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 以前からこのウィルワードに対してクロヴィスは、色々とおかしかった。

 確かにこの前巨大な何かに襲われたが、よくよく考えれば、その魔法の素晴らしさにフィオレは気づいたのだ。

 緻密な魔法、その素晴らしさは尊敬に値する人物であるとフィオレは思っていた。

 そこでクロヴィスが、ふうっと深呼吸をして息を吐いてから、


「ウィルワード、今日はエリと後で“戦闘”の依頼をこなす事になっている。悪いが一緒に行く事は出来ない。出来れば永遠に俺を誘わないで欲しい」

「酷言い草だな。折角いい事を教えてあげようかな、と思ったのに」

「ウィルワード。お前の言ういい事は、今までいい事だった試しが無い」

「そんな風に僕が思われていたとは思わなかったな。よし、ではヒントをあげよう。エリの気配が君は今感じられるかい?」

「……なんだと?」

「いや、魔族の気配を感じるので覗きに行ったら、エリらしき人が見えたんだけど、とりあえずここに立ち寄って……みたんだけれどな」


 あはははと笑っているウィルワードだがフィオレはそれが信じられない。

 あの一瞬、クロヴィスから今まで感じた事がない恐ろしい物を感じ取った。

 だから動けずにいて、今も動けない。


 すでにクロヴィスはここにはいない。

 ウィルワードが全ての言葉をいう前に走って行ってしまった。とそこで、


「いやー、好きな相手だと、クロヴィスは一途だね」

「何があったのですか?」

「エリが“深淵の魔族”に襲われているかも、かな?」

「! たすけに行かないと」

「クロヴィスがものすごく怒っているから、近づかない方が良い。巻き込まれるかもしれないし。それにクロヴィスに気付かれないように気配を自然に消す魔法を使ってわざわざ接触しているあたりで、更にクロヴィスの神経を逆なでしているかもだし。……エリにはまだ知られたくない様ですからね」

