転機
マゴットさん家のお惣菜は珍しい味で結構美味しかった。
あまり食べたことのない香草の香りがとてもいい。
スープも美味しかったし、デザートのプリンはカラメルソースにほんの少しラム酒の香りがして美味しかった。
それから普通に部屋に戻り、慌ててあの花を他の場所に移した。
なにか変な夢を見たような気にさせられて、しかも私の両隣でライとフィオレが……という展開はお断りしたかったのだ。
そんなこんなで今日はフィオレが真ん中で、私が端になった。
この前の温泉街でゲットした種から花を咲かせたそれを増やすために色々していたら、既に二人はベッドでスヤスヤと夢の中。
なのでそうなってしまった。
そして明日は、ライと“上弦の森”に……。
「何だか変な感じがする。何が変なんだろう?」
いつもとライが違う気がするけれどそれがわからない。
短い間だけれど一緒にいた友達なので、変化は分かる。
それを考えていると更に眠れなくなって、周りはとても静かで、それが余計に何だか寝付けなくなる。
時折風が吹いて窓の軋む音がやけに大きく聞こえる。
そこでしたの方から、かたんっ、と音がした。
誰かがいるとは思えないし、なので変な置き方をした瓶か何かが倒れたのかもしれない。
そこで再び、かたん、かたんと音がする。
どうやら気のせいではないらしい。
「な、なんだろう。ちょっと見てこようかな」
何かがいるのだろうか。
案外タマが走り回っているのかもしれない。
他にあるとするなら……“触手”があそこに?
お化けよりもよほど怖くて実害のあるあの生物を思い出して、私は小さく震えてからそんなわけない~そんなわけない~。
そう繰り返しながら階段を降りて台所に向かう。
確かこの辺りの気がすると思っていると、そこでポンと肩に何かが乗った。
「ひょわひょえやわ」
「……私だよ、エリ」
その声で肩に乗っているのが誰なのかに気付いた。
「リリス、どうしたの?」
「何だか眠れなくて。……エリ」
「何?」
「タマを振ったって本当?」
「うん」
「でもエリの一番の杖でいていい?」
「うん、私もリリスと一緒のほうがいいな」
そう私は本心から告げる。
この世界にきてそこまで時間はたっていないけれど、リリスと一緒にいるのも私は楽しい。
そしてリリスにはこの世界に私が存在しないはずなのに、その頃から一緒にいる記憶があるのだ。
誰かの意図を感じる、作られた記憶。
私にとって居心地のいい場所が提供されているような、誰かの手のひらにいるような不安。
けれどその短い間でも私は、リリスと会話するのも楽しくて、何かを一緒にする程度に信用できる。
そこでリリスが口を開いた。
「最近、エリとの昔の記憶が曖昧になっている気がする。これが本当にあったことなのか、ここに来て以来、そう思っちゃって」
「……そうなんだ」
「でも記憶の中にあるエリと今のエリとはちょっと違うけれど、でも多分、今のエリの方が好きだと思う」
「……そっか」
私の杖は、私の事を思ってくれているらしい。
それ以上は私は話すことなく、私は部屋に戻りすぐに眠ってしまったのだった。
そんなエリ達の様子をクロヴィスはずっと見て、聞いていた。
そしてエリがいなくなってから小さく笑う。
「……エリは、まだ気づいていないか」
気づかれたくないと思って何も言わないから、何も変わらない。
だからクロヴィスの間にも介入しない。けれど。
