第3話 地下刑務所
「私てっきり女の子かと思ってた」
そう言いながらリビングでレオナにもたれかかるセレナ、余りにも心を許すのが早いとレオナは少し呆れていた。
「そう言えばセレナはここが地元だよな」
この街の見取り図を見ながらレオナにそう問い掛ける。
「そうだけど?」
予想通りの返事にレオナはもたれ掛かっていたセレナにこの街の見取り図を見せた。
この街にレオナからみて特別な建物は見当たらない、言うなれば立て篭もれる様な場所などレオナから見れば無かった、だが地元民ならこの地図に載ってない場所も分かるはず、そう踏みセレナに地図を見せた。
「この中でお前が死人から立て篭もるなら何処に立て篭もる?」
その質問にセレナは地図を見る事なく速攻で答えた。
「自分家!」
嗚呼、こいつは馬鹿だ……とんでもない者を拾ってしまったとレオナはその瞬間思った。
セレナは全くアテにならない、そして1人で考えるも何の進展も無かった。
地図を何度も見直すが死人が集まりそうな場所は無い、八方塞がりのこの状況の中セレナが地図を見てある事に気が付いた。
「この地図刑務所が無い」
刑務所、セレナがそう言った瞬間レオナはそこに生存者が集まっていると確信した。
だが一つ疑問が残った、何故刑務所が地図には載っていないのか、確かに刑務所を載せれば脱獄の資料に使われる事がある、この街も同じ理由で載せて無かったのだろうか……色々と考えては見るがやはり脱獄関連しか出てこなかった。
「セレナは刑務所の場所が分かるのか?」
「うん、刑務所は地下にあるんだよ」
「地下?結構と言うか大分珍しいな」
地下に刑務所を作るなど向こうの世界では聞いたことも無かった、だが籠城にはうってつけの場所だった。
「セレナ、そこに案内してくれ、勿論援護はする」
そう言い小銃を構えるレオナに一瞬ビックリするがセレナは頷いた。
「そうと決まれば早速……」
出発をしようとレオナは立ち上がったがセレナの武器が無いことに気が付いた。
小銃は1丁しかない、とは言え刀を渡す訳にもいかない、何か渡すものが無いか服の中やカバンを探るとアーミーナイフと殆ど変わらないナイフが出てきた。
するとレオナはナイフを懐にしまい腰に掛けていた刀をセレナに手渡した。
「訓練を受けてない人には難しいだろうが無いよりはマシだ」
セレナに刀を抜かせある程度の型を15分ほど教えこませる、無駄とは分かっていてもなにも教えないよりかは数段マシだとレオナは考えての行動だった。
「極力俺が殺すが万が一撃ち漏らしたらお前が頭を一突きすればいい、分かったか?」
「うん、頑張ってみる」
「じゃあ出発するか」
そう言い地図を片付け民家を出ると素早く死人が居ないかを確認した。
大通りなのに死人は見当たらない、やはり相当な数が刑務所の上に群がっているらしかった。
「レオナって何歳なの?」
大通りを二人並びながら歩く、両脇には死人にもなれなかった人の死骸が転がっていた。
「俺は13だ」
向こうの世界も合わせれば30と中々のオッサン、正直考えも結構おじさんぽくなってきていた。
「嘘っ!そんな子供が軍隊に?!」
そう大きな声で驚きを表すセレナの口をレオナは閉ざした。
モゴモゴと口を閉ざされながら喋ろうとするセレナを無視し耳を澄まし死人が接近していないか足音を聞くが幸い近くには居ないようだった。
「大きな声はだすな」
そう言い残し口から手を退かすと息が出来ていなかったのかセレナは大きく呼吸をした。
「死ぬかと思った……それよりレオナ君は何で軍隊に?」
「死人と戦いたくて入った、ただそれだけだ」
