#二十匹目 引越し
取り敢えず天寿を全うしたのか、機能を停止したエレノアをそっとしておきニア達の様子を軽く見て問題なさそうなことを確認してログハウスを出る。
「すぐ戻る」と一応伝えているしそのつもりなので何も起きないと信じたい。
玄関を外に出てすぐにアラームが鳴ったことを確認して「やはり」と考えがあっていたことを悟る。
違ったらそれはそれでやばかったのだが賭けに勝てた様で何よりである。
それはそうと、何の事かと言うと俺のダンジョン外へ出た際のペナルティとあのログハウスの事だ。
穴から出たら結界内部であれ、物理的に囲まれていない為ダンジョンの外判定となる。
そして、俺が外で暮らす為に外に家を作った場合ペナルティが存在する為ログハウスで生活出来るのは最長で三時間となってしまう。もしも暖かな陽光に当てられて微睡み三時間以上昼寝なんてしてしまえば身体の一部とおさらばである。
いちいち三時間毎に穴、つまりはダンジョンへと戻る生活なんて送りたくない訳でその問題を解決出来るかが今回の賭けであったのだ。
まぁ、説明すればとても簡単である。
まず俺の選んだこのログハウスは玄関から見て左側に収納があり、その一つに地下収納があるのだ。と言っても地下室等といった大きなスペースがある訳ではなく、漬け物とか梅干しとか?まぁ仕舞う物は人それぞれだが、つまりはそういった大して大きく無い物を仕舞うための収納がある。
で、その部分とダンジョンの入口の穴が被る様に家を建てた。
と、言うわけである。簡単に言えば収納の入口がダンジョンと繋がっている訳で、ログハウス内はダンジョン判定になりペナルティはこうして玄関から出るまで一切発動しないというわけだ。
やったぜ。
まぁ、そっちの確認は終わったし次はこっちだな。
玄関を出てそのまま俺は結界内部に茂る水色茄子の木の前に行く。何やかんやあって後回しにしていた茄子の鑑定をやろうと思う。
持ってきたこの前の茄子があるだろうって?彼なら今頃ニア達のお腹の中で宜しくやってるよ。
取り敢えず低い位置にあった手頃な茄子をもぎ、さっさとカメラで鑑定する。
『ナッチョニェの実 12NP』
うーむ、色々と思う所はある訳だがまず名前。
言い難いわ、小文字使い過ぎなんだよ。今時の女子高生ですか?なに可愛子ぶってんだよ茄子の分際で。
そして無駄に売値が高いのがムカつく。
取り敢えず何となく腹いせに売却。
まぁ、地味に収入になる事が分かっただけでも今は良しとしよう。
ついでに『search』にてナッチョニェの実について調べれば多少の情報が得られた。
このナッチョニェの実は温暖な地域でしか育たず、それに加え比較的に魔素の肥沃な土地にしか育たないのだとか。
魔素というのはよく分からないが、名前的に多分ファンタジックな成分だと思われる。
そして、話は少し戻るが温暖で魔素の肥沃な土地等という少々限定的な場所でしか育たないという事もあり少々希少な果実なのだとか。
ちなみに味は土地の魔素の濃度によって旨みが変わるらしい。
濃いければ味も良くなるのだとか。
ニアが『まぁ、ぼちぼち』と評していたので、つまりはそういう事である。
このナッチョ…茄子も旨みが増せば高く売れるかな?等と考えを巡らせつつログハウスへと戻る。
「よーし、てことで適当に並べ〜」
戻ってオルガから粗方家を選び終わったと聞きそう声を上げる。
もう住む家を決めたであろうネズミ達が我先にと並び、まだ少し悩んでいるであろうネズミ達は後方に並んでいた。
即決しそうなニアが後方に並んでいた事は少し意外である。
「ちゅっ!」
「おーけーコレね。じゃあ早速購入するぞ」
先頭に並んでいたネズミが両開きにしたカタログの中から指を指し示す物を確認し『Nショップ』を使い購入する。
鈴の音と共にいつの間にかすぐ側の床の上にダンボールが出現していた。
記念すべきネズミーハウス第一号は俺と同じログハウスのドールハウス。外見も俺の購入したログハウスによく似ている。
俺の真似をして来るなんて可愛い奴め。
なんだか、むず痒い気分になったので誤魔化す様に先頭のネズミを撫でる。
「さぁ、君の家を確認して来ると良い」
「ちゅ〜!」
エレノア達がダンボールの開封作業を手伝ってくれているのですぐにドールハウスと御対面できるだろう。
喜び勇んで駆けて行ったネズミを見送り次のネズミへと向き合う。お次はどうやら夫婦らしく二匹のネズミが嬉しそうにカタログの一点を指している。実に愛らしい。
その後も次々とネズミ達の家の購入を済ませていき遂に最後尾のニアの番になった。因みにオルガの家は瓦屋根に床が畳のザ・和風な家だ。まぁ何となくそんな気はしていた。
