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空の国で

 夜、部屋に戻ると、それまで何故かそわそわしていたフィオレ(アンジェロと一緒に寝ないのかと聞くと、私を寝不足にする気かと怒られた)とライ、リリス、タマが私を取り囲んだ。

 なんだろうなと私が首をかしげていると、フィオレが、


「明日はクロヴィスとデートという事だな」

「え?」

「なんだ、気付いていなかったのか。さあ、明日用にどの服を着るか、私達もお手伝いして差し上げましょう」

「い、いいよ普通の服で」


 私はあれでそれであーんな感じになりそうなのでそう答えるも、そこでフィオレとライが頬笑み、


「「まあいいじゃないか。着せ替えするのも楽しそうだし」」

「そ、それが本当の狙いか!」


 楽しそうな二人から少しでも距離を取ろうとするが、そこでタマが私の足に猫の形で抱きついて、


「エリが逃げないようにしてやったにゃ」

「タマが裏切った!」


 ペットに裏切られてしまった私は逃げられず、迫りくるライとフィオレの魔の手を涙目で見ているしかできなかった……わけではなく。

 さっと持っているアイテムを取り出して、その粉末を二人と一匹にかける。

 パタンと倒れた二人と一匹を見て私は小さく笑う。


「くくく、私がいつまでも簡単に着替えさせられると思うなよ? この“子守唄の眠り粉”を使えば一瞬で夢のなかなのさ。……よし、眠っている内にフィオレとライを凄い格好にさせてやる。タマは……猫モードだから、首にフリルを巻いておこう」

