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食べ物の依頼しかない

 それから食事を終えた私。

ようやく、魔法使いとしての依頼を見に行って、引き受けてくるようになったわけですが……。

何故かクロヴィスがついてきて、猫のタマは温かい場所にゴロゴロするのと、杖の妖精リリスと一緒に遊ぶと家に残りました。

 そんなわけで、依頼を探しに来た私ですが、張り出されたその依頼を見て唖然とする。


「シチューにゼリーにパイにケーキに野菜サラダにキッシュに……見事に食べ物しかない」

「良いじゃないか、それらを作って余った物は食べれば」

「それはそうだけれどもっと、こう……爆弾とか特殊なアイテムとかポイントの高い物はないのかな」


 料理は、資格を得るのに必要なポイントが低いのだ。

 だからもっと効率の良いアイテムの調合をと思ったが何処にもない。

 あるのは食べ物関係だけだ。

 

 私は明らかに偏ったそれのうち、幾つか食べ物を選んで受付に持っていく。

 受付のおじさんは、魔法使いの証明書を見せてくれというのでそれを見せて、そこで私は聞いてみた。


「あの、依頼が食べ物関係しかないのですが」

「ああ、食べ物以外の依頼は、朝早く来ないと。皆それを狙って争奪戦を繰り広げているからね」

「そ、そうなのですか?」

「ポイントだけではなく依頼料も良い物が多いからね。皆狙っているんだよ。はい、依頼を受け付けました。作ったらこちらに持ってきて下さい。開いている時間は……」


 その時間を聞きながら私は、面白そうに依頼一覧を見ているクロヴィスを呼びに行く。

 少し離れた所で女の子達が、クロヴィスを見てきゃあきゃあ言っているのを見て、他の女の子の傍に行かないかなと思ったがそんなことはなかった。

ああ、また戦闘だわと私は思いながら近づいて、


「クロヴィス、依頼を受けてきたよ」

「そうか、それで戦闘関係の依頼もないな」

「……多分ポイントと依頼料がいいから、朝早くに取りに来ないと」

「じゃあその依頼を受けに朝早くに来ような」

「……はい」


 と素直に答えた私だが、戦闘する気など全くなかった。

 クロヴィスのすきを見て簡単に作れて依頼料の高いアイテムを狙い撃ちしてやると心の中で私が笑っていると、


「今、簡単に作れて依頼料の高いアイテムを狙い撃ちしてやる、と思っただろう」

「ぎくっ! べ、ベツニソンナコトハ」

「声が裏がっているぞ? 安心しろ、俺が良い戦闘の依頼を見つけてきてやるから。そちらの方は俺でも依頼が受けられるからな」

「そ、そんな……うぐ、絶対引きこもって逃げてやる」

「そうか、エリがそんな風に言うなら仕方がないな」


 珍しくクロヴィスが諦めてくれたらしい。

 そんな馬鹿なと私は思いながらクロヴィスを見上げると、クロヴィスは優しげに微笑んで、


「今度からお前の家に一緒に住んで、逃げられなくしてやるよ」


 私は更に自分の墓穴を掘った事に気付く。

 けれどそもそもあの家は、


「あ、あそこの主人は私なんだから! 私の許可を得ないと駄目なんだから! そもそもクロヴィスは私の家を壊したんだし」

「……エリはそんなに俺が嫌いなのか?」

「いや、そうじゃなくて戦闘するのが嫌なんです!」

「そうかそうか……それで俺が一緒に住むのは嫌なのか?」


 それに私は嫌とはすぐに言えない。

 いや、嫌といえば嫌なのだけれど、でも……。

 自分の気持ちが良く分からなくてとまだっていると、そこでクロヴィスが私に、


「仕方がないな。なまけ者の魔法使いの矯正のためだ。俺の宿に引きずり込むか」

「ごふ」


 そんなことをしたら俺の居場所が打アドだという事で戦闘三昧な日々に。

 それだけはお断りしたいが、設備の関係もあるし、となると、


「わ、私の家にしてください。それで良いですから!」


 そう答える私。

 こうして私は、クロヴィスとも一緒に住む事になってしまいました。





 クロヴィスと一緒に住む事になった。

 どんどん引き籠りの逃げ道が塞がれていく。

 そして男の子とのイベントも欲しいのに、何故か女の子が多い気がする。

