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君が幸せであれば  作者: 神崎寧々
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懐かしの学び舎


「ねえ君たちもこの講義受けるの?」



突然の知らない声にふりかえるとやっぱり知らない男がいた。

講義を受けに、百合と二人で教室に入ろうとしたところでいきなり声をかけられたのだ。



「……」



知らない人に答える義理はない。

無視して中に入ろうと数歩歩いた私の後ろで、百合の声がした。



「受けるよ。 この先生の講義、面白いから」



思わずふりかえると、いたずらっ子な表情をした百合と目があった。そのまま、声をかけてきた知らない男と百合は向き合って話始める。

会話を楽しんでいるような百合の表情をみて、少し悔しい気持ちになりながらも、私は無視して一番奥の窓側の席に座る。


鞄からノートとペンケース、そして携帯を出すとドア側に背を向け、おもむろにSNSを開く。

書き込みはせず、ただみんなの書き込みを流し読む。

特に何をすることはないが、落ち着かない。

講義が始まるまで後10分ある。


SNSも一瞬でチェックし終わってしまった。

あの二人が話をしているであろう方向に気を向けたくない。

時間を持て余すのもなんなので、すっと音楽アプリを立ち上げ、イヤホンを耳にすると、なぜかホッとする気持ちになった。



「おまたせ」



不意に右耳からイヤホンが抜かれたと思うと、百合が引き抜いたイヤホンをプラプラ揺らしている。



「……別に待ってないし。」



百合の手からイヤホンを奪い返すと、そのままつけていた左耳からも抜いて片付ける。気がつくと先生が入って来ていた。


「何拗ねてるの」


隣で授業を受ける用意をしている百合が、こっちを見ずに言う。


「別に拗ねてないし。」


プイッと外の方を見れば、窓に映る自分とこっちを見ている百合の顔が映った。

いかにも、全部わかってます。って顔をしてる。


「声をかけられたからって、その人と受けたりしないよ。」


考えがバレていたのかと小さく、グッとなる。


「夢と約束してるんだから。」


百合のその一言で、全部が昇華された気分になった。


「別に、、、わかってたし。」


嬉しさが滲み出る。

軽くなった気持ちで、タイミングよく先生の合図とチャイムが鳴る。


チラッと百合の方を見ると、何を言うわけでもなく、ニヤニヤとこちらを見ていた。

これは、もう全てバレている。


もう一度、悪あがきでプイッと外を見ると、そっとルーズリーフが差し出される。


ごめんって。


一言書いてある文字と、ごめんのポーズをする百合をみて、ようやく夢も機嫌を直す。

差し出された紙に、私も。ごめん。と走り書き、

既に開始した授業に参加し始める。


いつもの広い講義室に、訳の分からない先生の話。

でも、それが今の日常だった。


窓から差し込む暖かい光に、薄いピンクの景色。

いつもと変わらない、また新しい春がやってきた。

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