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明かされた事情

「異世界からこちらの世界に来ると、そんな力が?」


 確かにゲーム内のミレニアムには少しだけれどその力があった。

 その力と石板の両方を使って、という話だったのだ。

 けれどゲームとは違い、今、ルーザリオンは私を見て笑い、


「初めの時もそうですが“魔王”と呼ばれてもそれほど驚かないのですね」

「……大体の事は知っていますから。でも対抗なのですか?」

「ええ、そうです。そこは違うようですね。……異世界に存在しているからこそ、この世界に存在出来るのは“時間・空間”を操ることが出来る力あることに他ならない。そして適性があればあるほど力は強くなる。その力を使えばクロヴィスに対抗出来るのではないか、殺すことは出来ずとも封じることは出来るのではと我々は考えたのです」

「殺したり封じるために私を呼んだの?」

「そう、本当は呼んでからすぐに力の使い方を教え、クロヴィスとの戦闘に入る手はずでした」


 私はそれを聞いて“おかしい”と思った。


「なら何で石板を集めさせたの?」

「石板のもう一つの使用法をご存知でしたか。確かに貴方様を呼ばず、ミレニアムにその役目を与えるならばそうなったでしょう。けれど貴方様を見つけた時我々は歓喜しました。遠くから観測するだけでも大きな力が見てとれたからです」

「私にそんな力が?」

「ええそうです。貴方様の力は彼女を遥かに凌駕している。だからいざという時はその石板のもう一つの力を使おうと考えていたのです。但し、貴方様がクロヴィスに関して失敗したなら、いえ、その前にいくつか手を打とうとは思っておりますが」

「それは、フィオレを巻き込む話だよね?」


 ルーザリオンが沈黙した。

 確かゲーム内では、この時に古の司祭の“血”と“力”を最も受け継ぐフィオレの力を使い、大昔に行ったようにクロヴィスの力を幾らか封じるのだといった話が出ていた。

 その力によりクロヴィスを追い払ったのが昔の出来事。


 その後はずっとクロヴィスはいじけていたらしいとゲーム内にはあったなと私は思いだす。

 ゲーム内でそんな話をクロヴィスが愚痴っていたから私も良く覚えていた。

 但し、その古の司祭達の力を使うその方法を使ったなら、フィオレは廃人になるか、最悪死ぬ。


 大昔のその術者達がそうだったとゲーム内で語られていたから、多分、そう。

 と、それを告げるとルーザリオンはどこか面倒そうな表情になり、


「それは、この前私達の周りを飛んでいた“羽虫”に聞いたのですか?」

「“羽虫”? いえ、私が既に知っている知識です」

「ですがその知識は間違っているのでしょう?」

「クロヴィスの正体など重要な所はほとんど間違っていません。そして……フィオレは私の友達です。だからそのお手伝いはさせられません」

「ふむ。なるほど……友達思いでこの世界に愛着があるのは良い事です」

「では」


 フィオレにその役目を押しつけたりしないでくれますかと私は言おうとしたが、ルーザリオンは一瞬酷薄な表情になってから、


「だが、まだ貴方様の力がどの程度なのかわからない。その友達の力がなければ勝てないほど貴方の力が弱かったのなら仕方がないでしょう?」

「でも私は……」

「だから、こちらにいいるウィーゼ、彼女に勝ったなら考えてもいいでしょう。このウィーゼの力もクロヴィスを殺す、もしくは封じるために必要な戦うため代償を払って力を得ています。それに勝てるだけの力があるのなら、考えるのもやぶさかではありません。ですが、貴方様がもし期待はずれの力しか持っていなかったなら……どうなるか分かっていますね」


