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君が幸せであれば  作者: 神崎寧々
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取り戻せない過去

会場に戻ると、集合写真を撮るために移動するところだった。



「よかった〜。置いていかれるところだったね」


「ギリギリだったね〜」



他愛のない話に相槌を打ちながら、チラリと目の端で百合を捉える。

幸せそうに笑うその笑顔に、なんとも言えない気持ちになった。


「では、皆さん、ガーデンの方へ移動をお願いいたします。」


案内係の人が参列者の誘導を始める。

それについて行こうとした時、不意に肩を叩かれた。

振り返ると、ドアップの百合が現れた。

急な登場に、思わず息を呑む。


たじろぐ夢に構わず、百合は夢の手を取るとそのまま嬉しそうに、満面の笑みを浮かべる。


「夢!すっごく久しぶりだよね!!来てくれて、本当にありがとう!嬉しい!」


怒涛の喜びの表現は、昔から変わっていない。

昔の感情が、日々が、懐かしさが蘇る。


「ほ…んとうに、久しぶり。」


近くで見て、実感する。

あの頃と変わらない、笑い方、話し方。

百合だ。本物の百合だと、目の前で本物の百合が動いている。


そして。


「本当だ、久しぶりだね。夢ちゃん」


私の知らない百合と過ごした、彼。


「………お久しぶりです。」


「もー!健ちゃん、私が久しぶりに夢と話ししてるのに。」


目の前で繰り広げられる、私の知らない百合。

そう。大学時代のバイト先の先輩。

あの日、百合がいつもと違う表情で話をしていた彼が、今、ここで百合の隣に立っている。


そこから、自分の感情が分からなくなった。

好きな人ができた百合を祝いたい。でも、素直に喜べない自分がいた。


「私は、夢との時間がとーーーっても大事なの!」


あの頃と変わらず、そう言ってくれる百合の言葉に、胸が張り裂けそうだ。

自分の、感情を知ってから。


この気持ちを自覚してから、百合が彼と付き合いだしてから、より感情の大きさを知った。

友達を取られた感情だと思ってた。それ故の嫉妬だと思ってた。


「…だそうですよ、健二さん。百合、私の方が好きみたい。」


ささやかな抵抗。悪戯っぽく笑って、彼を見れば、冗談だと受け取って、笑ってくれる。


「本当。夢ちゃんにはいつも負けるよ。」


分かってる。彼もとてもいい人。百合が好きになった人。

気持ちすら伝えてない私が、入り込める隙間なんてなかった。


本当は、この式に来るのも、すごく、すごく躊躇った。

幸せそうな二人を見るのも、祝福できる自信もなかったから。


それでも、今日きたのは進みたいと思ったから。

過去の恋に決別したいと思ったから。

もう、あの日々は戻らないと、実感したかったから。

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