表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネズミとダンジョンマスター  作者: ヨコチ=チウム
第一章
22/39

マージという男

今回は視点が変わりますのでご注意を


男は青々と茂る森の中を滝の様に汗を流しながら必死に走っていた。深い緑色の森は自然豊かで美しく見える景色をそのまま額縁に入れて飾ればさぞ映えるだろうと、疲労や絶望などが原因で現実から逃げる様にそんな事を考える。


普段使わない全身の筋肉は既に悲鳴を上げているが、とにかく動かなければ状況は悪化するだけだと知っている男はひたすらに進む。この森に入って一体どれだけの時間が経ったか分からない。太陽の位置で大凡の時間を確かめようと見上げても視界に入るのは緑。ここは森が深い様だ。少し先の緑の薄い部分まで行こうと足を動かそうとした瞬間、身体に伝わる細かな振動を感じ急いで近くの茂みに潜り込む。


徐々に大きくなる振動と共に自分の脈動も大きくなっているのが分かる。

汗ばみ泥まみれな両手を口元に運び、物音を立てまいと彫刻の様に固まる。そして、心の中ではどうか見つかりません様に。と、今まで信じた事も無かった神へと祈る。


恐怖のあまり、目を落として地面を凝視していたが振動が止まった為思わず横を覗き見てしまった。

その目に映るのは硬質で緑色の肌をした足。

その足のサイズを見れば、その全容が自分よりも一回りも二回りもある事が容易に想像出来る。

口の端から悲鳴が漏れそうになるが、自分の手を噛み押し殺す。


大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫っ……!!


心の中で何度も反芻しながら祈る。

モンスターは感覚の鋭敏な者が多く、例に漏れず今自分の横にいるオークも嗅覚がとても鋭い。

男もそれは分かっていた為、匂いを誤魔化すため森に自生していた匂いの強い花を全身に擦り付けていた。だから大丈夫だと心の中では何度も言い聞かせるが今現在、全身に汗をかき更には匂いを擦り付けてから大分時間も経っている。

あの花は森の浅域に群生していた花、どうせなら花束にして抱えておくべきだったと今更後悔する。


にしても、後悔……後悔か…


こんな瞬間だからこそかは分からないが、急に頭が冷えここ直近の出来事を思い出す。







男の名前はマージと言い、大陸の中心よりやや北西に位置する小さな国に生まれ育った。

国の名前はオーフェリア王国。その国は小国でありながらも活気溢れる良い国であった。

オーフェリア王国は商業により栄える国であり、商人にとってそこで商業をする事は憧れとも言える国である。

というのも、オーフェリア王国の南と東と北にオーフェリア王国と比べるのもおこがましい程の大国がありその三大国のほぼ中心に存在するのがこの国だったという訳だ。

商業の中心になっているこの国は栄えて良いばかりではないかと思うかもしれないが、この三国悲しい事に非常に仲が悪く頻繁に戦争をしている。その三カ国の板挟みにあっているこの国の心労は計り知れない。国王の年々薄くなる頭髪を見れば明らかであろう。なんせ、戦争の度に兵は国に駐屯し横暴を働き。戦争の余波で国の近郊の土地は良くて焼け野原悪くて天変地異の後の様な有様。

三カ国からは自国の属国になれと要求され、どの国に帰属したとしても他の国から反感を買う。

その為、返事を濁し続け三カ国に貢物を送り続け機嫌を取り続けている国であり、可哀想な小国なのである。


と、まぁそんな小国に産まれたマージも幼き頃に死んだ両親と同じ商人としての道を選び日々を過ごしていた。

マージは俗に言う天才とまでは行かなくともそれなりに商人としての腕は立ち、二十三歳という若さにして自分の店を持つ事を成し遂げていた。

しかも既に嫁までおり、数ヵ月後には子供まで産まれるという順風満帆ぶり。


幸せばかりで何一つ悩みなど無いだろうと思われたこの男にも一つ悩みが存在した。


それは"金"


