気づかれた
夕食の後、人形について詳しく聞きたいと言われたので私だけ呼び出された。
また何かお話があるのかなと私が思っているとそのとおりだったようだ。
ここの主であるミルスとフェンリルがそこにいて、そこでミルスがまず、
「娘を癒してくれてありがとう。まずは再び礼を言わせて頂きます」
「いえいえ。私に出来る事でしたから」
「……こうなることをすでに知っていたのですか?」
伺うように私をみる彼に私は苦笑する。
「いえ、ただ、その“宝石蝶”の鱗粉がそういった効果があるのを知っていただけで、貴方の娘のレティシアがそんな風になっているとは思いもしませんでした」
「そうですか……全てを知っているわけではない、ですか」
「はい」
「でもそういった知識はあるのですね。実は貴方がほしいといったあの品種改良済みの“幽月の空草”は、最近出来たばかりの新しい品種でして」
「そう、なのですか?」
ゲーム内では、出来てから随分時間が経っており、販売も時々されていたようだけれどと私が思いつつ、
「手に入れるのが結構大変だったのですか?」
「本来であればそうだったのですが、あの人形を届けていただけたので、内密に……と分けていただけました」
「あの人形、その植物を育てるのに必要な物だったのですか」
「ええ、特に最近はあの区域は別のものを作るのに使われておりまして。ただ斜陽産業だったので、別の植物を育てるのに使っていたのです。元々は我々“深淵の魔族”や人間だとそれの持つ魔力の影響で品質が低下してしまうので、“人形”を使っていたのですが、その名残で“人形”を使っているといい物ができるので、人手不足もあって現在も“人形”を使っているのです」
「結構重要なものだったんですね」
「ええ、でも品種改良のものが出来た時に呪われてよかったですね。ただの“幽月の空草”では、呪いを解くにも一年以上かかりますから。しかもその草自体も、遠い昔に、滅んだ都市にのみ存在した薬草がこの都市で残っているだけなので貴重なものですから呪いを解くのは大変だったでしょうね」
「フィオレ、ひょっとして凄く運がいい?」
「そうですね」
予想外に大変な事態だと私は認識させられる。
そんな私にそのミルスは、
「そう、それは貴方にも言えることです。貴方はとても“運”がいい」
「ではこの“運”の良さで、ハッピーエンドを掴んでみせます」
「そうしてください。……実は我々魔族も一枚岩ではなくて、貴方をここで試そうとしているのは宰相のルーザリオンの一派なのです」
「……あのドSですか」
「ごふっ……失礼、我々側にも彼が何をするのか把握できていないのです。魔族の道具袋を持っていますよね?」
「はい、確かそれで場所がわかるんでしたか?」
「そうです。それでこちら側も貴方の動きを見ていますので、何かやらかした時にはすぐに駆けつけられるようにしています」
「助かります」
「いえいえ……穏便に事を済ませたいのは我々も同じですから」
それにフェンリルも頷いている。
そう、穏便に済ませられればそれに越したことはないのだ。
どこまで話が伝わっているのかは分からないけれど、そこまで話をしてからミルスが、
「とはいえ明日は、ここの地下施設の案内をさせて頂きますよ」
「? どうしてですか?」
「そのルーザリオン様方が、それをお望みだからです。あそこは我々この国の住人にとっても大事な場所なので、あまり無茶なことはして欲しくないんですよね……」
嘆くように呟くミルスに、私も気をつけますと答えて別れたのだった。
エリが呼ばれて、クロヴィスは一人客室のバルコニーに外に出ていた。それを見ながらフィオレはアンジェロに言う。
「呪いを解く手助けをしてもらったり、エリには助けてもらってばかりだ。私も何か力になれればいいのに」
「フィオレにしては珍しい」
「……アンジェロは私をなんだと思っているんだ」
「いえ、そうですね……やはり友達はフィオレには必要だったんだなと思い直しただけです」
笑うアンジェロのその言葉を聞いてフィオレは思い出した。
「よくも今まで私の友達を全て排除したな」
