オアシス都市
そんなこんなで、空いている部屋でアンジェロを寝かせていたフィオレにご飯を持っていく事にした。
アンジェロには野菜スープとベーコン、ミルクとチーズ、香草で作ったリゾットを。
飲み物として、体力と魔力を回復する栄養剤(呪いも幾らか緩和するらしい)……と共に、“風藍ブドウ”の果実を搾ったジュースを持っていく。
フィオレの分は私達と同じでもいいかと思って、とりあえずは他の人に食べられてしまわないよう別に取り分けてある。
今日はハンバーグを使った、ロコモコ風のご飯だ。
皆は今美味しいと食べているはずである。
というわけでご飯を持ってきた私に、先ほどからアンジエロの手を握り締めて魔力を注いでいる? らしいフィオレが、顔を上げて、
「エリ、しばらくこの部屋に居させてもらっていいか?」
「それは良いけれど」
「ありがとう。ここの部屋は……いや、この家自体が自然と魔力が集まっている様な気がする。だからアンジェロも体が楽なようなんだ」
「そうなんだ。このお家、いい場所だったのかな?」
「恐らくは。それは食事?」
「うん、アンジェロの分。フィオレの分は別に用意してあるから。後で食べると良いよ」
「そうさせてもらう。何から何まで……」
「別に良いよ“友達”だもの」
「そうだな、“友達”だから」
そう友達だと言い合って私とフィオレは何となく恥ずかしいような変な気持ちになって笑ってしまう。
そんな私達をアンジェロは微笑ましそうに見ている。
それに気付いたらしいフィオレが、それがさらに恥ずかしくなったのか慌てる様に私から栄養剤を取り上げて、
「アンジェロ、まずは栄養剤だ。これを飲んで回復しろ」
「では、フィオレに口移しで飲ませて欲しいですね」
アンジェロが、微笑みながら要求した。
フィオレが冷たい顔でアンジェロを見てから、手にもつ栄養剤の瓶に目を落とす。
硝子の瓶には、緑色の透明な液体が入っている。
ゲーム内でもとても貴重な材料を幾つも使った特別な栄養剤だったりするので、この世界でも効果はてき面……だと私は思いたい。
その瓶をじっと見ていたフィオレが、意を決したようにそれを口に付け、一気に半量ほど口に含み、私の目の前でアンジェロと唇を重ねた。
何となく見てはいけないような気がして私は、慌ててみないように目を隠す。
それから少しして様子を見ると……何故か上半身を起こしたアンジェロが、フィオレに濃厚なキスをしている最中だった。
フィオレが慌てて逃げようとしているようだが、腕を掴まれて逃げられないようだ。
濃厚なキスをしているのは分かるが、そこでフィオレの体から力が抜けそうになった所でアンジェロが唇を放し、
「ごちそう様です」
「……アーン―ジェーロォォォォォ」
ごちそうさまという言葉から少しして正気に戻ったらしいフィオレが呪詛めいた声を上げる。
今キスされたことでフィオレは頭に血が上ってしまい気づいていないようなのだが、私は驚いた。
「アンジェロ、もう起き上がれるの?」
「そのようですね。まだ体がふらふらしますので戦闘のお手伝いは出来そうにありませんが」
「でもどうしてだろう。この栄養剤の効果かな? ……そういえば呪いも幾らか緩和する、という効果もあった気がする」
「それにこの家には魔力が集まりやすいようですから、体が動かしやすいのでしょう。というわけで、フィオレ。私の看病をせずに、呪いを解く材料を取りに行くお手伝いをお願いしてもよろしいですか?」
そこで微笑みながらフィオレにアンジェロは告げる。
何でだろうと私が思っているとフィオレが絶望したような顔で、
「そんな! アンジェロにご飯を作ってあげようと……」
「だからです」
即答するアンジェロを見て、意外にこの人容赦無いなと私が思っているとそこでフィオレが瞳に涙を浮かべて、