 笑うルーザリオンの横にいたウィーゼが私に向かって走ってくる。

 私の少し隣辺りにいたライがこんな話は聞いていませんと叫んでいるのが聞こえる。

 私はといえば、ウィーゼがこちらに走ってくるのをまっすぐ見ていた。


 彼女に勝たないと、フィオレが悲しい事になってしまう。

 この時私は、初めて戦闘に“肯定的”だった。

 力がもしあるのならそれを使わなければ、大切な人達を“守る”事もできないから。


 そしてこの人達に良いように操られてしまう。

 だからその“力”があるならそれを使いたい、そう私は切に願う。

 ぼんやりと、何かが“視える”気がした。


 けれどそれはすぐにブレて、確かな像を結ばない。

 直感でこれではダメだと気づく。

 もっと、もっと確かな私の……クロヴィスのくれた物では無い力で、勝たないといけない。


 焦る気持ちが膨れ上がって、けれどウィーゼという魔族、よくないものを纏う彼女は私の眼の前に迫っていて……。

 そこでウィーゼの動きが止まる。

 よく見ると足が凍りついている。


 その魔法を使ってくれたのは、ライらしい。

 ありがとうと私は心の中で思いながら、まっすぐにウィーゼを見て……周りがしんと静まり返り、目的の物を見つけた。

 空間が奇妙にねじ曲がるのが見えて、それはきっと世界の歪みを彼女自身が溜め込んだもので、それを彼女の中に固定しているのは……右腕の部分に四角錐の形をした何かが見える。


 理解したのでは無く感じたそれ。

 無意識に突き動かされるように私は、それに狙いを定めて手を伸ばした。


バチンッ


 軽く触れた指先から何かが私の中から流れ込み、見えて触れたそれは粉々に砕けてしまう。

 ただそれだけのことなのに呻き声も上げずに、まるで糸が切れた人形のようにウィーゼが私の方へと倒れこむ。

 慌てて抱きとめるが彼女のほうが背が高いのでややバランスを崩しかけるとライが支えるのを手伝ってくれた。


 私の顔のすぐ横にウィーゼの顔があり、息をしているのは確認できた。

 多分気絶をしているだけだ。

 無我夢中でしてしまったけれど、きっと今のが私の“力”なのだろう。

 と、そこでルーザリオンが笑った。


「素晴らしい、素晴らしい力だ。まさかウィーゼのそれを一瞬で……この力があれば勝てる。だが、ライ、お前はどうして私に逆らった?」


 と、ルーザリオンがライに視線を投げかけた。

 ライが顔を蒼白にしてびくっと震える。

 今ライは、私を手助けた裏切り者という事になるだろうからか。


 私はライを庇おうと思って、とりあえずはウィーゼをライに預けてこのルーザリオンと話をしようと決める。

 そこである人影が現れたのだった。








 黒い人影が現れ、スパーンと小気味のいい音が響く。

 現れたのは一人の女性で、猫耳が生えており、片手には書類の束が大量に握られている。と、


「ルーザリオン、よくもこの私に大量の面倒くさい仕事を押し付けたな!」

「お前が関わると甘くなりがちだからな」

「お前はやり過ぎなんだ!」


 怒ったように何かをいっている猫耳の彼女を見ながら私は、その姿に、


「ネコミミ族の軍師クラウズ・マレア、タマのお母さんですよね?」


 と問いかけた。

 タマに似て猫耳が可愛い妖艶な美女である。

 そんな彼女は私に気付いたらしく微笑み、


「ああ、君か。愚息のタマから話は聞いている。タマが振られたと昨日連絡があった」

「……新しい恋人の話は?」

「聞いたが、それよりもルーザリオンに仕事を押し付けられて大変なことになっていてな。どう考えてもルーザリオンの仕事としか思えないものが混ざっていて、おかしいと思っていたところだ。それで先ほどようやく気づいて慌ててこちらにきたが……ウィーゼに勝ったなら、と言って何かをけしかけたところだろう。だが、倒せる、しかもウィーゼのためていたあの力を消し去るだけの力が君にはあるという事か」


 これは期待大だなと笑うクラウズだが、そんな彼女に私は切実な思いを抱えながら、


「私の友達のフィオレを巻き込まないでください」


 そう私は彼女に告げると、彼女はそれに一旦口を閉じて真剣な表情になり、


「……それは約束出来ない」

「どうしてですか?」

「最悪の事態を我々は想定しているからだ」

「けれどまだ全部が確定して決まっているわけじゃない。それを、初めから最悪の事態を想定して全て行動しようとしている。それも、私が最も悲しむ、手伝いたくないと思うような方法で」


