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ケーキを買いに

 次の日の朝食は……ピザでした。

 小麦粉に、“緑イモの油”、塩、砂糖、そして果実の皮を使って作った液を加えてピザ生地を作り、トマトソースやチーズ、香草等を乗せて焼いた本格派である。

 手作りピザは油っぽくないので、朝食で食べても胃もたれしない。


 さて、昨日は結局私とライの二人で寝て、フィオレはアンジェロの部屋から戻ってこれずにいて、今朝、ぐったりとした様子で現れた。

 アンジェロが機嫌が良さそうなのもまた、あ、察し、だったのでそれ以上は聞かずに朝食をとる。

 しかし、私には特殊能力があるらしいので、久しぶりに魔法使いのレベルを見ると、とても高くなっていた。


 けれど、私の特殊な能力については記載がない。

 私の力の使い方が書かれていたらいいなと眠っているライの傍でこそこそ探してみたけれど何も見つからなかった。

 あの時、ウィーゼという魔族と戦った時の感覚もいまいち再現できない。


 いざという時を考えて、この力を使えるようにしておいた方が良いと思うのだけれどうまくいかない。

 どうしようと思いながらも、出来る限りこの力を使わないで、クロヴィスの気持ちを変えさせるしかないな……と私は思う。

 そしてどうにか食事を皆が終えた所で、ある問題が発覚した。


「この耳をどうしよう」

「帽子で隠していくとか? ……でも風で飛ばされたりしても危険だし、他の人にばれると困るんだよね?」

「もちろん、まさかこんな耳が……ここからその目的の場所に、瞬時に移動出来れば良いのに」

「あ、その道具、あるよ?」


 私は即座に答えるも、はっとしてクロヴィスの顔を見る。

 渋面を作ったクロヴィスとそして、何故かライも微妙な顔をしている。

 その一方で、アンジェロは意味深な探る様な笑顔で私を見て、そしてフィオレは、


「よし、その道具があれば私も探しにいけるな! 確か山のふもとと言っていたから、あの人のあまり行かない遺跡で採れるんだろう?」

「う、うん。“巨石群の迷路地帯”と呼ばれる場所、氷の源泉たる山の麓にある場所なんだ」

「そこなら耳が万が一出てしまってもきずかれにくいだろう。それでそこで何を探せばいい?」

「“琥珀の水”という、大昔その辺りが森だった時に降った、魔力のある雨を留めた樹液の結晶があの辺りでは取れたらしい。でも……」

「でも?」

「あの辺りで小さな町が大昔にあって、それの採掘で栄えていたようだから、残っていればいいのだけれど……」

「他の場所では取れないのか?」

「“スズナリ松”の樹液の結晶だけれど、その木の種類自体が、今では保護対象で……この町の近くには無いからね」


 そう私が以前見たそのアイテムの説明を簡単にまとめて説明すると、フィオレは少し黙ってから、


「実家の方にそういった樹木がある。もしかしたならその周辺を探せば出てくるかもしれない」


 それを聞きながら私は、フィオレの力を使おうと考えている彼らの事を考えると、実家に戻るのは危険なのではないかとふと思う。

 海を越えたこの場所だから、まだ彼らは手を出しにくいのでは、そう私は思って、なので、


「でも少ないけれど見つかるかもしれない場所があるからまずそこを探しに行こうよ。珍しいアイテムを探す道具もあるし」

「……そんな特別なものだけを選べる、そんな探査の道具があるのか?」

「うん。普通で無い魔力などを感知する道具で、ランプの形をしていて、灯っている炎がその必要な物がある方になびくんだ」

「それを使えば探しやすいな。エリに何から何まで頼ってしまって、何だか私は申し訳ない気がする」

「いいよ、友達だし」


 そう答えて、とりあえずはフィオレが実家に行かない方向に話しを持っていく。

 そんな話をしている所で、ウィルワードが私達の家にやってきたのだった。







 金色の四角い枠の様な物を私は取り出して、行きたい場所を設定する。

 正確には、触れるだけで行きたい場所に繋がったのだけれど。

 そこを潜り抜けていくと、“巨石群の迷路地帯”の入口……正確には、安全で道のある入口の前につく。

 

