#二十六匹目 どうくちゅ
マージが国に向かって帰ってから一週間と少し、何事も無く平穏な日々は過ぎ今日も例に漏れず平和だ。
リビングの椅子に腰掛け窓の外から見える景色を見ながらプァイナプゥオジュースを喉へと流し込む。
「ぽぇぇぇぇるるるぇ…」
地下で酷使した身体に冷えたジュースが染み渡り思わず吐息が漏れる。
『兄貴、なんすかその声』
「ぽぇぇ?」
身体は特に疲れていないが、気分的に休憩している仲間のスケルトン君が可笑しそうに聞いてくる。
「これはアレだよ、嗜みってやつだよ」
知らんけど。
『へぇ、兄貴の故郷には変わった嗜みがあるんすね』
「うむ」
『故郷といえば最近、俺もふと思い出したんすよ。俺の故郷ではダッケルって、あーナナシさんに馴染みある物で言うところの芋ですね。それに棒を刺して皆で焚き火を囲んで焼いて食べるんすよ。あれが、大して美味くも無い筈なのに無性に美味く感じるんすよね〜!彼奴も本当にダッケルが好き…で…彼奴…?』
「ほぇ〜。芋を棒に刺して焼くとは、初めて聞いたよ。楽しそうだし今度皆で一緒にやろうぜ。幸い落ち葉なら外に沢山落ちてるしな」
『ホントっすかっ!任せて下さいよ兄貴!ダッケル焼きのレペネーゼと言われたこの俺にっ!』
「お、おう。レペネーゼがよく分からんけど期待しとく」
『あざっす兄貴!それじゃ先に戻りますね!』
「あいよ、俺もぼちぼち追うよ」
感謝の言葉と共に空になった自分のコップを片付け、地下へと繋がる収納へと消えていくスケルトン君。
彼の後ろ姿が消えた後考える。
最近彼らスケルトン達はあんな感じで、ふと骨になる前である生前の記憶を思い出すらしい。
というのも、エレノアを含む彼等から直接聞いた訳では無いが一緒に生活をしていて先程の様に片鱗が見えているのだ。
例えばリビングから見える空を眺めて『あの日の雲もこんな感じだった』等。
地下でツルハシを奮っている際に唐突に『あ、そういえば彼奴から金返してもらうの忘れてた』等。
そして、先程の彼の様に等。
四日程前だろうか?彼らの頭の中は覗けない為定かでは無いが、その位から前兆は見られている。
ニアやオルガ達が凄い勢いで知識を蓄えている事もそうだが、スケルトン達にも何かしらの変化が起きているのかも知れない。
もし彼等が、過去の記憶によって苦しんでいるのであれば雇用者として友として何かしらの対策を講じなければ。
ちなみに本人に聞いた事を決して言えないのだが、この間エレノアが…
『ナナシ〜おるか〜』
「ん?あぁ、お人形さんって…」
声の感じからニアと分かり、咄嗟に返事を返したが、考えと口が別々の動きをしてしまった。
しかも、不運な事にニアはエレノアの肩に乗ってのご登場である。
『ん?お人形さん?』
「いえ、なんでもないでありますです」
ニアが首を傾げながら聞いて来たので咄嗟に誤魔化したせいで言葉が狂う。
『ふーん?まぁ良いけど。それよりナナシ』
良くない。それよりエレノアが無言なのが怖いわ。
頼むから何も言わずにこっちに眼窩を向けるな。
「なんでせうか?」
『えっとね、なんか空洞?的なの掘り当てたってー。オルガが至急ナナシを呼んできてくれーってさ』
「おー洞窟!?俺も見たい見たい。行くぞ行くぞ」
「実はね〜ニアもまだ見てないんだ〜!楽しみ〜」
ニアとエレノアと共に意気揚々と地下へと向かう。
確か今日最後に確認した時点で地下1.2km位だっけか?
そんな深くに洞窟とは?自然物かね?
てか俺は一体どれだけ地下まで掘るつもりなんだろうか?
