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コスプレ衣装

 ゲーム内では使用できなかった宿に私達は泊っていた。

 正確にはゲームの中で見覚えのある宿はあったのだが、


「その宿よりも良い場所がある」


 そう言われてクロヴィスに連れてこられた宿は、シャワーが部屋についている物だった。

 傍には備え付けの薄水色のタオルとバスローブがある。

 そこで私はクロヴィスに、


「早くシャワーを浴びてこい」

「う、うん。……宿の主人にも笑われちゃったしね」


 そう言って私がシャワー室に入ろうとすると、杖の妖精のリリスが一緒に水浴び~と飛んできたので一緒に浴びた。

 羽にしぶきがかかってもいいのかというと、阿古の先ほどのココナッツミルクが羽につてべとべとするらしい。

 ちなみに海水は嫌だがお湯は良いらしい。


 どうも服の関係であるそうだ。

 というわけで蛇口をひねると温かいお湯が噴き出す。


「気持ちいい。久しぶりにお湯を浴びたような……いや、それほどでもないか。色々あって疲れただけで」


 私はそう思いながら、備え付けの石鹸とシャンプーで体と頭を洗う。

 そのすぐ横に緑色に色づいた油のような液体があって、これがリンスかな―と思いはするものの使う勇気が私にはなくて、そのままシャワー室から出てバスタオルで体をふく。

 そしてバスローブに着替えながら私は、確か他の装備でどんな服があったか後で調べようと思う。

 

「こんな白くなった服は着て帰るのが嫌だし。確か材料の普通な感じの服もあったはず……は!」

 

 そこで私はある事実に気付く。

 そう、私の本来のポジションは女の子だ。

 だが、あの服は……コスプレ衣装のように思える。


「ど、どうしよう。特にお祭りでもないのにコスプレ……でも確か初期のころの装備が残っていてそれなら、他のキャラと兼用できたはずで……」

「何をごちゃごちゃ言っているんだ」

「わぁ! び、びっくりした……クロヴィスなんだ」

「……きちんと前をそろえろ」


 そう言ってクロヴィスは、はだけかけたバスローブを正す。

 確かにもう少しきちんと着れば良かったなと私は思いながら、


「ありがとうクロヴィス」

「ああ。あまり肌を出すな。誘惑されたと、襲われるぞ?」

「う、うんでも部屋が全部埋まっていてここしか開いてなかったんだよね」

「本当は別の部屋にした方が良かったかもしれないがな、仕方がない」


 そう言う割にクロヴィスは嬉しそうだ。

 なんでかなと私は思いつつ、上着を脱いでいるクロヴィスが実は結構筋肉質だと気付いた。

道理であの剣を私が持てないわけだよなとも思う。

 剣を振り回す女剣士の道は、難しそうだと私は思う。

 憧れるが。でも、


「……もしもそれを言ったなら、筋肉を付けるために冒険コースに突入しそうな気がする」

 

好きなように調合やら何やらしつつ、イケメンの恋人も探したりとか、気楽な時間を過ごしながら、元の世界に戻る方法を探したいなと私は思う。

 そのためには絶対に言っては駄目だと私は思って、そこで体を洗ったクロヴィスが出てくる。

 同じバスローブなはずなのに何処となく様になっているような気がする。

 それに何だか妙に男の色気というか、ドキドキするような……。


「いやいや、ないから」

「エリ、さっきからひとりごとが多いよ?」


 そうリリスに言われて私は、気をつけねばと思う。

 そんな私をクロヴィスが何か思う所があるらしくじっと見つめている事に、私はついぞ気付く事はなかったのだった。





 その後着替えて酒場で遅いご飯を食べに行くと、あのローレライが歌っていた。

 確かに澄んだきれいな歌声で、眠ってしまいそうだなと思いながら食事をとっていると、彼女は私達を見てぶすっと頬を膨らませた。

 後で聞くと、私の歌声に魅了されないなんて許せない、との事らしい。

 それにクロヴィスは、


「俺のレベルが高すぎるんだろう。エリもこう見えて強い魔法使いだし」

「うう、納得できないよ。まあいいや、魅了出来なかった相手にはデザートを奢ることにしているんだ。ほら“棘ココナッツのアイスクリーム”」


 クロヴィスが吹き出して、私は変な顔になる。

 さっき降り注いできて大変だったあのココナッツミルクのデザートだ。

 でも折角だし、断るのも悪いのでそのアイスクリームを頂く。


 独特の深いコクの有るアイス。

 口の中でとろりと溶けて、南国を思わせるような香りが口いっぱいに広がる。

 美味しいと私が言うとローレライであるライが自慢気にここの特産の棘ココナッツが、一番質が良いのだということを自慢気に説明してくれた。

 私もそれを聞きながらもこのアイスが美味しくて、やっぱりもう一度取りに行くのを挑戦しようかなと思う。


「今度、エリ達の街にも歌いに行くからその時はよろしくね」


 さり気なく宣伝までされた私達。

 そして夜、宿にて。

 月のよく見える綺麗な夜だったのだが、現在窓が開かれ、眠っていた私のベッドの上に正座して一人の少年が乗っかっていた。

 ぴょこぴょこと、ふさふさな猫耳が可愛らしいあどけない少年だったのだが、何故彼は私の上にいるんだろうと、布団に乗っかる重みで目の覚めたものの完全には覚醒していない私がぼんやりと思っていると、彼は私ににぱっと笑って、