 そうなのだ。

 私の力を貸して欲しいと言うくせに、私が一番望まない方法を取らせようとする。

 しかも彼が一番望んでいるのは、クロヴィスを殺すことだ。

 そんな睨みつけるような私の様子を見て、タマの母クラウズが嘆息してからルーザリオンを見た。


「何を焦っている、お前らしくない。異世界から呼んでお願いする立場なのに、そんな事を言って……我々に不信感を抱かせては元も子もないだろう」

「……このエリがクロヴィス側についてしまうのではと、私は危惧しているだけだ。そしてより確実な方法を取ろうとしている、それだけだ。我々には失敗したなら後がない」

「だがエリの力を借りれなければ、我々はクロヴィスに勝てる要素はほぼなくなってしまう。以前のように司祭の力を持つものはほとんどいなくなってしまっている。それに別の計画プランでは、エリをクロヴィスが気に入って思い直せばそれでいい、目的は達成できるといった話になったじゃないか」

「不確定な要素は除きたい」

「確実に倒せる保証もないし、殺せたとしてその後この世界がどうなるのかもわからない。一番いい方法は封印だという話だろう」

「封印したならいずれ目覚める」

「それまでに反省するかもしれない」

「あれがするわけ無いだろう」

「どうあっても最終的にクロヴィスが思い直すか敵に回るかの二択しかないのだ。現状で上手くいっているのなら、色々と事情を話して、いざというときに力を貸してもらおうという話だっただろう。それが最悪事態になった場合、司祭の末裔であるエリの友人、そのフィオレの力も使わざる負えない……そういった話だ」

「……」

「なのに脅すように、しかもうちの可愛いライまで。この子は珍しいローレライなのに、こうやって、知っているからといってわざわざエリの様子を見てくれていたのに、いじめやがって」

「そのローレライのライが相変わらずお気に入りだな」

「娘のようなものだからな」


そこでクラウズが私の方を見て、


「すまない。我々“深淵の魔族”や魔物は君のような異世界の存在には好意を抱くらしいのだが、なぜこのルーザリオンは、こうも意地悪く言うのか……」

「好意をもつ?」


 何となく気になって私は聞き返してしまう。

 それにクラウズが頷いて、


「ああ、触手やスライムといったように魔物に襲われやすくなるんだ。魔族側の“神”に近い能力の気配がするから惹かれてしまうらしい。いい匂いと感じる場合もあるそうだ。エリの前に、ささやかな動物を召喚して調べた結果、そういった効果が認められたらしい」

「……」


 ここで私は知りたくもない事実を追加されてしまった。

 今までスライムやら触手やらに襲われやすかったのはまさか……。

 私が凍りついているとそこでタマの母、クラウズがルーザリオンに向き直り、


「それで結局このエリは、この世界の今後をも知っていたのか? ルーザリオン」

「完全ではないがおおまかには」

「そうかそうか。それで私もエリに聞きたいが、石切り場で見た石板のある場所、あと一つは何処だ?」


 私の言っている事が本当か試しているのだろう。

 嘘を言っても良かったけれど、でもきっと、今は私の知っている事は本当だと信じてもらっておいた方が良いと思い正直に答える。


「空飛ぶ不思議な国……人間と交流している魔族の国にあります」

「なるほど。そちらに設置する予定だったが、この世界の事を殆ど知らないのにすぐに答えられる辺りで信用していいだろう」

「あの、今、設置と聞こえたのですが」

「そうだ、エリが集めていきやすように設置したからな全部。土産物屋まで我々の支配下だ」


 そう告げられて私は、全てが彼らの思うように動かされていたと知る。

 けれどそれをどうしてクロヴィスは放置していたのだろう?

 クロヴィスがそれに気づかないはずはなくて、けれど私に石板を集めさせたのは、どんな目的があったのだろう?