「子供の独占欲のようなものです。とはいえ、フィオレを狙ってくる危険な輩が後を絶ちませんでしたからね」
「ふん、私は自分の魅力を分かっている」
「分かっている割には、チョロっ……いえ、何でもありません」
「今、私に酷いことを言おうとしただろう!」
「ははは、私さえいればフィオレには十分だと思いあがっていたなと、私も思っていただけです」
「……そうか」
「ええ、そうです」
そこで二人は沈黙して、次にアンジェロが口を開いた。
「必要な時は手助けすればいい。それでいいでしょう、フィオレ。今から何が出来るのか探す必要なんて無い」
「……うん」
そうやって話していると気がつけばタマが側にやってきて、フィオレを見上げる。
「フィオレは良い奴にゃ」
「ありがとうタマ。だがその猫耳は弄ってやる」
「やめてにゃ~、リリス、ライ、助けてにゃ~」
ライとリリスに助けを求めるが、リリスは一緒になって耳をいじる。
そしてライといえば、
「私は自分のことで今は手一杯なので、タマ様は自分で何とかしてください」
「ライの薄情者~、にゃ~ん」
そうやっている内に、エリが戻ってきたのだった。
クロヴィスがまた空を見ているらしいと聞いて、私もバルコニーに出る。
そこには空を静かに見上げているクロヴィスがいた。
空の高い場所にあるからだろう。
やけに空が広く感じる。
でもそれよりも、私は月の光に照らしだされるクロヴィスに魅入られていた。
風になびく金色の髪に優しげな表情。
その青い瞳がうつしている世界は、どんな風に見えるのだろうと、同じ世界を見てみたくなるようなそんな感情を覚える。
俺様な感じのイケメンだったはずなのに、今はどことなく違うようにみえる。
そこでクロヴィスは振り返る。
「エリ、話は終わったか?」
「うん、クロヴィスはまた空を見ていたの?」
「ああ。同じように見えて、あの砂漠の空とは全然違うなと思ってみていた」
「そっか。じゃあ……これからも私と一緒に、色々な場所の空を見ようよ」
クロヴィスが空を見るのが好きなら、もっと他の場所に行って見上げるのもいいかもと私は思ったのだけれど、そこでクロヴィスは驚いたように私を見て、
「エリと一緒に?」
「うん……あれ、私、何かおかしな事を言ったかな?」
特に妙なことは言っていないはずだけれどと私が思っていると、クロヴィスがやけに嬉しそうな……否、意地悪そうな顔になり、
「いや……そうか、そうだな。今後は泊まりこみで戦闘の依頼を受けるのもいいかもしれないな」
「そ、それは無しの方向で」
「いや、エリはいい事に気づかせてくれた。よし、そうしよう」
「ま、待って、それは止めてぇぇええ」
必死に涙目でクロヴィスを引き止める私に、クロヴィスは楽しみにしていろよと笑ったのだった。
そんなこんなで客室で夜は睡眠を取り、次の日になる。
ウィルワードは結局戻ってこなかった。
後でこれが終わってから探しに行こうという話になり、私達は朝食を食べてそうそう、町の中央部に向かう。
中心部にある小さな建物が外部から来た人の入り口であるらしい。
中には筒状のガラス張りの物があり、その中には下に板を貼ったカプセルのようなものが入っている。
その様相は魔法というよりは近未来の移動できるエレベーターといった雰囲気を私は感じる。
やがて中を歩いているとそこで私はあるものに気付いた。
小さくちょろちょろと動いているその人形に気を取られて私一人が遅れてしまう。
そこで私とクロヴィス達の集団の間に、大きな壁が落ちてきて分断されてしまう。
「ええ!」
「すみません、ちょっと機械の動きがおかしいらしくて、そこで待っていてください。直ぐに人を呼びます」
そんな案内役のミルスの声が聞こえた。
仕方がない、待つか、私は運が悪いなと思っていると 、その先ほど動いていた人形が私の前に歩いてきて、紙を見せる。そこには、
「“お話したいことがあります by ルーザリオン”」
それは、公式ドSからの、私への招待状だったのだった。
人形に案内されてやってきたその場所は、円形の広い場所だった。
