#二十一匹目 探ちゅう心
『みんなー?行くよー?』
「ちゅー!」「ちゅー!」「ちゅちゅー!」
そんな掛け声と共にネズミ達は駆け出す。
そして、彼等は空を舞う。
「ぐぉっ…ごっ…ぐふっ…げっ…ごふっ」
そして室内に響く苦悶の声。
ログハウスの室内。まだ朝日が登りきらず陽光が差し込むものの薄暗い室内にてネズミ達は屋根裏からの飛び込みを楽しんでいた。
勿論着地地点はベッドで気持ち良さそうに眠るナナシである。
「べぶっ」
『次は股間にしようか』
顔面に見事着地したニアはそんな恐ろしい事を事も無げに言う。
それが耳に入ったからかは分からないが部屋の主が目を覚まし、その日が始まった。
「ふぃ〜良く寝た」
その言葉と共に俺は伸びをして身体をほぐす。
顔が痛むのは恐らくニア達のせいで間違いないだろう。
最近はエレノアの代わりにニア達が俺を起こしてくれている。
それは良いのだが、起こし方が屋根裏から俺に飛び込んで叩き起すという何とも豪快かつ暴力的なのだ。
本人達は間違いなく飛び込みを楽しんでおり、俺を起こすのは物のついでになっているに違いない。
エレノアも起きるのなら問題ないと黙認である。まぁ良いけど。
「ん~〜」
全身をほぐし終わった後、朝風呂に入り汗を流す。
『あばばばばばばば』
一緒に付いてきていたネズミ達に朝のお返しとばかりに強めのシャワーを掛ける。
風呂を出れば、鼻腔を刺激する珈琲の香り。
「おはようエレノア」
『おはようございますナナシさん』
リビングの椅子に座りテーブルに並べられた朝食を見る。
軽く焼き直されたバターロールにベーコンエッグ。
シンプルだがとても美味そうだ。
そう、この二週間で変わったことは沢山有るのだがその一つがこれ。食事を摂る様になった事である。
別に食べなくても大丈夫な身体ではあるが、エレノアに人間らしく食事を食べるべきだと何度も言われたからだ。
それに、他人とで食卓を囲むのも久しぶりで俺自身なんだか嬉しい。
「今日もありがとう母さん」
『産んだ覚えはありません』
スケルトンと俺合わせて六人とネズミ達とアダムとイヴが全員で一つのテーブルを囲むのは無理があるので食事の時だけ折りたたみ式のテーブルを出して場所を作っている。
うーむ。やはりデリシャス。食事は毎日エレノアが作ってくれているのだが流石女性というべきか料理は普通に上手である。
ちなみにエレノア達も俺と同じ物を食べており、今はもう見慣れたが口に入った瞬間粒子の様になって消えている。詳しくは分からないがエネルギーに変換されているのだとか。
「うーん…この苦味」
『ナナシさんのはいつもココアじゃないっすか〜!』
『あまっあまっうまっ』
隣の席のスケルトン君が何か言っているが何の事か良く分からない。そしてニア君。俺の珈琲を盗むな。
『それよりナナシさん服を着てください』
「それ言ったらエレノアなんて全裸じゃん」
『夕飯はピーマンのパプリカ詰めですね』
「嘘です冗談です」
朝から賑やかで楽しい食事の時間を過ごし、それぞれ仕事に向かう。
俺は特にスケジュールは決めていない為、毎日その日の気分で仕事を決めている。
そんな訳で今日の仕事はハンティング。森に入って近場のオークを射殺する簡単なお仕事だ。
近場のオークを狩り尽くしておけばその分安全になるしNPにもなる一石二豚とはまさにこの事。
最近何度もオークは倒しており、今では慣れたこともあり比較的簡単にオークを倒す事が出来ている。ちなみに合計討伐数は八体だ。
と言っても銃が強いだけで俺本体は雑魚も同然。
それにログハウスから出られるのは三時間だけという制限もある為あまり自分を過信するわけにもいかない。
なので今日も安全第一で行きまっしょい。
いつも通り家を出てその日の気分で適当に森を進む。進む方向は一直線だが一応迷わない様に一定間隔で木に印を付けている。
道すがら見つけた木の実やキノコなどは片っ端から採取してリュックへと突っ込んでいく。
でも、前にネズミ達から聞いた通りモンスターの仕業なのか何者かに食い荒らされている場合が多い。多分豚の仕業だろうけど。
