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夜の砂漠で

 新たな危機に直面した私は、ふらふらと食事の場所にフェンリルに連れられて向かった。

 大きな広間で、下には赤い絨毯がひかれている。

 天井には硝子で作られたシャンデリアに魔法の灯りがともされて、ゆらめきとともに幾つもの色を放ちながら輝いている。


 格好が場違いな気がしたけれど、私は深く考えないことにした。

 だって持っている服で、ドレスアップしようとするとフリルな感じになってしまうからだ!

 後で、こういった場所用の服を購入しようと私は決意する。


 さてさて、食事はバイキング形式の食事だったので、好きな物を取り食べていくらしい。

 他の人達は何処だろうと探して……フィオレとウィルワードが一緒にいるのが見えたので私は近づいていく。

 既に食事を終えてしまったらしい。


 手に何を持っていないのを確認した頃にはだいぶフィオレたちにも近づいていたので、すぐに気づかれた。

 そして近づいた私に、フィオレが、


「フェンリル王子とのお話は終わったのか」

「うん、あれ、クロヴィスは?」

「バルコニーで外を見ている。一人で」

「そうなんだ、ちょっと様子を見てこようかな」


 そこですっとお皿に持った食べ物を私にタマが差し出した。

 彩り良く、栄養のバランスを考えた完璧な盛り付けがされている。


「さすが、タマ。ペットとしてすごく優秀だよ」

「にゃ~ん。エリには元気でいて欲しいですからにゃ」

「それでタマ、頬にお魚の皮がついてるよ?」

「にゃ、にゃにゃ」


 焦るタマの頬に手を伸ばし私はとってやりながら、お魚だけじゃ駄目だよ? というと、猫なので大丈夫にゃと言って、私にお皿を渡して逃げていってしまう。

 その一方で珍しく、リリスは私の肩にのっていた。


「どうしたの? リリス」

「何となく、エリがどこか遠くに行っちゃう気がして」

「……行かないよ。だから安心して。ほらっ、あめ玉があるよ」

「わーい」


 バイキングの一角にあるガラスの大きな器。

 そこには色とりどりのセロファンで包まれたキャンディが山のように盛られている。

 その内の一つをリリスに渡しながら、そこで側にいたフェンリルがフィオレに、


「ライはどこかな?」

「さっき、フェンリル王子の姿を見るやいなや、そこのテーブルの下に隠れました」

「フィオレの裏切り者!」


 そこでバイキングの、白いテーブルクロスで隠れた机の下からライの声が聞こえる。

 笑みを浮かべたフェンリルがそのテーブルクロスの中に入って行くのを私達は目撃した。

 悲鳴が聞こえたような気がしたが、その後静かになったのでとりあえずはこの二人のことは二人のことなので放置する。

 そして私は食べ物のお皿を持ったまま、何処のバルコニーにクロヴィスがいるんだろうと、食事の会場とつながったガラスの扉を幾つも眺めてみる。


 ここから見て見ても、何処のバルコニーにクロヴィスがいるのかわからない。

 と、ウィルワードがある方向を指さして、


「クロヴィスは、あそこのバルコニーにいますよ?」

「ありがとうございます」


 そう答えて、私はそちらに向かう。

 そんな私をウィルワードが微笑ましそうに見て、


「無意識とはいえ、エリはクロヴィスに好意を持っているようですね。よっていたとはいえ、本音が出てしまったのか……でも少し話しただけでも焦っていましね」

「初々しいですよね」

「本当ですね」


 フィオレとそんな話をウィルワードがしているとは、私は気づきもしなかったのだった。 








