洞窟で戦闘を
そして輸送費を支払い、私は道具を大人買いする。
「これ全部送料込みで、はい」
「ぐおおおおおおお」
道具を販売するお店の店主が、今にも倒されてしまいそうな敵役のような声をあげた。
金貨で現金で即お支払いをしたので当然だと私は思う。
そもそもこれらの道具は結構値が張るのだ。
だがニューゲームで所持金が限界まで貯まっていた私に、死角はない!
そんなわけで即お買い上げして送料まで支払った私はホクホクだ。
つまり、あれだけでも素敵なひきこもりライフが楽しめるのである。
そんなにまにましている私にクロヴィスが、
「エリは、無駄に金は持っているんだな」
「無駄って何よ。私だって頑張ってお金貯めたのに」
「どうやって?」
「色々作ったりして、売ったりとかだよ」
戦闘もして手に入れたのだがそれはゲームの話なのでクロヴィスには出来ない。
正直、どうしてこんな場所にきたのかまだ私には分からないのだ。
そこで黙ってしまった私の頭を軽く撫ぜて、
「言いたくないなら言わなくていいぞ」
だがクロヴィスは、私が言葉を濁しているのに気づいたらしい。
「……ふんだ」
「さて、折角だから周辺で魔物を倒して行くか!」
「いやぁああああ」
私は全力で逃げようとしたが、クロヴィスよりも背の低い私が逃げられるはずもなく、襟首を掴まれて引きずられるようその場を後にしたのだった。
港にほど近い人気のない海岸にて。
私はクロヴィスに剣を渡されていた。
どう考えても終盤になって手に入るような黒い禍々しさのある剣だ。
この剣で最終戦は酷い目にあったんだよねと私は思い出しながら、私は先ほどの約束通り剣をクロヴィスに貸してもらう。
クロヴィスはこの剣を軽々と持ち上げ操っていたので余裕だろうと私は思っていたのだが……。
それを手渡された瞬間私はその剣を取り落としそうになった。
「お、重い……」
「……魔力があるから適正があるかと思ったが、そんな事はなかったか」
「そ、そんな事冷静に解説していないで受け取ってよぅ!」
私が懇願するように言うとクロヴィスは、そうだなとそれを受け取る。
重い物を持った反動で私は付かれてぐったりしてしまう。
やっぱり明日からは色々調合しようと思う。
肉体労働は無理だ。
材料はほぼ全部あるし。
そんな事を考えていると、杖の妖精リリスが私に飛んで来て、私の肩に座りながら、
「ね、ねっ、やっぱり私がエリの一番でしょう?」
「そうだね、リリスが一番だよ」
私には剣が合わなかったようだと、悲しくなった。
剣を振り回す女性も格好いい気がしたのだけれど。
そういえば出てくる女性キャラのほとんどが杖を持っていたから。
そこでクロヴィスの機嫌が何だかおかしい事に気付いた。
「どうしたのクロヴィス」
「いや、もう少し基礎体力をつけないといけないよな、と。折角だからあの海辺の洞窟に入ってみるか?」
「……止めておく。私、この海岸の砂を集めて星屑が細かくなりながら放射状に広がって爆発する爆弾を作るんだ」
「……戦闘には必要そうだが、必須ではなさそうだな。それに後で採取もできそうだ」
そう呟いたクロヴィスは、私の手を引っ張り、その洞窟へと向かって行く。
そんなクロヴィスに私は、
「い、嫌、あそこ危険なんじゃないの?」
「良く知っているな。だが俺が守るから安心して戦闘に集中していろ」
「う、うう……私みたいな素人じゃなくて、他の人達とパ-ティ組んで行った方が良いんじゃ……」
「俺がお前以外を守る気なんてないから却下だ」
「そんな……」
こうして私は、クロヴィスとともにやや難易度の高い海に面した洞窟に向かう事になったのだった。
海辺の洞窟までは、海岸沿いに道が出来ている。
けれどそれも自然の岩を使った道なので、海水が大きな波となり打ちつけてきて、
「は、早く行ってよクロヴィス! 濡れちゃうよ!」
「……濡れてしまえ」
「酷い! でも着替えの特殊装備は持っているから良いけれど……というか装備しておいた方が良いのかな? あ、リリス、私の影に隠れてずるい!」