 お魚を上げた猫は、ネコミミ美少女ではなくネコミミ美少年になって恩返しどころか飼う権利に……それはお猫様なので仕方がないとして。


 クロヴィスと一緒に住むなら、空いている部屋は一杯あるので問題はない。

 というか主人公のお友達キャラが住む部屋だってあるのだ。

 ちなみにその子は女の子なのだが、


「何処にもフラグが……というかその子も主人公みたいに……」


 可愛い女の子キャラだった彼女を思い出しながら、結婚か何かをしてここには来ないのだろうかと思った。

 ほぼ知らないキャラだらけで物語が進んでいく。

 せめて元の世界に戻るきっかけが欲しい、そう思ってそこで家のドアを開くと、


「や、やぁああっ、この駄目猫っ、放せ!」

「うーん、この獲物も美味しそうだし、意外に相性も良さそう? 頂いてしまえ!」

「やめてぇええ、エリっ!」


 私はそこで猫のタマが人型になり、同じく人型というか大きくなって羽を隠した妖精リリスを押し倒しているのを目撃する。

 私はどうしようか迷ってから、


「えっと、ごゆっくり?」

「いやぁあああっ、エリ助けてぇええ」

「……タマ、猫に戻る」


 その言葉に、残念ですぅ、とタマが舌打ちをして猫に戻る。

 こうしてみると可愛い美猫なんだけれどなと思っているとタマが、


「獲物を追い詰めたい気持ちがあるんですよ、僕達猫の本能で」

「はいはい、他の獲物なら好きにしていいよ」

「はーい、じゃあこっちにするね」

「へ? うわぁあああ」


 そこで私は再び人型になった私をタマが押し倒す。

 私を覗きこむネコミミ少年が、まるで美味しそうな獲物をみつけたかのように笑っていたが……。

 タマの襟首の辺りに、クロヴィスの手がのびて、襟首をつかむように持ち上げるといつものタマに戻る。


「もう、ちょっとくらい味見させてくれてもいいじゃん!」

「お前にはまだ早い。それとも……俺と一戦やるか?」

「……遠慮します」

 

 そんな会話をしているタマ。

 そして助かったと私は思っているとクロヴィスに、


「やっぱり俺も一緒に住む方が正解のようだな」

「う、うう……はい」


 私は渋々頷いたのだった。






 どうしてこんな事に、そう私は嘆きながら料理を作っていく。

 まあ、物によるのだが材料を鍋に放り込んだり、オーブンに放り込むと勝手に出来る辺りが、魔法のオーブンと魔法の鍋の良い所だ。

 そして出来た料理を、荒熱を取って箱に詰め込もうと決める。

 その余りをお皿に乗せて机に並べて、


「クロヴィス、食事をする時間はありそうだから、食べよう」

「少し早いが、そうしようか」


 そして私達は食事をとる。

 ゲームの世界では味は分からなかったが、口にするととても美味しい。

 特にシチューの中のジャガイモが口の中でトロッととろける。

 

 キッシュは玉ねぎとベーコン、コーン、ホウレン草……の様なものが詰められていて、周りの生地がクラッカーのようで甘くなくて、サクサクしていてそれもまた美味しい。

 でも食べてみると洋風茶碗蒸しのようなこのキッシュの中身も良いよなと思ってしまう。

 クリームと卵で作ったアパレイユが入れられて上にたっぷりのチーズ。


 作り方はオーブン内でどうやって出来て行くのかを見ていたので、今度はこの魔法のオーブン機能を使わずに作ってみても面白いかなと思う。

 なにしろこの魔法機能の場合、ゲーム内で作った物しか作れないようなのだ。

 実はさっきこっそり肉でサイコロステーキを作れないかなと思ったのだが、他の材料を要求されたかと思うとビーフシチューになった。

 私のサイコロステーキ……。

 そんなわけで、ゲーム内に出てこない物は、自分で作るしかなさそうだ、そう私は思っていると。


「でもエリの料理は美味しいな」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。それに複数人分作った方が、作りがいもあるしね」


 そこでタマ達に私達も何か頂戴と言われたのでそれぞれに違う料理を渡し、お腹一杯になった私達は料理を箱に詰めて依頼を完遂しに向かったのだが……その時私は、まさかこんな事になるなんて思わなかったのだった。