 指し示された硝子の扉の前まで来ると、クロヴィスが空を見あげていた。

 軽く押すと硝子の扉が開いて、少し肌寒さを感じる風が入ってくる。

 砂漠は昼と夜で寒暖の差が激しいのは私の世界の法則だけれど、ここはそこまで暑くもなく、寒くもないようだった。


 そう思って私がバルコニーに出ると、そこでクロヴィスが振り返った。


「エリか? フェンリルに苛められなかったか?」

「? 特には。この前のことを聞かれただけだから」


 と、嘘をついて私は答える。

 それにクロヴィスがじっと私をみて、


「エリ、何か俺に隠しているだろう」

「え、え! な、何で?」


 どうしてバレたんだろうと私が思っていると、クロヴィスが意地悪く笑い、


「ほう、やはり隠していたか。さて、どうやって聞き出してやろうか」

「う、うぐ、また私にミレニアムちゃんの事を思い出させる気なの? 」


 そう私は言い返した。

 嘘は言っていない、というかその話も一部絡むので嘘ではない。

 でも連鎖的にあの話が思い出されるので、私は精神的にきついのだ。

 それにクロヴィスは苦笑する。


「何だ、そんなに彼氏が欲しいのか?」

「それはまあ、欲しい?」

「何故疑問形なんだ?」

「今は色々と忙しいから、彼氏がいたら逃げられてしまいそう」


 その答えに、全くエリはと、ため息を付いたクロヴィスがそこで先程のように空を見上げた。

 その視線の先には、深い闇に満たされた世界に散りばめられた宝石が輝いている。

 私の杖に描かれたその空よりもはるかに圧倒的な煌き。


 クロヴィスは一体どんな思いでこれを見ているのだろうと思って様子をうかがうと、その空を見上げながら微笑んでいる。

 だから邪魔しないように私も黙ってクロヴィスの見上げているのと同じ星空を見上げる。


「星が綺麗だな」

「そうだね」


 小さく会話をして私も見上げる。

 沈黙が酷く心地よくて、私も自然と笑みが浮かんでくる。

 そこでクロヴィスがそっと私に手を伸ばしたのだった。







 意識がなくなったエリを支えながら、クロヴィスはエリの肩に乗っているリリスを見る。


「……思い出したのか?」

「私の記憶が違うのは、貴方のせいですか?」

「……お前の過去の記憶は俺が作ったといったなら、お前はどうする? エリに伝えるか?」

「秘密にしておかないと、エリが泣きそうな目に合いそうなのでやめておきます。でも、よく気づきましたね」

「最近、警戒するように時折俺を見ていたしそれに」

「それに?」

「古城にいた時にお前は俺を警戒していた。何かがおかしいとあの時薄々感づいていたのだろう?」

「……それでも私は、エリを気に入っています。だから一番の杖でいるつもりです」

「そうか。本当にエリは人気だな」


 楽しそうに笑うクロヴィスを見ながら、リリスはといえば、


「笑うようになりましたね。それも心から」

「……」

「私はきっと、貴方様にもそれが良いことだと思います。そしてそんな関係を続けていきたいから、私も黙っている部分もあります」

「……本当に油断のならない妖精だ。全く」


 けれどその笑いを含んだ物言いにリリスは、クロヴィスが以前よりも感情豊かになったと思う。

 あの何処か寒々とした雰囲気は随分と消え失せているように感じている。

 そこでクロヴィスはエリを見て……なにか悪いことを思いついたような顔をした。


「少し体を動かしたくなってしまうな。夜の砂漠は少し危険な魔物も現れるが、昼間、エリが調子に乗って『私を怠けさせるの?』と聞いてきたから、折角だから少し連れ回してやろう」

