別の危機
一時間後、予定の場所に集まった私達だけれど。
そこにどうしてかウィルワードがいなかった。
ちょっと気になる事があったので先に戻っていてくれとフィオレは言われて、ここに先に戻ってきたらしい。
そしてフィオレから、フィオレ達も襲われたような話を聞いて私は、
「フィオレとライも襲われたんだ」
「ああ、私が美少女だから出したいと思うのは当然だけれど、あの方法はないと思う」
フィオレがそう言い切ったので、そうですねと適当に私は答えた。
私の場合は、クロヴィスが何故か全員叩きのめしてくれたのだけれど。
戦闘なのに私に戦わせないのは珍しいなと思っていた。
そしてその後二回ほど襲われてクロヴィスがその理由を一人に問い詰めた結果、理由は分かった。
クロヴィスに出てみるかと聞かれたけれど、今は材料を探すのが先決だと私は上手く断ったのだ。
そして今に至るのだけれど、フィオレと話していてそこで私はひとつ気になる事があったので、フィオレに聞いてみた。
「フィオレ、その手に持っている紙は何なのかな」
「ああ、踊りのコンテストがあるらしいから」
「……まるでフィオレが出ると言っているように聞こえるんですが」
「何を言っている。エリも出るんだ」
あたりまえだと言わんばかりに、フィオレがそう私に告げた。
けれど私はフィオレの紙に描かれたアレな姿の踊り子の姿に絶望しながら、
「お、横暴だ! な、何で私まで……」
「少しでも賞品を手に入れる可能性を増やしたいからな。エリはこう見えても可愛いし」
「いやいやいや、賞品て……賞品?」
あれっと思って私が繰り返すとフィオレが紙を私に見せてきて指をさす。
そこには賞品として、“紫の砂漠の薔薇”と書かれている。つまり、
「これを手に入れれば材料は全部揃う?」
「全部?」
「う、うん、もう一つはさっき太鼓をあげたら、“砂漠人形”がくれたんだ」
そこでフィオレが私の肩を掴んで、
「よくやった、エリ。よし、この調子で次はコンテストに出るぞ!」
「い、嫌だよ、そんな格好なんて恥ずかしいし!」
「でも私とライもやるんだから、一緒にやろう!」
「え? ライも出るの?」
妙に協力的だなと私が思っていると、先ほど歩いている時に合流したらしいフェンリルが、
「友人のフィオレのためだから少しくらいはいいそうだよ」
「ライ、ありがとう! それにひきかえエリは……」
フィオレが冷たい目で私を見ている。
この薄情者と言うかのような責める視線に私はクロヴィスの後ろに隠れようとしたが、何故か襟首を掴まれてクロヴィスの前に向かい合うように立たされて、
「折角だから出てこい」
「な、なんで……」
「温泉街で俺に肩を流させなかった仕返しだ」
「そんな!」
「嫌がろうが服をいて着せればいいだけだから、諦めろ」
クロヴィスが私を裏切った。
でも私はあんな格好で踊りたくなんてない。
そこではっと私は閃いた。
「さ、砂漠で材料を見つけられたらでなくていいんだよね?」
今から砂漠に出て調べれば見つけられると私は思った。
確かフィオレの能力がわかった後でのイベントで、育てると呪われて猫耳が生える植物があったといったどうでもいい情報が焦る私の頭を駆け巡るが、今は関係ない。
けれどそんな必死になってそれから逃れようとする私にフィオレが、
「登録の時間が迫っているから、エリ、諦めろ」
「ふ、服とかはどうするんですか!」
「安心しろ、ライの恋人のフェンリルが全て用意してくれている」
ライが恋人じゃないと小さくブツブツ文句を言っていたが、追い詰められているフィオレの目を見ていて私は、
「う、うう……今回だけだからね」
「さすが親友! よし、じゃあ早速、登録しに行くぞ!」
そう言ってフィオレが元気一杯に手を上げたのだった。
ウィルワードは気配を追って、細い路地を抜けていく。
「確かこの辺りだった気がしましたが、見間違いでしょうか」
「……見間違いではないでしょうね」
通りすぎようとした細い路地を更に入り込んだ場所から、ウィルワードの目的の人影が現れる。
それにウィルワードは微笑み、
「ウィーゼ、久しぶりです」
「少し前に会ったばかりでしょう。大体……」
そこでウィーゼは言葉を切り、花がほころぶように微笑み、