「あの、一体何の話ですか?」

「君はクロヴィスが妙だとは思った事はありますか?」

「異様に強い、という意味では」

「ふむ。そこまでですか……アンジェロの方が一枚上手ですね。うっすら気付いていましたし、だからこそああなってしまい、フィオレには申し訳ない事をしてしまいました」

「……何の事ですか?」


 ウィルワードの言い草にフィオレは嫌な予感を覚える。

 そんなフィオレにウィルワードは、


「ぎりぎりで回収したのですが、私にできるのはそこまででした」


 一つの人形を出したかと思うとそこから煙が出て、大きな人型を作りどさりと床に落ちる。

 それはフィオレにとってよく知っている人物。

 瞳を閉じたアンジェロだった。


 けれど顔には細い蔓の様な物が先端を丸め、その途中地中で七枚の花弁を持つ花のような模様を浮かび上がらせている。

 見た事もないそれにフィオレは、


「これは一体……アンジェロは……」

「魔法の呪いの様です。“深淵の魔族”を探っていたようなのですが、貴方の関係でそれを止めようとしていたようなのですが、やり方を少し間違えてしまったようです」

「やり方って……」

「たまたま近くにいたのでぎりぎりで私が秘密裏に回収しました。魔法的な呪いで他の人間に感染しない分、複雑な解除が必要で解析に時間がかかるタイプの物です」

「ウィ、ウィルワードさん、何とかなりませんか、アンジェロが!」

「こんな物は私も見た事がない……一応はこれから解析を行いますが、期待しないでください」

「私にも何か手伝える事はありますか?」

「そうですね……まずはベッドに寝かせる所からですね」


 そう呟いて二人で背負うようにして階段を上がり、あいているベッドにアンジェロを横にならせる。

 そこで、とてとてと音がした。


「何だか変な気配がするにゃ。……これは」


 やってきたのはぐったりとしたリリスを背に乗せたタマだったが、そんなタマにウィルワードが、


「この呪いに見覚えがありますか?」

「……解除の出来ない呪い、魔族が開発していた呪い“眠りの華”の一つ。でも何でこの人が?」

「魔族の邪魔になる事をしたようですね」

「……みんなピリピリしていて嫌なんだにゃ。あ、フィオレの前でこの会話は不味いにゃ」

「あれ? まだお話ししていなかったのですか?」

「そうなんだにゃ。薄々気づかれていただけにや。そうだにゃ、フィオレ」


 タマが聞くとフィオレは頷く。

 けれどそれ以上、タマには魔族関係の事はフィオレは聞かなかった。

 正確には聞けなかった。

 今はアンジェロについて聞くのがフィオレには精一杯で、


「それで、この呪いにかかるとどうなるんだ、タマ」

「……確か以前聞いた話だと、一輪の花になってしまうそうですにゃ。ただ痛みは少なく眠るようにそうなってしまうそうですにゃ」

「そんな……」


 思わずベッドに寝かせていたアンジェロの手を握ってしまうフィオレ。

 そんなフィオレにウィルワードは、


「解析を行ってみます。ただ、これはあくまでも可能性ですが……」

「何ですか、何がですか!」


 可能性でいい。

 アンジェロを助けるためなら、フィオレは何だってする。

 そんな決意を秘めているとそこでウィルワードが、


「……もしかしたらエリはしっているかもしれない」

「解除できない新しい呪いなのに?」

「あの子は特別だから。ただ何処まで知っているかは僕にも分からないけれど、戻ってきたら聞いてみるといい」

「では今すぐにでもエリを連れてきます!」

「いえ、ここで待っていましょう。“深淵の魔族”が接触していますし」

「エリが彼らに連れて行かれてしまうかもしれないのでは?」

「それはありませんね……クロヴィスが凄い形相で取り戻しに行きましたし。だからそれまでここで待っていた方が行き違いになりません」

「そう、ですね。そう……私とした事が取り乱し過ぎですね」


 フィオレがそう呟くと、ウィルワードに軽くポンポンと頭を撫ぜられる。

 それにほんの少し動揺が収まって、フィオレはぎゅっと先ほどよりも強くアンジェロの手を握ったのだった。








 クロヴィスは走っていた。

 エリを奪い返すためだ。

 こんな小さな油断で失いかけるとは思わなかった。


「やはり、攫って閉じ込めるか」


 小さく呟いて、もう少しこれまでのような穏やかで楽しい時を過ごしたいとクロヴィスは思ってしまう。

 まさか今更こんな感情が自分に浮かんでくるなんて思わなかった。

 これも全部、エリのせいなのだ。


「だから、責任を取ってもらわないといけないな」


 そう小さく笑いながら、“深淵の魔族”にもしもクロヴィスの正体を告げられていたらとぞっとする。

 だがすぐに怖がる必要はないとクロヴィスは嗤い、


「もしも知ってしまったのなら、この時間は終了だ。初めから決めていたように連れさればいい」


 好意を持って欲しい、そんな遊びの感覚だった。

 何時だって自分の物に出来るなら……エリにクロヴィスを好きになって欲しい。

 そのために色々とエリに力を与え、他にも……。


 それに一緒にいたいからという理由だけでなく、自身の身を守れる力をつけさせたいと思って、“戦闘”にもよく連れて行った。

 時折妙な道具を取り出していたがあれは、時間・空間に関わる物、クロヴィスと同じ力を含む、この世界では珍しいだけでなく、使える事が異常な代物だった、

 クロヴィスを倒すために呼ばれただけあって同じ力を持っているのだろう。


 だから即座に壊したのだ。

 きっとそんな力を持っていると知られたなら、この世界でのエリの居心地が悪くなってしまう。

 だから石切り場で、服を変える、服のあった空間を転移させる“空間・時間”に関する魔法を使われた時は冷や汗が出た。


 上手くエリは誤魔化していたが、あれはその力だ。

 そしてクロヴィスの与えた力とエリの奇妙な融合の仕方をしているのに、当事者であるエリは全く気付いていないのだ。

 そんな理由もあって、否、理由も作ってクロヴィスはエリの傍にいた。


「渡さない、絶対に」


 そうクロヴィスは小さく呟いて、途中の魔物を蹴散らしてエリの元に向かう。

 やがて、涙目になりかかっているエリと“深淵の魔族”の二人+一人を見つけたのだった。

 