あと今見つけた果実も食いかけの果実だ。
これは売れそうにない。ゴミだな。
食いかけの果実を茂みに向かって投げ捨てる。
ジャイロボールッ!ふっ…百六十は出たな。
下らないことを考えつつその場を立ち去る俺の耳に「ぎゃんっ」という鳴き声か聴こえてくる。
凄く嫌な予感が俺を襲う。静かにその場に立ち止まると声のした茂みの方向に向き直る。
茂みからのっそりと出てきたのは初めて見る姿の大型犬。
ペットショップなんかで見る大きいながらも愛嬌のある犬と違ってこいつには欠片も愛嬌が存在しない。
血走りギラついた眼球に顔に不釣り合いな大きさの口。口の端から見えている牙はとても立派で、地面に滴り落ちた唾液が『じゅぅっ』と音を立てている。
うん。これはあれだ。間違いなくヤバい奴だ。
噛まれたら狂犬病所の話では無いであろう事は容易に想像出来る。
「いやぁゴメンねわんちゃん。ちょっと手が滑ってね。許してくれると嬉しいなぁって」
やはりと言うべきか先程投げた食いかけの実が当たっていた様で口に咥えた果実からは真っ赤な果汁が流れ出ていた。
そしてそのまま果実を噛み砕くと良く響く遠吠えを一つ。
「え?そんなに喜んでくれて俺は嬉しいよ。実はサプライズプレゼントだったんだよ〜。なっはっは」
相手が犬だしどうにか説得出来ないかなと試みるも結果虚しく、周囲の茂みが揺れたと思えば続々と彼等のお仲間が現れる。
「一人だけだと不公平だもんね。だから君にもプレゼントフォーユー!」
掛け声と共にピンを抜いたスタングレネードを別の犬へと投げる。犬の本能かは知らないが飛んできたソレを器用にも口でキャッチすると『で?』と言った感じの嘲る様な視線を向けて来る。
「サプラーイズっ!」
それと同時に瞼越しでも感じる圧倒的な光量。それと同時に遅い来る爆音に耳栓越しでも鼓膜が破裂しそうになる。
すぐに目を開け慣らせば周囲に広がる光景が目に入る。
目と耳をやられて恐慌に陥った犬達が誰もいない空間に吠えている滑稽な様子が。
対話によるコミュニケーションは無理そうだし、放っておけば彼等の食卓に俺が並ぶ事になる。
素早く銃を構えると一匹ずつ的確に頭部を狙い倒していく。
パニックで暴れておりなかなか狙いが定まらないが徐々にその数を減らしていき、残り三体といった所で視力が回復したのか嗅覚だけでこちらを認知しているのか取り敢えず鋭利な牙をギラつかせ反撃に出てきた。
動物を愛護している団体に見つかれば大事になるだろうと考えながら上半身を捻り、全身の筋肉を利用したハイキックをご馳走する。何かが砕ける嫌な感触を脚に感じながら戦闘を続ける。
数分後そこには物言わぬ骸となった犬達と、死体の中心で息を整える俺だけが立っていた。
「ふぅ、しんど」
主に心労である。
暫くして落ち着いた後、スマホを取り出して犬の骸をNPに変換していく。ついでに時間を見やれば、比較的時間に余裕がある様なので知識欲を満たすためこの『バドニック』という犬型モンスターの死体を検分する。
手で直接というのは少し怖かったので太めの木の棒を使って口を開けたりと色々と見ていく。
胴体部分の体毛を棒で掻き分け調べているとこの犬の致命傷になったであろう銃創が見つかる。棒でつつき傷口を調べていると体の内部に何やら硬質な物が有ることが判明。銃弾か?と思い棒を起用に使って取り出せばそれは紫色の石だった。
しかし、石というよりは結晶に近い。
濁ってはいるが確かに半透明なその石は光に翳せば陽光を反射する。実に綺麗だ。
どこかで拾い食いしたんだろうか?と思いながら、スマホを使い調べてみる。
『魔石 3250NP』
へぇ?魔石。アメジストかと思ったが聞いたことのない鉱物だな。
ていうか高いなバドニック一体の売値と殆ど変わらない位するのか。
そんな事を考えつつ片手間に体内に石が入っていたバドニックをもう要はないとばかりに売却する。
『バドニックの死体 398NP』
おぅ?さっきまで平均して3000NPは超えていたはずなんだが?
