア。俺の差し出した指を噛むな。


にしても風呂で汚れを落としたお陰で見違えた。


別の子は流石に言い過ぎだがガラリと変わったのは確かである。





そんな訳今は俺の隣で子供用の高めの椅子に座って一緒に夜ご飯を待っている。


その間、スケルトン達が彼女に何かとコンタクトを取ったが全滅であった。

マグ爺は飴を、ジャンは一発芸を。


すまんジャン。その芸は流石の俺でも失笑レベルだ。


続いて今はネズミ達が少女に群がり「ちゅーちゅー」と何か話しかけている。

俺から見ても地獄絵図だ。少女が怖がる様であれば止めさせるつもりであったが、予想に反して彼女は初めて頷くという意思表示をした。


後ろでスケルトン達が負けたと嘆いている気もするが安心しろ。


俺も負けてるから。

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