美しい入隊理由がある訳でもあればもう少し話でも続いたのだろうがレオナにはそんなものは無い、ただ春樹の時に好きだったゾンビとこうして巡り会えた、そしてゾンビと任務という形で会える軍人になったまでだった。
「へぇー、親でも殺されたの?」
会ったばかりのレオナに中々に切り込んだ質問をしてくるセレナにどう言う神経をしているのか気になったが話すことも無く答えた。
「親は居ないよ、実親には捨てられた、養母の元ももう戻る気は無い」
「レオナ君って私なんかよりも数倍苦労してるんだね」
そう悲しげな笑顔を見せるセレナ、どうやら悪い人では無いようだった。
雑談をしていると突然風が吹きとてつもない程の腐臭がした、死人が近くにいる、それも尋常じゃない数だった。
「セレナ、入口は何処だ?」
「もうすぐだよ」
大通りから裏路地に入り裏路地を抜けるとそこには大量の死人が群がっていた。
高い塀に囲まれ中は見えないが恐らくそこが刑務所だとレオナは思った。
「おいセレナ、地下にあるんだよな」
「うん、そうだよ」
「なら下水の入口に行くぞ」
恐らく刑務所の中にはそこから行ける、と言うかそこからしか行けなかった。
目の前に居る大量の死人達の群れを突破するなど不可能、気付かれないように後ずさりしその場を去った。
15分後、2人は場所を移して既に下水道の中を歩いていた。
腐臭とはまた違った臭い匂いとネズミの鳴き声が鳴り響く下水道をセレナは凄まじく嫌な顔をしながら歩いていた、それはレオナも同様だった。
ライトを照らし下水道を進むが中々死人も現れず安全に進んでいた。
「臭い……」
セレナは鼻を抑えながら本当に臭そうにそう言った。
「そんな事より刑務所は何処だよ」
本当にこんな所に刑務所があるのかレオナはかなり疑心暗鬼になっていた。
そんな時無線機に反応が入っているのに気がついた。
「こちらレオナ二等兵、そちらは誰だ」
「こちらシャル一等兵、何時間ぶりかだな」
完全に死んだと思っていたβ隊の下っ端だった。
「生きてましたか、そちらの位置は?」
「俺は今地下刑務所に居る、生存者は俺を合わせ5人だ、そちらは?」
「こちらは現在地下刑務所に続くと思われる下水道を進んでいます」
「下水道……確かにこちらには続いているが刑務所内も死人が居る、俺達は管制室に現在身を潜めている、そこで落ち合おう」
最後に『健闘を祈る』そう言葉を残すと無線は切れた。
「今の誰?」
「俺の所属する第二部隊の仲間だよ」
「と言うことは他にも仲間が?!」
セレナの表情が一気に明るくなる、だが軍人の仲間はシャルのみだと伝えるとその表情は再び暗くなった。
「なんかガッカリさせてすまんな」
「私こそごめん、本当はレオンも悲しい筈なのに……」
そう言うセレナの言葉にレオナは仲間を思い出した。
皆レオナの事を可愛がってくれた、正直可愛がり方が少し違ったがそれでもいい人達ばかりだった。
少尉もレオナに銃を撃つ時のコツを教えてくれた、他の皆も同様に良くしてくれた……だがこの任務で皆命を落とした。
正直シャルが生きていてくれて少し安心した。
「気にするな……」
レオナはそう言うと前方に死人が居るのを確認した、その死人は壁に向かってずっと立っていた。
「行き止まりなのか?」
ゆっくりとナイフを構え近付き死人の頭を突き刺すと死人が見つめていたものは扉だと言うことに気が付いた。
「セレナ!扉だぞ」
鉄で作られた扉、ドアのノブを回してみると鍵がかかっていない様だった。
「空いてるなんてラッキーだね」
そう言い入ろうとするセレナをレオナは止めた。
「先程の無線で中に死人が居ると聞いた、警戒するぞ」
そう言いセレナを後ろに下げるとレオナは扉をゆっくりと開け中に入って行った。