「俺も随分と我慢強い」
昔の自分ならば考えられないそれに苦笑するけれど、そんな日々も“楽しい”と思えるから困るとクロヴィスは笑う。
それは全て、クロヴィスのそばにエリがいるからだ。
「俺ももう一度眠るか。睡眠なんて俺には必要ないが、な」
クロヴィスはそう呟いて、誰にも気付かれずに部屋に戻ったのだった。
次の日。
野菜を使ったミルクリゾットに、お肉、そして緑色のメロンのような果実を絞ったジュースの朝食。
普通に楽しく食べた後は、ライとの約束だ。
「それじゃあ、森に行ってくるから」
「早く帰って来い。そして戦闘だ」
「はーい」
私は素直にクロヴィスに返事をするが、その約束を守るつもりはなかった。
けれどこの時、別な意味で本当に早く帰れなくなるなんて思いもしなかった。
そしてライに連れられて、私は“上弦の森”にやってきて、ある人物と出会ったのだった。
“上弦の森”は私の家から近い場所にある明るい森だ。
木々の葉が風に吹かれてざわめくのを聞きながら、私とライは小径を歩いて行く。
途中一匹も魔物に出会うことはなかった。
それどころか動物の気配も、小鳥のさえずりすらもない。
まるで魔物も動物も、そして虫すらもこの森からいなくなってしまったようだ。
かすかに聞こえる音も、頬を撫ぜてすぐに掻き消えてしまう風の音、万華鏡のように移り変わる優しい緑色の葉の連なりが生み出す音だ。
他にあるとするなら、地面を踏む私達二人の足音。
静かすぎる森の中を私たちは歩いている。
先ほどから、目の前を歩くライとは一言も口をきいていない。
それが私の不安を煽る。
「あの、ライ。いつまで黙っているの?」
「……エリは何も感じない?」
「な、何が?」
「……仕方がないのかな? でももう少しだから」
振り返らずにライはそう答えた。
私の頬を撫ぜる風がやけに冷たく感じられる。
ライはあろもう少しだと言っているから、目的の場所があるのだろう。
ライとはしばらく一緒に暮らしてきたし、その性格なりなんなりを私は知っている。
けれど私は何となく不安を感じて、
「ぼ、私、やっぱり一回帰る。この森は何かがおかしいし」
「……エリは何がおかしいと思う?」
「……魔物が全くいない」
けれどその答えは、ライにとって面白いものだったらしい。
クスクスと肩を震わせながら笑い、
「魔物? 魔物ならエリの目の前にもいるじゃないか」
「ライ、どうしちゃったの? え?」
そこで振り返ったライが私の手を握る。
まるでこの場から逃さないとでもいうかのように。と、
「今日はね、エリにある人達に会ってもらいたくて来てもらったんだ」
「ある人達?」
「そう、私達の“仲間”である“深淵の魔族”がね」
「それは後一つで石版が揃うから?」
その問いかけにライが目を瞬かせて、
「エリはたまに人間達が本来知らないようなことを知っているね。魔法についても、何だか空中で指を動かしてから普通の人が知らない禁断の魔法も使うし」
「……ライにはそう見えるんだ」
確かにあの魔法の選択画面のようなものは、他の人達に見えないようだ。
だって一度も突っ込まれたこともなかったし、クロヴィスも首を傾げていたし。
けれどそれも含めて私はこの世界の人にとって“特別”であり“異質”なことは色々な場面で感じていた。
でも何故今ここでこんな事をいうんだろう?
私が“異世界から来た”事を暴こうとしている?
その理由は?