高い天井からは陽の光の代わりである明かりが灯っていて、その中心にある小さな装置を強く浮かび上がらせるように照らしている。
灰色の石と錆びた金属の透明な輝石で作られたそれ。
その中央には四角い窪みがあり、それが何であるのかを私は知っていた。
それゆえに私は、その装置を通して反対側にいるその魔族に私は、問いかける。
「まだ約束の期限は来ていません」
「……その約束が守れるだけの何かを見ていない私達には、無理な相談です」
「……だからと言って、ここで私達とクロヴィスに戦闘をさせる気ですか? その装置を使って」
そう警戒する様に問いかける私にルーザリオンは目を瞬かせ……嗤った。
「その石板は、戦闘には使いませんよ。それは石板のもう一つの効果です。ああ、その装置があるからですか? その装置には別の使い道があります」
「別の使い道?」
「ええ。この空飛ぶ国と世界の一部とで、快適な住みかを探すための旅に出る、そう、時空を渡る装置です」
それを聞いていた私は目を瞬かせて、
「行く当てはあるのですか?」
「すでに幾つかの候補はみつけています。クロヴィスを殺しても殺さずとも世界が滅びるなら、その方法しかないでしょうから」
「……クロヴィスは、この世界を滅ぼさない」
「その確かな証を見せて欲しいと言っているのです。でなければ全部を保護できないこんな不確定な方法をとる選択肢を考えたりなどしません。そしてそれにも貴方の力は幾らか必要ですが」
「空間に作用する力、ですか」
「ええ、それを、正確にはその力の持ち主の魔力を増幅する効果も、付属の効果としてその石板にありますから」
「何故そんな急に?」
私の問いかけにルーザリオンは更に笑みを深くして、
「この世界の歪みが、最近加速度的に多く発生しておりまして。この分だと、近いうちにその歪みの、それも我々で手に負えない物が発生する予測が出てしまったのです」
「……私が知っている物語では、イデア山にこの国がいった時にそれが起こりました」
「確かに一カ月後にこの空飛ぶ国はそこに停泊予定だ」
「では……」
「だが予測では、この空飛ぶ国のこの付近で数日中に生じる、そういった予測が出た。今まで大きな歪みに関しては外した事のない装置でな」
「……では、どうすれば納得してもらえるのでしょうか」
私はそう問いかける。
クロヴィスはもうすでに、この世界を滅ぼそうなんて思っていない。
だからそれを少しでも伝えたいと私は焦っていた。
このままでは全ての努力が水の泡だ。
初めに異世界の住人だと話してもフィオレ達は信じてくれたから、守りたい気持ちだって私にはある。
この世界で手に入れた友人も、大好きなクロヴィスも守りたい。
欲張りな願いだけれど、それはきっと今、私の手の届く場所にあるのだから、ここで負けるわけにはいかない。
そんな決意を持って私は見返す。
そんな私にルーザリオンは笑いながら、
「そう神と対になる物はこの世界に未だかつて存在しなかった。だから呼びだす方法を生み出せたものの、その時は司祭達の犠牲も含めてどうにかクロヴィスを弱らせ、退ける事が出来た」
「そうですね。クロヴィスは“いじけて”別荘に引きこもったのでしたっけ」
「……え?」
「……え?」
「……」
「……」
「それで、それを指し示すために石板には神と魔王を示す歯車が存在し、その二つがなければ我々は存在できないといった戒めもありそこには記されているのです。そして魔王がいるからこそ、世界の命運は動き出し、正常に作用するといわれているのです」
「えっと、今、何か……」
「あのクロヴィスがそんな愁傷な態度をとるはずがないでしょう」
そう言いきるのを聞きながら、ルーザリオンを見ながら私は思う。
だって、この前からずっと、
「貴方はクロヴィスに対して、決めつけばかりだ」
「私の知っている彼はそうです」
「でも私が知っているクロヴィスは……多分貴方が思っているよりもずっと繊細です」
昨日だって空を見上げて、笑みをこぼしていた。
一緒に見に行こうといったなら、戦闘させられそうにはなったけれど嬉しそうだった。
フィオレに力の事を言われて苛立って、でも、その後は仲直りをしたようだった。