「あ、私も手伝います」


 リリスがタマにフリルを付けると言ったら飛び付いてきた。

 こうしてうちの家猫と、友人二人を綺麗に着飾らせてからベッドに放り込み、私もその日は気分よく眠ったのだった。








 恨めしそうに私を見ているライとフィオレ、タマを見なかった事にしつつ朝食をとる。

 ソーセージと卵焼きに野菜のサラダ、後はパンにコーヒーという軽めの食事をとって、


「うーん、フィオレに料理をさせないために、お昼のグラタンの用意はしておくね」

「エリ……覚えていろ」

「今はアンジェロもいるので大丈夫かな」


 それにお任せをと答えてくるアンジェロに、フィオレが頬を膨らませていた。

 それからお昼の用意をして、私とクロヴィスは家を出る。

 こんな風に普通のお出かけは記憶の中ではないような気がする。


 そう思いながら歩いていくと、クロヴィスが、


「いい天気だな」

「そうだね。雲一つないよ」


 何処までも青く、深い色に染まっていく空を見上げる私。

 でも会話はそれから止まってしまった。

 いざこうやって二人になると何を放せばいいのかが分からない。


 無理やり戦闘に連れて行かれた時は、結構話していたし悲鳴を上げていた気がする。

 どうしよう。

 でも余計な事を聞いて変に勘ぐられても困るし。


 そうやって私が延々と悩んでいるとそこでクロヴィスがポツリ。


「……戦闘でもしに行こうか」

「どうしてそうなったんですか!?」

「いや、エリも黙ってしまったからそちらの方が良いのかなと」

「よくないです、絶対に良くないです!」


 私は慌てて否定した。

 だって私は戦闘にはできる限りいきたくない。

 なのでクロヴィスの何処か意地悪そうに細められた青い瞳を私は見つめて、


「きょ、今日は楽しく遊ぶ! 行こう!」

「あ、おい!」


 そこで私はクロヴィスの手を握り、引っ張るように駆けだした。

 市が出る場所は私も知っている。

 だからそこに向かって走り出す。


 と、クロヴィスが小さく笑って、


「俺の手をエリが引っ張るのか。いつもは俺が引っ張ってばかりだったのに」

「そういえばそうだね。よし、今日は私がクロヴィスを振り回してやる!」

「では今日は俺がふり回されてやるよ」


 そんな会話をしているとやがて市につく。

 いつも以上に道には人があふれていて、屋台が沢山立ち並んでいる。

 珍しい北の方の海で採れた海産物や料理、南の方からは様々な果実や工芸品など屋台に並べられて、店主が宣伝している。


 フィオレ達にお土産として、変わったフルーツ……ピタヤというサボテンの果実に似た物があったので何個か購入した。

 また、別の果物が串に三種類ほどさされていた物が販売されていて、それのチョコレートがかかった物を購入し、食べながら見て回る。

 試しに花の髪飾りをクロヴィスの頭につけると以外に似合うかもと言って笑っていたら、クロヴィスにその髪飾りを購入されて私の頭につけられてしまった。


 何だかドキドキしながら歩いていくと、変わった果物をクレープにした物が売っていたのでつい目が行ってしまっているとクロヴィスが、


「エリは食べる事ばかりだな」

「! だ、駄目なのかな?」

「いや、別に。あ、あそこに魔法使いに必要そうな材料が売っているぞ?」

「本当だ!」


 そんなわけでそういった石やら草やらを見ていて、この辺では購入できない物を幾つか購入。

 そしてまたいろいろなお店を見て回って、女性用の服のお店の近くに行ったり、クロヴィスが可愛い女の子達にきゃーきゃーいわれているのを見たりしつつ、他にもささやかな出来事があった。

 やがて市を抜けて近くにある公園のベンチで私達は座り込んだ。


 歩き回って少し疲れてしまった私達。

 デート? というには甘くない気もしたけれど、結構楽しかった気がする。

 そこでクロヴィスが小さく苦笑して、


「何時まで手を握っているんだ?」

「あ、ごめん」


 慌てて手を放す私。

 こんな所まで手を握っているのも、確かにどうだろうと私は思ったのだけれど、すぐにクロヴィスに肩を抱き寄せられて私は、手を握らされてしまう。

 クロヴィスは何も言わなくて、私も何も言えなくて。

 

 隣同士で座ってしばらく静かな時が流れる。

 それが酷く当り前の空気になっていて、それが私には意外で、試しに頭の中でクロヴィスを消してみると、酷くそわそわしてしまう。

 これは一体何だろう。


 でも酷く心地が良いのは分かって、これが“好き”という事なのだろうかと私は思って……私の心の中に、すとんとその言葉が落ちてきて溶けて消えてしまう。

 まるで当り前の様にその言葉は私の体と一体化してしまって、けれどそれが変な感じもしなくて。

 そこで私はようやく認めた。


 きっと私はもうすでに、クロヴィスを恋愛感情で好きなのだ。

 気付いてしまえばあとは簡単な話だ。

 だって私をクロヴィスは好きなのだから。


 でも、まだ告白する勇気は持てないから、もうしばらくこのままでいいと思ってしまう臆病な自分にも私は気づいて、困ってしまう。

 どうしようと思っているとそこでクロヴィスが、


「どうした? 考え事か?」

「うん、まあね」

「極端に不安に思う事は無いはずだが……」

「私が鈍感だって言いたいの? クロヴィスの意地悪」

「いや、そういう意味ではないんだが、そうだな。確かにエリは鈍感だな」

「何、それ……」


 そこでクロヴィスが複雑そうな表情で私を見てから、


「そろそろ帰ろうか。陽が沈む」

「……うん」


 そう言われて、私はクロヴィスと手をつないで家に帰る。

 楽しい一日だった。

 しかも帰ると、皆が私とクロヴィスをずっと追いかけてきたり、ウィルワードが誰かとデートしながら追いかけてきていたけれど途中から本当のデートになっていた事が発覚したり、私の作ったお昼ごはんが夜ごはんになったりした。

 そして、明日の予定は空飛ぶ国に向かう、そんな話をしてその日は私達は眠ったのだった。







 さて、次の日、山登りに行く事になりました。


「さてと、お弁当は、サンドイッチ~。あと飲み物も持っていこう! 他には“宝石蝶”の鱗粉も集めて置いて瓶詰めして……」


 そんな準備をして、正確には巨大な茶色のバスケットに詰め込んでいたのだけれど、そこでクロヴィスが覗きこんで、


「遊びに行くみたいだな」

「う、うぐっ、でもこの程度は……」

「まあいい。もう皆支度しているぞ。ウィルワードも来たから……」

「とりあえずは空飛ぶ国に行って、この人形を返して、事情を説明してフィオレの呪いを解除する草をもらってこないと」

「その草はなんて名前なんだ?」

「“幽月の空草”だけれど、あの空飛ぶ国で品種改良した物が必要だったと思う」

「……貴重なもののようだが」

「うん。でもとりあえずは行ってみないことには……それにこのウィルワードさんの人形があそこにあるってことは、ウィルワードさんがいればあそこで、何か、vipみたいな扱いに……」