 ただ入口の部分で三本の道に分かれていて、ゲーム内ではこの三本の道にランダムにその“琥珀の水”が存在していたはずなのだ。

 とりあえず見つけるアイテム“時灯りのランプ”を三つほど取り出す。

 いえ、珍品として高く売れるので余分に作っておいた物だったのだけれど、こんな場所で役に立つとは思わなかった。

 

 そう思いながら私は、ランプを三つ取り出したまでは良かったのだけれど、


「三つに分かれているから三組に分かれて探した方が良いかも。でも、どんな風に分けようか?」


 そこで珍しくウィルワードが、私は一人で大丈夫ですよと言いだした。

 クロヴィスは、それはそれで不安があるらしい。

 やはり何かやらかすんじゃないかという不安があるのだろう。


 親友というだけあって、変な関わり方ではアルがクロヴィスの心をつなぎ止めているんだなと私が思っているとそこでフィオレが耳をぴくぴく動かしながら、私とクロヴィスを見て頷き、


「そうだな、ここは気をきかせるべきだな。エリ、クロヴィスと一緒に探してこい」

「え、私は別……むぐっ」


 そこで私はクロヴィスの大きな手で口を塞がれる。

 むぐむぐと私が必死になって呻きながらその手を外そうとしていると、


「好意は受け取るべきだと思う。さて、では行こうかエリ」

「ま、まって、せめて探すための魔道具を、ウィルワードさんとフィオレに!」


 そう言って私は慌てて、フィオレとウィルワードに灯りを渡したのだった。







 ウィルワードが一人で移動したいといったのには理由がある。

 それは昨日も会ったけれど、それでは足りない人物がいたからだ。

 この“巨石群の迷路地帯”の中でこの道だけは他よりも上の方に行き、この遺跡全体を見渡せるのである。


 だからここにいるのだろう。

 エリ達の様子を見るために。

 そう思いながらウィルワードは更に進んでいくと、上り坂の一角に岩が突き出た場所がある。

 