 

 




 私はライと途中ではぐれた。

 はぐれた事にした方が話しが都合が良いのでという事でそうなって先に家に帰っているはずだった。

 そして現在私は、ルーザリオンに聞きたくない現実を突き付けられて涙目になっていた。


 喜々として話す彼に私は恨めしさが増す。

 必要だから観測していたからとはいえ、こんな風にネチネチと言わなくてもいいと思うのだと私が思っていると、


「エリ、大丈夫か!」

「クロヴィス!」

「どうしたこんな涙目になって」


 怒ったようにクロヴィスが私に言いながら“深淵の魔族”を睨みつけるが、そんなクロヴィスに私は、


「……ミレニアムちゃんが、結婚して子供まで出来ていちゃいちゃしている」

「……」

「それを事細かく、あそこにいる魔族がネチネチ私に話すんだ! 私は独り身なのにカップルのイチャイチャ話を延々と!」

「魔族と戦ったりはしなかったのか?」

「あそこにいる魔族、ウィーゼは私が倒したから」

「……一人で倒せたのか」

「うん、倒しちゃった。それは良いんだけれど、ミレニアムちゃんが……」


 私の代わりになるかもしれない彼女。

 今は何も知らずに暮らしている。

 今度子供が生まれるらしい。


 それを延々とルーザリオンは私が涙目になるのを見て喜ぶように語るのだ。

 独り身の相手にそんなカップル話を延々と!