“深淵の魔族”に会うイベントはたしかにゲーム内でもあった。
でもゲーム内のあの子は、私よりももっと普通でちょっと魔力が大きいぐらいの話しか出てこなかったのだ。
その後に説明とともにある事実が伝えられたのである。
だから今のこの展開は少し違う。
そもそもゲーム内に“ライ”は出てこない。
そんな風に思っていると、そこでライが苦笑して、
「ごめん、怖がらせるつもりはなかったよ」
「……温泉街の時にも、同じような事を言って私が戸惑ったのに、また聞くの?」
思い出したのだ。この前のこと。
普通の人間とは思えないよといった事を私はライに言われたのだ。
今考えるとあれは全て布石だったのではないかと勘ぐってしまう。
でもあの時もそう言われて私は戸惑ったのだ。
なのに聞くなんてライは意地悪だと思ってそう言い返すと、ライが面白そうに笑って、
「嫌われたくないから謝るよ。私としてはこれから起こるある事があった後でも、本当は友達でいて欲しい」
「……私は、ずっと友達でいたいと思う」
「そう言ってくれて嬉しいよ。それに、私達にとってエリはとてもいい匂いもするし」
その言葉を聞いてジリっと後ずさる私に、ライは笑いながら、
「狙ってないよ。ただ私達にはそんなふうな匂いがして好意を持ってしまう、エリはそういう存在なんだ」
「? よく分からない」
「確かにそれだけ聞けばそうだよね。その辺りの話もこれからするかも」
そこで会話が止まってしまう。
再びライが私の手を引きながら歩き出して、私も大人しくそれについていく。
と、ライが自嘲するように笑ってから、
「私はね、何となく……エリはこれまでの事も、これからの事も全部分かっているんじゃないかって……期待してた」
「期待?」
「うん、本当は私、エリの力を使っても無理なんじゃないのかなって、疑っていたから。でももしも……私達が知らない“未来”の事も知っていたりするなら、どうにかなるんじゃないかなって」
「……」
彼らがゲームで主人公に何を望んでいたのか、それを私は知っている。
けれどそれと同じなのか、それともずれているのかが私には分からない。
既にゲームとは私の回りにいる人達は違っている。
でも、一緒にいるのは大好きな人達なのだ。
私の“日常”に組み込まれてしまった人達。
クロヴィス達はもとより、“ライ”もそうだ。だから、
「……私が知っている事でも、幾つか違うことがあるから、全部分かっているわけじゃないよ」
「やっぱりね」
「どうしてそう思ったの?」
「いくつか理由はあるけれど……その内の一つは、私達が“深淵の魔族”と言ってもちょっと怯えただけで、エリそこまで怖がらない」
「クロヴィスが何時だって傍にいたから」
そもそも最強のラスボスだしね、と小さく心の中で私は付け加えると、ライは小さくそれだけじゃないよと笑い、
「クロヴィスに守られていても怖いものは怖いからね。そして無知ゆえに知らないのとは違う。知っているからこそ、エリはそこまで怖がらないんだと私は気付いたんだ。そういった意味でも普通でない知識が、エリの中にはある。あ、でもタリ……タマ様が獣人だって気付いていたのにその知識はないようだから、穴があるのかな? だから全部は知らないのか」
自問自答するように呟くライの話を聞きながらそこで私は気づく。
“魔物”やああいった人型のローレライも“深淵の魔族”に属するとこの世界の人間に思われているのなら、
「もしかして、初めて私がライに会った時に気づいたの?」
「うん。いつもの冗談で、馬鹿な男でも騙すかと呟いていたらそこに人がいて、会話をしてもこの子は変だなって。ま、あとで色々知ったんだけれどね」
「色々?」
誰にライは私の事を聞いたのだろうと思って聞くとそこでライは黙ってしまう。
いいたくない話なのだろうか、と、
「すぐに分かるよ。でも楽しかったけれどちょっと長居しすぎた気がするな。本当は、他の人達に私が“深淵の魔族”だってエリがばらしたら、私達側に連れて行こうかと思っていたんだけれど」
「……え?」
予想外の話に私は声を上げたけれど、そこで私は以前の会話で、
「そういえば、魔族であるローレライだとばらしたら連れて行かれちゃうよ、って言っていたよね」