「ウィルワード、私は貴方を捨てたんですよ?」
「捨てられても僕が好きでいるのは構わないでしょう?」
「……新しい恋人を見つければよかったのに」
「……そういった無理難題をウィーゼが言うから、僕は引きこもって冬眠する羽目になるんですよ?」
「そういえばそうでしたね」
クスクス笑うウィーゼをウィルワードは近づき、そのまま抱きしめる。
ウィーゼも大人しく抱きしめられている。
しばらく抱きしめられていたウィーゼがウィルワードの腕の中で、
「……また会えて良かった」
「……僕も昔と同じウィーゼに会えて良かったです。あれはウィーゼの体に負荷がかかり過ぎますから」
「でも私はまた、あの魔法を使おうと考えています」
「エリとの期限までは待てませんか?」
はっとしたようにウィーゼがウィルワードを見上げる。
優しげなほほ笑みを浮かべたウィルワードが、ウィーゼの額に軽く口付けをしてから、
「この前の出来事は、人形を通して全部見ていましたから」
「全く油断も隙もないですね。でも、全然気づきませんでした」
「日々改良を加えたものですからね。もっとも、三年のブランクがあるのでその間に魔法が進歩してしまえば気づかれてしまいますが、まだまだ大丈夫だったようですね」
「あまり悪さをすると……取り返しの付かないことになりますよ?」
「例えばどんな?」
「そうですね……貴方を連れ去って、私だけのものにしてしまうとか?」
クスクスと笑うウィーゼはウィルワードは更に優しげな表情になり、
「僕に会いたかったですか? 僕が眠っている間」
「そう……ですね。何度も見に行ってしまいましたからね。未練がましく」
「では、これを機によりを戻してもらえると嬉しいかな?」
「……駄目です。また貴方はあそこで、一人で眠ることになるかもしれませんし」
「エリがクロヴィスを止めてくれるから大丈夫ですよ」
それを聞いたウィーゼが沈黙して、それから、
「本当にそれは可能だと思いますか? 確かに私が見ていてもあの二人はとても仲が良さそうですが……」
「ええ、もちろん。だからウィーゼも安心していればいい」
「……ウィルワード、貴方が言うのであればそうなのでしょうね。私はあのクロヴィスと、エリに出会う前から何度も会っていますが、未だに信じられない」
「僕もエリにあう前も、会った後もどちらも知っているからこそ、大丈夫だと、エリを信じられるのです」
黙ってしまうウィーゼ。
クロヴィスは実は誤解されがちなんだよなと、ウィルワードは無理やり押し付けた親友の称号がゆえに思う。
そこでウィーゼが可笑しそうに笑って、
「そういえば貴方のことを真面目な人だというと、ルーザリオン様に微妙な顔をされるのですが何故でしょう」
「ははは、ウィーゼの前では僕は、とても“いい子”だからね」
「他の人の前では“悪い子”なのですか?」
「好奇心旺盛なだけさ」
冗談めかして答えるウィルワードにウィーぜが小さく笑ってから、そのまま自分からキスをする。
そのキスはすぐに離れるが、名残惜しそうにウィーゼはウィルワードを見て、
「また会いましょう、ウィルワード」
「ええ、また。……ウィーゼはエリたちを監視していますしね」
「そうですね」
「たまには一緒に食事でもどうですか?」
「……そのうちに」
そう答えて、ウィーゼはその場から姿を消したのだった。
フェンリル王子が用意してくれた客室。
そこに今晩は泊まってもいいらしい。
そしてここで衣装に着替えるとの事だったけれど、
私は、目の前に現れたその絶望を覚える様なそれに涙目になった。
それぞれにあった服そうだと言って、ライにフェンリルが進めたのは青を基調とした物、フィオレは緑色が自分にあっていると言って緑を基調とした物を選んでいた。
そして私にクロヴィスがすすめたのは……ピンク色だ。
「どうして私がこんなピンク色……」
「エリには似合うと俺は断言する」
楽しそうに言うクロヴィスを恨めしそうに見上げながら、私は目の前の衣装に目を落とした。
細い金色の糸で刺繍が施され、金色の鎖には所々に歯車のようなモチーフの金細工や宝石が彩られてキラキラと明かりの光を反射している。