 あたかも聖夜の頃に、デートの約束もなくカップル板をのぞくような心地なのだ。


 公式設定ドSは伊達ではない。

 そしてその話を聞いていた私は悲しい気持ちと共に、微妙に複雑な気持ちになった。

 心が折れそうだ。


 そう私が涙目になっていると、そこでクロヴィスに振り向かされて、表情を消したクロヴィスに嫌な予感を覚えるとともに顎を抑えられる。

 しかも逃げられなくされたかと思うとそのまま唇を重ねられて、


「んんっ」


 何で! と思っている間に、私は意識を失ったのだった。







 あまりにもアホな答えにクロヴィスは頭痛を覚えながら、倒れ込んだエリを抱きあげてそのまま去ろうとして……立ち止まる。

 そこでくるりと振り返り、エリの見た事のないような冷たい笑みを浮かべ、


「エリはお前達には渡さない」


 そう一言告げて嗤い、その場を去っていく。

 そしてその笑みを見たルーザリオンとクラウズは凍りついていた。


「威嚇だけであの威圧感か」


 クラウズの言葉にルーザリオンが頷く。

 相変わらずの恐ろしい相手だ。

 彼相手に勝負を仕掛けるなど、愚かな行為なのでは……そう思っているとそこでウィーゼが小さく呻いて目を覚ます。

 そしてすぐに周りを見回して、


「……まさか」

「そのまさかだ。ウィーゼ、君は一瞬にしてエリに倒された」

「そう、ですか」


 ルーザリオンのその言葉に小さく嬉しそうにウィーゼが笑う。

 だがすぐにエリとの約束についてルーザリオンに聞いてウィーゼは顔をしかめる。


「クロヴィスに感情があるから、それを切っ掛けに諦めさせるらしい」

「無駄だと思いますが」

「私もそう思う。しかも、感情がある理由の一つに……お前の恋人のウィルワードにクロヴィスが巻き込まれるのをあげていた」

「……既に私はウィルワードの恋人ではありません。私は彼を……捨てたのですから。いえ、その話はおいておくとして、クロヴィスが巻き込まれる?」

「そうだ、おかしいだろう? あのウィルワードは……」

「ええ、優しくて良識的で強い繊細な人ですから、クロヴィスを巻き込むなど……ルーザリオン様、どうかされましたか?」

「……いや、なんでもない。気にしないでくれ」


 そう誤魔化したルーザリオンだが、彼は気付いてしまった。

 ウィーゼの目に映るウィルワードは確かにそんなウィルワードで、案外ウィーゼの言うことを聞いていたし良識的だった気がする。

 それがクロヴィスに当てはまるかは分からないが、


「期限は決まっている」


 小さくルーザリオンは、それまでにうまくいくならそれに越したことはないと、先ほどのクロヴィスが放った威圧感に体を震わせたのだった。







 ゆさゆさゆさゆさ。

 肩を揺らされて私は「もうちょっと」と答えた。

 何かやけに気持ちが良い気がするのだ。


 けれどその私を揺り動かす力は更に激しくなって、同時に誰かに椅子に座らせられた気がする。

 それと同時に誰かが離れて行って、それはそれで何となく……そう思っているのに更に私は強く揺さぶられて眉を寄せる。

 私の名前を呼ぶ声が聞こえる気がする。


 もうちょっと静かにしてよ、と私が思っているとそこで揺さぶられるのが収まる。

 このまままたゆっくり気持ちよく眠ってしまおうと思った所で、声が聞こえた。


「……スライムに襲わせるか」

「スライムは嫌!」


 ぴくんと体が震えて私の意識が危機に対して即座に覚醒した。

 私の目の前には、見覚えのある場所が広がっている。

 つまり私の家だ。


 何時も食事をする場所という、とても良く知っている場所。


「あれ? 何で私、自分の家に帰ってきたんだっけ?」

「途中でエリが私からはぐれちゃって、クロヴィスが迎えに行ったらしいよ?」

「そう……だっけ?」


 そこでほんの少し残っていたぼんやり感が完全に抜ける。

 そう、私は“深淵の魔族”と接触をして約束をしたのだ。

 クロヴィスも含めて皆が好きだからその選択をして……。


 と、私の肩を誰かが叩いた。

 振り返るとそこにはフィオレがいて、思いつめたような表情で、


「“眠りの華”という魔族の呪いについてエリはしっているか?」

「知っているけれど、何かあったの?」


 その呪いは、魔物によって偶然アンジェロにもたらされるはずだった。

 まだもう少し先の出来事なので、クロヴィスの件の期限よりは先になるだろうと私は思っていた。

 でもその名前が出てきたという事は、


「誰かがそれにかかったの?」

「アンジェロが、“深淵の魔族”にそれをかけられたらしい。……私の関係で何かをしていてそれで……」


 それを聞いて私は、先ほど話していた“深淵の魔族”の事が思い浮かぶ。

 確か、“羽虫”がどうのと言っていたのだ。

 まさかフィオレを救うためにアンジェロが何かをして、返り討ちにあったのだろうか。と、


「エリ、この呪いを解く方法を知らないか?」

「知ってる」

「! 早く解いてくれ! アンジェロが……」

「ただ材料を全部は私も持ってないから、とりあえず手持ちの物だけ使って、幾つか解除するね」


 特別なイベントアイテムの材料はゲーム内では一個しか手に入らず、しかもそのゲーム内でのアンジェロの解呪で消費しているので持っていないが、今手元にあるのは二つ。

 一つは新緑を落としたと呼ばれる森の宝石“初夏の宝石”である。

 “惑う幻惑の森”と呼ばれる“上弦の森”と繋がった、普通では辿り着けない奇妙な森で、クロヴィスの別荘があったりするのだがそれは置いておくとして、他にも色々使える特殊な材料なので予備が二つほどあった。


 本当は一つ見つけるだけでも難しい物だったのだけれど、何だかよく分からないけれど運よく幾つも見つかったのだ。

 なのでそれを使ってと私が思っていると、フィオレが驚いた顔をして、


「幾つかって……そんな呪いなのか?」

「うん、そうだよ。その解呪するための装置もあるし、とりあえず二つ解除できる。そこまですると、意識は回復するよ」

「そう……なのか。良かった……それで残りの材料は?」

「あと三つ必要だけれど、二つは南の砂漠。一つは山のふもとで、今あの空飛ぶ国が停泊している山の傍の一角でとれるんだ。とりあえず、実際にどのあたりに停泊しているのかだけ確認して、一度家に戻ってきてアンジェロの治療、その後にあの空飛ぶ島に人形を返しに行こう」