 クロヴィスなりに何か思う所があったのだろうか。

 私は今までの話で、クロヴィスが私を連れてきたけれど守る為に色々していたのを知った。

 でもクロヴィスに守られていたので戦闘もどうにか私は戦えていた。


 色々な場面でどの道具を使うのかイメージで来た。

 材料もふんだんに持っていたり。

 戦闘をさせられる不安はあったけれど、それでも私はまだ恋愛感情かはわからないけれど、クロヴィスに好意を持っている。


 そしてこのルーザリオンは性格が悪いので言うことを聞きたくないが、ライやフィオレといった友達も私にとっては大切だ。

 なら、私がすべき事は、


「クロヴィスがこの世界を“滅ぼす”選択をなくしてみせます。それが貴方方が私を呼んだ一番の目的でしょう?」


 そう私は彼らに問いかけたのだった。








 沈黙した彼らが一斉に私を見た。

 その瞳を私は真っ直ぐに見返し、


「私が知っている“ゲームの世界”にもちらりとそういった話が出ています。でも、クロヴィスはそれを選択しなかった」

「それは、貴方が知っている物語がそうだっただけだ。すでに違っている部分があるでしょう?」


 ルーザリオンがそう言ってくるだろう事も私は分かっているので、


「でもクロヴィスは私の知っている物語よりもずっと優しくて感情的だと思う。だから……」

「優しくて感情的? それは貴方が彼に愛されているからでしょう」

「……その前にもう必要ないと裏切ったのは、貴方方“深淵の魔族”とこの世界の人間達でしょう?」

「……何の話か」

「隠しても無駄です。言ったでしょう、大筋は変わっていないって。それに、以前“古い王国”の遺跡で私は壁画を見ました。クロヴィスと、裏切った貴方方の物語を」

「本当に面倒な異世界人を呼んでしまった」


 ルーザリオンが嘆息して、次にタマの母、クラウズが、


「ルーザリオンの場合は、一番クロヴィスとの接触が多かったからこそ君の言うクロヴィスがそれを諦める選択肢があるのを信じられないのだろう」


 それを聞きながら私から顔をそむけるルーザリオンを見つめて、


「……クロヴィス、一体何をやっていたんですか?」


 けれどルーザリオンは答えず、というよりは思い出したくもないといった渋面を作る。

 そんな彼の代わりにクラウズが、


「言いたくないとの事で、ルーザリオンも、それに幾度かついていったウィーゼも我々に教えてはくれず、結局は、すぐさまクロヴィスを殺した方が良いといった話に持って行ってしまった」

「……確かに、初めて出会った時そのウィーゼはやけに憎々しげにクロヴィスを見ていましたが、そう言った理由があったのですか。でもクロヴィスは私を愛しているから優しいだけじゃなくて、私達と関わり合いたいと思ってくれています」

