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ネズミとダンジョンマスター  作者: ヨコチ=チウム
第一章
32/39

閑話 マージ帰還計画



「ふっ!ふっ!」


緑生い茂る森の中、ママチャリに跨り息を切らし汗を流しながら森の外を目指し進んでいた。


道中足場の悪さに何度か横転してしまったが、今はそんなミスを犯す訳には行かない。それ即ち死に繋がるからである。


「まだ追って来てるッ!?」


転けない為に一瞬だけ振り返り後方を確認した所、涎を撒き散らし鋭い目付きでこちらを睨むバドニックの集団。


最悪である。




この状況になったのはほんの少し前の事。



正体は不明だが、その実力と人の良さは本物だったナナシと名乗る男性。


今までの人生で一度も見た事も無い様な圧倒的な力で周辺の魔物の悉くを殺してくれたお陰で、ここまでの道中は『咎の森』と呼ばれる危険地帯とは思えぬ程の平穏さであった。


しかし、出発して暫く。このまま行けば森を抜けられると安心したのも束の間。


運悪くもバドニックの群れが食事中の所にお邪魔してしまい、互いに停止する時間。


バドニック達が目の前の、微かに人間の香りがする緑の塊はなんだろうか?


そんな感じで此方を眺めているのが分かる。


思考が真っ白に染まるが、見逃してくれ。


そう祈りながらペダルを漕ぐ脚に力を込め、その場を一目散に離れる。


油断した。


この森は伝え聞く通り中々に広い。


幾らナナシさんがあれ程の数の魔物を殺してくれたと言っても所詮は一部。

何処までが安全かも分からないのに勝手に安心していた己の慢心。


しかし、もしかすると…


そう思い振り返れば、バドニックの群れ。


そして今に至る。


ナナシさんが用意してくれた『ぎりーすーつ』と『しょうしゅーすぷれー』食事中のバドニックの群れに突っ込むまで奴らに気付かれていなかった所を見るに、効果は非常に高い代物だと分かる。


しかし、流石に奴らの前を通り過ぎたとなれば別だ。

知能の低い魔物が動く物に興味を示さない訳が無い。


現にそのようになっているのだから。


兎に角この危機的状況を打破するべく酸欠気味の脳を無理矢理働かせる。


『良いかマージ。この自転車の前と後ろに積んである物がチャンスだ。絶対無くすなよ?それで食糧とか必要そうな物はリュックに入れてる。それとコレM84スタングレネード、もしヤバくなったら敵の目の前目掛けて投げろ。あ、この輪っかを引き抜いてからだぞ。光るけど自分は絶対に見ない様に。あー…他には、エレノア、他になにか居るものあるかな?』


出発する際に受けた説明。

商人として鍛えた記憶力を活かしその内容を思い出し脳内で反芻する。


「はっ」


ナナシさんが使っていた光る魔道具。アレがあれば。

あれ程の光魔法を閉じ込めた魔道具…あれ一つでどれだけの価値があるのかは計り知れない。

彼はそこそこ良い値段すると言っていたが、その言い方は間違いなく高額。


それをポンと気軽に三個も渡してくるあたり…


と、そんな事よりその魔道具の在り処。


確か、この辺に…


まさか練習の際に調子に乗って練習した片手放しが役に立つとは。

慣れない片手だけの操縦を必死にしながら、空いた手で『すたんぐれねーど』の在り処を探す。


腰の辺りに…


「あった!!」


後は投げるだけ。そう思い片手でピンに指を通し力を込めるが抜けない。


「なんでっ!?硬いッ!!」


もうすぐ後ろまで奴らが迫って来ている。


この硬さだと抜こうと思えば両手が必要。

だが僕の技量では片手を離すだけでもやっと。

停車すれば犬共の餌に。両手を話せばピンは抜けるかもだがコケて犬の餌。


ここまでか。


そう、諦め掛けたが彼との約束を思い出す。


「まだッ!!諦めない!!」


弱気になっていた己に叱咤し、安全ピンを口に含むと顎に全力を込めピンを引き抜く。


「抜けたっ!?」


安心したのも束の間、即座に投げる事を思い出し後ろを見ることも無く放る。



そして、数秒後背後にて世界から音が消えたと錯覚する程の爆音と全てを照らし出す光が襲う。


光は見てない為、目は無事だが耳がやられてしまった。

激しい耳鳴りが遅い来るが何とか堪え光の納まった背後を振り返る。


そこにはバドニック達が地面に転がりのたうち回っている光景が広がっていた。

流石にあの爆音と光を直に食らってはひとたまりも無かったのだろう、先程まで食べていた食事を地面にぶちまけている。


その光景に目を取られそうになったが、本来の目的をすぐ思い出し前を向き進む。


またも、彼に助けて貰った形になり、この恩は返し切れるだろうかと笑みが溢れる。




そして、その後は幸運にも魔物との遭遇も無く数時間後、遂には森を抜け見覚えのある舗装された道を見て笑顔が零れる。


一緒に涙も出そうになったが、それは妻の元に帰ってからだと決めている為堪える。


ひとまずは森の傍は危険な為道まで進み、汚れ等気にするかとばかりに地面に座り疲れを癒す。


流石に森の中でバドニックの群れとチェイスしたのが効いている。足腰が全身が悲鳴をあげている。


吐き気もするがそれだけは気合いでこらえ、ギリースーツの中に背負っていたリュックを取り出し中を見る。


中には見慣れぬ透明な容器に入った白く濁った水。

これまた見慣れぬ光沢のある袋や箱に入った何か。


水が入っているので多分食料だとは思うが自分の知っている保存の効く物とは違っていたので疑問を隠せない。


兎に角、先ずはカラカラの喉を潤すべく水らしき物の入った透明の容器を取り出す。


取り出したのは良いものの開け方が分からない。

上部に取り付けられた白い部分をどうにかすれば良いのだろう事までは判明したがその後は分からない。

幾ら引っ張ろうがビクともしなかった所を見るに違う事は分かった。


ここに来て自身を襲う試練に泣きそうになる。


まさか…!?この水を飲むには何かしらの呪文が!?


いや、しかしナナシさんがこの様な事を…


そこまで考えて自転車の練習の際に悪戯を受けた事を思い出す。


しかし…


「……い!!おいっ!!貴様何者だ!!」


すぐ近くで人の声がした事に驚き。咄嗟にその場を飛び退く。

そして、腰の光の魔道具に手を掛け気が付く。


自分がこの魔道具の爆音の被害を受けない様に、柔らかい草を耳へと詰めていた事を。


「なんだコイツは…?魔物か?」


「いや此奴からは魔物特有の殺意を感じない」


「じゃあなんだコイツはっ!?」


「分からない…見た目的に森の精霊か…?精霊は知能が低いと聞く、そうだとしたら先程の奇妙な行動に頷ける」


「おいおい、俺は昔火の精霊を見た事があるけどよ?もっと神聖な感じがしたぜ?」


「ふむ…確かに最近は精霊は人前に姿を表さないとも聞く、別の何かと考えるのは妥当か」


慌てて取り出した所、武器をこちらに向けそんな会話をしている二人組。

その後ろには二人組の仲間と思しき女と荷馬車と。


そこまで見て答えが出る。


「助かった…」


「はっ?」


「えっ?」








少し長くなったので分割して投稿します

閑話を適当に挟んだ後に第二章的な物が始まる予定なんでよろしくっす


うっすうっす

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