「うん。でも思いの外、エリは口が堅いし、タマ様もいるしね。私も楽しませてもらったよ、フィオレもいい子だしね」
楽しそうに言うライ。
きっとこれまでのような関係にはもう戻れない、そう思っているのかもしれない。
だからわざと楽しそうに冗談めかしていっているのか。
そう思っているとそこで、森のなかの少しだけ開けた場所にやって来る。
木々がその一体だけは生えていないが、その周りに育つ樹の枝で木陰ができている場所。
そこに黒髪、赤い瞳の“深淵の魔族”が二人いた。
この二人のうち一人は、この前に出会ったウィーゼという魔族。
そしてもう一人は、ゲーム内で既に知っている。
「“深淵の魔族”を取りまとめる宰相の、ルーザリオン?」
「……やはりご存知でしたか。ライの推測通り、貴方は普通でない“知識”をお持ちのようだ」
そう、“深淵の魔族”であるルーザリオンは、微笑んだのだった。
私の前に現れた、長い黒髪で赤い瞳の美中年。
“深淵の魔族”であるルーザリオンは、“深淵の魔族”の宰相である。
黒を基調としたコートの様な服を着ているが、所々にその地位を誇示するかのように宝石や金細工が付けられている。
全体的には大人しいが、上品な服装である。
そこにいた二人はどちらも同じ様な服装だが、ルーザリオンより少し下がった場所にいる、この前の温泉街や古城で出会ったあの魔族は装飾は少ない。
けれど彼の周りには、あまり良くない何かが渦巻いている。
感覚的にそれを感じたけれど、このルーザリオンは気にしていないようだった。
ちなみに彼と対になるのがタマの父で、軍師である。
このルーザリオンは優しく柔和そうに見えるが、確か設定では結構ドSだったはず。
ただゲーム内では説明役の様な物だったので、そこまで危険は感じなかったけれど。
けれどそれはゲームの中での話だ。
そう思っているとそこで彼は頬笑み、
「よくいらっしゃいました。我らが“魔王”様」
ゲームの中と同じ声で同じ言葉を彼は紡ぐ。
やはり私の立ち位置は、ゲーム内のミレニアムちゃんと同じようだ。
そう思いながらも、確認の意味を込めて私は、
「どうして私なの? 他の……そう、女の子ではないの?」
「それはミレニアムの事ですか?」
「はい」
「……何故彼女の事をご存じなのですか? 我々が貴方をこの世界に呼び出して今までずっと観測していましたが、接触した形跡はありませんよね?」
ほんの少し探るように私を見てから、ルーザリオンは私に告げるけれど、私は沈黙する。
ゲームの事を説明するのは難しいというのもあるけれど、まだ私がどうしてそれを知っているのかを彼らは知らないようだから……まだ彼らの思惑が分からない以上話せない。
それに今言った言葉の方が気になる。
「私をこの世界に呼びだしたと、今聞こえたのですが」
「その言葉の通りです。貴方は、我々が“召喚”しました」
ルーザリオンが微笑みながらそう告げる。
それに私は微妙な表情になりながら、
「あの、だったらどうしてこの世界に連れて来てすぐに教えてくれなかったのですか? そういった“召喚”って、わけのわからない場所に私を引っ張りこむものなのですか?」
突然スリッパを履いたまま、この世界に連れてこられたのだ。
しかも何の説明もなく。
なので情報を求めて町に向かったが、そこに行く途中に魔物に襲われてクロヴィスに助けられたのだ。
そんな目に遭ったのに、我々が“召喚”しましたなんて言われてもと私は思うわけで。
そこでルーザリオンが珍しくため息をついた。
「仕方がないでしょう。我々の傍に呼ぼうとしたら、クロヴィスに邪魔されたのですから」
「え?」
「彼はこの世界の“神”です。ですから我々がどれほど望んだとしても、この世界に異世界の貴方様を連れてこようとしたなら彼の“許可”が無ければいけなかったのです。それを我々は失念していました」
「それはどういう意味ですか? というかそれではまるでクロヴィスが私が“召喚”されたのを知っているみたいじゃないですか」
私はそう驚きと不安を覚えながらそう答える。
クロヴィスに会ったのは“偶然”のはずだ。
そして私を助けて主人公の家に案内してくれて、そう、私の居場所をまるで提供するかのように……。
