ケジメをつけにやって来た。
なんで、あの時……
そんな悪い考えが横切った時、
コンコンと扉のドアが叩かれる。
ハッと顔を上げると、扉の向こうから友達の声がした。
「夢〜?大丈夫?」
なかなか戻らない夢を心配して観に来てくれたのだろう。
「ん…大丈夫。」
涙を拭って扉を開ければ、友達は一瞬驚いた顔をした後、呆れ気味に笑った。
「も〜、夢。泣きすぎ!ほら、早くメイク直して!」
ぽんっと肩を押されて鏡の前に立つ。
真っ赤に目を晴らした自分が映ると、少し冷静になった。
友達もメイクを直すのか、隣に並んでポーチを漁っている。
「や〜、やっぱり結婚式ってこう…くるもんあるわ〜。」
「…ね。百合と出会った大学生活思い出したら、止まらなくなっちゃった」
「そういえば、夢と百合って大学時代ぶり?」
「そう…なんか、社会人って忙しくない?」
苦笑しながら、夢もポーチを出して、メイクを直す。
涙でボロボロになった顔を見つつ、
とりあえずこの目の周りをどうにかしないといけない。
「あ、そういえばナミもさぁ〜」
百合の結婚式の話題から、共通の友人の話へシフトする。
他愛ない話を続けながらも、心に残るのは、大学時代に取り残した百合への面影だけだった。
どんなに願っても、あの頃には戻れないのに。
当たり前のように隣にいて、一緒に過ごした日々が輝いている。
ずっと忘れられなかった。
どんなに仕事に没頭しようとしても、頭の片隅には百合がいた。
突然やってきた百合の結婚式の招待状を見たとき、覚悟をした。
ケジメをつけにきたつもりだった。
この気持ちに。
この誰にも伝えられない想いに。
「ゆめ〜。直せた?そろそろ集合写真だから行くよ。」
友達の呼びかけに、落ちていた視線をあげる。
今日は、かつての、大事な百合の幸せを見届ける為に来た。
赤いリップを唇へひく。
「よし。」
準備は整った。
不意をつかれて、揺らぎはしたが、
まだ、耐えられる。
コスメを全てポーチへしまうと、先に出ようとする友達を追いかけた。