 大まかに日数を計算しても、最短で数日で行き来できる。

 “深淵の魔族”との約束の期限に、あの空飛ぶ国に行っても十分余裕がある。

 そう私が思っているとそこでフィオレが私の手を握り、


「早くアンジェロの治療を始めてくれ」

「ま、待って。この前の温泉街で手に入れたあの花が必要だからそれを持っていかないと!」


 そう答えてこの前まいた種が成長した小さな花の一つを、私は手折ったのだった。








 ベッドに横になっているアンジェロ。

 布団をどけて、そのお腹の上に王冠のような装置を乗せる。

 その空洞化した中心の部分にその花と、“初夏の宝石”を入れて、以前行った魔法を選択画面から選択して、ポンと押す。


 口から言葉が紡がれて、王冠の周りに光の輪が二重に描かれて、その内円上に光の大きめの粒が五つ、円に対して等間隔に五つほど浮かぶ。

 その光の粒から線上の白い光が放たれて別の粒に繋がる。

 星マークの様な形が表示されるも、すぐにその内の二つが緑色とピンク色に輝くと共に消える。


 同時にさらさらと内部に置いた花と宝石が砂の様に崩れ落ち、残った光の粒同士が結び三角形を描き出してからふっと消える。

 これで一応は途中まで解除しているはずだと思って私が道具を片づけて、フィオレが不安そうにアンジェロの手を握りながら顔を覗きこんでいると、


「……うう」

「アンジェロ!」

「……フィオレ?」


 うっすらと開いた瞳でフィオレを見て、不思議そうにかすれた声でアンジェロはフィオレを呼ぶ。

 それにフィオレは嬉しさに涙を浮かべながら、


「そうだ、良かった……意識が戻って」

「……私は、確か……そう、“深淵の魔族”に触れる事も出来ず……」

「アンジェロが無事ならそれでいい。私にはそれが全てだ」

「フィオレ、私は……」

「解呪には、まだ必要な物があって、まだ動ける状態じゃないんだろう? エリ」


 フィオレに問われて私は頷く。

 完全に呪いを解かないと動く事もままならないはずなのだ。

 そこでフィオレはぎゅっとアンジェロの手を握って、


「いつも助けられてばかりだったから、今回は私がアンジェロを助ける。だから大人しく養生していろ」

「……そう、ですね」


 そこでどうにかというように首を動かして、アンジェロが私を見た。

 何かいいたそうに見えたけれど、口にした言葉は、


「フィオレをよろしくお願いします」


 フィオレの心配であったらしい。

 本当にアンジェロにとってフィオレはとても大切な人なのだと実感しながら私は頷いたのだった。








 フィオレはアンジェロと二人っきりにさせた。

 何となく邪魔してはいけないような雰囲気だったから私はその部屋を出て下に降りて行くと、そこにクロヴィスがいない。

 なのでライと談笑していたウィルワードに、


「クロヴィスは何処に?」

「戦闘の依頼でアンジェロの件を片付けていると期限が来てしまう戦闘関連の依頼をこなしに行きました。あのあたり、触手が一杯いるのでいかずに済んで良かったですね」

「……そうなんですか」


 何という場所に連れて行く気だったんだと私が思っているとそこでウィルワードが、

 

「ウィーゼの事はありがとうございます。それも含めて少しお話ししませんか? クロヴィスも今はいませんし」


 何か腹に一物ある様な笑みでウィルワードは私にそう告げたのだった。







 とりあえず飲み物でも飲みながら、と思ったので朝に作っておいた冷たい香草ハーブのお茶(あれなのとアレなのとアレな感じのハーブだが、合わせると普通のお茶になる)を出す。