「ほう、何時も一人だったクロヴィスが君以外に誰と?」


 目を瞬かせるタマの母クラウズに、私は、


「ウィルワードさんです」

「「いや、それは違う」」


 ルーザリオンとタマの母、クラウズが声を揃えてそう答えた。

 即座の全否定。

 何でだろうと私が思っていると、ルーザリオンは珍しく顔色を変えて、


「……あれは恐ろしい人間だ。クロヴィスのみならず我々“深淵の魔族”すらも巻き込んで……いや、よそう。名前を出すと何処からともなく出てくるらしいから」

「……あの人何をやっていたんですか」

「……クロヴィスとは違う意味で厄介な人物だ。彼はサンプルにならない。他には?」


 そう言われてしまうと、他に何かあるだろうかと私は思う。

 私は答えに詰まるが、そこで気付いた。


「私は、貴方方の知っているような“残酷な”クロヴィスを知りません。でも私の知っている感情豊かなクロヴィスを、貴方方は知らないでしょう?」

「何が言いたい」


 ルーザリオンが小さく苛立ったように私に告げる。

 けれどここで引いたらきっと、クロヴィスもフィオレも、私がこの世界で好きになった人達が悲しい結末を迎えてしまうから、だからルーザリオンに、


「貴方方は、“残酷な”クロヴィスと対話をしたから失敗した。でも、私の知っている感情豊かなクロヴィスなら、対話にも応じてもらえると思いませんか?」

「……どちらも同じ人物だ」

「同じ人物でも見せる物が違うには、理由があります。そして私は異世界の人間、そう、私はまだ一度もクロヴィスを裏切っていません」


 過去の出来事があってああいった態度をとっているなら、そのしがらみがない私ならできるのではないか。

 そして、ヒントは先ほどのルーザリオンとタマの母クラウズの会話からだ。

 クロヴィスをどうにかした場合でも、本当に滅びを止められるのかすら不確実なのだ。


 なのに彼らはそれを選択している。

 クロヴィスが頑なな態度をとっているのは、彼らの以前の行いがあってクロヴィスが信じていないからだ。

 でもそれなら、彼らが言うようにクロヴィスが私に好意を持っているのなら、異世界から来た私にはそういったマイナスの感情が無い。

 更に付け加えるなら、このルーザリオン達にもメリットがある。


「クロヴィスの力は強くて、“戦闘”をするのは得策ではないのでしょう? ならばこの方法を試してみる価値があるのでは?」

「どうやって説得する? “神”である事をクロヴィスは君に知られたくないようなのだろう? 彼が滅ぼすのを諦めるよう説得するのは、必然的に彼の正体に近づく事だ」

「……これから考えます」

「話しにならない」


 嘆息したようにルーザリオンは告げるけれど、私は、


「私の協力が無いと困るのでしょう?」

「……」

「状況によっては手を貸しますよ。この世界が滅びないようにする、それが一番の目的でしょう? だったら、滅ぼそうとする力を私が消し去る、殺さずともそれではいけませんか?」

「時間稼ぎにしかならないのでは?」

「それでも、そういった手段も考えられます。それに私の先ほどの力を見たでしょう? 少なくともウィーゼを一瞬にして無力化できる」


 素晴らしい力だと笑ったのは、このルーザリオンなのだ。

 もう一度すぐに使えるかは分からないし、先ほどの一回が偶然上手くいっただけかもしれない。

 でも私に“力”があるのは見せつけた。

 だからこの力を使えばどうにかなると私はそう告げて、さらにルーザリオンに、


「それに今すぐにクロヴィスはこの世界を滅ぼそうとはしていません。時間はまだあります。そしてこれから……私はもっとクロヴィスを知ろうと思います」

「どういう意味だ?」

「クロヴィスが一体何を悲しんで、どんな気持ちで、何を求めているのかを聞きだします。そこからそれを叶えれば良い。そうすれば、この世界が長期的に確実に存続していく事になります」


 ようは今の状況よりも歪みが少ない状況で、この世界が維持できればいいのだ。

 そしてそれはクロヴィスの“感情”のさじ加減で決まる。

 でも私は思うのだ。


 短い間だけれど一緒にいたクロヴィスは、俺様で意地悪な所もあるけれど“信頼できる”“優しいところもある”人物だと。

 そこまで聞いたルーザリオンは、渋々といったように、


「分かった。確かに我々の目的は叶うだろう。君の力がなければどうにもならない。だがそれほど長い時間は与えられない」

「それでもいいです。その範囲で私は……私が気付いていないと悟られずに、クロヴィスの“気持ち”をひきだします」

「一ヶ月、それ期限だ。そしてこまめに聞きだしたそれをそこのライに連絡してもらう。何か分かったらそちらに伝えてくれ」


 そう言って、ルーザリオンがライを指さす。

 私は分かりましたと頷き、ようやく幾らか話が終わったので、倒れ込んでいるウィーゼをルーザリオンに渡し、彼はそんなウィーゼをクラウズに渡して、クラウズはウィーゼに回復の魔法をかけ始める。