 ふと気付いた私はそうウィルワードに問いかけるけれど、ウィルワードは笑って、


「それはないかな。むしろ追い出されるかも」

「え? そうなのですか?」


 意外に思っているとそこでクロヴィスが、


「よし、ではウィルワードは置いていこう」

「酷いな。でもなにかの役に立つかもしれないし僕はついていくけれどね」

「……今度はなにを考えているんだ?」

「いや、昨日からやけに機嫌の良さそうな友人の様子をもう少し観察していようかと思っただけだよ」

「……勝手にしろ」


 では勝手にしますねとウィルワードが答える。

 でも言われてみれば確かに、クロヴィスの機嫌は昨日からいいようにみえる。

 やっぱり私と一緒に回ったからなのだろうかと私が期待をしていると、そこで、


「やっぱり、猫耳は嫌だ……ふあぁあああ、やめっ、アンジェロ、やぁああんっ」

「朝から可愛い姿で誘惑してきたり、私も生殺し状態で結構きついのですが……フィオレはどう責任とってくれるのでしょうか?」

「やぁ、ぁああっ、だって、この服はエリが勝手に……」

「ふふっ、そんな言い訳は通用しませんよ?」


 アンジェロがフィオレの耳をそう言いながら楽しそうに弄って喘がせている。

 この人達はなにをしているんだろう、こんな朝からと私が思っているとそこでフィオレはタマを抱き上げて、


「おい、タマ、私の耳を周りから認識できないように出来るか? 帽子で隠すにしても……」

「おそろいだし構わにゃ……にゃにゃにゃ」

「耳をいじられたくなければ、やり方を教えろ」

「お、横暴だにゃ! ……にゃ~ん」


 そこでタマがなくと、フィオレの耳が消えた。

 アンジェロもそれをさわろうとするけれど、


「上手く触れませんね」

「認識操作と実態を上手く重ねあわせた魔法なので、さっきまで見えていた場所にはありませんのにゃ」

「すごい魔法ですね。これからじっくり観察させていただきます」

「……人間にはあまり知られたくないのですにゃ」


 そうタマが嘆いていたりするが、そこで私の家の前に馬車が2台止まって、私の家の扉が開かれたのだった。







 その馬車の持ち主はフェンリルだった。

 そんな簡単に魔法使い用の家のドアが開いてたまるかと思ったのだけれど、王子様権限で開かれたらしい。

 でもよくよく考えると、ウィルワード達も開けていたような……実は魔法使いの家のセキュリティが結構適当なのではないかという疑惑が私の中で生まれた。


 そんな私達は現在、馬車に揺られていた。

 正確には訳もわからず私とフィオレ、私にひっついていたタマが詰め込まれて、ライのはなせという悲鳴が聞こえたのだが、そのすぐ後にフェンリルの声がして、私達の方の馬車に、アンジェロ、ウィルワード、クロヴィスが乗り込んできた。

 そして片側に、私とクロヴィス、反対側にウィルワードとアンジェロ、フィオレが座っている。


 ちなみにライはフェンリルと一緒の馬車に乗っている。

 現在私たちは、馬車に乗りながら空飛ぶ国に連れて行かれている最中だった。

 何でもフェンリルがたまたま空飛ぶ国に行くので、連れて行ってくれるらしい。


 ライが、フェンリルと一緒にいくのを嫌がっていたが、あそこに入るには数ヶ月という審査が必要と聞いて大人しくするしか無いと気付いたらしい。

 私達が楽観的すぎたのかもしれないが、運が良かったように思う。

 でもこれは、本当に運がいいのだろうか?


 石板が本来無い場所に設置されていて、今、“深淵の魔族”ともつながりのあるフェンリル王子に連れて行かれて空飛ぶ国へ。

 何かできすぎな気がするけれど。

 でもまだ約束の“期限”はまだ先だ。


 まだ私の様子を見る何かがあるのだろうか?

 それとも他の意図があるのだろうか?