「あ、いいですね。私もちょっと戦闘に向かいたいし。やはり一日一発は魔法を撃って貰った方が体が鈍らない気がするんですよね」

「では、決まりだな」


 それと同時に、エリがはっと目を覚ましたのだった。








 私は夜の砂漠なんて行きたくなかったんだ。

 なのに、気付いたらクロヴィスが何故か乗り気で、しかもフィオレは、


「そろそろ体も鈍ってきたし“戦闘”だ! そしてエリ、どちらがいいものを沢山取ってこれるか勝負だ!」


 と言い出したのである。

 更にフィオレはウィルワードさんの力が間近で見えるって大喜びで、タマはたまたま傍にあった“猫マタタビ”で倒れてしまったのだ。

 ライはフェンリルとちょっとお話があると言って、お留守番だ。


 私もお留守番したかったのに、夜の砂漠に連れて来られて……。


「エリ、右だ!」

「ちょ、多すぎっ、“雷のサンダー・ウィング ”」

「はーい、じゃあ私も自動追尾、頑張っちゃうぞ~」


 杖を振るい、雷の攻撃を放つ。

 リリスが修正してくれたのもあるのだろう、一瞬にして土で作られた精霊型の魔物が倒される。

 これも探査用のものなんだろうなと倒した後に手に入った、土の力を秘めた緑色の魔石を回収する。


 それも魔法使いには大切な材料なのだ。

 でももう随分倒したしと私が思っていると、砂漠の一角が星明かりと言っても説明がつかないくらいに明るい。

 私はそこではたと気付いた。


「“月灯りの砂”だ。硝子の素、“月光の砂”よりも特別なもの。わぁ、ここで採れるんだ」


 そこに走っていこうとする私に後ろからクロヴィスが、


「おい、エリ、勝手に離れるな」

「大丈夫、大丈夫」


 ゲーム内でも見たが、実際に見るとまるで違う。

 ピンクや青赤黄色、様々な色で砂漠の砂地の一角が輝いているのだ。

 私は誘蛾灯に誘われる無視のようにその輝きに魅入られるように走っていった。


 そういえばこの世界に来て、とても不安になったことってあまりなかった気がするなと思う。

 やっぱりクロヴィスが手助けしてくれたせいなのだろうか? 

 いろいろな力を私にくれたようだから。


 そう思って砂の側に屈みこんで、私は砂に手を伸ばす。

 けれどそれとほぼ同時に私のすぐ後ろに、砂で出来た岩のような精霊型の魔物が現れて、リリスが慌てて杖についている付加効果の魔法を使おうとして、でも間に合わない。

 スローモーションのように鋭い石で出来た槍のようなものが精霊から放たれようとしているのが見えて……そこで、その精霊型の魔物は真っ二つに切り裂かれて、サラサラと砂になり石を一つ落としていく。