 そして以前作っておいたクッキーをお茶うけ用のお菓子として机の上に置いてから、私も椅子に座り、


「それでウィルワードさん、お話とは?」

「そうですね幾つか謝らなければならない事もあるのですが……先にもう一度お礼を言わせて頂きます。ウィーゼを助けて頂きありがとうございました」

「? ウィーゼという魔族とお知り合いなのですか?」

「私を捨てた大切な恋人です」


 それはもう嬉しそうに告げるウィルワードに、今捨てられたと言っていたような、いや、この人はそういう趣味が? いやいや、でも、え? と私は混乱していたけれどそこでウィルワードが更に笑みを深くして、


「一緒に眠らずに最後まであがくと告げた気丈な人なのです。その時私は彼女に“捨てられ”てしまいましたが。それでも私は未だに未練がましく好きなままなんですよ。なので約束を交わすために倒したとはいえ、あの力を手に入れるためにウィーゼ自身が蝕まれていましたから、結果として止める事になりましたから、お礼を」

「は、はあ……」

「この世界の歪みという崩壊の力をそのまま吸収して、クロヴィスにまとめてぶつける予定だったようです。歪み自体は、そのままの状態では魔族も力として蓄える事は出来ない……しかも、そのままでは世界を崩壊に導く物なので、この世界に存在するウィーゼ自身を傷つける事になっていましたから」

「そうだったのですか。……でも今の話を聞いていると、全部見ていたように聞こえますが」

「ええ、彼らからは見えない位置に、私の人形を一体設置して全て見て聞いていましたから」


 誰にも気付かれずにそれをやっているらしい。

 確かに凄い魔法使いなのかも、ゲーム内でも、その凄さは切々と伝わってくるように描写をされていたしと私は思っているとそこで、


「でもやはり異世界から来て、そしてそれを隠していたのですね。そうだなと思っていたのですが」

「……どうしてそう思ったのですか?」


 私の受け答えに何処か無理があったのだろうか、もう少し気をつけないとと思って私がウィルワードに聞くと、彼は肩をすくめて、


「“時間・空間”系の魔力の探知も幾らかは出来ますからね。魔力も強いですし。それに私の知らない魔法も使っていましたし、私が伝えるはずの無い“人形”を持っていたり、他にもこの世界の人間にしては色々疎いようでしたし何より……あのクロヴィスにそこまでなびいていませんでしたし、嫌ってもいませんでしたしね」

「? そういえばクロヴィス、女の子にモテモテだったような。後は魔族に嫌われていたし」

「どちらかの強い感情をこの世界の人間は抱く物なのですよ。私は、好意の様な物の方でしたが。でもエリはクロヴィスへの態度は普通の友人に接する様な感じでしたからね」

「それは、まあ。恩人でもあったけれど、私が嫌がるのに戦闘に連れて行くし」

「そのあたりも魔法使いとしてはおかしいですしね。戦闘は、獲物が来たぞ、ひゃっは―、と言って襲いかかるのが魔法使いなのに、エリは逃げていましたしね」


 その魔法使い感は間違っていると思うと、私は言いたかった。

 もっとキラキラした可愛いものであったはずなのにそんな……と黙ってしまう私にウィルワードはさらに、


「そもそも“過去”が無いようでしたしね。ディアナ学園の塔が幾つあるか聞いたでしょう? それが本当は3本しかないのですよ」

「……」


 どうやらあの質問自体が私への罠だったらしい。

 この人油断も隙もないなと思って、けれど“過去”が無いと他の口から言われると余計それを私は感じさせられてしまう。

 意識が遠のいていきそうな不安を私は感じているも、ウィルワードは更に私に、


「ただ、ミレニアムちゃんの代わりがエリとは、いえ、その逆だとは思いませんでした。ミレニアムちゃんは、才能があるしそういった関係の様な物があるのかなといった程度の重要性しか感じていませんでしたから。でも同じ学校出身という過去が存在した事になっているのも、彼女と似た役目を持っているからなのでしょうか」