「アンジェロのバカァあああ」
そう叫んで部屋から出て行ってしまう。
私はどうしようかと思っているとそこで、
「ご飯を食べさせて貰う機会を失ってしまいましたね」
そんな風にアンジェロが呑気に呟いたのだった。
その後はフィオレも一緒にご飯を食べて、何故かフィオレはアンジェロの部屋に行って戻ってこないまま私たちは眠り、次の日。
アンジェロはどうにかベッドから起き上がれて、一緒に朝食をとる。
フィオレが無言でもしゃもしゃパンとサラダを食べており、目の下がくまになっているのが気になったが、ここは突っ込んではいけない部分だなと私は空気を読んだ。
食料品などはそこそこ買い込んであったし、長く家を開けるつもりもない……せいぜいい一泊か二泊、他の町に泊まる程度の予定だったのだ。
そしてウィルワードがやってきて、クロヴィスがげっそりとしていたので、
「やっぱりクロヴィスを振り回せる行動を私は手に入れたんだ!」
「……エリ、これが終わったらまた戦闘三昧だ」
クロヴィスはふっと鬼畜な微笑みを浮かべて答え、私はそれに震えた。
そして、“メルリア砂漠”にあるオアシス都市に向かうことにする。
必要な材料が高価とはいえお金でどうにかなるならその方がいい。
珍しい材料なので見つけにくいには見つけにくいのだけれど、もしも購入できなかった場合、そういった希少な材料を見つける探知機を私は持っているのでその点は安心だ。
最後のほうで手に入ったので、一回しか使ったことのない道具。
だから二周目用として使う予定だった。
とはいえアンジェロの呪いを解くのが優先なのには変わりないので、購入できるに越したことはない。
さてそんなこんなで、街から出ている馬車に乗りまずはそのオアシス都市を目指す。
民家が見えなくなり森に向かい、やがてサラサラとした砂が波打つ場所を、馬車が行く。
この馬は砂漠越えの出来る特別な馬であるらしい。
そして淡黄色の砂の道には、途中途中で道しるべとして見るのは“砂漠人形”達である。
私達が来ると手を振るように歓迎してくれる。
ちなみにこの人形達は砂漠越えのお守りとして使われた人形であり、行き来の際に落とされて砂漠の魔力によって動きはじめた、そう、精霊の一種なのである。
人と関わり合いがあるので妖精と分類していいのかもしれないが、こうやって道の両脇で道案内の様なものをしてくれるだけなので精霊と呼ばれているそうだ。
ちなみに砂漠の中には埋もれた帝国があり、悪霊達が時折太鼓をたたく音や武器をぶつけあう音が聞こえるのだとか。
私達の世界であれば、熱膨張だか何かが関係していたような気がするが、ウィルワードさん曰く、夜は案内する人がいないので人形達がお礼に貰った太鼓などを叩いて遊んでいるのが原因らしい。
そして太鼓などの楽器や武器を渡すと、砂に埋もれてしまった変わった物や砂漠の宝石、水など色々な物と交換してくれる場合いがあるのだが、それを秘密にしておきたいので悪霊ということになっているそうだ。
「楽器のようなものは持っていなかったから、後でオアシス都市で購入してあの人形の子達に渡したら欲しいものが手に入るかな?」
私がそう呟くと、クロヴィスが嘆息して、
「欲しいものが出るまでそれを繰り返すのか?」
「楽器がいくらあっても、きっと足りないね」
そこまで運良く上手くいくなんて思えないし、そう呟いている内に私たちは、オアシス都市にやってきたのだった。
オアシス都市、“キスト”にやってきた私達は、待ち合わせの場所を帰りの馬車が集まる待合所周辺とした。
そしてどんな風に別れたかというと、
私とクロヴィス、タマとライとリリス、ウィルワードとフィオレの三組。
その分け方をしたのはクロヴィスが、