「君には、僕の世話をする権利をあげるのです!」


 そう私に宣言したのだった。






 現れたネコミミ少年は茶色い毛並みの耳をしている。

 何処かでこの色を見た事がある気がした私は、何処だったけと思い……思い出した。


「確か昼間、しっぽが二本生えた茶色い猫が」

「それが僕です! あれから探していたのですがようやく見つけました。君には、僕の世話をする権利をあげるのです!」

「……一つ聞いても良い?」

「なんですか?」

「男? 女?」

「……男です。人間で言うと」


 それを聞いて私は、こんなに可愛い猫耳っこは、男なのかと確信を得た。

 けれどいつまで上に乗っかられたままなのも辛いので、


「そろそろどいて頂けませんでしょうか」

「僕を養ってくれるなら良いよ?」

「……ちなみに猫の姿になれる?」

「なれますよ? ほら」


 そう言って茶色い毛並みの良い猫に変身する。

 その猫でなら、家で飼っても良いかな、猫も好きだしと私は思って、


「じゃあいいよ。君を飼うよ。それで名前は?」

「僕は猫です。名前はまだありません」

「そっかー。じゃあ、タマでいいかな」

「……まあ良いですけれど、よろしくご主人様」

「エリだよ」

「エリ、これからよろしくね」


 そう言って私の布団にもぐりこんでくる猫のタマ。

 ちなみに私は半分夢うつつだったので、これがこの猫との契約だとは知らずにいた。

 そしてそんな私達の様子を黙って見ていたクロヴィスが、静かになってしばらくして、剣から手を放したのも、何も気づかずに私は無防備に寝ていたのだった。


 




 朝起きると茶色いにゃんこが家猫になるのが決まっていた。

 しかも名前がタマで、人型の美少年になれるらしい。


「わ、私は一体何をやっているんだ。うう……」

「まあまあご主人様。所で僕のご飯!」

「……猫にたかられて……うう、私は猫の下僕にされてしまうのだろうか」

「ご飯頂戴」


 せかされてタマに焼き魚を買い与えて、猫ばかりずるいと憤る杖の妖精リリスには、タブレット状になった花の蜜を渡す。

 花の蜜を集めて作ったキャンディだが、やはり生のとれたての花の蜜の方が風味も豊かな気がする。

 そこで黙っているクロヴィスに私は、


「どうしたの? 今日は全然話しかけてこない」

「いや、そんな猫を使い魔にして、というかそういったものにエリは好かれやすいんだなと思っただけだ」

「そうなのかな? よく分からないけれど。でも猫が飼えるなら一匹欲しかったし」

「……寝る時は、部屋に鍵をかけてその猫は追い出せよ?」

「ええ! 一緒に寝ようと思ったのに!」

「添い寝して欲しいなら俺がしてやるぞ?」


 笑うクロヴィスに、私は冗談じゃないと憤る。

 自分のすぐとなりにクロヴィスの顔があるなんて、そんなの想像しただけでも……でも?


「嫌悪感がない、だと?」

「どうした? エリ」

「……いえいえ、なんでもありません。それでまたあの“棘ココナッツ”を取りに行きたいんだ。昨日のアイスクリーム、美味しかったし」

「エリは食い意地が張っているな。そういえば昨日宿屋の主人に聞いたら、エリみたいに汁だくになるので、傘をさして様子を見てから取りに行くらしいぞ?」

「も、もっと早く言ってよぅ!」


 そうすれば、あんな風に白い液体まみれにもなることがなかったのだと私は思う。

 そしてその前に朝食だと、朝早くに食事をとりに私たちは向かい、その後は上手く“棘ココナッツ”やその他の果実を手に入れて、ようやく住んでいる町に帰ることにしたのだった。