 私の“過去”はそうであったと全ての人や、出来事、文書までもがそう変化させられているのだ。

 けれどその“過去”には本当の私はおらず、ただそうだったという偽の記憶があるだけだ。

 そう考えていると、更に頭がくらくらしてきて、そこで、


「……えっとリリス?」


 ふわふわと飛んできたリリスとタマが私の膝の上に乗る。

 しかもそのまま私を見上げた二人は、


「「それでも、私はエリが好きだって事実は変わらないから(にゃ)」」

「……ありがとう」


 多分私が不安そうな顔をしていたから慰めてくれたのだろう。

 やはり家の猫と杖は最高だと思いながら私も微笑む。

 それと共に私の中にある心の中に引っかかっていたそれは、ほどけて消えた。


 やはり異世界から来て以後、居心地は良いけれど嘘をついた状態でいるのは、私にとって無意識のうちに重みになっていたのかもしれない。

 そこでウィルワードが楽しげに笑う。


「慕われているね。いいことだよ。きっと君がこの世界を気に入ればクロヴィスもこの世界に愛着を再び戻せるかもしれない」

「……私は、確かに少ないけれど、クロヴィスはこの世界に愛着を持っていると思います」

「……そうだね。君がここに来るまで、結局は、この世界を滅ぼしていなかったし」

「ウィルワードさんが巻き込んだから仕方がなくと言っているけれど、クロヴィスは結局は巻き込まれて、手伝ってくれて、そして私の戦闘のためと言いつつ蘇らせようとしたりして……それは、まだこの世界にクロヴィスが迷っている、愛着や未練があるから、そうだとは思いませんか?」


 ウィルワードは大きく目を見開き、苦笑した。


「そうだね、そうだ。友人を名乗っておきながらそんなことにも僕は、気づかなかったのか」


 笑うウィルワード。

 それから深々と嘆息して、


「君だから、クロヴィスは一目惚れして、今も大切に溺愛しているのかもしれないね」

「その割にはもうちょっと戦闘も手加減して欲しいかなと」

「そうだね。……さて、他にも聞いて君という人間を知ろうと思ったけれど止めるよ。だって、君ならクロヴィスの感情を変えられる、それとも既に変えているのかもしれない」

「そうだといいと思います」


 そうすれば、フィオレも他の人達も傷つかずにすむのだ。

 そんな私を見て、魔族たちとの会話を全部聞いていて事情を知っているウィルワードは優しげに微笑み、

 

「あとこれから出来る限り君たちのサポートはさせてもらおうと思う。戦闘も僕は得意な方だし」

「それは助かります。まずアンジェロの解呪からですから、次に行くのは砂漠です。南にあるあの“メルリア砂漠”です」

「ちょっと距離があるから明日かな? では明日の朝僕もここに来るよ」

「よろしくお願いします」


 伝説の魔法使いの力を見れる時が来た。

 ゲーム内では出てこなかったので実力は不明なままなのだ。

 そういった意味でちょっとだけワクワクしている私だが、そこで何処か楽しそうなライと目が合って私はあることを思い出した。


「ライ、行きにもいったけれど、酷いよ。私のこと知っていてわざと、エリは強いんだね、とか、普通の人間とは思えないよとか、聞いてきたんじゃないか」

「だって可愛い反応をするし。しかも監視も含めてここにいたら、タマ様をペットにしているし、獣人だって気付いていそうなのも含めて色々突っ込みどころが合ったし。魔力が強いからそういった幻覚が効かないのかも」

「そうなんだ。は! そういえばさっきの会話で、フィオレは実は、タマやライに気付いている?」

「私は気づかれたけれど、タマ様は微妙かもね。さっき会話していたけれどもう忘れているかも。タマ様の魔法ってそういうものだし」

「そうなんだ……」

「とまあ、そんな感じだからこれかも仲良くしてくれると嬉しいな。エリも私は気に入っているし」

「でもライはタマの知り合いなんだね」

「うん、憧れの人なんだ」


 さらっと告げた言葉にタマが私の膝の上で凍りつき、


「悪趣味なのにゃ」

「そんなことはないよ。優しいし」

「あんな呪いも開発したりするし他にも、何だか怖くなった部分があって、僕は逃げ出したんだにゃ」

「……そうですか」

「そういったのに僕は敏感なんだにゃ。だから同じ魔族でもウィーゼ? のあれをまとっている時は警戒してしまったにゃ。それよりも警戒したのは、あのクロヴィスが危険なものを見せた時も、もっと危険な気がしたにゃ」