 けれど私は呆然としているような変な感覚を覚えながら、その先にいる怒りに満ちた表情のクロヴィスをきょとんと見上げてから、そこでようやく頭が回り出す。つまり、


「クロヴィス、助けてくれてありがとう」

「……ああ、そうだな」


 ほんの少し後悔するような、そんなものがクロヴィスの声に含まれていた気がする。

 でも助かったし、と私は思いながらそばにある砂を集めて瓶に入れる。

 ただそれを詰めながら私は何かがおかしいと思う。


 だって、今まさに殺されそうになっていたのに私は、そこまでの恐怖を感じなかったのだ。

 やっぱりクロヴィスが側にいるから私の危機感が緩みきっているのだろうか、それとも未だに私は“ゲーム”の感覚なのだろうかと少し悩む。

 そんな首を傾げる私を意味ありげにクロヴィスが見ているとは、私はついぞ気づかなかったのだった。







 ウィルワードは人形を使うのが得意なだけではなく、その人形が自動的に魔物を攻撃もするらしい。


「素晴らしいです、ウィルワード様」

「いえいえ、フィオレも戦いたいのに私ばかり」

「いえ! ウィルワード様のお力を見せていただけるだけでも!」


 そんな目を輝かせるフィオレにウィルワードは苦笑する。


「私はそんなに素晴らしい人間ではありませんよ?」

「いえ、そのお力や技術、素晴らしいと思います」

「……でもこの程度で、ぎりぎり“深淵の魔族”の衰退した技術とどうにか対抗できるくらいなんですよね」

「? そうなのですか?」

「ええ、以前、ウィーゼ……“深淵の魔族”の恋人に聞いたから間違いありません」

「……温泉街で、会った魔族がそんな名前だったような……」

「そういえば来ていましたね。そうですか、会ったのですか……綺麗だったでしょう?」

「それはまあ、そうだった気がします」


 そう答えるしか無いフィオレ。

 そもそもまさかこのウィルワードに“深淵の魔族”の恋人がいたなんて、と衝撃的な事実にクラクラとフィオレがしているとそこで、


「でも元恋人なんですよ。僕は捨てられてしまいましたからね」

「! そうなのですか?」

「ええ、僕が“臆病”だったのがいけないのですが。だからあんな場所で三年ほど眠っていたんですよね」

「それをエリ達に起こされたと」

「ええ。でもこうやってクロヴィス達が起こしに来たのも、“理由”があるのかと僕は思いたいのかもしれない」

「曖昧ですね」

「曖昧だよ、感情というものはいつもね。でもきっと、そう見えているだけでもっと強いつながりなのかもしれないと最近僕は思い始めているかな」

「……フワフワとした話でよく分かりません」


 フィオレがそう答えると、ウィルワードは困ったように、


「あまりまだ君には話せない。いや、気づいていないことにした方がいい。君はこの前、僕とエリやライ達とクロヴィス抜きで話していたのを聞いていたでしょう?」

「……お気づきでしたか」

「ええ。エリは気づいていないようでしたから僕も黙っていましたが。君自身も黙っているつもりのようでしたしね」

「……はい」


 まだ今の関係が続いていくのが望ましい状況のようだとフィオレは判断したのだ。

 そして、エリにも不安はあるらしい。

 だから一人で抱え込もうとする前に、少しでも“友達”として手助けできればと思ったのだ。


 そんなフィオレを見ていたウィルワードが小さく笑い、


「アンジェロにも関係のあることで、少しだけヒントをあげましょうか。神話を覚えていますか?」

「神様を司祭達が追放したとか、そういったものですか?」

「そうそう。その神話自体は、全てが本当というわけではないけれど、断片的に本当のことが伝えられている」

「そのまま伝えればいいのでは?」

「口伝えの間に変わってしまったものもあるけれど、断片化すると短いので覚えやすい。そして、広く普及させて一般化させることで、長期的に知識が何処かで継続して残リ易くなっている状況を意図的に作り出しているんだ」