「あの、どうしてこの世界に私の“居場所”があったのですか? だって、“召喚”しただけですよね? なのに、ミレニアムちゃんの役目や居場所が私に?」
「……どうしてミレニアムの代わりだと思ったのですか?」
またゲームの話に持っていかれてしまった。
でも彼らが“召喚”しただけなら、それ以外の私の居場所は一体誰が私に与えてくれたんだろう。
まるで私が不安になったりしないように、居心地が良い様に設定されている様な……。
そしてこの世界の改変というべき現象まで引き起こしている。
記憶すらも塗り替えて……そんなことが出来るのは、
「クロヴィスしかいない?」
「なにがですか?」
「この世界に、私の居場所を“創る”事ができたのは、クロヴィスしかいないんだ」
「……そうです。貴方の居場所、そしてその力も、持っていたそのアイテムも全て彼が創りあげたものです」
「え、えっと、え、え? この魔法やアイテムも全部クロヴィスが?」
居場所だけだと思っていたのに、どうやら私の個の力もアイテムも全部、クロヴィスの力によるものらしい。
でも確か、私のアイテムの中には、
「魔族のアイテムも私、初めから持っていたのはどうなるんだろう? この前の温泉街でそこにいるウィーゼにもう一個貰ったわけですが、機能はそんなに違わない気がする」
「機能は同じですが、我々魔族の力で作られていますから、その力を追跡することで居場所がわかりやすくなります」
「……お返ししてもいいですか?」
「もしものときにすぐに駆けつけられるよう持っていてください」
返品不可だと私はルーザリオンに言われてしまう。
何だか発信機か何かを付けられている気がして何となく嫌だ。
そこでふとルーザリオンが呟く。
「何故、この世界の出身で無い貴方がこの世界の事を知っているのか。……そういえば必要な異世界の人物の“召喚”は、ここと似た世界を経由したはず。その世界について知っているから、これから起こることすらも知っていると?」
「……」
「その顔は、思い当たるという表情ですね。そして、その似た世界の“何か”を貴方の体にクロヴィスは再現していれていたように見えましたが……なるほど。それが貴方が使える魔法とアイテム、といった所でしょうか」
今の話を聞きながら、私もこの奇妙な一致について納得が出来る。
異世界に呼ばれたにしては、ゲームと共通点が多すぎたのだから。
けれどゲームほどこの世界は同じでは無くて、だからここはゲームの世界ではなく異世界だろうと思っていた。
とはいえ確信が持てるほどの物ではなかったけれど、今の話を聞いて、
「辻褄が合うかも。そして貴方が私を呼ぶために使った似た世界というのは、私がイメージする“ゲームの世界”で、そこにいた私と同じ立ち位置の人間がミレニアムちゃんだったはず」
「なるほど、“ゲームの世界”?というものでそれを知っていると、ふむ」
何かを考えこみだしたルーザリオンだけれど、私としては気になることがある。
それは、どうしてクロヴィスが私に、私が“知っている”ゲームの力やアイテム与えたのかということだ。
しかも居場所まで用意して。
「何でクロヴィスは、私にそこまでしてくれたんだろう? 会ったのは、私の記憶にはないけれど、その“召喚”した時くらいなのに?」
私がそう呟くとルーザリオンが言葉を失ったように沈黙した。
あれ? 私、何か変なことを言ったかなと思っているとそこでライが深々とため息を付いて、
「クロヴィスはエリのことをすっごく大好きだから。こと、エリに関することには異常に過保護だし」
「……嬉々として戦闘に連れて行かれた印象しかない」
「一緒に遊びたかったんだと思うよ? 好きな子とのデートの様なものだし。良い所も見せられるし。だから私達が一緒にいると、クロヴィスはちょっと不機嫌だったじゃないか」
そう言われて、周りがどう見ていたのかを私は知る事となったわけですが、結局、どうして私を好きになった……のかもしれないのが分からない。
そもそも男だからと思ってみるかクロヴィスには嫌悪感は感じないけれど、恋愛感情で好きかどうかというと……うがががが。
迷う私を見てため息が聞こえた。
