第1話 地獄への転生
今の状況は何なんだーーーー
意識はある、だが言葉が発せない、そして誰かに抱き抱えられていた。
「ごめんね、ごめんね、産んだのに育てられなくてごめんね……」
泣きながら謝る女性の声が聞こえる……これは自分に向けての謝罪なのだろうか、目すら開けられず雨が降りしきる音しか聞こえなかった、そして急な眠気に襲われそのまま意識は途切れた。
今思い返しても不思議とその記憶だけが鮮明に残っていた、幼少期の記憶と言うものは不思議とあまり覚えていない事が多い、赤ちゃんともなれば尚更だった。
現在6歳、どういう訳か記憶は春樹のままレオナ・フィリスと言う少年の体で生まれ変わっていた。
捨て子だったレオナは運のいい事に無事孤児院に引き取られそして更に運の良いことに貴族の養子として迎えられた。
しかし鏡の前でペタペタと自分の頬を触り顔を凝視するが見れば見る程男とは思えなかった。
綺麗な金髪に長いまつ毛、目も大きくまるで女の子の様だった、その容姿のせいか養母から女物の服を着せられていた。
「レオナちゃーん、ご飯ですよー」
養母が呼ぶ声が聞こえる、物心が付いたのは一年前だが未だに状況の整理が付いていなかった。
この世界は一体何なのか、異世界転生とやらなのか、それともただの転生なのか、しかし後者だとすれば明らかに時代感がおかしかった。
まだ現代ほど文明も発達しておらず窓から外を眺める限り馬車が走っているぐらいだった。
「レオナちゃーん、早くおいでー」
その声にレオナは無邪気な子供の振りで返事をし養母の元へと走った。
8歳の誕生日、レオナに様々な事が起こった。
7歳の頃に受けた性質検査と言うなの血液検査、それの結果が一年経ってやっとかえってきたのだった。
性質検査と言うものはこの世界に存在する飛行能力、透視能力、超再生能力と言った大きく分けて三つの能力があるらしく、それの中のどれかを持っているかどうかの検査らしかった。
驚きなのがその能力が発現する確率が0.02%と異常に低い事だった、その為この世界に能力者は珍しかった。
レオナは養母から結果の封筒を受け取ると雑に破き中身を開けた、そしてその瞬間養母とレオナは喜びで抱き合った。
紙には超再生能力適正ありとだけが書かれていた。
そして10歳、小学4年生の年にある人が訪ねてきた。
「すみません!レオナさん、レオ・フィリスさんは居ませんか!」
扉を激しくノックする音が聞こえてきた。
その音を聞いて少しレオナは警戒心を抱いた。
平日は養母は仕事に出かける、貴族の家の子供であるレオナは学校には行かず専属の教師が付く、だが時間的にもまだ早かった。
掛け時計を見ると8時30分と表示されている、いつも教師は10時に来るはずだった。
「なんでしょうかー」
あざとい感じの声で扉を開けるとそこには軍服を着た男が1人立っていた。
「貴殿がレオナか、男と聞いていたが女じゃないか」
そう言い資料と思われる紙を丸める男を見てレオナは少しイラついた。
「すみません、僕は男ですから」
そう冷たく言うレオナの言葉を聞き男は驚いて何度もレオナの顔を見ていた。
「それより何の御用でしょうか」
要件を聞くと男は咳払いをし、仕切り直して言った。
「10歳の子とは言え能力者、貴重な戦力だ、レオナ、君に士官学校に入ってもらいたい」
男はそう言うと1枚の新聞の記事をレオナに渡した、そしてその記事を見てこの世界の現状に驚きを隠せなかった。
新聞には死人被害拡大、と書かれていた。
死人……それは絶対にゾンビの事を指しているとレオナは直感で分かった、そして男に二つ返事した。
「是非入学させてください!」
10歳で士官学校、異例中の異例の筈、だがゾンビが居ると分かった今こんな裕福で安全な家庭で満足していられなかった。
第一この家は怪しかった、養母が何故かレオナの事を1度も外に連れ出した事が無かった、その経験も踏まえ早くこの家から出たかった。
「良し、精一杯頑張ってくれ」
そう言い手を差し出してきた男とレオナは握手を交わした。
13歳にして士官学校を卒業しレオナは最年少入隊記録を更新した。
周りは20代の青年ばかり、しかも皆レオナの事を女子と思っていた、もう既に弁解するのも面倒くさくなってきていた。
「レオナ二等兵、我が第2陸上部隊に配属を命じる」
「はっ!了解しました、全力で職務に努めます!」
卒業証書代わりに貰った小銃を片手にレオナは目の前の少尉に敬礼をした。
軍人としてだがやっと夢にまで見たゾンビサバイバルが始まる……初任務が待ち遠しかった。
少尉の部屋を後にするとレオナは唇を強く噛み締めその場を立ち去った。