「そう、なのですか?」

「うん、後の人達に、“忘れるな”と伝えようといていたのだろうね」

「……私は司祭の血統です。そしてその司祭は……」


 フィオレがクロヴィスに惹かれたのも、その力は確か司祭達が神から貰ったと言われている点も考えれば、フィオレの先祖はその昔……。

 だからクロヴィスは、フィオレの問いかけにあそこまで怒ったのか。

 そして、その後は、その力が好きかと問いかけてきた。


 けれど昔のクロヴィスからは考えられない行動で、それはエリがそばにいることに起因している。


「エリがいれば何とかなってしまいそうですね。本当に」

「そうですね。おや、こんな所に砂漠の植物がありますね」


 見ると砂漠の砂から緑色の双葉が現れている。

 場違いなそんな変なものを見つけたフィオレは、ちょっとした好奇心がわく。

 たまたまフィオレ自身がその能力を持っていたのも不運だった。


 その双葉にフィオレが力を使い、成長させて……。


「な、何で私の頭に猫耳が!」


 フィオレは悲鳴を上げる。

 そこには、育てた植物が花を咲かせると同時に呪いを放つ、そんな魔物の一種だったのだ。

 なので、呪われて猫耳が生えているフィオレは、焦ったように頭を布で隠したのだった。









 ライはフェンリルの部屋に来ていた。

 警戒するように、ちょっと離れて付いてきて、現在は向かい合うように座っている。

 ただ、ライは早くここから逃げ出したいとでも言うかのように、機嫌が悪い。


 そんなライを見てフェンリルが困ったように笑って、


「もう少し心を許してくれると嬉しいかな?」

「……私は貴方が苦手です」

「つまり嫌いではないと?」

「嫌いです」

「そう面と向かって言われると私も傷つくな」

「だったら私以外の恋人候補を探してきてください」

「つまりライは、私がどれほど君に惹かれているかまるで分かっていない、ということかな?」


 沈黙してしまうライをニコニコとした笑顔でフェンリルが見ている。

 そして、先に折れたのはライだった。


「私は“深淵の魔族”です」

「知っているよ」

「それでも貴方は私を“選ぶ”のですか?」

「もちろん」


 即答するフェンリルに、ライは言葉が詰まる。

 けれどすぐに、こういった色ごとに手慣れた相手だからとライは自分に言い聞かせて、


「私はお断りです。そもそも私の何処が気に入ったんですか?」

「顔かな?」


 ライは心が急速に冷えていくのを感じた。

 またこの男も、他の男達と同じなのだろう。

 

 この男の目的は何だ?

 “深淵の魔族”だから?

 それともセイレーンだから?


 警戒するようにライがフェンリルを見ると、フェンリルはその視線を受け止めながら、


「どうも君に警戒されると、そのままベッドに引きずり込んで、無理やりいうことを聞かせたい衝動に駆られるね」

「悪趣味ですね」

「そうだね。君があまりにも釣れないからね。一応、これでも王子だから人は寄ってくるのに、君は私を避けようとする」

「……あまり関わり合いたくないからです」

「上手く誘惑して利用しようとは思わないのかな? そんな価値も、私にはないということなのかな?」


 その言葉を聞きながら、ライは深々と嘆息した。

 利用するくらいに価値があるか、といえば有りそうではあるが、それ以上にライはフェンリルと関わり合いたくない。

 フェンリルの言葉を聞いていると、まるで本当の恋人であるかのように錯覚して……。


「いや、そうじゃなくて……」

「? どうしたのかな?」

「いえ、貴方に利用価値はありません。そして別に貴方を誘惑してまで欲しいものはありませんので」

「この前の情報はどうだったかな?」

「……少しは役に立った気もしますが、よくよく考えたら貴方がそこまで重要な事を私に話すかなという結論に達しました。そういった意味でも貴方からは逃げたい」

「ここまで抵抗されて落ちないとなると、力ずくしか思いつかなくなってくるね」

「……私の力を舐めてもらっては困りますよ?」


 そこでライは不敵に笑ってみせる。

 そう、ライだって一応は“深淵の魔族”の一員なのだ。

 この程度のフェンリルという王子ごときに負けるわけがない。

 と、そこでフェンリルは深々と嘆息した。


「もうここは直球で勝負しようと思う。どうすれば君は私に心を許して、恋人になってくれるかな?」

「最後まで責任をもつなら考えてもいいですよ」


 いい加減、こうやって遊ばれるのも嫌で、ライは遊びのつもりなら引けという意味合いも込めてそう告げた。

 告げたつもりだった。

 けれどそこでライは、唖然としたようなフェンリルの顔を見る。


 何でだろうとライが不思議に思っていると、フェンリルはそこで小さく笑い出した。


「あははは、なるほど。最後まで責任を取ればいい、それだけだと?」

「それだけって、一国の王子がそんな……」

「それを気にしてくれていたということは、少しは私をライが気にしてくれていたと思っていいと?」

「……遊ばれるのはお断りです」

「私のこの行為が全て遊びだと、ライはそう思っていると?」

「ええ。一目惚れなんて冗談は信じられませんしね」

「一目惚れして、その釣れない態度もお追いかけたくさせられてさらに性格も段々好みになってくる。ここまで私を惑わしておいて……やはり無理矢理にでも手に入れさせてもらおうか」

