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ネズミとダンジョンマスター  作者: ヨコチ=チウム
第一章
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#二十五匹目 『マージ帰還計画 弐』


「よし、これでおっけい!」


「ななしさんっ…!何から何まで本当にありがとうございました!」


深々と頭を下げるマージに気恥しいので頭を上げてもらう。

そして、エレノアを交え今からやる事の説明をする。


「まずマージには今日頑張ってオーフェリアへと帰ってもらう。妊娠中の奥さんも居るんだし早いに越したことは無いだろうからな」


「はい!」


昨日既に話していた事もあり帰る事に納得しているのかマージが元気な返事を返す。


「で、だな。本当はマージを護衛して森を抜けてやりたいんだが訳あって俺は行く事が出来ない」


「え…?」


それを聞いたマージは先程までの元気は何処へやら、驚愕と困惑に染まった顔でこちらを見ている。


「すまないな、これだけはどうしようもないんだ」


「い、いえそういう事なら良いんです。こんな森にいるくらいなんですし、ナナシさんにも事情という物があるんでしょうし!」


すんなり納得してくれた事に安堵しつつ説明を続ける。


「まずマージが森を抜ける際に問題となるのは足だ。これに関しては昨日自転車に乗れる様になってもらった事で解決している。次に問題となるのが森を抜けて街まで帰るまでの食糧。これに関しても俺の方で日持ちの良いものを用意しておいたので問題ない。そして、最後に最も面倒な問題なのが魔物達の存在だ。これに関しても俺の方で考えがある。という事で今からその準備を始める」


「本当に何から何まで…」


またしても深々と頭を下げ始めたマージの背筋を無理やり伸ばしエレノアに持ってもらっていた物を見せる。


「まず、これが消臭スプレーといって匂いを消してくれる物だ。数ある内で最も強力と思われる物を用意した。これで恐らく魔物の嗅覚を誤魔化せる。そして次にギリースーツ。草木に擬態する為の物なんだが奴らの視覚を多少は誤魔化せると思う」


「しょーしゅースプレーにギリースーツ…一体ナナシさんは何者なのか…」


マージの半ば諦めに聞こえる呟きを無視して続ける。


「最後に元凶ともいえる魔物に関しては今から全力で数を減らす」


以上!っと締め括るとエレノアに合図をして準備をしてもらう。

昨日の夜の内に準備しておいたバーベキューセットを庭に運んできてもらい、俺とマージも机を運んだりとバーベキューの準備を始める。


マージは俺の説明が終わってからバーベキューの準備が完了するまで終始疑問符を浮かべていたが、匂いで誘き寄せてぶち殺すと説明すれば困惑しながらも納得してくれた。


勿論バーベキューと言えば炭火に決まっており、少々苦戦しつつも炭に火を付けバーベキューを開始する。


お肉に関してはこの後入るであろう豚さんの収入を前提に良い肉を購入した。なので半分程火が通り油が滴り落ちる様子や肉の焼ける芳ばしい香りを嗅いでいると生焼けでも食べたいと思ってしまう。


その欲望に打ち勝ち、焼き上がった肉をタレに絡め口に放り込むとあまりの美味さに昇天しかける。

朝から肉はちょっと重いかと思ったが中々いける。


エレノアやマージと共に肉の味を絶賛し、マージはタレが素晴らしいと語りエレノアは俺に野菜も食べてくださいと勧めて来た。


この美味しさを俺達だけで独占するのはニア達に申し訳ないと思い後程バーベキュー第二回戦を開催する事を胸に肉を頬張る。

野菜は勿論エレノアがよそ見した隙にマージの皿に移しました。


第三ウェーブ目の肉を焼き始めようかという所で遂に本来の目的が現れた。


肉の焼ける芳ばしい匂いに釣られてやって来たオークさん達だ。周りを見れば以前遭遇したバドニックも見える。


「さて、俺は食後の運動をしてきますかな。マージはこれから街まで帰るという重労働が待ってるんだ肉食って充分に栄養を蓄えとけ。エレノアはヤバくなったら呼ぶから肉食べといていいぞ」