「俺は、エリ以外と一緒に行動はしない」
「そうんなんだ、じゃあ私とクロヴィスとウィルワード……うぐっ」
そこで私はクロヴィスに口を手でふさがれて、
「俺とエリ、タマとライとリリス、ウィルワードとフィオレの三組に分かれて探そう。それでいいな」
「私はエリと一緒に回りたいけれど、駄目かな?」
そこでライがそう告げるとクロヴィスに睨まれたので、おー、怖い怖いと笑いながら要求に従った。
そういえばこうなると初めからライは分かっていただろうから、わざと聞いたのだろう。
ライは私の監視を兼ねているから。
そんなことを考えている私にそこでフィオレが、
「それでたしか集めるのは、“紫の砂漠の薔薇”と“星空の欠片を抱く砂漠の宝石”でいいのか?」
「うん、とりあえず見つけた場所だけあとで教えてもらえればいい。確か売っているのって凄く高かったから」
なのでゲーム内ではわざわざ砂漠まで探しに行ったのだけれど、現在お金は限界に近い量なのである。
十分購入できるだけのお金はあるのだ。
問題なのは、これらがただの“砂漠の薔薇”や“砂漠の宝石”でないこと。
オアシス都市なので、水の魔力が湧いている所もあるので、そういった場所の近くに“砂漠の薔薇”は出来やすい。
ただそれに“何か”の要因が重ならないと“紫の砂漠の薔薇”はできない。
そして“砂漠の宝石”もそうで、砂漠に生じたその“砂漠の宝石”に“何か”が生じないと出来ないらしい。
そういった貴重なものなので出てくる事自体がまれなのだ。
が、稀だからといって買うのでは駄目なのだ。
もしかしたなら2つくらいあって、片方はもう片方よりも安いかもしれないので、値段を見て集まることにする。
そうして私達は別れて店などを見て回る事になった。
人の多い街。
出店では雑貨の他に様々な食べ物や飲み物が売っている。
所々に、何時だかは分からないが、踊り子のコンテストのようなものがあるらしく、宣伝の紙がそこら中にはられている。
特に興味のなかった私は、中身をよく見ることはなかった。
だって、載っていたイラストの踊り子は男性のもののようだったし。
そんなこんなで、途中、“甘いヤシ”と呼ばれる椰子の実を2つ購入して、クロヴィスと飲んだりしながら回っていくけれど、
「何だか全然ないね」
「そうだな。普通の“砂漠の薔薇”はあるようだが、それ以外は存在しないようだな」
「しかも普通の“砂漠の薔薇”も結構高いし」
そう呟いている私達。
ひと通り見て回るも、気づけば出店の一番端のあたりまで来てしまう。
「全然ないな……よし、そこのお店で太鼓を買ってこよう」
「砂漠に探しには行かないのか?」
「え、えっと、砂漠は危険だし?」
「……久しぶりに縄の出番かな」
「ひ、必要だったら行くよ! でも今はすぐにでもアンジェロを癒やさないといけないわけで……」
そこで私はクロヴィスに腕を掴まれて、近くの細い路地に連れ込まれる。
少し入っただけの路地は薄暗く、大通りの喧騒は遠くなる。
そんな場所に引きずり込まれた私は、クロヴィスに片方の肩を掴まれて壁に押し付けられていた。
見上げるとクロヴィスが嗤っている。
その瞳に暗い情念がある気がして、私は体をこわばらせてしまう。
それに気付いたらしいクロヴィスは更に笑みを深くして、
「そんなにアンジェロが、俺以外の男が気になるのか?」
「クロヴィス、そういった言い方はないと思う。フィオレは私の友達で、そのフィオレの恋人であり、私の知り合いだし、そんな人があんな風に呪いを受けたなら手伝いたいって思うのは当然じゃないかな」
「……エリはお人好しだな。それで……もしも、そのアンジェロを俺が治したなら、エリは俺の“物”になるか?」
笑いながら告げたクロヴィス。
