#二十二匹目 気ぜちゅ
「ぬふ〜ん ぬふふん ふ〜ん」
太陽が落ち窓から見える森が昼間とは違いおどろおどろしい雰囲気を醸し出しているのを鼻歌交じりに眺めながらノートに様々な事を書き込んでいく。
魔石の事や日常の事。地下の掘削でニッケル鉱床が終わり普通の岩肌に戻った事。
ニッケルを採掘する人員を割くべきか否かと考えを巡らせ、取り敢えずニッケルはもう十分あるし掘り進めるかと結論を出し明日の朝伝えようと考えノートを閉じる。
暇になったしニア達と遊ぼうと思い何をしようか考えを巡らす。
確か、この前水鉄砲で遊んで床を水浸しにした時はエレノアに怒られたっけか。
ならば、今日はラジコンで遊ぶかね。
というのも、ニア達が最近ロデオと言って気に入っている遊びで俺やスケルトン達の操縦するラジコンカーに乗り振り落とされない様にと踏ん張る謎の遊びである。
ちなみにオルガは今まで振り落とされた事が無く、子供達から無敗のロデオキングと呼ばれ本人も満更ではない様子。
『これはっ!?』
「ちゅー!」「ちゅー!」
「うぉぉぉお!落ちろよぉぉぉぉ!」
ネズミ達の熱い声援に応えようと必死なオルガと、何としても落としたい俺の必死の攻防。
卓越した俺の運テクにより繰り出されるドリフトの数々、勝負もいよいよ大詰め。
戦いも終盤、盛り上りがピークに達していた所に水を差すかの如くノック音が響く。
その音にいきり立っていたモーター音もネズミ達の声援もピタリと止む。
そう、それもその筈このノック音は異常なのだ。
今現在誰も外には出ていない。なのにログハウスの入口を叩く者がいる。
「皆…隠れるんだ」
小声で指示すれば皆素直に聞き入れ行動する、
ネズミ達は屋根裏に、スケルトン達は収納やトイレバスルームに隠れエレノアはキッチンで包丁とフライパンを両手に潜む。
その姿はさながら死した聖騎士。
アホな事を考えてしまったが、とにかく集中する。
外は結界の燈で囲ってあり、一週間ほど前にオークが結界内の俺を見つけて襲って来たが棍棒の一撃を受けても結界は無事だった。それにしっかりと機能していた。
その事を考えると結界が切れたのか?とも考えれるが窓の外を見やれば結界の青白い光が見えそうでは無いと悟る。
ふむ。
取り敢えず壁にかけてある銃を手に取り、慎重にセーフティを外す。
「誰だ?」
害意や敵意の無い相手、野生動物の可能性もあるがモンスターの可能性も捨てきれない。
俺の言葉に返答はなく風か動物の類いだろうと判断する。
とにかく確認しなければ話は進まないので、ドアへとゆっくり近付くとノブを捻る。
まずいと思ったらすぐに撃てる様に聞き手には銃を構えてゆっくりと。
「いない……?」
ドアの外を見渡し周辺に何も居ないことを確認して首を捻っていると足元から呻き声が聴こえる。
咄嗟に後ろに飛び距離を取りソレに向かって銃を構える。
っふぅ…ビックリした。
入口の地面に転がる薄汚いそれを見て思わず言葉が漏れた。
「人間…?」
時計の針が頂上を指す時間。
地面に転がりピクリとも動かない人間を室内に運び入れた俺達はとにかく彼を助けるべく動いた。
外傷は無く息もしている。
エレノアの見立てでは極度の披露で気絶しているとの事だったので、毛布を敷いた地面に楽な体勢で寝かせ口に水を流し込む。
医者でも何でもないので出来る事は少ない。とにかく彼の回復を祈るばかりだ。
男は一向に目覚めず、これは長期戦になりそうだと予感した俺は今日の所は寝る事にする。
ネズミ達には念の為屋根裏にて大人しくする様に伝え、エレノア達に男の看病を任せ眠りにつく。
翌日の早朝、男の大きな悲鳴によって目が覚める。
まだ眠い目を擦り起きれば男が部屋の隅に蹲り、その横でエレノアが困った様に立っていた。
その光景を見ておおよその状況を理解した俺はベッドから出る。
「おはようございます」
「え?えと、おはようございます?」
まずは挨拶と思い声をかければ困惑した声と共に男が顔を上げる。
「あなたは……?」
「神です」
「えっ…えっ?」