一部の上流階級の人々を除き、人間誰しもが一度は悩むであろう問題である。

そう、マージは商人としてそれなりに大成していたにも関わらず金に困っていた。

理由は簡単で色々と急ぎ焦り過ぎた事。


マージは家族三人で暮らすための家の資金、店の維持費に養育費税金生活費。そして、愛する嫁の夢を叶える為の資金。

少々無計画過ぎた事もあり、とにかく様々な要因が重なり彼には多くの金が必要であった。


そんな彼はある日、南の大国にて銀の需要がかなり高まっているとの情報を掴むと素早く行動した。

店の事を部下に任せ、市場からありったけの銀を買い漁り護衛等の準備を済ませオーフェリアを出立した。

銀の買い付けに予算を割り振り過ぎたのが原因で少々護衛に心配が残るが大丈夫。

今から南の大国まで行き銀を高値で売り払い、その金を資金に南の大国特産のガラス細工を買ってオーフェリアに戻ればかなりの金になるはず。

期間も嫁の出産にはギリギリ間に合う計算。全ては問題ない。

しかし、妊娠期間中側に居てやれない事への不甲斐無さで胸が痛む。

だからこそ、オーフェリアに帰って家族三人で笑い合う光景を思い浮かべ道を急いだ。



道中は問題といった問題も起きず、順調の一言に尽きた。

順調過ぎると逆に何か起こりそうで不安である。

と、嫌な想像をしていると風を切る音と共に短い悲鳴が聞こえてきた。


「え?」


「敵襲っ!!」


マージが間抜け面を晒している間にも周りの世界は進み、そして進む方向は彼にとって最悪とも言える方向であった。


ふと左を見れば矢に射抜かれた護衛が倒れており、右を見れば地面に倒れる幾人かの人影と戦っている護衛の姿。

我々は今、行商人にとっての天敵である盗賊に襲われている。


今回雇った護衛は五人。それに対して盗賊はざっと数えただけでも二十は超えている。

一人一人の技量は護衛達の方が上だがやはり数は力。

最初の奇襲で護衛が一人減っている事もあり、一人また一人と護衛が倒れる。


道中会話を通して良好な関係を築いていた護衛達が次々に倒れていくのを何も出来ないマージは眺めつつ心の中で呪詛を吐く。

人の道を外れた外道共に、世界に、そして何も出来ない自分に。


「ったく、手こずらせやがって」


盗賊の男は当初に比べて減った自分達の仲間を見渡しながら、護衛に突き立てた剣を引き抜く。


「うぉっ!こいつぁ大当たりですよ頭!銀がたんまりと積んでありやすぜ!」


「へはっ!そりゃあ良い!今夜は祝杯だなぁ!」


盗賊達のヘイトを買って殺されまいと置物の様に縮こまっていた事が幸いしたのか、商人だからと油断しているのか、とにかく盗賊達が荷台に積んである銀に夢中になっていた隙にマージは逃げ出した。

このままここに居ては間違いなく殺される。

盗賊というのはそういう奴らだ。言葉なんて通じない。


とにかく今は死にたく無いという思いを胸にひた走る。


「おいっ!商人の野郎が逃げやがったぞ!」


「追いかけろっ!!」


逃げ出してすぐに見つかったマージは、痛む脇腹を抑え走り続け街道の西側に広がる森へと逃げ込む。

森に入り後ろを見やれば追ってきていた数人の盗賊達が森を前に足踏みしていた。


それもその筈、この森は危険な事で有名だ好んで入りたいとは思うまい。かく言うマージもその一人だ。

素手で盗賊数人と戦って勝てる可能性とモンスター溢れる危険な森に逃げるという二つを天秤に掛けて生き残れる確率の高い方に賭けたに過ぎない。




まぁ、もっともどちらも確率は零に等しい訳だが。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