「だって、海水に当たると気持ち悪いんだもん。なのでエリを盾にするぅ~」
薄情な杖の妖精に私は悲しくながらも、その海辺の道を行き、やっとの事で洞窟に入り込む。
茶色い岩で囲まれた洞窟には海水が流れ込んでいたが、ところどころに奥に進むには丁度いい石が点々と踏み台のように海水の中に伸びている。
都合のいい道だと思いながら、私はクロヴィスに連れられてさらに奥に進んでいく。
「やっぱり段々と海水の匂いが薄くなってきたかも」
「この洞窟は、地上の地底湖とも繋がっているからな。真水が海水と混じってきているのだろう。でも、よく知っているな」
「ぎくっ、い、いえ、たまたま知っていただけです」
私はそうやって誤魔化した。
だって、異世界から来ました、しかもこの世界とそっくりなゲームをプレイした事があります、ついでに貴方がラスボスだと知っていますというわけで。
もしもクロヴィスにそんな事を言ったなら、ここで突然ラスボス戦になるのかもしれない。
仲間のいないラスボス戦……絶望しか感じない。
しかもラスボスに倒されたなら私はどうなってしまうんだろう。
「……そんな怖い展開は全力で回避せねば」
「? どうした?」
「いえ、何でもありません。……あ、“洞窟夜光石”!」
そこで私は、陽の光の届かない洞窟の奥で、明りのように輝く不揃いの球状の玉が数珠繋ぎになった物を見つける。
水や海水、そしてその光に集まる虫や蝙蝠などの魔力を集めて結晶化して、輝いているのだ。
これがもっと巨大に成長すると、“精霊”が生まれるらしい。
この世界では一般的に、“精霊”と“妖精”の区別は、単に人と関わりがないか、あるかの違いでしかない。
そしてこういった“精霊”が生まれるには、ある一定の魔力の塊である“魔力石”が必要なのだ。
つまり、人為的であれ自然のものであれ、ある程度魔力が大きくなれば“精霊”が生まれているか分かるのである。
「こことこことこれ、ちょっと貰って行こう」
「こういった時だけは生き生きするな。それにもっと大きい物じゃなくて良いのか?」
「うん、これで良い。そもそも生まれていたらその本体を“精霊”は隠しちゃうから見つけにくいだろうし」
「そうだな。……危ない!」
そこで私は上にばかり気を取られて足を踏み外して、体のバランスを崩してしまう。
焦ってどこか捕まる場所と思った所で、私はクロヴィスに腕を掴まれて抱きしめられるようにされる。
「全く俺が傍にいないと危なくて仕方がないな、エリは」
「う、うぐ。……助けてくれて、ありがとうございます」
「そういった素直な所は可愛いな」
「では可愛い私のお願いです。もう帰りたいです」
「さて、奥まで行こうか」
「いやぁああああ」
嫌がって悲鳴を上げる私を無視して更に奥へと向かう。
確かにこの先はそこそこ強い魔物がいるのだが、その先にはイベント用のボスがいたはずなのだ。
名前はローレライ。
男を惑わし魅了する姿をしており、男性陣の魔力や体力、速度が四分の一程度になってしまうのだ。
レベル的にはそれほど強くないが、道具の力に頼っている私や、どの程度のレベルか分からないクロヴィスの二人で挑むには荷が重すぎるように思う。なので、
「諦めて戦闘はするけれど、途中までで戻っても良いかな」
「そこそこレベルが強い敵だが、俺の敵じゃない。いざとなれば守ってやる、だから……諦めろ」
そうクロヴィスが私に宣言する。
クロヴィスは一応ラスボスで、本当の力を解放するとどうなるかを私は知っているので、それなら確かに大丈夫だよなと思う。
でも戦うならもう少し仲間が欲しい。
「せめてこの洞窟内に、私達と組んで潜ってくれる仲間になってくれそうな冒険者がいないかな」
「……俺以外と冒険したいのか? エリは」
「うーん、私達二人だけだと心もとない気が」
通常時のクロヴィスの強さは見ているのでその強さは納得がいくが、仲間が多い方が安全なのだ。
けれどクロヴィスの機嫌を損ねたらしく黙って私の手を引き逃げられないようにしながら奥に進んでいく。そこで、