「やれるものならやってみろ。本気かどうか試してやる」


 笑うライに向かって椅子から立ち上がったフェンリルがライの側にやってくると、ライは腕を掴まれる。

 この手を軽く凍らせてやれば悲鳴を上げてこの王子様は逃げるだろうかと思って、ライは魔法を使おうとして……。


「あれ?」

「魔法が使えないだろう? 我々人間側も“深淵の魔族”対策を色々としていてね。それで、折角だからこのまま今日はライをベッドに引きずり込もうと思っているのだけれど構わないかな?」


 フェンリルは微笑んでいるが、その瞳には情欲が見て取れる。

 そう思ったライは、


「……提案があります」

「なにかな?」

「私の役目が全て終わるまで、待ってくれませんか? ……恋人の件も」

「たしかに今は、色事に夢中になっている場合ではないか。仕方がないな」


 そう言ってフェンリルはライから手を放す。

 それにライは安堵するけれど、そんなライにフェンリルは、


「君が好きなのは本当だから今は、逃してあげるよ」


 でもそれは今だけだからという、心の声がライには聞こえた気がした。

 どうやら本当にこのフェンリルは自分に夢中らしいとライは気付いて、今は何とかなったので、今後どうやって逃げるか決めようとライは心の中で決めたのだった。







 さて、私が時間通りに戻ってくると、何故か顔を真赤にしたフィオレが頭を隠してプルプルしている。


「フィオレ、どうしたの?」

「……呪われた」


 それを聞いて私はまさかと思う。

 そう、それはまだ起こるはずのないイベント。つまり、


「フィオレ、まさか猫耳が生えたわけじゃないよね?」

「どうして知っているんだ!」

「えっと、ここの砂漠にはそういった植物の魔物がいて、育てると呪われて猫耳が生えてくるんです」

「そんな! ど、どうすればこの呪いが解除できると!?」


 フィオレが私に詰め寄ってくる。

 この世界の獣人は“深淵の魔族”になってしまうので、それを避けたいのだろうけれど……何となく私はフィオレの頭を隠す布をとってみた。

 ぴょこんと銀色の髪に白い猫の耳が現れている。


 つまり耳が4つ!