 その先に、風に纏っている黒いローブをはためかせながら目的の人物ウィーゼがいるのに気付いた。

 けれどじっと見てきたウィルワードは、そのウィーゼの表情に迷いがあるのに気づく。

 なのでそっと近づいて背後を取り抱きしめる。


「こんな場所にいるのは危ないと思いますよ?」

「ウィルワードですか。昨日今日と、何だかよく会いますね」

「貴方がエリを監視していて、僕が彼らと行動を共にしているのだから出会うのは当然の様な気がしますが?」

「それはそうですね。さて、そろそろ良いでしょうか」


 ウィーゼはそう呟いて、石板の欠片を取り出した。

 最後の一つとなるそれ、魔法をかけてふわりと手の平に浮かびあがらせて、


「行け」


 その言葉と共に、エリ達のゆく道の先に放り投げる。

 それを見たウィルワードが、目を瞬かせて、


「空飛ぶ国に設置の予定では?」

「……そういえば貴方は全部聞いていたんでしたね」

「予定が変更になったのは? どうしてですか?」

「……キスしてくれたら少しくらいは話してあげてもいいですよ? 但し、私が話した内容を秘密に出来るという約束が出来れば、ですが」

「僕はあまり口が堅くないですよ?」

「……ええ、構いません。ウィルワードが判断して下さい」


 そう告げたウィーゼを見ながら、ウィルワードは小さく笑って、


「自分で判断できないから、僕に判断させるのですか?」

「ええ、クロヴィスの親友である貴方の判断が私も知りたいと思っただけです」


 そう振り返って微笑んだウィーゼに、ウィルワードが唇を重ねる。

 幾度となくした事があったけれど、やはり気持ちが良いなとぼんやりしているウィーゼ。

 そしてウィルワードもそんなウィーゼを愛おしく思いながら唇を放して、


「それで話たい事とは?」

「……石板を全部集めさせて、事前に様子を見た後に、空飛ぶ国で……エリがクロヴィスの正体に気付いていると知らせる事にしました」

「隔離された国とはいえ、あそこは人間にも魔族達にとっても大事な場所なのでは?」

「エリが逃げにくく、そしてあそこではその石板の……エリが知っている“効果”に付随する力を使えますので、被害は最小限に抑えられるとの判断です。現状では正体を知ったならクロヴィスが連れ去ろうとするでしょうが、エリは抵抗するでしょうから戦闘になるでしょうし」

「そして弱ったクロヴィスに止めをさすのも、予定のうち、と」

「……」

「あのフィオレもいますしね。丁度空飛ぶ国に行かないと解けない呪いにかかっていますし、丁度いい」


 付けたされた話に沈黙するウィーゼに、ウィルワードは真剣な表情で、


「やはり魔族はクロヴィスを“滅する”選択肢を選ぶのですね」

「……私達は貴方やエリが知っている様なクロヴィスを“知らない”のです」

「……この辺りの話は全てエリにはできませんね。魔族へのエリの心象が悪くなるでしょうし。それに今頑張ってクロヴィスを変えようとしているエリの努力を、ぎくしゃくして無に帰す事にもなりかねませんしね。ただ僕が思うのですか、本当に戦闘になるのでしょうか?」


 その問いかけにウィーゼは眉を寄せて、

 

「それは、どれを指しているのですか?」

「エリがクロヴィスの正体に気付いたと知られたなら、連れ攫われる、と言いますがどうしてですか?」

「エリがクロヴィスを“恋愛感情”で好きではないからです」

「ふむ、では“恋愛感情”で好きになったならどう思いますか?」

「あれを好きになる者が存在するとは思えません」


 きっぱりと言い切ったウィーゼにウィルワードは苦笑する。

 それからウィルワードは、


「僕から見ると、もうすでにエリはクロヴィスを恋愛感情で“好き”だと思いますよ?」

「……私達の様に甘い関係には見えませんが」


 ウィーゼの答えた根拠に、ウィルワードはおかしくなって吹き出してしまう。

 むっとしたウィーゼを見ながらウィルワードは、


「それは、確かに。でも、“好き”といった恋愛の形は人それぞれです。ふむ、。では……一日くらいけしかけてデートをさせて様子を見てみましょう。フィオレの呪いを解くのが少し遅くなりますが、僕から説得しておきましょう」

