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ネズミとダンジョンマスター  作者: ヨコチ=チウム
第一章
15/39

#十四匹目 カンパちゅラ


さてと、少し寝坊はしてしまったがいつも通りだ。

だがいつも通りでは無いのは今日からの作業で、地上に向かって掘削していたスケルトン部隊は昨日で役目を果たしている。

なので次なる役目が必要なのだ。


まぁ、それに関しては地下に向かってニア達と一緒に掘ってもらうという事に昨日のうちから決めているので問題ない。

因みに役割の分担や休憩のタイミング等はニアやオルガやエレノア達に自由に決める様に伝えている。決して丸投げでは無い。

なので早朝から全員が集まって意見を出し合って議論している。


それを横目に確認しつつ俺も自分の作業に戻る。

俺は今日から暫くは穴掘りは休み、銃を扱える様にならなくてはならない。

弾を発砲出来る事は大前提として、狙った場所に弾を当てれる様にならなくては意味が無い。


そうと決まれば早速お勉強である。

スマホのアプリである『search』を使い銃の取り扱いに付いて調べていく。



「構え方は…こう?いや、こうか」


数時間ぶつぶつと独り言を呟きながら勉強する。

幸い『search』には詳細な説明や分かり易い画像なんかが添付されており行き詰まるなんて事も無なった。


数時間も勉強すれば構え方なんかもそれなりになっており、弾倉の交換、弾倉への弾薬の込め方等中々に形になって来ていた。


さてと、そろそろ実際に撃ってみるか。

場所は地上行きの通路で良いかな、丁度直線な訳だし。


そう思い嬉々として弾倉に弾を込めていると、こっちに駆けてくるニアが目に入る。


『ナナシ~!なんか出てきた!』


なんか?そう思いニアの方を注視すれば尻尾に何かを括り付けて運んでいる。

丁度、射撃の練習に関しては音が凄そうなのでニア達に知らせに行こうと思っていた所なのでグットタイミングだと思いつつ話を聞く。


『あのね~ちょっと前に変な味の堅い岩が出てきたの。んでこれがそれ』


「なるほど」


なんとも雑で要領の得ない説明ではあったが、取り敢えずは材質の違う岩だったという事が分かったので良しとする。

ニアから問題の石を受け取るとランタンの灯りを近付け観察する。

見た目は所々煌めいており、金属質の塊が石の表面に付着しているのが見える。


「おぉ!」


何かしらの金属鉱石である事が分かり驚きの声が出てしまう。


『ちゅ!?もしかしてお宝!?』


俺の反応から凄い物だと思ったのかニアが食い付いてくる。


「あぁ、これは間違いなく何かしらの金属だ。すぐに調べるからちょっと待ってろ」


俺も何の金属の鉱石なのかが気になるので早速スマホのカメラを使って鑑定する。


『ニッケル鉱石1NP』


「おぉ!!」


『おぉ!?』


いつもは『安山岩 0NP』と表示されるのに今回はなんと、1NPと表示されている!初めて0NP以外の物を見た。


「凄いぞニア!この鉱石はNPに交換出来る!お宝だ!」


『おぉ!やったー!』


ひとしきりニアと喜びあった所で、ニアは先程の石が価値のある物であった事を皆に伝えに行くと言って飛び出して行った。


それを見送ると俺は手元の鉱石を眺める。


「にしてもニッケル鉱石か。精錬が出来ればもう少し価値が出そうなんだがな…」


ぼそぼそと独り言を漏らしつつも、顔のニヤケが止まらない。

ここ最近の懸念事項であったNP収益の問題が解決の兆しを見せたのだから仕方ない事である。


その後すぐにエレノアからの掘削で出た岩の運搬用に何か欲しいという提案を受け、リヤカーを三台程購入した。

ついでに先程ニアに伝え忘れた銃声の件とニッケル鉱石と安山岩を出来る限り分けておいて欲しいと伝えておく。


そう言えば今まではスケルトン達が掘削する際はスマホ一つで岩の残骸処理が出来る俺が一緒だったから問題が無かったが、俺が離れた現在問題として出てきたという訳か。


因みにニア達は最初は岩を掻き出していたが、穴が深くなってきてからは掻き出せなくなって来たので排出される岩は無視して爆速で掘り進んでいくのを以前見た。

なんというか原理としては強靭な爪を使って岩を粉々に砕いているとか。因みに出た残骸の処理は俺が担当している。


そう言えば地上は開通した訳だが、地下の方はどれくらい進んだのだろうか。

そう思い、『ダンジョンマップ』を開き現在の掘削状況の確認を行う。


まず全体図としては地上から斜めに一直線に穴が掘られており、中心より上に四角い空間があるといった感じだ。

マップの測量機能を使った所、地上から今居る最初の四角い空間までの深さは約80メートル。