 そういえばウィーゼの周りにあった何かはウィーゼにに代償を支払わせているらしい。


 相当に体に負担がかかっていたのだろうと私が思っているとそこでライが私に近づいてきて、


「……こんな事になってしまったけれど、これからもよろしくね」

「うん、ライと一緒に居られて嬉しいよ」


 私がそう答えるとライは目を瞬かせて苦笑して頷く。

 そして小さく、こんな風にまたエリと話せると思わなかったと呟く。

 やはりもう二度とあんな風な生活には戻れないと思っていたのだろう。


 でも状況は先ほどと違う、そう、私は色々と頑張らないといけない。

 なので“戦闘”の依頼にかまけているばかりではないのだと私は思った。

 思って周りを見回したけれどクロヴィスが出てくる気配がないのを感じ取って安堵しているとそこで、


「しかし異世界人だから操りやすいかと思ったが、そんな事はないようだな。まあ、そんな展開にもならず良かったと思うよ」


 ルーザリオンがここで少しだけ優しげに笑うように私に告げる。

 その表情はそんな事にならずによかったと思っているようだ。

 あまり感じられなかったが、彼なりに私の事を考えていてくれるのかもしれない。

 ふと私は思った。


「でもミレニアムちゃんもいう事聞かなかったはずです」

「それはどうかな? 一人身の時はいざ知らず、今は子供もいるからな」


 妙に生々しい現実を突き付けられたような気がして私は微妙な気持ちになっていると、ルーザリオンが何処かで見た事のある表情で嗤った。


「ふむ、そのミレニアムちゃんについてのお話を、私の方でも少しさせて頂きましょうか」

 

 そうるーざり音が私に言ったのだった。






 エリのいない家では、食事をする時の椅子にクロヴィスが座っていた。

 そのすぐ傍にフィオレも座っていた。

 特に理由はないが、フィオレは何となくクロヴィスの近くにいたかった。


 タマとリリスは、先ほどリリスが杖を舐められて喘いでいたが、一瞬の隙を突いて逃走していたのだ。

 ちなみにクロヴィスは椅子に座って何をしていたかといえば、


「今日はこちらの“戦闘”の依頼と、こちらの“戦闘”の依頼を合わせるか。だがこの辺りにはスライムと触手がいたな。……どちらを選ぶか」


 といった内容を時折小さく呟きながら、真剣に依頼を考えているようだった。

 ただいまの呟きと今までの出来事から推定するに、スライムか触手にエリは襲われる事になるだろう未来が容易に想像できた。

 なのでフィオレはこころよく、エリとクロヴィスを送り出すと心に決めていたのはいいとして。

 

 そこで依頼の書かれたカードから顔を上げたクロヴィスがフィオレを見た。


「どうしてずっとそこにいる?」

「いえ、何となく」

「……そうか」


 短い会話だったが、珍しくクロヴィスから話しかけてもらえた事がフィオレには何となく嬉しかった。

 それに気付いたクロヴィスが、何か珍しい物を見る様にフィオレを見て、


「……前から聞きたかったが、どうして俺を仲間にしたいと思った?」

「それはその実力があれば当然かと!」


 このクロヴィスの技を一度でも見たならば、その圧倒的な実力に魅入られる事だろう。

 もっともフィオレは、


「それに何となく懐かしい様な惹かれる気持ちがあって、誘いました」

「……それでアンジェロにはそれを話したのか?」

「はい。……というか、私達の事を覚えていたんですね」


 覚えていないとクロヴィスが答えていたがどうやら覚えていたらしい。

 何だか嬉しい事が続くなとフィオレが思っているとそこで、


「それでフィオレは、アンジェロがお前が誘ったお前目当ての仲間を陰で撃退していたのは知っているか?」

「……え?」


 そんな話知らないと思ってフィオレは呟いたが、そこでフィオレは思いだした。

 仲間に誘った時は好意的だったのに、次に会った時は、


「化け物にでも出会ったかのような悲鳴を上げて逃げられたり、視線を合わせただけで逃走された……」


 そんなに私の態度は良くなかったのだろうかと密かにフィオレは悩んでいたが、まさか全てアンジェロの仕業だったとは。

 今更知った驚愕の事実だがそこでフィオレはそれならばと気付いて顔を蒼白にしながら、


「クロヴィスもアンジェロに嫌がらせを?」

「いや、俺が興味がないのが分かったらしく、何もしてこなかった」


 それはそれでフィオレは凹んでしまう。

 こう見えても自身の戦闘能力は磨いてきたつもりなのだが、クロヴィスのお眼鏡にはかなわなかったらしい。

 そうフィオレが心の中でいじけているとそこで、

 

「……その仲間にフィオレが誘った男達は、大抵フィオレ狙いでパーティに入ろうとしているようだったからな。もっともアンジェロの事は、独占欲の強い男の醜悪さは愚かしいほどだなと俺は鼻で笑っていたが。……いざ自分の立場になると笑えないものだ」