「……私も観察して様子見をさせてもらいます」

「いいですね。追いかけながら、僕達もデートしましょうか」

「ウィルワード、遊びではないのですよ?」


 楽しそうなウィルワードをたしなめる様にウィーゼが告げると、そんなウィーゼに甘える様にウィルワードが、


「ウィーゼは僕とデートしたくないのですか?」

「……したい」

「では、決まりですね」


 楽しそうにウィルワードはウィーゼを抱きしめたまま今後の計画を練り始めたのだった。






 フィオレとライ、タマ、そしてリリスは一緒に歩いていたのだが、そこでタマが、


「最近、エリと一緒に冒険にいけないにゃ」

「私も本体は一緒だけど私自身は追い出されている気がする」


 タマとリリスがそう呟いて、責める様にフィオレを見る。

 じーっと冷たい視線で見られたフィオレは、猫耳をピコピコさせながら、気付かないふりをした。

 そんな時、ライが、


「でもフィオレは気づいているみたいだね」

「? 何がだ?」

「タマ様の事とか」


 そう告げると、タマが焦った様に、


「ライ、折角忘れるように仕向けたのに……」

「ああ、その魔法なら適当に防備しているが、何か?」


 フィオレがそうタマに告げてタマが黙るのを見て笑う。


「以前、獣人だからとカマをかけただろう。あの時から、黙っていてやったんだ」

「そ、そんな、フィオレのくせに!」

「フィオレのくせにとは、随分と私は甘く見られたものだな」

「……スライムに襲われて啼いていたくせに」

「! エリはどうなんだ!」

「エリはいつもの事だにゃ!」

「……」

「……」


 そこで、フィオレとタマは沈黙した。

 そしてペットであるタマのエリへの認識にはそれ以上突っ込まない方が良さそうだったので、フィオレは放っておく。

 代わりにそこでライが、


「“深淵の魔族”がいるのに、フィオレはずっと平気だったと?」

「平気ではないよ。ただ……まあ、一緒にいて、その人物像も見ていたし、一番“変”なエリもいたわけだし」

「そうですか。でも私、フィオレも好きかな」

「……にゃあ」

「もちろん友達としてという意味だけれど」

「……私も、ライの事は友人だと思っている」

「それは嬉しいな。所で一つ聞いていいかな?」

「なんだ?」

「フィオレって友達いないでしょう」


 フィオレがショックを受けた様にライを見て、


「ライなんか友達じゃない」

「ははっ。あのアンジェロって恋人は嫉妬深そうだからね。フェンリルみたいに」


 ライがフェンリルみたいにといった辺りで、フィオレも察した。

 そしてお互い沈黙して暗くなっているとそこでタマが、


「自虐ネタが二人して持ちネタにゃん?」

「……いや、こうやって暗くなっているのは私たちらしくないな。今は友達もいるし」

「そうだね、そうそう」


 タマの言葉に、フィオレとライは、笑ってその話を流した。

 そこでフィオレの持っているランプの炎が揺れ動く。


「これは!」

「うん、近いみたいだね。でも……」


 そこでライが笑いながら見た方向には、ネズミの様な魔物が三匹現れたのだった。








 巨石群といっても、もともとは人の住みかでもあったのか、人工物の様に組み合わさって、雨宿りの出来そうな場所や、彫刻の施された柱が幾つもある。

 そんな地面は、山の麓で森が近いとはいえ寒い。

 実際にその柱といった人工物は氷で覆われていて、しかも地面は雪が所々覆っている。


 しかも歩くたびに地面を踏みしめると、しゃりっという音がして雪の結晶が浮かび上がって日差しにきらめきながら再び地面に落ちていく。

 この場所の設定は知っている。

 その昔、“神”……というかクロヴィスの機嫌を損ねて、氷の呪いをかけられてしまった場所だ。


 中の人達は、警告の日に逃げ出していたために無事だったけれど、以降、数百年もの間氷に閉ざされて何物も近寄れなくなってしまったのだという。

 そして現在になっても、未だ凍りついた遺跡のままなのだそうだ。

 ただこういった氷の魔力に適性を持つ植物や、魔力が結晶化した物質など色々変わった物が採取出来たりする。


 とはいえ今回の目的は、“琥珀の水”ではあるのだけれど。

 そんなこんなで、やけに口数の少ないというか黙ったままのクロヴィスと奥へと進んで行く。

 運が良い事に、今の所全然魔物と出くわしていない。


