第5話 能力
まずい、非常にまずいーーーー
両手は縛られている、幸い何故か足は縛られなかったが牢屋に入れられ身動きが取れない状況だった。
「ごめんねレオナ、私が足手まといなばかりに……」
本当に申し訳なさそうな声で謝るセレナ、つい数分前は怒りもあったが今はどうやって牢屋の目の前で変態的な目をしてこちらを眺めている変態から逃げるかを考えていた。
男に捕まった経緯はいつの間にか捕えられていたセレナを殺されたく無ければと言う条件でレオナも捕まった、完全に迂闊だった。
「何が目的だよ」
反抗的な目をし、男に攻撃的な口調でそう言うレオナに男はニコニコと不気味に笑いながら答えた。
「うーん、アイツらの餌にするか、もしくは僕達のペットになるかだね!」
「ペ、ペット?」
正直頭がおかしいとしか思えなかった。
ふとセレナの方を見ると完全に怯えきっている、どうにかしてこの状況を脱したいが何も考えが思い浮かばなかった。
「それじゃ後で来るから休んでてねー」
男はその言葉だけを残しその場を去っていった。
服は下着と何故か薄い布のみ、辺りには使えそうなものは無い……どれだけ頭を働かせても逃げ道が無かった。
「レオナ……私達どうなるのかな」
「大丈夫、絶対に俺がどうにかする」
「頼もしいなぁ……」
セレナはその言葉を残してその場に倒れた、突然の出来事にレオナは急いでセレナに駆け寄った。
「おい?!大丈夫かセレナ!!」
いつ死人に噛まれたのかと思い脈を測ってみる、すると尋常じゃない位に速かった、額を触るとかなりの熱さ、高熱だった。
体に傷は無く恐らく溜まっていた疲労の影響だった。
脱出不可能な牢屋の中でセレナが高熱を出している、状況は完全に最悪だった。
「おい!仲間が高熱を出したんだ!!来てくれ!!」
叫んで見るが男は来る様子がない、ひとまずレオナは薄い布を端に溜まっていた水に浸すとしっかり絞ってセレナの額に乗せた。
「今はゆっくり休め、アイツらの事は俺に任せろ」
セレナの頭を撫でゆっくりそう呟く、すると後ろから声が聞こえてきた。
「それじゃあレオナちゃんで楽しませて貰おっかな」
振り向くといつから居たのか男が2人立っていた、そしてその手にはレオナのナイフが握られていた。
「何する気だよ……」
「そんなに怖がらなくても痛いのは最初だけだよ!」
そう笑顔で言う男、その言葉で大体何をしようとしているかは予測がついた。
そしてレオナは自分が男と知ったらどんな顔をするか内心少し楽しみながら男が開けた扉を出た。
「あ、目隠しだけさせてね」
そういいレオナは目隠しをされた。
目隠しをされ何処を歩いているのかも分からないが喉元にナイフが当てられているのとお尻を触られている感覚だけが分かった。
「じゃあちょっと持ち上げるよ」
そう言いレオナは何も抵抗すること無く持ち上げられ何か台の上に乗せられる、すると手の手錠を外され手足を何処かに固定された。
目隠しを外され目に映った光景はかなり殺風景なものだった。
白い電球が吊るされているだけの天井、そしてレオナを覗き込むように見る男達、これから何が始まるのか少し恐怖があった。
「じゃあお楽しみ始めまーす!」
そう言いレオナは覚悟を決める、すると右腕に激痛が走った。
決めていた覚悟と全く違う痛みを味わいレオナの頭は混乱していた、確か犯されると覚悟していた筈、それなのに何故か右腕に走る激痛、訳が分からなかった。
「凄い綺麗な断面図だね兄貴!」
「これは凄いな弟!!」
兄貴、弟と呼び合う2人、そしてレオナを休ませること無く左腕、右足、左足を切り落として行った。
「あれ?レオナちゃん悲鳴上げないね」
痛みを堪え声を上げないレオナに男は関心したかのように頷いていた。
「お前達……狂ってるな……」
不敵な笑みを浮かべ男にそうレオナは言うと男は大きな笑い声を上げていた。
「こんな状況で悲鳴上げない君の方が狂ってるよレオナちゃん!!」
笑いながらそう言う男、レオナの視界には男が1人しか映って居なかった。
「もう1人は何処に行った?」
ダメ元で男に問いかけて見る、すると男は上機嫌なのかあっさりと答えた。
「弟なら君の腕を死人に上げに行ったよ」
そう言い男が視線をレオナから逸らした瞬間レオナは切り落とされた筈の右腕で男の首を掴んだ。
突然首を掴まれた事に驚き手に持っていたナイフを落とすとレオナは瞬時にそれを拾い上げ喉元に当てた。
「あ、あれぇ?確かに腕落としたよね?」
震え混じりの声、どうやら男はこの先の事は分かっているらしかった。
「相手が悪かったな」
レオナのその一言に男は悟ったかの様な表情をした。
「能力者かついてないな」
静かに目を閉じ潔く諦め笑う男にレオナは勢い良くナイフで首を斬った。
息絶えたのを確認すると部屋を出て急いでセレナの元へと戻ろうと走った。
目隠しで道の心配もあったが幸い一直線、歩いた距離から大体の位置は割り出せた。
「大丈夫かレオナ?」
レオナをゆっくりと抱き抱える、熱こそあるものの呼吸は安定している、とは言え油断は出来なかった。
セレナを抱え元来た道を戻ろうとした時、死人に腕を上げに行っていた男が小銃を持って進行方向に立っていた。
「よくも……貴様兄貴を!!!」
そう言い小銃を男は構える、だがレオナはセレナを一旦置き、そんなのはお構い無しに突進して行った。
男まであと2m程の距離まで近づいた瞬間銃声が鳴り響きレオナの肩を貫くがレオナは止まらずナイフを男の喉に突き刺した。
「バケモノが……」
レオナに唾を吐き蚊の鳴くような声で男はそう言うとその場に倒れた。
「バケモノか……」
初めて言われた言葉、それ程傷つきはしなかったかと言って気持ちよくも無かった。
落ちた小銃を拾い上げ弾倉を確認するがやはり最後の1発、レオナの小銃だった。
一本道の通路を道順通りに歩きながらレオナは自分の体を見回す、切断された所は綺麗に傷跡すら残っていなかった。
この能力のお陰で士官学校時代は一時期サンドバック扱いされていたが今となっては強力な能力、本当に神様に感謝したいぐらいだった。
「しかし長いな……」
5分程歩いているが未だに扉は見当たらない、辺りにはレオナがペタペタと裸足で地面を歩く音が鳴り響いていた。
パンツ一丁のこの状況、とにかく早く脱したい一心でレオナは歩き続けていると50m程先に待ち望んでいた光景が映った。
重々しい金属製の扉、所々錆びていて開ける時かなり重そうな扉がレオナの目の前にはあった。
ドアノブに手を伸ばし扉を不協和音と共に開けた瞬間耳が痛くなるような程の死人のうめき声が聞こえてきた。
「なんだよこれ……」
周りの光景にレオナは絶句した、両端にある大きな牢屋に閉じ込められている無数の死人達、数え始めたら限りがない程の量だった。
扉の音でこちらに気が付いたのか死人は一斉にレオナ達を捕食しようと必死になっていた。
先頭にいた死人は後列の圧力で押し潰されるほど死人の数は多くこれが出て来たらと考えるとゾッとした。
「こんな所長く居られるかよ」
そう言い約200m程先の扉まで小走りでレオナは向かった。