余計に男は困惑し口をぽかんと開けてこっちを見ている。
『余計に混乱させてどうするんですかっ』
「冗談ですやん」
エレノアに注意された事もあり、真面目に説明をした。
昨日ノック音がして外に出ればボロ雑巾の様に打ち捨てられていたので介抱しましたと。
その結果、このマージと名乗る茶髪の青年が床の上で深々と頭を下げる現在に至る。俗に言う土下座だ。まさかリアルで土下座を見る日が来るとは。
しかし、気絶していた所を介抱したくらいで最終謝罪兵器『土下座』を放たれてしまってはこっちとしても申し訳ない。
とにかく顔を上げて貰い口を開く。
「まぁ、今はマージも色々と聞きたい事があると思う。でもまずはシャワーに行くんだ。話はそれからだ」
「シャワー?ですか……?」
暗に汚れているぞ。そして汗臭いぞと伝えたつもりだったのだが、このマージという男シャワーとはなんぞ?といった感じの表情である。
自分が汚い自覚が無いのか、はたまたぶっ倒れて都合良くシャワーに関する記憶だけを失ったとでも言うのだろうか。
「まさかシャワー知らない?」
「はい、申し訳ながら……」
そう言って彼は本当に申し訳ないといった表情をする。
からかい半分に質問したつもりだったのだが、彼の表情を見る限りマジな様子。
マジか。この一言に限る。
「取り敢えず全部置いておいてフォロミー!」
もう面倒臭くなったので彼を連れて風呂場に向かう。
風呂に行く際エレノアに朝食を頼んでおくことは忘れない。
風呂場に着き早速マージの着ていた見慣れないデザインの服を脱がせる。しま〇らかな?とにかく汚れが凄いし臭いので触るのも嫌だったが我慢して洗濯機にダンクシュート。
「ちょっ!?急に何をっ!?」
マージは驚愕半分羞恥半分といった具合に叫ぶがお構い無しにズボンもスリーポイントシュート。
「まっ、まさかっ!?」
股間を手で抑えたマージが何を想像したのか表情を青ざめさせる。今頃彼の肛門括約筋が頑張っているのだろうが、想像しただけで俺まで気持ち悪くなって来るのでやめて欲しい。
「ウォッシュウォッシュウォッシュ!」
風呂場にボディアタックで無理矢理押し込み未だ理解の追いついていないマージにシャワーを浴びせる。
ちゃんとお湯になってから浴びせるという俺の優しさ。
「おぉう…これはなんとも……」
不快だった全身の汗がシャワーによって浄化されていく気持ち良さに恍惚の表情を浮かべるマージ。
シャワーを見て「これは一体?」と聞いてくるマージを無視して濡れた頭髪にシャンプーをかけ泡立てる。
泡が目に入ったのか力強く目を瞑り「これは一体ぃぃぃっ!?」と聞いてくるマージを無視して泡を洗い流す。
事ある毎に「これは?」「一体?」「あなたは?」と聞いてくるが面倒いし後で纏めて話そうと決めマージの風呂を手伝う。
因みに体を洗う際だが背中以外は自分でやってもらった。
もし、マージが女性だったなら御褒美だったのになと心の中で溜め息を吐かざるを得ない。
取り敢えず洗い終わったマージにはタオルと俺の着替えのトランクスを渡し、風呂場から追い出すと今度は俺の朝風呂タイム。
手早く済ませ風呂を出れば首にタオルを掛けたトランクス姿のマージが部屋内を物珍しそうにキョロキョロと見渡していた。
風呂場から出て来た俺に何かを言おうとしたマージであったが、先程俺に質問を無視されまくった事を思い出したのか口篭る。
俺はそれを見て"うむ"と頷くと素早くトランクス姿になりリビングへ向かう。
リビングへ行けば既に朝食の準備は終わっており、エレノアが気を利かせてくれたらしくテーブルには二人分の食事と椅子が用意されており美味しそうな朝食が白い湯気を立ち上らせていた。
後ろでゴクリと生唾を飲む音が聴こえてくる。
待たせるのも料理を冷ましてしまうのも悪いと思いさっさと席に着きマージにも促す。
一先ず落ち着いた様だし、これでゆっくり話が出来るな。
のんびり飯でも食いながら話を聞くことにしますかね。
そう思い口を開く。
「まずは初めまして。俺の名前はナナシという」