非常に綺麗で、高価なものなのかなとおもわさせられる物もある。
特に細い金属性の腕輪は複数本腕に付け、頭に飾る花飾りには宝石がちりばめられている。
どれもが高級品であり、女の子がきていて踊るならば私も手放しで喜んだだろうけれど、着るのは私なのだ。こんな、
「紐みたいな衣装、着たくない」
私が愚痴るとクロヴィスが、
「もうフィオレもライもきているぞ?」
「これは着るじゃない! つけるだ! ……やっぱり私、出場取りやめする」
「いいからつけろ。俺の命令だ」
「……やっぱり逃げてやるぅうう」
私は逃走しようとした。
だが即座にクロヴィスに手頸を掴まれて後ろから抱きしめられる様にして、
「それで、俺に逆らうのか?」
「さ、逆らうも何も……だってこんな服、嫌だし」
「でも俺は見たいから駄目だ」
「横暴だ! うぐっ、戦闘に私を連れだすみたいに凄く嬉しそうな顔をしている。……クロヴィスらしいと思うけれど」
クロヴィスは、私が嫌がる事でも戦闘といったクロヴィスが“楽しい”と思う事は私が涙目になってもするのだ。
よくよく考えると、スライムや触手に襲われても助けるのがちょっと遅かったし!
そこで後ろからクロヴィスが、何処か不思議そうな声音で、
「俺らしいってどんなだ?」
「優しいけれど、意地悪。私にこんな物を着せようとしてくる。でも友達思いな所もある?」
「……最後は聞かなかった事にしておこう。そう、だな。エリには優しくしていたからな」
「? こうやって、アンジェロを癒すお手伝いにも一緒についてきてくれているし、優しいんじゃないのかな?」
「……」
「クロヴィスって、俺様イケメンみたいに崇拝されているけれど、結構、傲慢という意味では無くて感情豊かだと思う」
「……」
クロヴィスが沈黙してしまった。
私は変な事を言ってしまったかなと私が思っていると、クロヴィスが深く息を吐いて、
「……エリが普段俺をどう思っているのか分かった。それで、その服を引き裂かれたくなかったら大人しくきろ」
「! 私、クロヴィスが気に入らない事をいったかな?」
「いや、嬉しくなった。だから着ろ」
「! ちょ、それって不条理、タマ、リリス、助けて……」
私は一番のペットと杖に助けを求めた。
すると二人はいい笑顔で私の方を見て、
「「にゃーん」」
「にゃーんじゃなくて! そもそもリリスは猫じゃなくて、杖だし! あ、ウィルワードさん」
そこでウィルワードがやってきたので私は彼にも助けを求めたのだけれど、
「エリなら似合いそうなのでいいと思いますよ?」
「そんな!」
「今日ほどお前を親友だと思った事はない、ウィルワード」
クロヴィスが嘆く私を尻目に、よくやったというかのようにウィルワードをほめたたえる。
やはりクロヴィスの親友を名乗るだけあって、彼も私の“敵”であったようだ。
そう思ってそろりと逃げ出そうとした所で私はクロヴィスに襟首を掴まれ、
「どうやら俺がじきじきに手伝ってやらないといけないようだな」
「ひ、ひぃ、や、やだぁあああ」
悲鳴を上げている内に私はクロヴィスに捕まれて衣装に着替える部屋に放り込まれた。
後はライトフィオレの手伝いでいとも容易に服を脱がされてしまう。
一応抵抗しているはずなのに抵抗は無意味ともいえる速度で服を脱がされてそして……衣装という名の紐をつけられてしまう。
しかも髪飾りやら、ペンダントやら、耳飾りやら……次々と手際よく私につけていく。
そして全てを付け終えた私がそこから出ていくと、クロヴィスは、爽やかな頬笑みで、
「エリ、似合っているぞ」
「こんな物にあってたまるかぁあああ! ……フィオレ、ありがとう」
そこで私はフィオレに透明な液体を差し出され、とりあえずそれを一口。
私の意識はそこで、ぷつんと切れてしまったのだった。
私は、はっと目を覚ました。
何故か椅子に座らせられていて、目の前には心配そうにのぞきこむフィオレと、機嫌の良さそうなクロヴィスが瞳に映る。
「あれ? コンテストは?」
変だなと思って私がフィオレに聞くと、
「コンテストは終わった」
「え? 私記憶がない……」
「エリが1位、私とライが同時票で2位だった」
「! なんで!?」
フィオレは更に私から視線をそらしながら、