クロヴィスは、このルーザリオンがいうよりもずっと豊かな感情があるのを私は知っている。
それに今はもうクロヴィスがこの世界に魅了され始めていて、一番望ましい結末を終えられる状態なのだ。
なのに頑なに自分が正しいと思って、それを押し通そうとして、私達の声なんて少しも聞く耳を持たない彼に私は、
「貴方の方こそ、最善のふりをした最悪を選択しようとしているだけではないのですか?」
「この私が? そんなわけはない」
「その自信が命取りだと私は思います」
睨みつけるように私を見たルーザリオンを私は、臆することなく見返した。
ルーザリオンが一瞬、顔をそむけようとしてぎりぎり踏みとどまる。
それが悔しかったのだろう、小さく舌打ちをして、
「この魔王は“失敗”だった」
「私は“成功”だと思います」
「……君はどうしてあのクロヴィスを信用できる? この世界で自分の正体を隠して、ずっとそばにいた人間をどうして信用できる?」
「一緒にいて、私はクロヴィスを信頼できる仲間だと思いました」
「あれはこの世界を崩壊させる“神”であり、力を与えたとはいえ、君をこの世界に引き込んだ存在だぞ?」
「知っています。クロヴィスの正体は初めから分かっていましたから。それでも私は……」
クロヴィスを信じていると私は続けたかったのだ。
けれど、私はそこまでしか言えなかった。
だって、いつの間にか私から少し離れた場所に“彼”がいたから。
どうしてと思うと同時に私は、“罠”に嵌められたのだと気付く。
けれどもう遅い。
“彼”はゆっくりと私に近づきながら、笑みを浮かべて私に告げる。
「なるほど、エリは初めから全部知っていたのか」
その声が、私には酷く酷薄なものの様に聞こえたのだった。
時間は少し前。
エリと分断されてすぐ、クロヴィスは異常に気付いた。
正確にはフィオレを狙ってくる魔族達が大量に湧いたのだ。
攻撃する際に全員がフィオレを狙っているのが何処から見ても分かりやすかったが、こちらには他にも魔族のミルスやライもいる。
フェンリルやアンジェロも、そして当のフィオレ自身も人間の中では強いほうだ。
だが襲ってきた彼らの集団は、クロヴィスによってほぼ全て倒された。
その恐ろしいまでの圧倒的な強さに、全員が茫然としてしまうほどだったが、そこで我に返ったフィオレが、
「クロヴィス、ありがとうございます」
「……エリが心配だから先に行く」
そう告げてクロヴィスは、フィオレのお礼は無視して走って行ってしまう。
クロヴィスの事だからエリの居場所は分かるのだろうけれど、
「助けてくれただけでも、上等か。どうも私は、恋愛感情以外でクロヴィスに惹かれているようだ」
そう苦笑するフィオレにアンジェロが、
「それがフィレの血による物ですか。何となく嫉妬してしまいそうになります」
「私が一番好きな相手はアンジェロだからそれで我慢してくれ」
「……そうですね。そもそもクロヴィスは、エリにあそこまで夢中なのですから嫉妬しても仕方がないですね」
そんな話をしている間にも次々と魔族が現れる。
やけに皆が皆、必死の形相で、ライやミルスも慌てた様に誰かと連絡をとっているようだ。
そこで、一人取りこぼした魔族の内の一人がフィオレに襲いかかる。
何とかフィオレはそれに抵抗していると、その攻撃してきた魔族に一斉に人形が張りついて視覚を奪う。
驚いている魔族をとりあえず倒してからフィオレは振り返るとそこにいた人物は、
「お手伝いくらいはできそうな時間に戻ってこれたようですね」
ウィルワードがそう、余裕めいた声で現れたのだった。
クロヴィスは走りながら嫌な予感を覚えていた。
「エリ……」
そう呟きながら、何も知らずに今までどおりに、エリと共に居たいとクロヴィスは思う。
けれどクロヴィスは、エリの奇妙さに気付いていた。
違う、見ないふりをしていたのだ。
どうしてか、理由は、
「エリには、俺自身を見て欲しかったから。俺自身を愛して欲しかったから」
そんな気持ちを抱いていたから、そうした。
それだけクロヴィスには真剣な相手だったのだ、エリは。