私はクロヴィスにその力があるのも、クロヴィスが私を好いているのも知っている。
きっと遠回しに、治す手助けをする代わりに私を奪うと言っているのかもしれない。
よくよく思い出せば、私を奪いたいというようなそんな言葉を、冗談めかして何度も聞いた気がする。
力を使うということは、私が、私達がクロヴィスの力を確実に知るということ。
それがクロヴィスの引いた線なのだろう。
でも私はまだ嫌いではないけれどそこまで強い思いを自分が抱いているのか分からない。
クロヴィスが私を想ってくれているからこそ、それに私は誠実に応えたいと思う。
それに、こんな言い方はクロヴィスらしくない。つまり、
「それはクロヴィスが私に、“戦闘”をしないで怠けていいよって事?」
「……」
「だって、必要な物を砂漠に取りに行かなくていいってことだよね。それはつまり“戦闘”しなくていいってことだよね?」
そう悪戯っぽく問いかけると、クロヴィスは目を瞬かせてから、
「確かにそうなってしまうな。俺としたことがエリを怠けさせてしまうとは、な」
クロヴィスは破顔する。
おかしそうに笑うクロヴィスを見ながら私は、こんな風に心の底から楽しそうに笑うクロヴィスが一番“好き”だと思う。
何だか見ていると自然と笑みが溢れてくるのだ。
「なんだ、微笑ましそうな顔をして」
「ん? クロヴィスが“心の底”から楽しそうに笑っているのが嬉しくなっただけだよ」
そう答えると、クロヴィスが私から顔を背けてしまう。
なんでだと私が思っているとそこで、
「さて、折角だから少し砂漠を散策してこようか!」
「! で、でももう少し探して……」
「俺としたことが、エリに怠ける選択肢を与えそうになるとは思わなかった。だがそれを教えてくれたということは、エリが自分から“戦闘”をしたいとお願いしてきた。俺の洗脳の賜だ、この調子で魔物を見た瞬間に襲いかかる普通の魔法使いを目指そうか」
「い、いやぁああああっ、というか何でロープがっ」
気づけばクロヴィスの手にはロープが握られて私はぐるぐる巻に。
久しぶりにこんな目にあった私は、せめてと思って、
「太鼓を、太鼓を買わせてください」
「……いいだろう。但し三個までだ」
と、クロヴィスに回数制限されてしまった私は、太鼓を3つほど購入して街と砂漠の境界あたりにやってくる。
“砂漠人形”にお願いをしてみようと思ったのだ。
なので何処に人形がいるか探していると、私の目の前の土から、人形が一体顔を出す。
青い帽子をかぶった人形で、そんな彼に私は太鼓を一つ渡すと、トテトテと何処かに消えていったかと思うとすぐに同じような人形で赤と緑の帽子をそれぞれかぶった二人の仲間を連れてきた。
交換してくれないのかな? と思いつつその二人にも太鼓を渡す。
嬉しそうに人形は何処かに消えていく。
そのまま戻ってこない。
「貰ったまま戻ってきてくれないのかな?」
「そういう場合が結構多いらしいぞ? さて、諦めて“戦闘”に行こうか」
「う、うぐっ、後もう少しだけ」
そう私が諦めきれずに待っていると……やがて三体のあの人形が何かを担いで私の前に持ってくる。
それは緑色の透明な石で、中には赤や青、白などの斑点が見て取れる。
私はそれが何なのかをすぐに見ぬいた。
「“星空の欠片を抱く砂漠の宝石”」
「……エリは運がいいな」
「うん。これ、貰っていいかな?」
そう私が問いかけると、人形が頷くのでそれを私は受け取った。
これで貴重な材料が一つ手に入った。
人形たちはそのまま砂の中に潜ってしまったのはいいとして、そこで私達の周りを、顔を布で隠した人物たちが囲んだのだった。
ライは、タマとリリスと一緒に歩いていた。