 そこでクロヴィスが口を開いた。


「エリのここに転移する魔道具は、特別な物の様な気がしていたが、誰も気にしていないようだったな」

「え? えっと、魔法使いの間では知られているものだから」

「……そうか」


 クロヴィスは何かを考える様に黙ってしまう。

 けれどそういえばあの空間を移動する道具って、ちょっと特殊な力が必要なのではと私が冷や汗をたらしていると、行き止まりに来てしまう。

 捜索するランプの灯りの炎は揺れていない。


 但し何もないわけではない。つまり、


「こ、こんな所に石板が」

「そういえばエリは集めていたな。回収しておけばいい」

「う、うん」


 そう答えながらもどうしてここにあるのだろうと私は思う。

 本来はこの場所に無いはずで、そしてこれを設置しているのは“深淵の魔族”だ。

 その意図は、一体何なのだろう……背中をぞくりと駆け上がる不安。


 意識がふっ、と遠のいて倒れ込みそうになるのをクロヴィスが抱きとめた。そして、


「エリ」

「……えっ? あ、あれ、えっと……」

「石板を手にしたら倒れそうになっていたぞ。何かその石板関連で不安があるのか?」


 不安の部分が強調されていた気がしたが、私は誤魔化すように笑って、


「大丈夫だよ。うん」

「……それならいいが。これからも一緒にいるから、不安があるなら、不安に思ったら俺に相談しろ」

「これからも一緒?」

「何だ? 不満か?」

「不満ではないけれど……」


 微笑んで私の頭を撫ぜるクロヴィスにトロンとしながら私は、自然と笑みがこぼれてくるのが分かる。

 だってクロヴィスは、これからも一緒に私といると言っているのだ。

 この世界が滅びるなら、滅びてもいいのなら、そんな事は言わないと思うのだ。


 もしかしたなら、この世界の事なんてどうでもよくなっているだけかもしれないが、滅びてもいいとは思っていないのだろう。

 そもそも他の魔族の人達は否定していたけれど、ウィルワードを起こしたのだって、きっともう、その時にはそんな事を考えていなかったのかもしれない。

 私は一体何を見ていたのだろう。

 

 短い間とはいえ、寝起きを共にしていたのに私は気づいていなかった。

 自分がすごく間抜けに思えて、でもそれはとても嬉しい事実で。

 そんな私を見ていたクロヴィスが不思議そうに、


「何を笑っているんだ?」

「うん? 秘密」

「ほう、俺に秘密にするとはいい度胸だな」

「ひ、秘密だし! ……クロヴィス、一つ聞いていいかな?」

「……気が向いたら答えてやる」


 横暴な答えだが、私は聞いてみたくなる。

 そう、それは幾度となくクロヴィスが私に問いかけてきたその言葉。


「クロヴィスは、この世界が“好き”?」

「……俺が以前何回もした質問だろう?」

「でも昨日一緒に星空を見ている時も楽しそうだったから、だから聞いてみようかなって」


 昨日だってクロヴィスは星空を見て、その光景に魅入られていた。

 クロヴィスはもう私がそう決意をするずっと前から、この世界に愛着を持っていたのではと思ってしまう。

 この世界が好きかと聞いてきたのは、クロヴィス自身がこの世界が好きだから、そう、クロヴィスが好きな私に答えて欲しかったのではないのか?


 そんな期待を持って私がクロヴィスを見上げていると、クロヴィスは私に微笑みかけて、


「エリのくせに、生意気だ」

「! 何それ、酷いよ!」


 質問には答えず、クロヴィスは生意気だという。

 折角期待した答えが手に入るかと思って少し気落ちしてしまう私だけれど、そこでいつも以上に優しげな眼差しでクロヴィスは私を見て、


「……“好き”だ。この世界が」

「……本当?」

「エリと一緒に見ていたら、気付けばそれが“楽しく”なってしまった。だから俺は、この世界が“好き”だ。……これで満足か?」

「うん!」


 元気よく答えて、そんな私にクロヴィスは苦笑する。

 けれどそれ以上は何も私に問いかけず、途中に分かれ道があったのでそちらを散策して一度入口に戻ろうという話になる。

 結局は私達は見つけられず、フィオレ達と合流して、猫耳をライにいじられて悲鳴を上げているフィオレが“琥珀の水”を手に入れたのを聞いたり、後からやってきたウィルワードがやけに楽しそうにしているのに気づいたりしたけれど、誰一人かける事無く私達は帰路についたのだった。