 さて、そのあたりの論争は置いておくとして、私は、ピコピコ動くフワフワした毛で覆われたフィオレの猫耳にそっと手を伸ばして触れてみる。と、


「ひゃんっ!」


 フィオレが顔を真っ赤にして震えた。

 体をプルプル震わせていて、いつものツンとすました感じがなくなり可愛い。

 これはアンジェロは喜んで手を出すはずだなと思いながら、何となく変な気分になって私はフィオレの耳を弄ってやる。


「ひゃん、やぁああっ、ぁあああっ」

「……うん、フィオレが可愛いのでもっとやってやる」

「ひあっ、やめっ、エリ、覚えていろっ、んっ」

「くくく、もっと喘げ~……えっと、クロヴィス、何で私を後ろから抱きしめるのかな?」


 調子に乗って、フィオレの猫耳を弄んでいた私は、後ろから無言でクロヴィスに抱きしめられた。

 なので私はフィオレの猫耳から手を放したが、そこでフィオレに、


「よくもやってくれたな」

「う、で、でも、何だかフィオレ、可愛かったし」

「ほう、じゃあ私がこれから、エリを可愛くしてやる」

「く、私がやられるばかりだと思うな」


 などと言い返して私達は向い合って、警戒するように相手の様子を見ていると、クロヴィスが呆れたように、


「それでエリ、そのフィオレの猫耳の呪いを解くにはどうすればいいんだ?」

「空飛ぶ国にいかないと無理だよ。そこに呪いを解く材料があるし」


 私がそうクロヴィスに答えながら、フィオレの隙を伺っていると、クロヴィスに私は腰を掴まれてそのままお姫様抱っこされてしまう。

 な、何でと私がクロヴィスを見上げると、


「このままだといつまでたっても、フィオレと遊んでいて部屋に戻れないからな」

「こ、こんな風に抱きあげなくてもいいじゃん」

「……恥ずかしいのか?」

「それは、まあ」

「よい、このまま行こうか。これはお仕置きだ」


 お仕置きって、私、何も悪いことをしていないのにと思う。

 というかお仕置きと称して、あえて私がいやがる形でクロヴィスは私を抱き上げて、羞恥心で顔を赤くする私を楽しそうに眺めてからそのまま連れて行く。

 そんな私達を見てウィルワードやフィオレ、リリスがニマニマしていることに私は恥ずかしさで頭がいっぱいで、全然気づいていなかったのだった。








 戻ってくるとタマが起きていた。

 そしてフィオレの耳を見るやいなや、


「おそろい!」

「違う!」

「謙遜しなくてもいいんですにゃ~。にゃにゃ!」


 そこでからかっていたタマの耳をフィオレが触り、意地悪くフィオレが笑う。


「ふふふ、どうやらお前のこの耳も、弱点であるようだな」

「にゃ、にゃめ~、耳は、あっ、あっ……」

「わーい、私も混ざろうっと」

「にゃ~んっ!」


 フィオレがタマの耳をいじり、それにリリスが加わった。

 仲がいいなと私はほのぼのしながら見ているとそこで疲れたようなライがやってきて私に、


「……私に好意を持っている相手を幻滅させる方法って有りますか」

「とりあえず、変な格好をするとか?」

「それは私の美学に反する」

「普通にきっぱりと、貴方は嫌いですと言って微塵も好きな部分がないことをまず伝えるのはどうでしょう」

「……全然好きじゃないというわけではないんだ」

「じゃあ試しにデートをしてみて相性を見るとか?」

「いや、できればもう口説いてこなくなるようにして欲しい」

「何で少しでも好意があるのに、別れてもらおうと思うのかな?」

「……嫌いだから」


 ぷいっとそっぽを向くライを見ながら、恐らくはフェンリルとのことだろうなと私は思う。

 思ったので、私は微笑み、


「まあ、少しずつお話してみるのもいいと思うよ」

「……嫌だ」


 それ以上、ライは何も言わない。

 今後ちょくちょくお手伝いしてあげようと私は心の中で決めているとそこでタマが、


「エリ、もう助けてにゃ」

「……私も猫耳さわってやる」

「にゃ~ん、エリの裏切り者~」


 そう、タマが悲しそうになくので私はそれ以上手を出せず、その日は何だかんだ言って疲れていたのでぐっすり眠ったのだった。









 フェンリル王子とはまた会う約束をして、次の日、馬車で家に戻る。

 ウィルワードとは、この町に戻ってきて別れた。

 そして戻るとすぐにアンジェロが出迎えてくれる。


 そんなアンジェロを見てフィオレが、


「もう起きて動いて大丈夫なのか?」

「ええ、体が痺れる感じも少しありますが、この家の中なら大丈夫みたいですよ。試しに一歩外に出ようとしたら倒れそうになりましたから」


 笑うアンジェロにフィオレが固まる。

 と、そこでアンジェロはフィオレの異常に気付いたようだ。


「フィオレ、頭に布をかぶっているようですが、まさか怪我を?」

「ち、違う……実は……」


 フィオレはアンジェロに、不注意で呪われてしまった旨を伝えると、


「ふむ。それで猫耳が生えてしまったと。見せていただけませんか?」

「……」


 微笑むアンジェロになにか危険を感じ取ったらしいフィオレがジリっと後ずさる。

 そんな二人の仲の良さを見つつ私は、


「とりあえず呪いを2つほど解きますね」

「ああ、そうですね。ではその後に私はフィオレの耳を楽しませていただきましょう」


 アンジェロが楽しそうに告げるのを聞きながら二階のベッドに行き、2つほど以前のように呪いを解く。

 大分体が軽くなったらしいが、試しにアンジェロにこの家の外に出てもらうと、ふらりと倒れこんでしまう。


「やっぱり全部解かないと駄目みたいだね」


 私がそう話、明日もアンジェロには私の家でお留守番をしていてもらうことになったのだった。

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