 ふっと目の前が暗闇に閉ざされそうになった所で、私はクロヴィスに抱き寄せられた。


「馬車酔いでもしたのか? 気分が悪そうだ」

「ちょっと考え事をしただけだから」

「……そうか」


 そう答えてクロヴィスが私を抱き寄せるように方に手を回してくる。

 それに私は凄く安心してしまう。

 きっとうまくいく、全部。


 根拠の無い自信が私の中に生まれて、自然と体から力が抜けて瞳を閉じる。

 そのまま私は、心地よい眠りへと誘われたのだった。







 フェンリルに馬車に連れ込まれたライはずっと抵抗していた。


「い、いやだ、いやらしい事をされそうな気がするし!」

「ではご希望通りさせて頂きましょうか」

「こ、この……王子だからってなんでも思い通りになるなんて思わないことです」

「思い通りにすることは出来るけれど、我慢してあげているのに酷いな、ライは。……思い通りにしてあげようか?」


 ライはフェンリルを睨みつけた。

 そんな彼を自分とは反対側の座席に押しやってから、フェンリルは、


「どうもちょっかいをすぐ出したくなってしまうね。ライの存在自体が私を誘惑するからしかたがないけれど……でも、先ほど話した通り、私と一緒に行けば審査を必要とせずにあそこに行ける。いわば私は君たちの道案内役も兼ねている、というわけだ」

「本当の理由は?」

「どうやらあそこで“深淵の魔族”側が、エリ達の様子を見るらしい。それにフィオレの呪いを解くにはどうしてもあそこにいかないといけないようだしね」

「……またルーザリオン様がなにか企んでいるのか?」

「こちらもそれを警戒している。彼らが勝手な行動に出るのではないかと、ね」


 それにライは黙るしか無い。 

 一応はタマの母、クラウズの配下にいるけれどそういった重要な話はあまりライには入ってこないのだ。

 不安が増しているとそこでフェンリルは、


「君も知らないようだね。……下手な手を打てば全てが水の泡だと彼らも分かっているだろうから、それほど無茶な事はしないだろうと私たちは考えているけれどね」

「本当にそうでしょうか」

「現状では、エリさえいればクロヴィスは大人しいことが分かっているから、エリの“保護”を主として入ればそこまで大きな問題には発展しないだろうと我々は考えている。以前ライにも話したとおりにね」

「それよりも良い結末を私は望んでいます」

「そうだね。そのためにも、“深淵の魔族”が妙なことをしなければいいのだけれどね」


 最後の方は真剣な表情でフェンリルが告げる。

 それにライも、不安が胸によぎりながらも、そうですねと答えたのだった。






 空飛ぶ国につくと、クロヴィスに揺さぶられて私は目を覚ました。

 山に錨を下ろして動かないように固定されており、そこから空飛ぶ大きな板のようなもの(柵がついている)にのってその国に運ばれる。

 人が行列を作る中、ほとんどフリーパスでその空飛ぶ国に私たちはやってきた。


 ちなみに閉鎖的な場所なので審査が必要なのだ、といった理由で制限を行っているわけではないらしい。

 一応は変なものを持ち込まれないかの検査のようなものはされたが、問題はそこではなく、


「重量制限に引っかかるから?」

「あれ、エリは知らなかったのかな?」


 そんな風にウィルワードが言うのを聞いて来るのでフィオレに私は聞くと、フィオレも知らないようだった。

 ただ、知識蓄積系である“賢者”であるアンジェロはしっていたらしい。

 なのでそれをフィオレが問い詰めると、タマの魔法を一部解析したのか、場所に気付いたアンジェロが、


「フィオレのこの耳を早く治したいですからね。こんなフィオレも可愛らしいですが、やはりいつものフィオレに戻っていただかないと」

「あ、やぁああっ、耳、止めてぇええ」

「こんなに感じやすいのでは、知らない男に触れられてどこかに連れて行かれてしまうかもしれませんからね。早めに元に戻さないと。なので強行突破してでも入り込もうと思っていましたので、私は黙っていました」


 それを聞きながら私は、もし正攻法で入れなかったらどんな風になっていたのだろうとしばし考えてみた。

 ゲーム内での停泊場所が少し違うので、谷を渡ったりその他の方法は使えない。

 その場所で巨大な歪みと遭遇した記憶がある。

 話を戻すがそして魔法的なもので空を飛んで入り込もうとすると察知されてしまうので、とても長く伸びる植物をフィオレの力で生やしてそこを伝って入り込むことになっていたはずだ。