自分でも何処まで掘れば良い物かいまいち分かって無いです、はい。
今後の計画に頭を悩ませながら地下を降ること約二十分。
最前線へと足を運べばそこはドーム状に掘られており、スケルトンやネズミ達、アダムとイヴも集まり盛り上がっていた。
『おぉ、ナナシさん。待ってました!』
穴掘りにおける最高権力者であり現場監督であり愛くるしいネズミであり、まぁとにかくその辺はどうでも良くてオルガが駆け寄ってくる。
オルガによる説明を要約すると、
さっき穴掘り当てた。
とりあえず俺を待つまで暇やったらから空間広げといた。
皆でこの空間は何かと議論してた。
との事。
「チューチュッチュ」
説明を聞き終え『ぐう有能か?』と感嘆していると一匹のネズミが駆け寄ってくる。
『ふむ、ふむふむ。成程。ご苦労様です』
「チュチュッ」
俺にはよく分からない謎のやり取りを終え去っていくネズミ。
『ナナシ殿、今しがたこの空間の深さが判明しました約四十メートルです』
「え?何故ゆえに?」
『石を落として音が聞こえるまでの長さで大凡の深さを測定したのですが…?まさか…!?何か問題が!?』
「いやいや、何も問題ないぞ。寧ろ凄いわ」
そう言うと、先程のネズミが前足を使って照れていたので直接褒めておく。
いやぁ、にしてもこれは控えめに言っても凄い。
最近知恵が付いてきてるなとは思ってはいたがここまでとは。
え…?音の聞こえる速度が340m/sやろ。
で…えーとまぁあれか、適当に掛けたり割ったり……うん。
「えー、そう言う訳で地下洞窟探索隊に志願する人ー?」
思考がオーバーフローしたことにより、色々と考えていた事を白紙に戻し目先の事を優先する。
『何がそういう訳なのか分かりませんが、現場監督として是非お供します!』
辛辣な意見と共に頼もしい返事を返してくれるオルガ。
『ニアもニアも!』
『行く』『く』
俺と同じく物見遊山気分であろうニアとアダムとイヴも参加の意思表明。
『私は夕食の準備がありますので。非常に心配なのですが…』
エレノアは不参加と。
他の皆は殆どが参加という事で結局ほぼ全員で行く事に決まった。
流石に準備が必要だと思い皆に各自休憩を伝え、準備を進める。
とりあえず、武装は必要だと思うので愛銃と予備の弾倉を気持ち多めに持っておく。
それに探索用の照明器具。これは俺だけで無く持てるメンバーには全員渡す。
スケルトン達は俺と同じ懐中電灯。
ニア達ネズミ達も懐中電灯を欲しがって居たので手のひらサイズの物を購入。
受け取り使い方を教えればすぐに点灯させ、尻尾を使い器用にも周辺の壁や隣のネズミを照らしてはしゃいでいた。
他には下に降下する為に必要な物や方法を『search』を使って調べロープやカラビナ等を購入する。
その最中ふと、『ダンジョンマップ』や『ダンジョン君』のアプリの存在を思い出し穴の下はどうなっているのか確認しようとしてみたが、何故か今居るドーム状の空間までしか表示されておらず失敗に終わった。
自分の目で確認するしか方法が無いのかも知れない。
そして現在俺が居るのはロープの中腹。地面から大凡二十メートル程の位置と思われる。
『ナナシ〜?何してるの?早く降りてよ〜!早く冒険したい!』
「いやいや、ちと待たれよ。暫し待たれよ」
『なんで〜?』
つい先程皆の前で調子に乗って音頭を取ったは良いが、下が真っ暗闇で尚且つ初めて行うロープによるラペリング。
洞窟内は風でも吹いてるのか謎の音がするし。
兎に角ここに来て不安と恐怖が。
『早く早くっ』
そして、頭上にて俺を急かすニア。
どうしたものかと思案し名案を捻り出す。
腰のポーチの中から一応買っておいた、名前は知らないがパキッと折ったら光るアレを取り出し袋の中の三本を全てへし折り下に放る。
「うむ」
緑色の蛍光色が乾いた衝突音と共に地面を転がり周囲を狭いながらも照らし出す。
目を凝らし取り敢えずは何も無さそうな事を確認し、ゆっくり降下する。
地面に足が着くと、安心すると同時に不安も湧き上がり急いで懐中電灯で辺りを照らし出す。
ニアも頭の上で周りに懐中電灯を向けてくれている。
周囲の整っていない岩肌と歪なドーム状の空間である事が判明し、自然物的な雰囲気を感じ取ると同時に周囲には岩ぐらいで生命体は見当たらない様に見えた。
この場所は安全そうだと判断し、上で待機している他の皆に降りてくる様に伝える。
そしてすぐにロープの擦過音と共に降下してくる面々。
尻尾で懐中電灯を器用に使うネズミ達がスケルトンの頭蓋骨内に入り共に降下してくる。
頭蓋骨内部から光が溢れるその光景はまさに自爆寸前と言った感じ。
その後も同じ様な状態のスケルトン達が続々と降り、アダムとイヴもスケルトンの頭上に帽子の如く乗っかり登場する。
てかスケルトン達が凄い速度で降下して来た訳だが、怖いもの無しかよ。
そして、探索の為の班を決める。
四人のスケルトンと俺を班長に残りの面々を適当に割り振って終了である。
ニアとオルガ以外のネズミ達とはパスが繋がっていないので何かあった時の連絡が取れないからだ。
「じゃあ、皆揃った訳だし探索を開始するぞ。一応危険があるかもしれないからしっかりと班ごとに行動し、はぐれない様に。班長は何かあったらすぐに全員へと連絡を。以上」
『『はーい』』「「チュー」」
てな訳で第一次洞窟遠征が幕を開けた。
いやはや、皆様お読み下さり感謝です
評価やブクマ非常に嬉しい限りです
更新速度はナメクジですがお許しを