 戻って来ると、またしてもアンジェロが出迎えてくれた。

 フィオレが大丈夫なのかと心配していたけれど、大丈夫ですよと笑っていた。

 そしてフィオレの採ってきた珍しいアイテム“琥珀の水”を使ってアンジェロの呪いを癒す。


 これでアンジェロの呪いは完全に解けたはずなので、とりあえずは私の家の外に出てもらう。

 呪いが一つ残っているだけでも、この家を出るとアンジェロは倒れ込んでいたが……。


「全く問題はない様ですね。完治しています。……ありがとうございます、エリ」

「アンジェロも私の友達だから、このくらいは……」

「……そうですね。フィオレの友人となると自然と私もエリの友人……なるほど」

「あ、あれ?」

「いえ、私はそこまでエリと接点はなかった気がしていたのですが、でも言われてみればそうですね」


 アンジェロはそう笑うけれど、確かに当り前の様にフィオレが一緒に住んでいたので、アンジェロも友人の様な気がしていた。

 けれどそこでアンジェロは優しげに私を見て、


「でも私のためにフィオレを手助けしてくれてありがとうございます。友人としてお礼を言います」

「……はい」


 それに私も嬉しくなる。

 アンジェロは今、この時、エリの事を自分の友人と認めたのだろう。

 ほんわかとした空気の中、そこで、ウィルワードが自身の手を叩いた。


「そうだクロヴィス。折角だからアンジェロの快気祝いにケーキなどを買ってきましょう」

「……どうして俺を誘う」

「一番力がありそうだからです。さあ、行きましょう」

「待て、お前と二人っきりなのは絶対嫌だ」

「嫌だな親友。そんなつれない態度を取らないでください。さて、行きましょうか」

「く、こんな時だけ馬鹿力で……」


 クロヴィスが蒼い顔をしながらウィルワードに連れて行かれた。

 やっぱりクロヴィスはウィルワードと仲が良いなと思って私は見送る。

 けれど、もしかしたなら二人っきりで話したい何かがあったのかなと私は思っているとそこでアンジェロが、


「少しエリの気分を害してしまうような話をしてもかまいませんか?」

「……それでも話さないといけない内容なのですか?」


 人の嫌がる話をわざわざすると初めに宣言している辺りで、そういった意図が見える。

 だからそう私が問いかけるとアンジェロは頷き、


「はい。丁度、クロヴィスもいなくなった事ですし」

「クロヴィスに関わる事ですか。……分かりました」


 このアンジェロが、どうしてこの呪いにかかったのか、その辺りの話も含めて私と何か話したい事があるのだろう。

 でもフィオレがここに居てもいいのだろうかと私が思っていると、アンジェロが話し出す。


「私がなにをしていたのかはエリはご存じなのですね?」

「ええ」

「フィオレにも話していませんね」

「はい」


 そう私が答えるとフィオレが、


「アンジェロ、どういう事だ?」

「知らなくていい事は私は話しません。そして多分、フィオレにはエリも話さないと思いますよ?」

「そうなのか!?」


 責めるように言われて私は、そんなフィオレに微笑みながら、


「うん、まだ話せない。でも、全部上手くいったら話すから、それまで待ってもらえないかな」

「……分かった」


 渋々といったようにフィオレはそれ以上追及を止める。

 その様子を見ていたアンジェロが、


「フィオレは、エリに心を随分と許しているのですね。石切り場で私は、クロヴィスもエリも妙だと、近づかない方が良いといいましたよね」


 え、アンジェロはそんな事をフィオレに行っていたんだと私が地味に傷ついているとそこでフィオレが、


「そういえば……でもエリは信用できるしクロヴィスだって、エリがいるからクロヴィスも以前よりも丸くなっているし」

「それにそこにいるタマが獣人だと一番初めに姿がぶれるのが見えましたので、私は気づいていましたが、フィオレは何時ごろ気付いていましたか?」

「……もう少し後だった」

「そもそもエリは伝説の杖を持っていたりと色々おかしいので、私は注意をして見ていたのですが……」

「そんな危険だと思う相手に、アンジェロが私を預けるとは思えないが?」

「危険は感じませんでしたね。石切り場にいたあの時点で随分とお人よしそうでしたし。下手な人間よりは信用出来うると判断したのと……他にも幾つか裏側の動きで気になる事もありまして」