「うわぁあああああああ」
人の悲鳴が聞こえたのだった。
悲鳴の聞こえた方を見て私は、
「今の悲鳴、助けに行かないと!」
「……冒険に行くのは嫌なくせに、こういう時は積極的なんだな」
「……悪い?」
「いや、更に気に入った」
それを聞いて私は、あまり気に入られたくないな、気に入られたらさらに色々な冒険に連れて行かれそうだし、ラスボスだしと思う。
思いはしたけれど、気に入ったといわれて悪い気はしなくて、そのまま悲鳴の聞こえた方向に駆け出す。
その悲鳴を上げたのは男の三人組だった。
軽装備の冒険者で、斧使いと弓使いと剣士が目の前の魔物に腰を抜かしているようだった。
情けない姿だが、その魔物の全貌が見える位置まで来て私は納得する。
「“#青と白の海蛇__シーサーペント__#”」
ドラゴン程ではないが、強力なこの世界の魔物である。
白い私達の数倍はある背丈の青白い輝きの白い海蛇は、チロチロと赤い舌を吐きながら今まさにその三人に牙を向けようとしている。
とっさに私は杖をその蛇に向けて、
「煌めく星々の輝きよ、炎となりて従え! “連花の紅蓮”」
その言葉と共に、私の杖から赤い光の水のようなものが地面に落ちて魔法陣を描く。
この世界の魔法は使うと同時に地面に魔法陣を描くが、これはもともと魔法が地面に魔法陣を描くことから始まったからだと言われている。
そして杖から零れ落ちた光から描かれた魔法陣が更に別の魔法陣を描き上げる。
複数の魔法陣を同時に描き動かして行う強化魔法の一つだ。
そして枝分かれした端にある8個ほどの小さな魔法陣から火球が浮かび上がり、一斉に“#青と白の海蛇__シーサーペント__#”に向かう。
その炎の塊に打ち付けられるように後ろに下がり、炎上する。
きしゃああああ、といった断末魔の大きな悲鳴を上げながらその魔物は崩れ落ちるように倒れて、燃えた後に“#青と白の海蛇__シーサーペント__#”の核となる貴重な宝石“ローレライの涙”という薄水色の石が地面に落ちた。
どうにか倒せたなと思って、今更ながら私に震えが来る。
ゲームではそれこそ気楽に倒せた相手だったが、実際に目の前で敵として現れ、そして打倒したとはいえ、もしも負けていたらと思うと怖くて堪らない。
そこで私の頭をクロヴィスが撫ぜて、
「やればできるじゃないか。良く頑張ったな」
そう微笑んで強くさらに頭を強くぐりぐりと髪をかき乱すように撫ぜる。
ちょっとだけどきりとしてしまったというか嬉しくなった私の心が怒りに変わり、
「こんな風に強く頭を撫ぜるな!」
「エリは我儘だな。こうか?」
「そう、それでいいのだ! ……むがっ」
そこで私はクロヴィスに鼻をつままれる。
撫でられて気持ちが良いなと思った所でそれをされて私は更に機嫌が悪くなるが、そこで、
「た、助かりました。本当に何とお礼をいえばいいのか……」
先ほど襲われていた三人のうちの剣士が私に話しかけてくる。それに私は、
「いえ、たまたま通りかかっただけですから。怪我がなくて何よりです」
「本当にありがとうございます。魔法使い様。そして……」
そこで彼は私の両手を取り熱っぽい瞳で、
「結婚して下さい! 一目惚れしました!」
彼は私に告白してきました。
吊り橋効果という物……なのか? と私は混乱する。
あまりの意味不明さに私が凍りついていると、そこですっとクロヴィスの剣がその剣詩に向けられ、
「死にたくなければ去れ」
「ひ、ひいい、す、すみませんでしたぁあああ」
あっさりと剣士は仲間とともに逃げて行った。
あの、貴重な宝石“ローレライの涙”と一緒に。
いや、別に私は沢山持っているので良いのだけれど、何となくこう、脱力感を感じた。と、
「まったく、油断も隙もないな。それよりも、このすぐ先に祠があるから……」
「あ、そこで上手くくじを引ければいいアイテムがもらえるんだよね」
「……よく知っているな」
「ギクッ、たまたまです」
慌てて私はそうクロヴィスに答えると、クロヴィスはそれ以上問いかけなかったのだった。