正直思ったよりも深くて驚きである。というか最初ニア何を思ってこんなにも地下深くまで穴を掘ったんだ?馬鹿なのだろうか。

まぁ良いか。そんな事よりマップマップ。

四角い空間から現在地下に掘削が最も進んでいる地点までの深さはなんと160メートル。実際は160メートル分の深さを斜めに掘っているので凄い量になる。


取り敢えず全体としての深さは地下240メートル。正直大分深くなって来たと思う。


現状確認が終わり満足した俺は、中断していた射撃訓練を再開しようと思い地面に置いていたTTR-XAを探す。

すぐに銃は見つかったのだが、それと同時に別の物も見つけてしまった。


いつの間にかアダムとイヴがすぐ近くまで来ており、先程スマホを触る際に邪魔だからと地面に置いていたニッケル鉱にゆっくりと近付いている。


何をしているのか気になり暫く見ているとアダムが自身の身体にニッケル鉱を取り込む。


「おいおい、アダム。流石にそれは食べれないぞ」


俺が苦笑を交えつつそう言うが、アダムは本気で食べるつもりなのかアダムの体内に細かな泡が見え消化が始まったのだと悟る。


まじか。いやまじか。


消化は数十秒で終わった。普通に全部溶かしたのならここまで驚愕はしていない。


なんと、アダムは取り込んだニッケル鉱石をニッケルだけを残して後は溶かしてしまったのだ。

だから俺はこれ程までに驚愕している。

驚き過ぎて逆に無表情になってしまっている。


「えと……アダム?」


体内にニッケルと思わしき金属だけが幾つもプカプカと浮いており、それらが一つの塊になったと思えばアダムの体内から吐き出された。そして2センチほどの艶やかなニッケルの球体が地面を転がる。


『できた』


えぇ……まじか。


スマホを使って鑑定してみると、『純ニッケル 35NP』と表示される。


えぇ……まじか。


暫く純ニッケル片手に呆然としているとアダムから思念が飛んでくる。


『せいれん』


せいれん?セイレン?清廉?……精錬!


「もしかして、さっきの独り言を聞いて?」


『うん』


なんて事だ。うちのスライムは天才かもしれない。

取り敢えず、またしても射撃訓練は中断しアダムとイヴを抱えエレノア達がいつも使っている椅子に座る。


つい先日、アダムとイヴが言葉を発して言葉のやり取りが出来ると分かった時からいずれしっかりと話をする場を設けないといけないとは思ってはいたがまさかこんなにも早くその機会が訪れるとは。


二人にもそれぞれ椅子に座ってもらう。まぁ座っているのか分からないけども。


「まず、早速だけど二人ともいつから喋れる様になってたんだ?」


『さいきん?』 『このまえ?』


その辺は曖昧らしく。気が付いたらといった感じで良いのだろうか。

それにしても、購入したモンスターとはいえ成長している事を嬉しく感じる。俺には居なかったが、子供の成長を喜ぶというのはこういう感覚なのだろうか。


「二人はいつもどんな事をしているんだ?」


『そうじ』『ぶんかい』


「そうかそうか」


ついつい嬉しくなって、ニア達が帰ってくるまで話し込んでいた。

そのお陰かアダムとイヴの事についてかなり分かったし、仲も深まったと思う。皆とも定期的にこうやって話をするのも悪くないかもしれない。それこそ、たわいない会話でも良い訳で。


そんな訳でアダムとイヴと話をして分かった事だが、気が付かないうちにアダムとイヴには大分お世話になっていた様だ。

まず、話をする発端となった精錬に関してだがアダムの話と『search』を使ってスライムについて調べた事もあって謎が解けた。

まず、スライムの特性は『分解』と『吸収』。原理としてはニッケル鉱石に含まれるニッケル以外の不純物だけを分解し吸収し純粋なニッケルだけを残したという訳だ。


通常スライムは一部を残して分解するなんて器用な事はしないらしいが、うちの子は賢いから例外なのだと思われる。


そして、恐らくアダムとイヴはこの洞窟内の二酸化炭素を分解し酸素を吐き出していると思われる。

俺は大丈夫かもしれないが、これで野生動物であるニア達が普通に生活出来ている事に合点がいく。

他にも地面に落ちているニア達の食べカスや排泄物をいつも掃除してくれていたらしい。

普段からそこらじゅうを動き回って居たのはその為であったのだとか。


気が付かない内に随分とお世話になっていた事を知り、感謝を伝えておいた。それにしてもアダムとイヴ達スライムはなんて環境に優しいのだろうか。

もし、実際にネズミーランドが建国されたら環境大臣とかがピッタリかもしれないな。

カンパニュラの花言葉は『感謝』です

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