「……もしかして私のお見合いの件か?」

「ええ、それもあるのですが……」


 そこで言葉を切ったアンジェロは周りを見回してから、


「この世界の強力な魔法使いは“深淵の魔族”と大抵関わり合いがある物なのです。ウィルワードの様に。私は“賢者”という知識の蓄積系に進んだが為にかかわりは薄いですが」

「そう、なのか?」

「フィオレはまだ未熟な魔法使いですから。でもその未熟さを差し引いても、エリの力は強すぎる。なのに、“深淵の魔族”との接点どころか、存在自体が、過去を調べてもまるで作られたかのように見える、それがすごく奇妙でした」

「エリの過去を調べたのか?」

「ええ、フィオレの友人ですから。それも含めて……今回、私は自分の力を過信しすぎたと反省しています」

「それでアンジェロ、お前は何を言いたいんだ?」


 フィオレのその問いかけに、アンジェロは笑って、


「エリを信頼できる友人として、隠し事の一部をお話ししただけです。そして私を癒したその道具も、本来ならあの、空飛ぶ国でしか手に入らない特殊な物だったはずです。それもあそこから持ち出せない物」

「そうなのか? エリ」


 確かにゲーム内ではそういった道具だったが、主人公達には特別に持ち運びを許されていた。

 この世界では違和感の多い存在、それが自分なのだと私は思いながら、今の会話で私は何となく気付いてしまった。

 だからなんて事無いように微笑みながら私は、


「似たようなものを持っていたからそれを使っただけ。だってこれは“深淵の魔族”が作った物ではないから。それと、遠まわしに言われている気がするから、もうここで答えておくよ。私は……異世界から来た人間なんだ」

「……」

「……」

「フィオレもアンジェロも驚いたよね。でもアンジェロは私のその答えが聞きたかったように聞こえたし、フィオレは……今の話からいずれ気づいちゃうかなって思って、今言う事にしたの」