 依頼の商品を持ってくると、それを受け付けのおじさんが受け取り、依頼料を支払ってくれた。

 ついでにポイントも登録して、今どれくらいで後どれくらい必要なのかを聞いて、


「やっぱりポイント多めの依頼が必要だよね」

「それなら戦闘の依頼を主にした方が良いかもしれないな。ただ戦闘関係も人気が高いから朝早くに来ないときついよ」

「そんなに大変なんですか?」

「ああ、妻に連れて行かれたバーゲンセール会場の様に大変だ。あの中に男が入っていけるのだから、魔法使いは凄いなといつも思って見ているよ」

「……そうなんですか」


 受付のおじさんの話からするに、どうやら依頼争奪は過酷なものらしい。

 けれど私は戦闘に参加しないためにも、私は頑張ろうと決意する。

 だって、戦うの怖いし。

 そこで私は、一緒にきたクロヴィスに肩を掴まれて、


「レベルの高い戦闘の依頼は、すぐに無くなるか?」

「……やはり皆、楽な方に流れますね」

「大体何時ごろまでありますか?」

「お昼までに来て頂ければ確かかと」

「なるほど」


 クロヴィスが受付のおじさんと話し、頷いた。

 というか何がなるほどなのか、とか、その良い笑顔は何なのかと私は聞きたかったが墓穴を掘りそうなので止める。

 でもこのクロヴィス、暗くなるから危険だと私についてここまで来たのだ。

 心配されるのは嫌ではないのでお願いした。。


 そんな事を私が思っているとそこで、人が駆け込んでくる。

 甲冑などの装備がごついが、酷い戦闘をしてきたのか傷だらけれで息も切れ切れだ。

 そんな彼は受付にて、


「人を集めて下さい! 町外れの森にある、“琥珀の古城”で、戦闘が……これは依頼書です!」

「この時間はもう閉める頃だから、人が集まるか分からないが受け付けます。……登録されている魔法使い達に、連絡をしてみましょうか?」

「は、い……お願いします。まさかあんな場所に、“深淵の魔族”がいるなんて……」


 それを聞きながら、あれ、イベントが妙に早いなと思う。

 確かもう少し後だった気がする、というか。

 でもあの石の破片はあそこでもう一つ回収できるんだよなと思って、気づいた。

 

 この依頼は、戦闘である。

 そしてクロヴィスは戦闘の依頼を受けたがっていた。

 更にクロヴィスは私を戦闘に参加させたがっている。


 この三行の文で状況は把握できる!

 そしてそれで把握した私は全力でこの場を走り去ろうとしたのだが、


「エリ、お前の考えは全てお見通しだ」

「うぎゃぁああ、縄が、私の体に!」


 気づけばエロい形に私の上半身を縛り上げて、クロヴィスは楽しそうに笑う。

 しかも受付のおじさんからその依頼を受けて、


「俺は保護者なので、エリの名前も書いておくな」

「そ、そんなの無効、絶対に、というか行きたくないぃいい」


 私は必死で抵抗したが、結局その依頼を受けることになってしまったのだった。






 どんよりとした気分で一度自宅に帰るとまたリリスがタマに襲われていたり、したのはいいとして。

 猫になったタマと、あの杖を持ってリリス達と“琥珀の古城”に向かう。

 結局、私は逃げられなかった。


「うう、夜道は暗いよぅ。でも、蛍がこのへんは飛んでいて綺麗だね」

「すぐ側に小川があるからな。それに時期的にも今は見頃だろう」


 草原の上を、ゆらゆらと揺れるように点滅する光。

 幻想的で美しいその光景を見ていると、段々と不安が増す。

 この世界は私のいた世界と違って、道に街頭はない。


 今だって魔法で作った明かりで周辺を照らしているが薄暗く、月明かりだけで心もとない。

 すでに日が暮れているこの時間にこんな場所を歩くのは危険な気がする。

 そこで側の草無からがさがさ音がして、私は怯えたようにクロヴィスにすがりついた。

 けれど明かりに照らされたそれは、ただの兎だった。


「お、驚いた、あ、ごめん」

「別にいい。守ってやるといっただろう?」


 クロヴィスがそう言って私の頭を撫ぜる。

 そうされると不安が少し和らいで落ち着いてくる。

 クロヴィスは何だかんだいって面倒見が良くて優しい。


 でもどうして私なんだろうと思う。

 ゲームでは主人公のポジションに私は居るし、出会いのイベントも特に無い。

 なのに何でクロヴィスは私を選んだのだろう。


 けれど聞いてしまったら後戻りが出来ない気がして私は聞けずにいた。

 何となく今の関係が壊れるのも嫌だし、それがラスボスを引き出す引き金になるのも怖い。

 だから私は、それ以上聞かずに道を進んでいき……やがて崩れかけた古い古城に辿り着いたのだった。



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