途中、喉が渇いたのでヤシの実を2つと、この辺りのサボテンの花からとれる“鱗花の蜜”を少量購入して飲みながら歩いて行く。
食べ物は変わったものがあって美味しそう。
“爆発スイカ”も切られて売られていたが、ここの砂漠のものは甘くない品種だと以前聞いていたので避ける。
そうやって探して行くも見つからない。
なので先ほどからリリスを頭の上に乗せて楽しそうに歩くタマを見ながらライは、
「タマ様も探してください。エリには色々良い物を探して来てあげていたんでしょう?」
「みゅ~、確かに僕は“運”がいいのは認めるのですが、魔力の濃密な波長などを感じ取って取ってきている部分もあるのですにゃ」
「ではそういった気配はどこから感じますか?」
「そうだにゃ~、あそこの闘技場のような場所? にそれを感じるにゃ?」
確かにこのオアシス都市にはそこまで大きくないが円形の闘技場のようなものが少し離れた所に見える。
それを見ながらライは、
「あそこまで行くのもちょっと遠くて面倒そうですね。でも仕方がない、確認してきますか」
「……何だかんだ言って、ライはお人好しですにゃ」
「まあ、フィオレも一緒にいると楽しいしね。あれ?」
そこでライはその闘技場に向かっていく最中、細い路地に入った所で壁にはられた紙に気づく。
3枚ほど同じ紙がはられているのにライは気づいた。
折角なので一枚壁から引き剥がしてそれを読みながら細い路地を行き、ライは闘技場に向かう。
「ふーん、踊りのコンテストか」
描かれているのは、薄い布をまとってアクセサリーをつけて踊る女性の姿だ。
じっとそれを見ていたライ。
「今日の夜なんだ。……これ、でたら賞金がもらえるのかな」
「……ライ、真面目に探すにゃ」
「でもお金は大事だし踊って歌える私なら、トップを狙っても……あれ?」
「どうしたにゃ?」
そこでライはある項目の所で目を留める。
コンテストの賞品と描かれたそこには、
「“紫の砂漠の薔薇”だって。それも3つも。これは出るに越したことはないね」
「砂漠に出て地道に探す訳にはいかないのにゃ?」
「貴重なもののようだから、これに出るのも選択肢の一つとしてはいいんじゃないかな?」
「にゃ~ん。リリスもでてみるにゃ?」
さり気なく誘うタマに、リリスが頭の上でパンチを繰り出してぽこぽこ丸の頭を叩いていたのはいいとして。
そこでライは歩く足を止めた。
前方や後方の路地に、ちらりと見える顔を隠すように布をかぶった男たち。
自然とライの口に笑みが浮かぶ。
一体誰を狙って待ち伏せし、そしてつけていたのだろうと。
普通の人間に擬態をしているとはいえ、こう見えてもライは“深淵の魔族”の一人である。
しかも一緒にいる“猫”は、“深淵の魔族”の中でも“貴族”と言われる力の強い種族。
それに対して、ロープを用意しているのだからライ達を捕らえる予定なのだろう
身の程知らずが……そう小さく笑って、ライは魔法を使おうとした所で、後ろからライは誰かに抱きしめられた。
「残念だけれど、この子は私が先約しているから諦めてくれないかな?」
優しげな声を聞きながら、ライの口がへの字に曲がる。
せっかく気分よく倒してやろうと思った所で、それを潰された挙句、会いたくもない人物に遭遇してしまったのである。
というよりは何故ここにいるとライは思いながら、
「フェンリル王子、どうしてこちらに?」
「ん? ちょっと用があってね。それで、君たちは諦めてくれると嬉しいな」
そう告げるフェンリル王子に、ライを狙っていたらしい彼らはいなくなる。
とりあえずは、迷惑以外の何物でもなく、この前の温泉街でのことも含めて会いたくもなかった人物であるものの、助けてくれたらしいことはライにもわかったので、