「タマ様、危険が危険な感じになっています」

「それだけ危険にゃ。母様達が焦っていた理由も分かった。でもきっとエリならなんとかなると思うにゃ」


 にゃんと膝の上で啼いたタマ。

 それに私は勇気付けられたのだった。








 それらの会話を、フィオレはこっそり階段の傍で聞き耳を立てていた。


「エリが異世界から来て、クロヴィスは世界を滅ぼそうとする“何か”で、でもエリはそんなクロヴィスを説得しようとしている。でもクロヴィスの正体を告げる事も出来ないし、エリは自分が異世界から来ていて色々知っているのを隠さないといけない。……ややこしい、でも」


 フィオレは自分の記憶すらも塗り替えられていたのに驚く。

 魔法関係には自身があったがそれを超越しているのは、クロヴィスらしい。

 でも先ほどの会話も含めてクロヴィスはもっと……感情的な存在だと思う。


 そしてこの世界に存在するエリの記録は偽物だとしても、あの力は本物で、フィオレが出会ったエリという人間を、フィオレは自分の目で見て、一緒にいて感じてとってみて……信頼できる気の置けない友人だと認識している。

 更に付け加えるなら、アンジェロを助けてくれようともしている恩人でもあるのだ。

 だから、フィオレも出来る限り協力しようと思う。


「まずは私も何も聞いていなくて、気付かないふりをしておくのが一番か。タマもやっぱり魔族だったが、私のイメージしていた伝え聞く魔族像とはあのタマもライも全く違っていた。もっとも、アンジェロにあんな呪いをかけた魔族は、伝え聞く魔族その物としか思えないが」


 集団と個では別の顔を持つ場合があるのはフィオレも分かっている。

 だから、ライとタマも今はこうやって話をしているけれど実際は違うのかもしれない。

 けれど、その時はその時だ。


「……私の感じ取った物を信じよう」


 フィオレはそう小さく呟き、その場をそっと後にする。

 すでにエリ達は食べ物の話題という関係ない雑談に話を移していたのだった。








 後片付けをしながら私は一人、食事用の椅子に座ってぼんやりとしていた。

 石板の位置がずれていたのは全部設置されていたから。

 つまり異世界だからだった。


「異世界だったんだ」


 ゲームの世界に入った気がしたけれど、違っていたのはやはり異世界だからだったようだ。

 そしてこれからクロヴィスを説得しないといけない。

 あの時は、よく言い返せたものだ。

 

「我ながらよく頭が働いたなって、思う。皆を守るために必死だったんだ。でも私が“魔王”ね、そんな柄じゃないと思うんだけれどな」


 そう小さく呟いてしばらくぼんやりしているとそこで扉が開いた。

 現れたのはクロヴィスだ。

 だからいつものように私は微笑んで、


「お帰り、クロヴィス」

「ただいま。どうしたんだこんな所で」

「何だかぼんやりしちゃって」

「それはそうだろう、魔族と戦ったんだからな」


 そうだねと私は頷きながら椅子に座った私はぼんやりしていると、私の背後にクロヴィスがやってきて私を後ろから抱きしめる。そして、

 

「エリはこの世界が気に入ったか」


 聞いてくるクロヴィスに、もしかしてこうやって聞いてくるのもクロヴィスなりに思う所があるのかなと思って嬉しく思いながら、


「同じ質問だよ?」

「答えろ」

「……すきだよ。皆も、クロヴィスもいるしね」


 そう答えるとクロヴィスは、何時もよりもほんの少し優しく微笑んだ気がしたのだった。




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