#三十匹目 ロリエンカウント
と、言う訳で第二章始まります
地底湖発見から二週間と少し。
ログハウスのベッドにて、窓から差し込む朝日に当てられ目が覚める。
ベッドの縁に座り伸びをして全身の凝りを解す。
『おはようございますナナシさん』
「んーー!ふあぁ。おはようエレノア。今日も早くからご苦労さま」
まだハッキリとしない意識のまま、フラフラと浴室へと向かう。
目覚まし代わりの朝シャワーである。
キッチンではエレノアがワッフル作りに励んで居るのが見えた。
最近彼女は料理にハマっているご様子。
暇な時はレシピ本を見ながら楽しそうにしている。
ママである。
「ふぅー」
朝シャワーを終え、さっぱり気分爽快。
目蓋も軽くなった、
「おはよー皆」
『おはようっす』
『『ちゅー』』
『おはようございます』
パンツ一枚で椅子に腰掛け、起きている面々と挨拶を交わす。
「ん?ニアはまだ寝てるのか?」
『ええ、昨日は遅くまで起きていたみたいなので』
オルガが深夜に目が覚めた際、ニアの家はまだ電気が付いてたそうだ。
確か、この前は外から拾ってきた木を削って作った木彫りのドングリを自慢してきたな。
今度は何をしているのやら。
『お待たせしました』
朝食を待つ間、皆であれこれ話していると朝食の乗った皿を持ったエレノアがやって来る。
『いえーす!待ってました!』
いつの間に起きて来たのかニアが自分の席につきはしゃいでいた。
ニアは絶対に食事の時間までには起きて来る。
全く欲望に忠実な奴である。
『エレノア姉さん自分も手伝うッスよ』
『私も手伝いますとも!ええ!』
スケルトン達の仲はも至って良好。
今日も平和で何よりです。
『ナナシさん、今日は確か外に行かれる日ですね』
「ん?そう言えばそうだった。今日は西の方向にでも行こうかな」
甘めのワッフルを食べながら思い付きで答える。
『おぉ、ナナシさん今日は西ですかな。楽しみですなぁ』
「そうだな。今日も頼むぞマグ爺」
楽しそうにカタカタと骨を鳴らすのはキャラTを着るスケルトン。
服にプリントされたキャラクターの名前が井上マグロというマグロの赤身から手足が生えた物である事と、その口調から最近はマグ爺と呼んでいる。
本人も満更ではない様なので定着化はどんどん進行中。
と、それはさておきマグ爺に何を頼んだかというと三日に一度定めたログハウス周りの散歩のお供である。
以前、地底湖にある遺跡にて罠に気が付いたのはマグ爺であり、本人曰く生前は狩人をしていたらしく知識面等で非常に役に立つ為、外へ行く際には一緒に来て貰っている訳だ。
決して一人が怖いとか寂しいとか、そういう理由ではない。
『さて、行きましょうぞナナシさん!』
「待って、まだ卵食べてない」
ウキウキのマグ爺に急かされ、食事の手を早める。
「それじゃあ、皆また後でな」
『何かお土産よろしくねー』
『ナナシさんお気を付けて。マグ爺、ナナシさんのお守りよろしくお願いしますね』
「りょーかい」
『了解ですじゃ』
各々からの言葉に答えつつ互いに忘れ物が無いかの確認を行う。
このログハウスの外ではダンジョンマスターとしての機能を一部使え無くなる事が判明したので、確認は必須なのである。
「それじゃ、行ってくるよ」
地下への採掘に向かう面々にも挨拶をして、マグ爺と二人森へと向かう。
散歩と言う名のハンティングに出掛けて五分と少し。
「それにしてもログハウス周辺は殆ど魔物を見なくなったな」
『ふむ、そうですな。確かに新しい魔物の足跡や痕跡は見当たりませんな』
「狩りすぎた?」
そう俺が言うのも仕方ない事だ。
マージが帰ったあの日、焼肉二次会もあり中々の数の魔物を屠った。それにその後も三日に一度は散歩と称して魔物を狩り生活費の足しにしているのだから。
『むむむ、恐らくそれは無いでしょう』
「どして?」
『ナナシさんから聞いた魔物との遭遇率を考えるに、この森には今まで倒した魔物の何倍もの数が居るに違いないですじゃ。魔物は普通、狩場や縄張りが被るのを嫌って空いている場所があれば寄って来るものです。しかし、それにも例外はあるのですじゃよ』
「ほう?」
貴重な生活費となる魔物がデッドリスト入りしていない事に安堵すると共に、その例外とやらが気になる。
『魔物は自分達よりも強い個体が縄張りや狩場にしている場所には近寄らんのですよ』
「なーるほど。ログハウス周辺は俺達が狩りまくってるから魔物達にとって危険地帯として認識された訳か」
『そういう事ですじゃ』
「なるほどね。流石マグ爺。頼りになるなぁ」
『ほほっ、それ程でも』
他にも、狩人として培って来た獲物の追い方や森での歩き方等、色々な事を教えて貰いながら歩く。
そして、出発から約十分。
マグ爺が静止の合図を出す。
「マグ爺どうした?」
『生活費ですじゃ』
「魔物の領域に到着か」
小声で会話を交わしつつ、草むらから顔を覗かせる。
そこにはオークが二匹、「ふごふご」と豚語で会話しながら鹿っぽい生物を食べていた。
「今日は幸先が良いな」
『ふぉふぉ、腕がなりますなぁ』
マグ爺はそう言って肩に下げていたM14を構えた。
一緒に森へ出る関係上、武装は必要な為マグ爺にも銃を購入した訳なのだが、森へ出る度にマグ爺が喜ぶのはこれが大きい。