「エリに稀に酔う効果のあるジュースを飲ませたんだ。そうしたら……いや何でもない」
「な、何があったんですか!」
「仕方がなかったんだ、仕方がなかったんだよ!」
「わ、私は一体何をしたんですか!?」
そこでフィオレはふうとおおきく溜息をついて、
「他の男に言い寄られた時、『私の恋人はクロヴィスだけ』って言っていたから」
「……」
「まあ、こういった効果があるものを飲むのはクロヴィスの前だけにしておいた方が良い。うん」
本当に私は何をしていたんですかと、私はフィオレから聞き出そうとするけれど、フィオレはかたくなに話そうとしない。
ウィルワードも、リリスもタマも、傍にいた全員に聞いても答えてもらえない。
本当に私は何をやっていたのですか!? と私が思っているけれど、そこでクロヴィスが私の傍にやってきて、
「俺の秘密を知っていると騒いでいたぞ?」
「え?」
「でも、本当のクロヴィスを知っているのは私だけなんだと、俺を誘惑して来たぞ?」
「え? いや、あの……」
「酔っ払いの戯言だが……俺を見ていてくれている様な気がして何となく嬉しかった」
そう言って珍しく素直に微笑み私に告げるクロヴィス。
私は唐突に気付いた。
クロヴィスは、“神”であることを隠しているのは、私が“神”としてではなく、クロヴィスとして見て、クロヴィスとして好きになって欲しいのではないのか?
だからずっとこんな風に隠して、線引きしてくれているのだろうか。
そう私が考えているとそこで、
「だが、あんな風に誘ってくるとは……」
「そ、それは私、記憶にないんだってば! そ、そうだ、そういえばライ達は?」
「……エリが起きたら訪ねて来てくれと、今隣の部屋にいるぞ」
私が違う話しに持っていこうとしたのが気に入らないのか、すこし機嫌を悪くしたクロヴィスがそう答えたのだった。
とりあえず、服だけは私は着替えた。
だっていつまでもあんな格好でいるのは嫌だったし。
それに何となく、そう、何となくだけれどクロヴィスの視線が気になったので着替えてしまったのだ。
何処かしょんぼりしている様なクロヴィスの様子を気付かなかったふりをして、ライ達のいるらしき部屋を私は訪ねる事にする。
軽く二回ほど扉を叩いてからドアを開けると、丁度、ライがあのコンテストに出る恰好のままフェンリルに押し倒された所だった。
長く細いライの生足の間にフェンリルが覆いかぶさるように入り込み、抵抗する腕をベッドに縫いとめてそのままキスをしようとしているという状況。
ただライもそこまで嫌がっているわけではなく、何処か物欲しそうに頬を染めている辺りまた……というのを目撃して瞬時に状況を理解した私は、
「えっと……ごゆっくり」
空気を読んでそっと扉を閉めた。
これではしばらく中に入れないなと思っていると中で、放せ、といった様なじたばたする音が聞こえて、やがて静かになってから部屋のドアが開いた。
「お待たせしてしまって申し訳ない。……しかし、そんな素振りを見せないエリがあんな情熱的な行動を見せつけてくるとは思わなかったな。おかげで私もあてられてしまって、ライに襲いかかろうとしてしまったよ」
「……襲いかかったくせに」
楽しそうなフェンリルの後ろでぽつりと恨めしそうなライの声が聞こえた。
けれどそこでくるりと振り返ったフェンリルが、
「つまり、もう少し先に進んでもいいということかな?」
「! ち、違う、この……嬉しそうに私の腰に手を伸ばすな!」
私はそっと再び扉を閉めようとした所で、ごすっと鈍い音がしてフェンリルがうずくまった。
どうやらライが腰のあたりに肘鉄を喰らわせたらしい。
そこでライが怒ったように一人で私の方に来て、
「フェンリルはエリと二人きりで少し話したい事があるらしい」
「? 私と、ですか?」
何かこの人と話す事があったのかなと私が首をかしげていると、そこでクロヴィスが、
「何の話をする気だ?」
「いえ、“深淵の魔族”と接触したそうなので、少しお話を聞きたいかなと」
「……そうか。間違ってもエリに手を出そうとするなよ?」
「しませんよ。私が手を出したい相手はそこの部屋の隅で私を威嚇していますし」