 それを考えるとこんなふうに入ることが出来てよかったのかもしれない。

 やがて、この国の馬車などの集積場までやってくると、馬車が止まる。

 馬車の扉が開かれて、外気が入ってくる。


 暑すぎず寒すぎず。

 春のような風が私の髪を撫ぜた。

 常春の国とも呼ばれるこの場所は、魔法の力で温度調整が行われている。


 他にもここの国のシステムは……と私が思っていると、フェンリルが、


「おおまかにここの国の説明をした方がいいかな?」

「せひ、お願いします」


 私は即答した。

 だって、私の知っているゲーム内と設定が異なるかもしれないし。

 そんな私にフェンリルが話しだす。


「まずの空飛ぶ国の最上層部が、人の住居になっている。そしてその下の階層に、食料を生産する場所、その下には薬草などを生成、研究する場所、そして最下層部にこの国を宙に浮かべる構造が存在している」

「もしかしてこの国自体で自給自足が出来るんですか?」


 凄い国なんだなと私が思っているとフェンリルは笑い、


「昔はそれが目的だったらしいね。ただ、今の所諸々の問題があって難しい状態だ。食料品、衣料品なども現在は輸入に頼りきっている状態で、代わりに高度な作物や魔法道具の輸出で生計を立てている。だからそういった意味で空飛ぶ国の魔法学は、我々地上の人間よりも高度なものとなっている」

「でもここの人達は……」

「なるほど、それを知っているのか。だがここに人達はそれを隠している。それに魔法が得意でなくとも観光業で生計を立てている人達もいるからそれは、妙な混乱を起こさないためにも“秘密”にしておいた方がいい」

「わかりました」


 そう答えながらも、ここの現地の人達は翼の生えた“深淵の魔族”なんだよなと思う。

 けれど観光をするならここの人達は人間のふりが必要なのだろう。

 だからこれは、口にしてはいけない“秘密”なのだ。

 私がそれを考えているとフェンリルが、


「それで話を戻すが、この国自体が作られたのは遥か昔。それも“深淵の魔族”の手によるもの。現在はどうにか維持整備している状況なんだ。それでも人出が足りていなくて、他のものを導入してきているとか」