なんだ?このバドニックやけに安いな。
別に損傷も大した事ないしサイズも普通。特に変わった事は…無い筈…なんだが。
そこまで考えてふと思う。まさかこの手に持つ石が?
何となく仕組みが分かってきた所で、その思考を遮る様にそいつは現れた。
最近我が家の家計を支えてくれているオークさんだ。
いつもお世話になっております。
多分銃声やら血の匂いやらに釣られてやって来たのだろう。
いちいち鬱陶しい奴で。
ふむ……この豚にもあの綺麗な石が入っているだろうか?
まだ確証は無いが可能性はありそうだ。
そんな訳でオークさんには知的探究心の生贄になってもらい、現在は地面に力なく倒れ伏している。
うむうむ。上出来。
やはりスタングレネードは強し。
そして、死体にスマホを向け死体の売値を確認した後、石を探す。オークは身体がかなり大きいのでどこに魔石が入っているか探すのは苦労しそうだ。
そういった手前、ハンティングナイフで人間でいうところの心臓がある部分を切り開けばあっさりと見つかり拍子抜けしてしまう。まぁ、手間が省けてよかった。
血で汚れた手や魔石をペットボトルに入れて持ってきた水道水で洗い。鑑定する。
『魔石 56802NP』
うむうむやはりか。予想通りの結果だった事に満足しつつ死体を処理すると足早にその場を立ち去る。
そろそろ三時間が近付いてきた。少し探究心と好奇心から長居しすぎた。
残して来た印を頼りにログハウスに戻ると、エレノアが昼食の準備をしている所であった。
『お疲れ様ですナナシさん。その様子だと今日も一仕事あった様ですね。もうすぐ昼食ですので先にシャワーに行かれて下さい 』
「あぁ、ありがとう」
銃やナイフをネズミ達の手の届かない壁に掛け、採取してきた木の実や魔石を入れているバックを地面に置くと手早く服を脱ぎ散らかしシャワーへ向かう。
後ろで『もうっ』と若干怒気を孕んだ声が下のはきっと幻聴である。
その日の昼食中、今日外で起きた出来事や持ち帰った物を皆に見せて話に花を咲かせる。
魔石のを見たエレノア達はその存在を知っていたらしく、モンスターの体内に存在する核とも言える物らしい。即ち急所。
この核を砕けば大抵のモンスターは死ぬのだとか。でも最も価値があるのがこの魔石。つまりはそういう事。
昼食後は食後の片付けをするエレノアを手伝ったり、銃の手入れをやったりと外には行かず室内で過ごす。
そして、バドニックの魔石よりも澄んでいて綺麗なオークの魔石をランタンの明かりで照らし眺めながら地下へと降っていた。
今すぐにNPが必要な訳でもないし、何より見ていて綺麗なので売るのは勿体無いと思い保管しておくことに決めたのだ。
四角く精錬されたニッケルが山積みにされた倉庫的な場所に着き、仕事に勤しむアダムとイヴに労いの言葉を掛けつつ魔石を保管しておく場所を探す。
手頃な場所が無かったのでニッケルの立方体を積み木の様に使って適当に台座的な物を作りそこに魔石を置き、満足すると壁に掛けてあったツルハシ片手に俺も掘削に向かう。