「ありがとうございますナナシさん!」


『ナナシさんお気を付けて』


「あいよ〜」


マージに耳栓を渡し席を立つ。

腹を擦りながら立て掛けてある愛銃を手に取り、一番近くにいるオークの元へ向かう。


安全装置を外し各種点検を済ませオークを見れば、手に持つ粗末な棍棒を結界に向かって叩き付けようと振りかぶって居たので即座に狙いを定め発砲する。

少々急いで撃ったので頭を狙ったつもりが少しズレ鎖骨辺りに命中した。それでも痛みに怯んだ事で結界への攻撃は中断されたので問題なし。


そのままそのオークは次の弾で頭を撃ち抜き仕留め、そのすぐ近くに居たバトニックの小規模な群れも軽くフルオートも使い全滅させる。


後ろを見ればマージが肉を食べる手を止め拍手喝采で何かを言っているがイヤーマフのせいで何も聞こえない。

相手をしようにも後続のオークさんが見えるので諦めて殺戮へと戻る。


初めは匂いだけだったが途中から銃声にも反応した魔物達が続々と押し寄せて来た。

まさに千客万来とはこの事で途中からはエレノアも呼びスタングレネードで援護やマガジンに弾を込めてもらいつつ魔物達の猛攻を防ぎ切る。


途中ペナルティの時間の関係で室内に急いで戻ったり途中弾が足りなくなり急遽購入したり、繋ぎとして仕方なく以前買ったきり使って無かったダムダム弾を使えば傷口の大きさダメージの大きさに驚愕したりと忙しい時間を過ごした。


「ぐへぇ…肩が痛い…」


多少であれば異世界に来てから変質してしまった謎の体質のお陰で感じる事の無い疲れと痛み。

然し殆ど休み無く魔物を撃ち続けると為ればそれはまた別である。


流石に肩への負担が大きかったらしく右肩がじんじんと痛む。


一先ず第一ウェーブ的な物は乗り切ったのか、今の所は魔物の姿は見えない。

結界の外には魔物の死体が大量に折り重なって居るのだが、消費した弾薬に比べるとやや数が劣る。

というのもバドニックが悪い。


あいつら、地味に知恵が有るのか仲間が何匹か殺られてから銃口から避けたりオークの死体や樹木を遮蔽物に使いよる。

そのせいで無駄な弾薬と肩の耐久度を消費してしまった。


まぁ、反省は次に活かすとして今のうちである。


「マージ、行けるか?」


「ふぁいっ!!」


イヤーマフを外し振り返り、肩を解しながら後ろを見れば荷台にダンボールを括りつけた自転車に跨るギリースーツ姿のマージが口一杯に肉を頬張っていた。


そして、その周りでマージへと消臭スプレーを振り掛けまくっているエレノア。


恐らく、この何とも間抜けで意味不明な光景を目の当たりにしたのは俺くらいだと思う。


「うん、口の中身は空にしてから行こうね」


「ふぁいっ!!」


流石に焼肉の後の口臭が心配だったのでブレスケアも行い、漸く出発の準備を終える。


「マージ、短い間だったけど知識不足な俺に色々と教えてくれてありがとな。情報不足な俺にとっては本当に助かった。これから奥さんの出産やら仕事やら大変だと思うけど頑張れ。凄い応援してるから。まぁ直近として国に帰るまでが大仕事だけどな」


「そんな、こちらこそ本当に助かりました。ナナシさんは本当に命の恩人なんですから。数日前に全財産失って死にかけて、本当に人生諦めかけてましたけど今は一文無しからでも成り上がってやるっ!!てやる気で満ち溢れてますよ!」


そう言って拳を握り笑顔を見せるマージは本当に眩しい。

彼みたいな人格者が日本の政治家であれば間違いなく応援していると思う。

それくらい今の彼は眩しい。


あ、普通に逆光なだけだコレ。


「エレノアさんも、本当にありがとうございました!」


エレノアの白い手をモジャ緑な手で握り礼を述べるマージ。


『はい、これから頑張って下さいね』


エレノアの言葉はマージには聞こえないので俺から伝えておく。


「さぁ、マージ。そろそろ帰る時間だぞ」


「そうですね、とても名残惜しいです」


うん、目線的に肉が名残惜しいんですね。


「恐らく、すぐには無理です。だけどいつか大成して、また皆さんに恩返しに、遊びに来ます!!それでは!!」


「おー期待してるぞ!」「カタカタ」


そう言ってマージは力強くペダルを踏み、振り返る事無くオーフェリア王国へと向け鬱蒼とした森を進んで行った。


まだ走りにぎこちなさが残る後ろ姿が見えなくなるまで手を振る。


そして、手を下ろした所でふと呟く。


「あれ?さっきマージ『皆さん』って…」


『肉…うま…うまっ…』


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