「助けていただきありがとうございました。ですが私も探しているものがありますのでこの辺で放していただけないでしょうか?」
「けれど闘技場の方に行くのだろう? そして賞品の、“紫の砂漠の薔薇”が必要なんだろう?」
「……独り言は言うものではありませんね」
自分の失態にうんざりとするように呟くライに、耳元でフェンリルが囁いた。
「それでコンテストには出る気があるのかな?」
「……賞品が砂漠で手軽に出るものであるなら、そちらに行きたいかな。特に、貴方が期待に満ちた声で私にささやいてきますので」
「ほとんどでないから彼らも君のような美少女を捕まえようとしているのだと思うのだけれどね?」
「そんなに貴重なのですか?」
「そうだよ? 賞金なんて目じゃないくらいにね?」
エリたちに伝えて今後どうするかを話し合う必要がありそうだなとライが思っていると、
「もし私と一緒に来るなら、衣装から何から全て揃えて出場させてあげるよ?」
フェンリルの言葉に、ライはフェンリルの腕から逃げようとする。だって、
「どうせ貴方好みの格好をさせる気でしょう?」
「もちろん。それに何の問題があるのかな?」
「……エリ達と相談させてください。他にも出る人がいそうですから」
「へぇ、そんなにあの商品が必要なのかな?」
「フィオレの恋人が呪いをかけられて、その解呪に必要な材料なんです」
特に隠しておくこともないだろうと思ってそう告げるとフェンリルが後ろで沈黙した。
嫌な沈黙だとライが機嫌を悪くしているとそこで、
「なるほど、ライは随分と友達思いなんだね」
「……え?」
自分では気づいていなかったそれを聞かされて、けれどここに来たのはエリの監視のためで、だったらここまで真面目に闘技場まで見に行こうとする必要もなくて……ライは気づいていなかった心情の変化に困惑する。と、
「いや、そうか。でも、そうなってきた君もますます好みだね」
「……早く嫌いになってください」
ライはそう、フェンリルに言い返すことしか出来なかったのだった。
ウィルワードとフィオレは一緒に襲ってきた人間たちを倒していた。
ウィルワードは一斉に人形を使って攻撃し、即座に全員倒してしまう。
けれど何度も襲われるので、一人意識がなくならない程度に叩きのめしてからウィルワードは、
「どうして襲ってきたのか、教えていただけますか?」
と脅して、聞き出すと……どうやら狙いはフィオレらしい。
先ほどまでウィルワードの戦闘能力に目を輝かせていたフィオレは、目を瞬かせた。
「私が、ですか?」
「うん、何でも踊りのコンテストには美少女がいいそうで、それでまだ登録していなさそうな少女を狙ったらしいね」
「……なんですかその踊りのコンテストって」
フィオレが嘆息しながら、ウィルワードが指差す。
側の木の棒には一枚の紙がはられていた。
くだらないと思ってみたフィオレは、次の瞬間その紙の前に走りより、見間違えではないのかというかのように大きく目を見開いてそれを見る。
フィオレの目が真っ先に釘付けになったのは、賞品だった。
「! これがあれば」
それを覗きこんだウィルワードが、おや? と呟き、
「うん、大勝利だね。どうする? 一回集まったほうがいいかな? クロヴィス達がいるから大丈夫そうだとはいえ、この調子だとエリ達も襲われていそうだけれど」
「……貴重な材料なら、探すよりもこれに出たほうがはやいか?」
「それは分かりませんが、フィオレも美人ですから出てみるのも手かもしれませんね。2位の子でも一つは手に入るみたいですし」
「一つでも手に入れば十分だ。よし、私は、アンジェロのために……恥ずかしいが、挑戦する!」
「そうそう、それがいいですよ~」
人事のようにウィルワードが、やる気になっているフィオレに相槌を打ったのだった。