後ろを見やればフローリングのそこかしこで和洋様々なミニチュアの家が建ち並び、ネズミ達が自分の家や人の家を楽しそうに出入りしている。
「さて、家は決まったか?」
ニアにそう問えば脳内には嬉しそうな声が響く。
『もちろん!』
そう言ってニアが指し示す家を見て苦笑を漏らす。
「まったく、予想通りだよ」
少々、他のネズミ達が選んでいた物よりは高いが今回は目を瞑っておく。
数時間後、ネズミ達がドールハウスで暮らすに当たって必要であろう家財道具等を一通り買い揃え漸く一段落した。
それで、これから行うのはドールハウスの移動だ。
今はフローリングに何の法則性もなく家が乱立されている訳で、足の踏み場もないとは正にこの事。
ネズミ達の居住地を決めないとな訳だが実は既に決めてある。
本当はログハウスの外、庭でも良いかと考えたのだが何かあっては危険なので却下。
そんなわけで、居住地は屋根裏だ。
と言っても屋根裏部屋がある訳ではなく、このログハウスは天井部分が開放感を出す為床が敷き詰められておらず、代わりに網目状に木材が張り巡らされている。その三角形の空間が居住地という訳だ。
そういう事なのでエレノア達にも手伝ってもらい脚立を使って屋根裏へとドールハウスを移設して行く。
そして、一時間後には全ての家が移設し終わり屋根裏ではネズミ達がアダムとイヴを交えてお祭り騒ぎをしていた。
その光景を俺とエレノア達はリビングに備え付けられた椅子に座り微笑ましく眺める。
今回与えたドールハウスがこれから彼らのプライベートな空間と娯楽になる事を祈るばかりだ。
「さて、少し休憩したらもう少しだけ手伝ってくれ皆」
『ええ、お任せ下さい』
ニア達は楽しそうにやっているので、スケルトン達には申し訳ないが残りの作業は俺とスケルトン達で済ませる。
まずはダンジョンへ行くための収納の入口を人一人がすんなり入れる程に拡張し、地下の正方形の空間に置かれていた荷物の内リヤカーやツルハシ等地下で必要な物以外をログハウスに運び込む。
適当に整頓して収納にし舞い込み。今度はスケルトン達と共にもう一度地下に戻る。
いつもの正方形の空間に着くと俺はカタログを手にエレノア達に伝える。
「さぁ、好きな家具を選ぶと良い」
『え?』
エレノアの疑問の声を無視して俺は説明する。
今日からここがエレノア達の部屋。つまり相部屋。
さっきエレノアに聞いたら太陽の光は気持ち良いには良いけど昇天してしまいそうとの事で、どちらかと言うと暗い地下の方が落ち着くのだとか。
なので、今日からここをスケルトン達の部屋とする事を。
だから、椅子でもソファでもベットでも好きな家具を選んでねと。
そういえば、エレノア一人女の子ではあるが骨だし大丈夫と信じてそこら辺の配慮はしていない。
カタカタと喜び感謝を伝えてくるスケルトン達を宥め選び終わるのを待つ。
選び終わった順に購入していき「これからもよろしく」と声を掛けつつ渡していく。
今はこの程度でしか報いる事が出来ないが、いつかスケルトン達にも一人一件を用意出来るくらいにはなりたいものである。
スケルトン達は皆それぞれ違う家具を選びご満悦である。
ある者はレザーチェア。ある者は何故か寝袋。誰とは言わないが天蓋付きのベッド。
自分の家具を手に取り子供の様にはしゃぐスケルトン達を暫く見た後、彼らを残し俺はログハウスへと向かう。
部屋に戻るとさっさと残りの用事を済ませる。
まずは自分用のベッドを用意して、次に掃除機や冷蔵庫電子レンジにその他諸々。最後に電気ガス水道の確認。
蛇口を捻れば問題無く水は出るし、備え付けのキッチンのガスコンロは火が出る。電気もスイッチを押せば点灯した。
全て問題なし。
未だに上で楽しくやっているニアとオルガを呼び、必要な説明をしておく。
部屋を暗くする為の照明を消すスイッチの事、トイレは屋根裏に用意した事、コンセントは危険だとか蛇口を捻ったら水が出るだとか。一度した説明もあったかも知れないが大切な事なので仕方ない。
ニアはさておきオルガはしっかり理解してくれた様なので全員への共有を頼み二人を見送る。
日が沈んで来れば、ネズミ達の夕飯時になったのか屋根裏がまた一段と騒がしくなる。
それを後ろに俺は今日の出来事なんかをノートに書いていく。
NPの残量、ニア達の事、エレノア達の事、今後の事と。
そして、足元に降り注ぐパンくずの事…
今日は疲れたので、早々にベッドに潜り微睡みながら思い出す。今日の屋根裏での光景を。
ニアの購入した無駄にでかい城のドールハウスと、それを中心に様々な色合いやデザインの家々が城下町の様に広がる光景を。
んぼ、んぼんぼ んぼぼ んぼ
訳(後でもう一話更新するかも)