生前は弓を使った狩りをしていたらしく、俺からすれば一体何百年前の文明なのかと言う話だ。
そんな訳で、マグ爺にとって銃という兵器は狩りをするに当たって非常に優れ洗練された物であると判断されたらしく、兎に角お気に入りなのである。
皆が寝た後も愛でる様に整備しているとの情報もエレノアから聞いている程だ。
しかし、何かしらのの趣味に目覚める事は生きる上で良い事だと思う。
『ナナシさんや、二匹とも貰っても宜しいかな?』
この有様である。
「いや、何かあったらいけないし同時に始末するぞ」
『ふぉふぉ、そうですな』
マグ爺の狩りの腕なら一人で十分だと思うけど一応だ。
銃の取り扱いを教えて数発試し打ちしただけで、空を飛んでいた鳥を撃ち落とすのだから化け物じみた才能である。
『カウントは任せて下され』
「分かった。俺は右手前を殺る」
『なら私は左奥ですな。では……3…2…1…』
そして重く金属質な衝撃音が二度、重なり一つの音となり森全体に響き渡った。
訪れる静寂。オークの大質量の巨体が地面を揺らす音と近くで鳥が飛び立つ音が聴こえてくる。
『うーむ骨に染み渡る反動。最高ですじゃ。それにしても、頭部はやはり致命傷になる様ですな』
地面に倒れたオークを観察しながら冷静に述べるマグ爺。
「流石に急所だしな。でもまだ息はあるみたいだぞ」
『むぅ、やはり核を破壊せねば一撃死とは行きませぬか』
「しかし魔物の生命力は凄いな。今ので即死しないんだから」
恐らく俺の見立てでは傷は深く、着弾時の衝撃が脳を揺らし一時的な脳震盪状態に陥っているが魔石のエネルギーが魔物を生かしているのだと思う。
『獲物を必要以上に苦しめないのも狩人の務め。トドメの許可を』
「あぁ、楽にしてやれ」
そして再度響き渡る銃声。
今度こそ完全に生命活動を止めたオーク二体。
マグ爺の指導の元、オークの死体から魔石を取り出し持って来ていた水で綺麗にした後リュックに詰め死体はNPへと変換する。
「にしてもマグ爺」
『なんですじゃ?』
「その銃結構反動あるけどさ、骨とか折れない?大丈夫?」
『ナナシさんは心配性ですな。心配なさらずとも大丈夫ですじゃよ。魔物の身体は存外丈夫に出来てる物ですよ』
「うーん、なら良いけど。折れた時は瞬間接着剤で引っ付けるからな」
『ほほっ、その時は頼みますじゃよ。それより早めに此処を去りましょう。血の匂いに魔物が集まりますゆえ』
「せやな」
マグ爺が銃を撃つ度に俺はヒヤヒヤしているのだが本人が大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。
……口調とか結構年老いてるし骨粗鬆症とかもあるし、今度こっそり煮干でも進めておこう。
その後更にオークを一体仕留め、俺の外での滞在時間が迫っていたので一度家に戻り休憩を挟んでもう一度出発する。
そして、それは本日二度目の散歩の際の出来事であった。
「ん……?」
『どうかされましたかの?』
「いや、何となくだが首筋だかうなじだかその辺がピリピリする気が……?」
『ふむ?別に首等に虫等は付いてませぬが?』
「うぇ、虫は嫌いなんだよ。付いてたら泣く」
『それ程までとは』
その場は取り敢えず気の所為か、身体の不調という事にしてピリピリを無視した。
しかし、獲物を探して森を移動する事数分。
「マグ爺」
『どうされました?』
「やっぱり、この違和感は気の所為じゃないぞ」
『前に仰っていた更年期障害とやらですかな?』
「ちゃうわ」
流石にそんな歳ではない。それよりは生活習慣病の方が現実的だ。
って、そんな事はどうでも良くこの首の違和感。
ある方角に向かうにつれ大きくなっている気がするのだ。
「マグ爺、何となくだがこっちの方角に向かうと違和感が強まる」
『ふむ、私は何も感じませぬな?』
「気になるし少し付き合ってくれ」
『分かりました。何かあった際はこのマグ爺全力で御守りする所存です』
「頼んだぞ。だけど俺の命令は絶対だ」
『お任せを』
そして、強まる違和感に眉を寄せながらも慎重に進む事数分。
俺は見つけた。
全身に傷を負い木の根元に倒れる女の子を。
「おいっ、大丈夫か!?」
何故この様な森に?
そんな疑問をすっ飛ばし十歳前後の少女が傷を負って倒れている状況に慌てて駆け寄る。
『ナナシさん、何かありまし……ッ!?』
「あぁ来たかマグ爺。何か知らんが子供が倒れてた。呼吸が浅いし危険かもしれない」
遅れてマグ爺も少女を発見した様だ。
そして、即座に少女へと銃を構えるマグ爺。
「おい、マグ爺どういうつもりだ?子供に銃を向けるな、今すぐに下ろせ」
『ですがッ!?ナナシさん今すぐにそこを退けて下されッ!!』
「命令だッ!!銃を下ろせッ!!」
『くっ……!!』
暫しの葛藤の末、漸く銃を下ろしたマグ爺。
らしくない。普段落ち着きのあるマグ爺が急に我を忘れたかの如く焦り取り乱した。
この首の違和感もそうだが一体何だと言うのか。
兎に角、この子を早く治療せねば。
マグ爺は何も言わないが非常に強い焦りと不安の感情が伝わって来る。
「兎に角戻るぞ」
『……はい』
見た目より遥かに軽い少女を抱えログハウスへと急ぐ。