 帰ってくる途中で、私は様々な果物を手に入れられてご満悦だった。

 この世界のイチゴは蔓上の植物で、木の周りを這っている。

 そしてブドウの様な房状にイチゴがなるのだ。

 ちなみにこのイチゴの花の蜜も、蜜蜂達の好物だったりする。


 たまたま魔物が突然現れたので私は逃げ出したのだけれど、逃げる私を楽しそうに魔物は追いかけてきたのだ。

 クロヴィスにどうにか倒してもらったのだけれど、その時この“房イチゴ”の群生を見つけたのだ。

 良く見ると“房アンズ”という、杏の様な果実も実っていてそれも全て蔓上で完熟した物を採取してきたのだ。

 そのいい香りに誘われながら私は、


「とれたてのイチゴが一杯手に入って嬉しいな、全部完熟したものだし。杏も手に入ったし」

「それよりももう少し自分の身を守れるようにしろ」


 クロヴィスが呆れたように私に言うが、私にだって思うと懲りがある。だって、


「タマ、ご主人様の危機に、蝶を追い掛け回しているのはどうかと思うんだ」

「だって僕、エリに僕を飼う権利を上げただけだし」

「……もしやタマって弱いの?」

「うーん、あの辺の猫の縄張りで、ボスを務める程度の実力です」


 どう考えてもこの猫は、使い魔という名の普通のにゃんこだ。

 きっと敵が出てきても猫パンチしか出来ないだろうと、私はそうそうに戦力からタマを除外した。

 タマには後であの肉球と毛並みで私を癒してもらおうと決めてからそこで、


「ねえねえエリ、何で私というものがありながらあんな猫なんかと契約しちゃったの?」


 杖の妖精のリリスが怒ったように私に言ってくるがそこで、タマにリリスは掴まれた。


「な、何をする!」

「空を飛んでいる虫みたいだから、叩きたくなったんだ」

「この、泥棒猫が……いい気になって、絶対にゆるさないんだから!」


 リリスがそう言うと、ぼんと煙を出して、私と同じくらいの大きさになる。

 キラキラとした美少女だがすぐにニヤリと悪い笑みを浮かべて、タマを抱き上げて、


「この猫風情が勝手に私のエリと契約しおって」

「むっ、この僕のご主人様になれる権利をあげたのに、お前みたいな弱そうな奴なんて、にゃあにゃあ」

「ふ、こうやって顎の下あたりを撫ぜられるのがお前は好きなんだろう? ふふん」

「にゃ、にゃぁ~、そこはらめぇ~」


 実は猫の扱いが上手いということが発覚した杖の妖精のリリス。

 そこでクロヴィスが深く嘆息した。


「……また邪魔が増えた」

「クロヴィス、今何か言った?」


 私はよく聞いていなかったので問いかけるとクロヴィスはそこでにやっと笑い、


「街に戻ったら、すぐに近場に戦闘を……」

「駄目だよ、折角とれたての果物があるから料理しないと。途中で肉も手に入ったし、スーパー……じゃなくて、エルフィ総合店に行って、調味料なんかも少し購入して、パンも買ってこよう。……クロヴィスにもごちそうするから、今日の戦闘は無しじゃ駄目かな」


 これでどうにか逃げられないかという気持ちも半分私にはあったのだが、それにクロヴィスはしかたがないと少し楽しみなように答えたのだった。






 焼いたお肉とレタス、玉ねぎに、甘じょっぱいソースをかけて作ったサンドイッチ。

 そしてイチゴを綺麗に洗い、砂糖を事前に振っておいて果物から水分を出して、ことこと煮詰めて作ったジャム。

 砂糖が少なめなので保存性があまり良くない……と思った所で、魔法の冷蔵設備を思い出した。

 このゲームではそこに入れておくと、それ以上は腐ったりしないのである。

 

 ただ日数を経過させた場合、熟成させて美味しくなるものもあるので、それように別の冷蔵庫もあるのだが。

 どちらも魔法で動く優れものだ。

 とりあえず二人分のサンドイッチと、タマには干した魚、リリスには先ほど出来たばかりのジャムを小さな器に乗せて、玩具のようなスプーンを添えてやる。

 店に小さな妖精用の食器一式が売っていたのでついでに買ってきたのだ。


 そして出来上がったばかりのサンドイッチと紅茶を持って行くと、クロヴィスがぼんやりと窓から空を見ていた。

 どこか憂いを帯びたように見上げていて、私はどきりとしてしまうが、すぐにクロヴィスは私に気づいたらしく、


「どうした? ……美味しそうだな」


 微笑む彼に私はそれを渡す。

 どうだろうと思ってみていると、口に含み咀嚼し飲み込む彼は、


「美味しいな。エリは料理の才能があるのか?」

「!そうです! なのでここに引きこもりで……」

「だが明日もまた連れて行くからな」

「うう、そろそろ依頼を受けたいし魔法調合もしたいかも?」

「仕方がない、譲歩して明後日だ。だが明日も様子見に来るからな」

「う、うぐ、分かりました」


 そう答えながら私は、小さく戻った杖の妖精リリスにジャムを、タマには干した魚をあげたのだった。

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