 どうやら仲間に逃げられたのも含めていじけていると思ったのかクロヴィスが、彼なりに慰めてくれているようだった。

 それと同時に、フィオレは今の発言から、それほどまでにクロヴィスはエリを思っているのだと知る。

 見ていてもそれを感じるが、言葉にするとそれを余計に感じるとフィオレは心の中で思う。

 ただいまの話を聞いて、


「でもそれなら何故、今回は仲間になるのを許してくれたのか。あのアンジェロは」

「エリなら、襲う側になれないという直感めいたものがあったのだろう」


 クロヴィスの身も蓋もない答えを聞きながらフィオレは妙に納得してしまった。

 エリは確かにフィオレを襲う事はないだろう。

 そう言った意味でもアンジェロは、エリはフィオレの友達たりうると判断したのだろう。


 何だかアンジェロの手のひらで踊っている気がしてちょっとだけフィオレはむっとしていたが、すぐにこの前の台詞を思いだし、アンジェロは今は大丈夫だろうかと不安が襲う。と、


「何か不安でもあるのか?」

「アンジェロが大丈夫かと」

「心配するだけ無駄だろう」


 容赦のないクロヴィスの一言に、フィオレは目を瞬かせて、次におかしくなってしまう。

 それもそうですねとフィオレは笑いをこらえながら答えた。

 あのアンジェロがそんなへまを踏むはずがないと、一番良く知っているのはフィオレのはずなのに、珍しくフィオレは不安を覚えてしまったのだ。


 そこでクロヴィスがふっと小さく笑う。

 エリに見せていた何処か優しげな表情に似ている。

 ただそこまで甘いものではなかったが、そこでクロヴィスが、


「フィオレ、その力は、古の司祭達に“神”が与えた“力の片鱗”だ。それは生命に作用する。植物を育てたり、食べ物が動き出すのも全てその影響だ」

「! 古の司祭……そのあたりの話は知りませんでした」

「……そうか」

「でもクロヴィスもその力が……いえ、何でもないです」


 以前怒らせたばかりなのだ。

 余計な事を調子に乗って言ってはいけないと慌てて口をつぐむフィオレだが、


「……俺の力もその古の司祭達に関係している」

「! そうなのですか」

「けれどあまりその話はしたくない。せいぜいするとしたら……エリとするくらいにしたい」

「そう、ですか」


 どうやらその力はクロヴィスは嫌いであるらしい。

 だからあれほどまでに怒ったのだろうかとフィオレが思っているとそこでクロヴィスが、


「その力がフィオレは好きか?」

「……もちろんです。ただ、他の人には気持ち悪がられるからあまり言いたく無くて。同じ力を持っている人にも私は出会った事がないから、つい、クロヴィスが同じ力があると喜んでしまいました」


 フィオレのその言葉にクロヴィスは一瞬瞳を揺らしてから瞳をつむり、


「……エリに話してみろ。エリは多分、受け入れる」

「……そうですね」


 そういった受け答えをして、確かにそうだとフィオレはそう思う。

 あのエリは、気付けば当り前のように昔からの“友達”であるかのように、フィオレと受け答えをして接している。

 しかもエリはあの“深淵の魔族”であるライや……そしてタマも受け入れているのだ。


 異常だと思うけれどここで暮らしてみてフィオレは、そう言った恐ろしいものでもきちんと感情があって会話できるものなのだと知る。

 そして意外に気さくで、そして生きている人間特有の性格の悪さもある。

 

「ここは不思議な気がします」

「……そうだな。エリがいるから、か。エリがいるから今の状況が出来あがっている」


 エリと名前を呟くたびにクロヴィスはとても幸せそうだ。

 エリの前ではよく意地悪そうな顔をしているが、彼がいない場所では素直に表情に出すのだろう。

 微妙に歪んでいる気もするが、アンジェロも時々フィオレがいない場所でそういった表情をしてフィオレの名前を呟いているのを見た事があったので、こういった所はとても良く似ているなとフィオレはクロヴィスを見て思った。


 そこで勢いよく、家の扉が開かれた、


「クロヴィス、ちょっと一緒に来て欲しいのだけれど構わないかな!」


 突如現れたウィルワードの姿に、真っ蒼になりながらその存在を見なかった事にするかのようにクロヴィスは顔をそむけたのだった。


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