初めは一目ぼれ。
そしてそれから一緒にいて、知れば知るほど、捕らえて自分だけの物にしてしまいという独占欲は強くなる。
なのに手を出さなかったのは、もしも力ずくで奪おうとしたなら、エリに“拒絶”されるのではないかと不安があった。
だからクロヴィスの正体が知られたなら、否、エリが口にしたなら連れ去ろうと決めていた。
口にしたらと決めたのは、エリが妙にこの世界の事を“知っている”ようだったから。
だからそれを越えてはならない線にした。
そしてエリはその線を、時に甘言で誘惑しても越えてこなかった。
クロヴィス自身もそれで現状にある程度満足していたから、不都合はなかった。
やがてエリの気配が近づいてきて、無事かと安堵したその時、クロヴィスは聞いてしまった。
一人は魔族の話声。
そして答えるのはエリで、
「あれはこの世界を崩壊させる“神”であり、力を与えたとはいえ、君をこの世界に引き込んだ存在だぞ?」
「知っています。クロヴィスの正体は初めから分かっていましたから。それでも私は……」
ああ、何だ。
エリはもうすでに気づいていたのか。
だったらもう我慢しなくていい。
自然とクロヴィスの顔に笑みがこぼれる。
だって彼はクロヴィスの線引きを越えてしまったのだから。
そこでエリはクロヴィスに気付いたようだ。
何処か顔色が悪いようにも見える。
意外に勘が鋭いのだなと心の中で思いながら、クロヴィスはゆっくりとエリに近づき、
「なるほど、エリは初めから全部知っていたのか」
もう全て、この茶番は終わりだと、クロヴィスはそうエリに告げたのだった。
現れたクロヴィスに私は、どう答えればいいのか分からずに棒立ちになってしまう。
そんな私に、クロヴィスは更に笑みを深くしながら、
「やはり気付いていたのか」
「あ、う……」
まさかあれから数日しかたっていないのに、約束が破られるなんて私は思いもしていなかった。
だから、頭の中が真っ白になって、私は何も言えなくなってしまう。
そんな私にクロヴィスは優しげな声で、
「もっとも、まさか初めから知っているとは思わなかったな。だが途中で……エリは気づいているのではと思ったが」
クロヴィスに告げられたその言葉に私の体が更にこわばる。
確かに私は何度か、クロヴィスが訝しそうに私に問いかけていた事がある。
でも、その後は特に何もなかったから“上手く誤魔化せている”と思っていた。
けれど、実際にはそんな簡単に誤魔化されてくれなかったのだ。
多分黙っていたのは全部、クロヴィスが、彼自身が引いた線を越えていなくて、今のままでいたいとクロヴィス自身が思っていたからだ。
そう私は思いながら、問いかける。
「……いつ、私が気付いているって思ったの?」
「石切り場に行って、触手に連れ攫われていた時には既に、予感はあった」
「そっか……」
随分と前から、私は疑われていたらしい。
それでもクロヴィスは黙って私の傍にいてくれたのだ。
と、何処か不思議そうな声音を含ませながら、クロヴィスは私に、
「どうしてエリは、俺の正体を知っていたんだ?」
「私達の世界の、“ゲーム”っていう“物語”があって、それで知っていただけでまったく同じじゃなくて……」
しどろもどろになってしまう私にクロヴィスが嗤う。
「なるほど、そういえばエリを呼びだす時に俺の世界と似たものが見えたが、それで“知って”いたのか」
「う、うん。ただその世界の主人公はミレニアムちゃんだったけれど」
「……そうか」
「まさかここに来て、結婚してイチャイチャしているなんて思わなかったし!」
「まあいい。どの道、お前は一線を越えたのだから……」
「どうするのかな?」
「俺の屋敷に連れ去って俺だけのものにする。ずっと狙っていたのだから……な」
「初めから?」
「初めからだ。そもそも俺の許可がなければこの世界に、エリ、お前は来ることが出来なかった。一目見た時から……奪いたいと思ったのだから」
笑うクロヴィスに、私は話に聞いていたけれど現実感のないそれが正解だったとしている。
今まで戦闘につれていかれたりしたことも含めて、そこまで“溺愛”“執着”されている自覚はなかった。