フェンリルが指差す先を私が見ると、確かに部屋の隅でライが半眼でフェンリルを見ている。
そこで執事の様な男性がやってきてお食事ですと私達に告げる。
それを聞いたフェンリルが、
「丁度食事の時間の様ですから、皆さん先に行っていて下さい」
そう促したフェンリルに、クロヴィスは何か言いたそうな顔をして、
「……余計な事をエリに言ったなら許さない」
「……心得ております」
フェンリルはそう答えたのだった。
部屋に二人っきりなって、フェンリルを私は見上げた。
異国の王子設定でゲーム内ではチョロっと設定が出てきたくらいの人物だ。
物腰柔らかな感じだが、ライとの関係について色々と思わされるところがあるので私が警戒をしていると、
「……君には手出しするつもりもないよ? 安心するといい」
「それは分かっています。……ライにあれだけああなわけですし」
「なるほど。……それで君を呼んだのは、異世界から呼び出したという君についての話だ」
「この前接触した“深淵の魔族”関連ではなく?」
ぎゅっとリリスの杖を握って私が警戒するようにフェンリルを見上げると、フェンリルは苦笑をして、
「それは口実だよ。そもそも……“深淵の魔族”の上層部と、我々人間側の上層部は裏で繋がっているからね」
「そう、なのですか。だとしたら、フィオレがあんな目に遭うのも全部知っていると?」
「選択肢の一つとしては、仕方がないと思っている。ただ、今がその前段階だ。そもそも君が呼ばれたのは、クロヴィスと戦うためだったからね」
「……初めて会った時から知っていたのですか?」
偶然依頼を受けたあの時から、全部という意味で問いかけると、フェンリルは首を振り、
「あの依頼は本当に偶然だった。そしてセイレーンのライの事も。まさか君の所にいるとは思わなかった。私達はただ、クロヴィスの様子を少し見ようという話になって、そのついでにセイレーンのライを攫おうかと考えていた所だ」
「……」
「もっとも君の所にいたのもあって手出しできなかったしそれに、ライも楽しそうだったからね。それを見ていたら、私の気持も頑張ればライに通じるのではと思ってしまったよ」
「ライは感情豊かですよ、意外に性格が悪い所もあるし」
「そんなライは私も見た事がなかった。でも君の前では違うようだね」
初めて会った時の印象と今では、ライへの印象は異なる気がしないでもない。
でもそれは、フィオレだってそうで、
「……きっと私を“友達”だと思ってくれているから、そんな風に違うんだと思います。フィオレだって初めて会った時の印象はもっとツンツンしていたけれど、今は優しかったり弱かったり、抜けていたりする部分も全部私は知っています」
「信頼できる“友達”だと君は認識されているのだろう。……君は不思議な子だね。あのクロヴィスさえも落とすのだから、それぐらいの事は出来ても不思議ではないのかな?」
「別に、それを狙ってやっているわけではないです」
「そうだね……何だか君と話していると、本当にクロヴィスを説得してしまいそうな気持ちになるね」
「ぜひ期待していて下さい」
私が軽口をたたくように言い返すと、フェンリルは笑った。
実際にそういった結果を見せつけてやるつもりなのだ。
そう心の中で私が思っているとそこでフェンリルが、
「しかし、呼び出した君やクロヴィスも、我々側でも観測をしていたんだよ?」
「……そうですか」
この前の“深淵の魔族”の話で十分に慣れてしまったのでそこまで驚きはなかった私だが、
「君が失敗して炎の塊を海を越えるほどに飛ばしていったのも知っている」
「……あれ、結局どこまで飛んでいったのですか?」
失敗したあの焔の魔法。
他にも目撃者がいるようではあったのだけれどそこでフェンリルは頬笑み、
「海の向こうの母国ですでに確認されている。その魔法から君の魔力量の推定が行われた。……“深淵の魔族”達にはまだ話していないがね」
「どうしてですか?」
「完全に彼らを我々は信用していないし、彼らもまた我々を信用していないのだよ」
疲れる関係だなと私は思いながら、
「でも人間側と裏で、随分情報交換が進んでいるのですね。てっきり、あの空飛ぶ国だけだと思っていました」