 いつかは気づかれるならここで、大切な友人達には話しておこうと私は、何かの予感めいたものを感じて答える。

 そう、丁度石板十枚集めたから、あるはずのない場所に設置されていたのも含めて、何かが起こる気がしていたから私は、その前に話しておきたかったのかもしれない。

 そこでフィオレが深々と溜息をついて、


「この前ウィルワードと話している時に私はこっそり聞いていたから全部知っている」

「え?」


 まさかそんな答えが返ってくるとは思わず、私は疑問符を浮かべた。

 だってフィオレの様子は今までと全然変わっていなかったから。

 私は驚いていた顔をしていたのかもしれない。


 そんな私にフィオレは何処か楽しそうに、


「でも気付いている事も含めてクロヴィス関連は、“秘密”にしておかないといけないのだろう?」

「う、うん」

「だから私も聞かなかった」

「フィオレ……大好き」


 そうフィオレに抱きつくと、フィオレも小さく微笑みながら、友達だから当然だと答えた。

 そんな様子を微笑ましいですねと呟きながら見ていたアンジェロは、


「“神”に対抗できるのは“魔王”という伝説の存在のみ。それがエリ、貴方なのですね?」

「……そうらしいです。でも私は、出来れば戦いたくない。そして戦ってどうにかしても、上手くいくかどうかはまだ魔族も人間も分からないらしい」

「そうなのですか? それなのにフィオレを……いえ、何でもありません。でも、そうですか……」


 フィオレが私が関係があるのかとアンジェロに聞いているが、アンジェロは考え込むように沈黙していて、すぐに深々と息を吐き、


「となると彼の感情を変える必要があると?」

「そんな物必要ないと思う。だってその人はもう、そんな気持ちでなんていないから」


 クロヴィスは、もうすでにこの世界に“愛着”を持っているのだから。

 だから怖がる必要は何もない。

 そんな自信満々に言い切る私を見て、アンジェロが何かに感づいたのか、


「嬉しそうですね。……期待していいですか」

「期待して下さい」


 そう私が答えると、アンジェロは頷き私との話は終わった。

 けれどフィオレは気になるらしく、ひたすらアンジェロの口を割らせようとしたり、私に聞いてくるけれど私は答えない。

 フィオレは次にライやタマにまで聞き始めるけれど、


「ごめんね、守秘義務があるんだ」

「にゃ~ん」

「く、誰も教えてくれない」


 フィオレが悔しそうに呟いて、拳を握りしめた所でクロヴィス達が帰ってきたのだった。









 ウィルワードに連れ出されたクロヴィスは機嫌が悪そうだった。

 そんなクロヴィスを見てウィルワードは苦笑して、


「珍しく機嫌が悪そうですね」

「ウィルワード、何が楽しくてお前と二人っきりで買い物にいかなければならないんだ」

「いやいや。僕はちょっとクロヴィスに聞いてみたい事があってね」


 クロヴィスが変な顔になる。

 今までの経験上、碌な事を言われないという確信めいたものがクロヴィスにはあったからなのだが、


「傷つくな~。私はただ単に、クロヴィスとエリが何処まで進んだのか聞きたかったのに」

「……大分心を許してくれている気がする」

「そうなんだ」

「しかも俺に、この世界が好きかと聞いてきた。俺が何回も聞いたから、仕返しのつもりなのだろうが」

「へぇ……なんて答えたんだい?」

「“好き”だと答えた」

「……そうか。なるほど。ふむふむ。それでクロヴィス、話は変わるけれど、エリと普通にデートをしたりしないのかな?」


 クロヴィスが沈黙した。

 様子を伺うウィルワードは、クロヴィスが悩んでいる様だと気付く。

 まだそういった恋人としてのデートの段階まで“好き”という感情がエリの方には高まっていないのかもしれない。なので、


「普通に町に二人っきりで遊びに行くのも、デートになるから……二人っきりでたまには戦闘以外で遊びに行ってみたらどうかな。距離も縮まるだろうし」

「そう、なのか?」

「僕の場合はウィーゼとはそうだったけれどね?」

「……あれは初めから、ウィルワードに好意がただ漏れだっただろう」

「? そうだったかな? 僕は必死だった事しか覚えていないや」

「……そうか。だが、そうだな。二人っきりで……」


 真剣に考え出すクロヴィスにウィルワードは、


「この際、試しに二人で遊びに行こうと誘ってみるのはどうかな? 明日休んで、空飛ぶ国にいって戻ってきても戦闘の依頼の期限は間にあうだろう?」

「どうしてウィルワードがそれを知っている」

「ギルドで依頼を受けた人の名前が張り出されているじゃないか」

「……どうして俺の名前を探した」

「クロヴィスが僕が待ち合わせ場所を指定しても逃げるからね」

「……」

「さて、それでどうする? ここでちょっと押してみて様子を見てみるのはどうかな?」


 そんなウィルワードの誘惑にクロヴィスは、しばらく黙ったままでいてそして、


「……後で誘ってみる」


 クロヴィスが、小さな声でそう話したのだった。






 ウィルワード達がかってきたケーキなどを食べる私達。

 クロヴィスが妙に大人しくて、ウィルワードに何かを言われたのだろうかと私が思っているとそこでクロヴィスが私を誘ってきた。

 私は戦闘以外の誘いが意外だったので目を瞬かせて、


「明日町の散策をクロヴィスと一緒に?」

「ちょっとした市も開かれるし、どうだ?」


 クロヴィスが私を誘ってくる。

 だから、もう少しクロヴィスの事を知りたい気がしたので、頷く。

 それにクロヴィスは嬉しそうに微笑んだのだった。

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