でも今の話を聞く限り、初めからクロヴィスはずっと……そういった感情を私に持っていたようだ。ただ、
「私の感情は無視?」
「俺の心を鷲掴みにして狂わせた責任はとってもらうつもりだった。元からな」
それはいずれ私を必ず奪うという宣言だった。
だったらどうして私を初めから、連れ去ったりしなかったのだろう。
まるで、クロヴィス自身が、
「一緒にいたのは、クロヴィスという存在を私に“好き”になって欲しいから?」
「……退屈で、そして俺は“絶望”していたから、気に入ったエリと一緒に少しくらいは“遊んで”もいいと思っただけだ」
「この世界で? 新しい世界を作ってではなく?」
ふと頭に浮かんだ単語を告げると、クロヴィスが沈黙する。
どことなく機嫌が悪そうなのを見ながら、私は図星らしいと微笑む。
クロヴィスは、初めから無意識の内に選択していたのだ。
私と一緒に、“この世界”で過ごしたいと。
クロヴィスはただ拗ねていただけなのだ。子供のように。
だからはじめからずっと……人や魔族に裏切られた後もずっと、愛着があるから、嫌っていた。
そんな私を見てクロヴィスは、
「……エリ、調子に乗るな。お前の命運は今、俺の手の中にある」
「本当の事を言われたから、クロヴィスは機嫌が悪いのかな?」
「……勘違いするな。そもそも俺が許可したから、この世界にエリは来ることが出来て、そして今自由でいられるのも俺が自由にさせているからだ。そして、エリの使っている力も道具も全部俺が渡した物だ。だから……エリの全ては俺のものだ」
傲慢に私はクロヴィスのものだと言い切った。
それを聞きながら私は、
「どうしてそんな力を私にくれたの?」
「……エリが自分の身を守れるように。この世界には危険なものがいっぱいあるから。そして、その“ゲーム”の世界を、俺にはよくわからないが、エリは見て知っていたようだから、この世界で使いやすいように、身近なものを得て安心するように、その世界の魔法のようなものを複製してエリに付加した」
「それがどんなものかはクロヴィスには分からないの?」
「ああ。あの似た、この世界を模した模型のような世界がどのような物なのかは、この世界に存在しない“概念”のようだ」
TVゲーム自体が確かにこの異世界には存在していないようだ。
だからその“概念”自体をクロヴィスは認識できなかったのも本当だろう。
それ故に、私に魔法を使わさせたりしていたのかもしれないが。
そこでクロヴィスが真剣な表情で、
「だが、その付加させたものがこの世界とこれほどまでに似ているとは俺も思わなかった。似た世界を経由したとはいえ、その世界と接しているという事は……エリ達の世界も俺達の世界とは別の進化をたどった平行世界の一種なのだろうな。ここまで似たものが生まれるのはそういう事だろう」
「そうなんだ。だから私も“ゲームの世界”にはいったんじゃないかって疑問に思ってた」
「異世界のものを呼ぶにはその媒介となる似た関連するものが必要になるから、“ゲーム”がそれになったんだろう。まさかこの世界にある特殊な道具を俺自身が再生させて持たせたり、この世界の知識まで持っているとは思わなかったが」
「似た知識だよ。全部同じじゃなかったから。でも以前そこにいるルーザリオンから聞いていたとおりだったんだね」
「そうか、俺が力を与えていたことも全部知っていたのか。どうりで落ち着いているはずだな」
クロヴィスが笑いちらりとルーザリオンをみる。
ルーザリオンがそれにビクッとしているのを見て私は小さく、ざまぁ、と思いながらもクロヴィスをすぐにまっすぐに見据えて、
「クロヴィスが私にそんな力をくれていたから、私はこの世界で不安がないんだね」
なんだかんだ戦闘も出来たし。
自分の身を守るすべを与えてくれていて、しかもそばに居て守っていてくれたのだ。
クロヴィスは、私に“優しい”から。
それが嬉しくなって微笑んでいるとそこでクロヴィスは私に、口ごもるように告げた。
「それは違う。お前がある一定の不安を感じると記憶が消えるように設定しているからだ」