「その様子ではまるで気づいていなかったと」
「で、でも何時好きになったんでしょうか」
「……“召喚”した時に突然現れて奪っていったのを見ると、“一目惚れ”をしたのでしょう。しかも力を与えた後は、この世界に連れてきてから少し離れていて、貴方様が魔物と遭遇した途端に助けに入るという演出までして……まさかあのクロヴィスがあそこまで入れ込むとは思いませんでした」
「え、えっと、そうなのですか」
私を守るために、不安がらないように力をくれて、居場所を用意してくれて……そして初めは偶然を装って私に会いに来て、今は一緒にいて。
そして戦闘に行っても、何度もクロヴィスは私を戦わせつつも手助けしてくれた。
全部それは私に好意を持っていたからだ。でもそうなってくると、
「でも私がクロヴィスの“正体”に気付いているって、気づいていないのかな? 聞いてもこないし、私もラスボス戦は怖いから聞かなかったけれど」
「聞いてこないのは聞かれたくないのでしょう。現状ではクロヴィスが“神”であると誰も気づいていないのですから、聞くことはないのでしょうが……気付いていると疑ってはいるかもしれませんね」
「わ、私が色々気付いているとか?」
「ええ。そして妙にこの世界に詳しい、といったことも含めて薄々貴方が色々とすでに知っていると勘付いているかもしれません。思い当たる部分はありますか?」
「時々、クロヴィスによく知っているなと言われていた気がします」
「なるほど」
「もしもクロヴィスに、正体を知っていると告げたら私は……クロヴィスとの戦闘に?」
ゲームでは最終の方で正体がわかってそんな感じになっていたけれど、ここでも同じような事がと私が思ってそう問いかけるとルーザリオンは真面目な顔になり、
「貴方様は本当に自分がクロヴィスにどう見えているのか分かっていませんね」
「え、えっと」
「恐らくは遊びでしょうが、恐らくはそれがクロヴィスの決めている線引きの様なものなのでしょう」
「それを越えると?」
「貴方様がそこまで隠している正体を告げたなら、この世界について知っていると気づかれたならきっと、戦闘なんてさせてもらえないでしょう。貴方様を大事にしているのですから傷つけたりなどできないと思いませんか?」
「つまり?」
「貴方様をクロヴィスが溺愛しているのですから、そうですね……自分の屋敷に連れ込む未来しか思い浮かびません。もう大人しくしている必要はないと」
「……いやいや、まさか」
クロヴィスがいきなりそんな風になるなんて私は想像できない。
けれどその私の様子を見ていたルーザリオンが頭痛を覚えたかのように頭に手を当てて、
「……自覚を持ってください。クロヴィスがこの世界に引き込んで力を与えて側にいる時点で、異常なんです。気に入らなければ面白がって、どこともしれぬ異空間を放浪する羽目に貴方様もなっていたかもしれないんですよ!?」
まさかそんな恐ろしいことになっていたかもしれないと聞かされて、しかもそんな可能性のある魔法を使われたのかと私は思う。
思うのだが、その裏返しは……そう、クロヴィスにそこまで思われていたとは私は思わなかった。
そしてこのルーザリオンを含めた彼らのクロヴィスへの評価がとても酷いことも分かった。
ゲーム内でもそうだが、私の接しているクロヴィスはそこまで酷い存在ではない。
反論したいのは山々だがそれを言い出すと話が進まなくなるので、私はなんとかそれを飲み込む。
代わりに気になったことを聞かないといけない。
だって、多分凄く難しい魔法だと思うのだ。
そうまでしてい世界から私を呼んだ辺り、私には彼らの望む“力”があるのだろう。
そもそも、この魔法がクロヴィスがくれたものなら、
「ここに呼んだのだから、私には、貴方方が必要な力があるってことだよね? でもこの魔法はクロヴィスがくれたものなんだよね?」
「いえ、魔力そのものは貴方様のものです。そう、異世界から呼び寄せた“魔王”であるなら、クロヴィスと同じように“時間・空間”を操ることが出来る力があるでしょう。その力を使えば対抗できるはずですから」
ゲーム内とは少し違う答えを、ルーザリオンは私にしたのだった。