「随分良く知っているね。やはりこの世界の秘密に関する話は大体君は知っているのか……」
「はい、一通りは」
「でもだとすると、石板が“深淵の魔族”の手にあるのは不思議に感じなかったかな? あれは私達側の物だから」
「私の知っている話では、そういった情報はありませんでしたから」
ゲーム内では、単に特別な石板を知らず知らずのうちに集めていただけだったのだ。
でもそれを、ゲーム内の“クロヴィス”もすすめていた。
ゲーム内でも、そういえば、彼自身を見て欲しいと言っていたような……。
そんな事を考えているとフェンリルが、大体の事情は“深淵の魔族”から聞いているかのような口ぶりで、
「そうなのか、そこは君の知っている知識と、この世界の差異のようだね、なるほど」
やはり話は伝わっているようだと私は思いながら、そこである違和感に気付いた。
「でも今の話では、人間側から私に石板が提供された様に聞こえます」
「正確には人間から魔族側に、だね。随分昔に集められて私の国の博物館に飾られていたのだけれど、おかげで今は複製物を飾らないといけなくなってしまった」
「魔族はわざと私にそれを集めさせていたようですが?」
「そうだよ。そして私達も観測していた。君が石板に触れて何かが起こるかも知れなかったからね。結果は何も起こらなかったけれど」
「何か起こるかもしれないのですか?」
私は不安を感じて問いかけるとフェンリルは首を振り、
「分からない。召喚自体が、“初めて”の物だったから。小さなものでは試したが、大きな人間の様な物は初めてだったから。それでも失敗してでもいい、挑戦せざるおえないと思うほどに、我々は追い詰められていた」
「……でも私は、絶対、必ず、説得してみせます」
「……期待している。それが一番いい方法なのは確かだろうからね」
そう笑ったフェンリルは、私をじっと見てそれから、
「しかしあの話に聞くクロヴィスが、ここまで骨抜きになるとは。まあ、私もライには夢中だから人の事は言えないが」
「骨抜きって……クロヴィスは私に結構厳しい気がする」
「厳しい、厳しい、ね。そんな評価が下せるあたりで、君の前では随分とクロヴィスは、君に心を許しているのかもしれないね」
「もうちょっと甘くてもいいと思うのに」
「好きな子相手には意地悪をしてしまいたい時もあるのかもしれないな。ライと私は情報交換した時も、ライの持っている情報は全部私の手の内にあったけれど、それを隠して“情報交換”したからね。もっとも、つい少しこちら側の情報も流したけれどね」
「どんな、ですか?」
「エリを生贄としてクロヴィスに差し出して、愛玩させて、大人しくさせてみるのも手ではないかという話が出ている、といった事かな」
私はその時どんな顔をしているのか分からなかった。
ただ、エロ的な意味で差し出されるというのは確実で、えっとつまり、
「私、戦わなくてもいいってことでしょうか」
「今の状態だと、戦わせてすらもらえなさそうかな。後は暗殺も手ですが、そんな器用な事が君には出来なさそうですし……それに彼を殺せたとしてもこの世界がどうなるか分からない。だったら、君をクロヴィスが“溺愛”しているので、適当に与えておけば静かなのではという楽観論が大分出ている状態だ」
「……」
そこまで愛されている気がしないので、どうも彼らの認識が私には奇妙に聞こえる。
けれど今のを聞きながら私はある事に気付いた。
「あの、もしかして私、“失敗”したらクロヴィスに貞操的な意味で危険な事に?」
「君もまんざらではないようだから良いのでは? 酔った時、凄かったからね」
「い、いえ、私、記憶にありませんから」
「記憶にない? それは……クロヴィスは、気の毒に」
「あの、私、何をしたんでしょうか。誰も教えてくれないのですが」
「はははははは」
フェンリルは笑うだけで何も答えない。
本当に私は一体どんな事をやっていたんですかと思う。
でもそれ以上に気になるのが、上手くクロヴィスを説得しないと、私が、という恋愛的な意味でとんでもない事になりそうな点である。
友達といった大切な人達を守る為が主目的だったのに、更に私が危険なことになってしまいそうだという、危機的な状況に私は気付いたのだった。