「……もしかして、ウィルワードさんの人形がそこで働いていたりしますか?」

「? よくしっているね」

「実はこの前私の家にこんなものが落ちてきまして」


 その人形をとりあえずフェンリルに見せると、


「ふむ、ではこちらから話して渡しておこう。ちょうどこれから、ここの国のとある貴族の屋敷に挨拶に向かうから。そちらで、その猫耳に必要な物を聞いてみるといい」


 フィオレにフェンリルがそう告げる。

 そのここの国の貴族と話を通せば、こっそりフィオレの猫耳を治すためにその薬草畑に潜入しなくて済みそうだ。

 現状では、それほど大変な思いをせずに済みそう、そう私は楽観視していたのだった。








 やってきた貴族の屋敷だが、何やらタマの様子がおかしい。

 私に隠れるように後ろを歩いている。と、


「タマぁああああ」

「にゃああああああ」


 突然走ってきた背中に羽の生えた幼女にタマが捉えられ、抱き上げられた。

 リリスが慌ててタマに近寄ると、


「妖精さん、げっとー」

「うわぁああああ」


 リリスがタマと一緒に幼女に捕まった。

 タマに何処かにた茶色髪の幼女だが、その元気の良い様子に私は苦笑して、


「その子はうちのペットと杖だから放して欲しいな」

「? タマは私の従兄弟だよ」

「……そうなんだ。じゃあ妖精さんだけ放してもらえるかな」

「うん、いいよ」


 タマが、にゃああ、たすけてにゃぁああ、また尻尾を引っ張られるにゃああ、と悲鳴をあげていたのでとりあえず私はその幼女に、


「タマが悲鳴を上げているので返してもらえるかな?」

「えー、でも私、今背中の羽がおかしいから、出したままにしないといけないからってお外に遊びに行けないのに。だからタマに遊んでもらうの!」

「そうなんだ? どうして?」

「羽が“えし”する病気なんだって。“宝石蝶”がまだ捕まえられないから、痛みを遮断する魔法をかけてお家で大人しくしていなさいって」

「……何処の部分がそうなっているのかな?」

「ここー」


 そう言って幼女は羽の先の方を見せる。

 黒ずんだ色になっているその場所を見て私は、とりあえず何かの役に立たないかなと思って持ってきた“宝石蝶”の鱗粉を入れた瓶を取り出し、その羽の部分にかける。

 黒い色になった羽の表面が岩のようにつややかになったかと思うと亀裂が入り、パリンと乾いた音を立てて崩れ落ちた。


 その後からは白い羽が見えていて、黒いあの症状は見えない。

 どうやら癒せたようだ。


「レティシア、何処だ?」

「あ、ぱぱー」


 そこで一人の男性が現れて、その幼女、レティシアがその男性に駆け寄ったのだった。









 その男性は、この家の主のミルスであり、レティシアの父であり、タマの叔父であるらしい。

 そして、レティシアの病気を治した事に物凄く感謝された私は、代わりにフィオレの呪いを癒やすための草を貰えるようお願いした。

 特殊な草であるらしいが、手に入れてくれると約束してくれた。


 また、フェンリル王子は人形を渡すと大喜びで、ミルスは何処にあったのかを聞いてきたので、私の家に降ってきたことを告げると驚いているようだった。

 その人形は、フィオレに必要な草を育てるのに使っていた人形だそうで、返しに行くついでにもらってきてくれるという。

 意外にすぐに手にはいりそうだった。


 そしてそのミルスとフェンリル王子との会話で、今日はこの家に泊まるらしい。

 また、元気になった幼女のレティシアは何処かに遊びに行ってしまいタマは安堵していた。

 それからとりあえずは客室に案内してもらった後、持ってきたサンドイッチを食べる。


 紅茶や変わった果物を途中で差し入れしてくれたり、また、食事を終えた頃にそのフィオレの呪いを解く草が手に入ったので、それを使って呪いを解いたり。

 他には特に変わったこともなく。


「……なにもなかったね、良かった」

「エリ、何か心配事でもあったのか?」

「えっと、フィオレの呪いも含めて、変な事に巻き込まれないかなって」

「その時は俺が守るから安心していろ。但し戦闘は、エリにも頑張ってもらうが」

「うう、人相手の戦闘離れていないんだけれど」

「たまに精霊型の魔物がこの国にもでたはずだから、そちらはエリに任せよう」


 そう言ってクロヴィスが私の頭を撫ぜる。

 こうされてしまうと、ただなにも考えずになぜられていたいと私は思ってしまう。

 何だか凄くダメな子になっているなと私が思っていると、タマがリリスを急かして人型くらいの背丈になってから、膝の上でなぜられている。


 気持ちよさそうに、にゃーんと啼いているタマを見ながら私は、


「私もタマみたいになりたい」

「ペットになりたいのか?」

「! ち、違います!」


 私は慌ててクロヴィスの言葉を否定した。

 このまま私はクロヴィスに愛玩されてしまうのだけは避けなければと瞬時に思ったからだ。

 そこでフィオレが私の方にやってきて、


「エリが直し方を知っていたから助かった。礼を言う」

「うん、でも猫耳のままなのも可愛かったんじゃないかな」

「そんなわけない! というかアンジェロもライも頷くな!」

「ふふ、そういえばウィルワードさんは?」

「まだ戻ってこないみたいだ。呼ばれたからといって勝手に何処かに行ってしまうし」


 ウィルワードはお昼を食べたあと、呼ばれたからと言ってどこかに行ってしまい戻ってこない。

 そしてもう既に日が暮れている。


「大丈夫かな?」


 そうポツリと呟くとクロヴィスも心配そうに私と一緒にマドの外を見た。

 けれどクロヴィスはすぐに笑って、


「俺の“親友”がそう簡単に大怪我をおうような事態になるとは思えないな」

「それもそうだね」


 私を安心させるためにそういったのかはわからないけれど、珍しくクロヴィスはウィルワードを自分から“親友”と言っている。 

 そしてその無茶な論理も、私は何となく納得できる気がして、頷く。

 そこで私は夕食に呼ばれたのだった。

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