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いい兆候だね

 現れたウィルワードの姿を見てだろう、背後でカシャンと金属製の何かが落ちた様な甲高い音がした。

 なので私が振りかえると、蒼い顔をしたクロヴィスがグラタン皿の上にフォークを落とした所だった。

 そしてそんなクロヴィスにウィルワードが手を上げて、


「やあ。元気そうだね。何故か事前に会う約束をするとクロヴィスはその場からいなくなるから、黙って尋ねる事にしたんだ。今、朝食みたいだね」


 クロヴィスは相変わらず固まっている。

 朝から存在するはずの無い苦手な人物に遭遇してしまったかのような、悲壮感が漂っているのはいいとして。

 私もいいたい事があった。


「ウィルワードさん、昨日の件は私も絶対に許せません」

「いや、ごめんごめん、また新製品の失敗をしてしまってね。やっぱり人形以外の、特に新しい薬品関係にはあっていないのかな……」

「あの巨大生物を倒すの、凄く大変だったんです」

「うん、悪いと思っているよ。だからそのお詫びも兼ねて、朝から行列ができるマリン堂特製の“シュー・ア・ラ・クレーム”を十個ほど買ってきたのだけれど」

「……お茶をお出ししますので、あちらの椅子に座っていて下さい」


 私はあっさりウィルワードを許した。 

 何故かって、それはマリン堂特製の“シュー・ア・ラ・クレーム”を持ってきたからである。

 ゲーム内で幾度となく美味しい美味しいと表現されてきた名店の味!


 ぜひ口にしてみたいと思っていたのだ。

 なのでうきうきとしながら紅茶を淹れるためにお湯を沸かす。

 丁度朝食を食べ終わった頃で良かったと私は思いながらもそこでクロヴィスが珍しくウィルワードに自分から話しかけていた。


「それでそんな風に顔をさらして歩いていいのか? ウィルワード」

「ああ、昔は顔に包帯ぐるぐる巻きでいたからね」

「後は大きな帽子と仮面もかぶっていて、歩いているだけで警備の人間に連れて行かれそうな姿だった。実際に荷物検査も何回かされていたし」

「そういえばそうだったね。あの頃は謎の魔法使いごっこが趣味だったからね」


 随分昔の事のように感じるな~、と気楽そうにウィルワードは呟きながら付けているモノクルの位置を動かす。

 どうやら私が見たウィルワードの姿は、昔の物のようだったと今更気付く。

 やはりゲームとは違うみたいだ、そう私が思っているとそんなクロヴィスにウィルワードが、


「でも相変わらずクロヴィスは凄いよね、魔法剣士といっても杖を持つ僕達と同じくらいの魔法が使えて剣の技が使える、規格外の能力者ですから」

「何故今更そこを強調するんだ」

「いや、そこのフィオレという少女も魔法剣士なのですが魔法の方に特化しているようですから。エリもそう思うでしょう?」


 そう笑うウィルワードだけれど、そんな風にクロヴィスが規格外なのはラスボスでありその存在が……なのだけれど、そこを突っ込むと危険な仲間……は今の状況でいるけれど、準備の整っていないラスボス戦に突入する可能性がある。

 何で突然そんな事を聞いちゃっているんですか、そして私に話を振るんですかウィルワードさんと恨めしく思いながらも私は何か他の話は無いかと私は悩む。

 そこで目についたのはフィオレの剣だ。


「そ、そういえばフィオレが剣を使っている所はほとんど見ない様な……」

「当り前だ、私は魔法使いだからな。ただ私は貴族でもあるから人間にも身代金目的の誘拐もあったりするから、魔法で攻撃するには威力があったり即座に反応できなかったりする部分もあるから剣を持っているだけだ。攻撃目的で使いこなすという本当の意味での魔法剣士はクロヴィスみたいな者の事をいうのだろう」

「なるほど」

 

 頷く私を見ながら、次にチラリとフィオレは何かを思い出したかのようにクロヴィスを見る。

 そして迷ったように口を閉ざしてから、次に、


「この前の温泉で私は思ったのだけれど、クロヴィスは……もしかして私と同じ力を持っていたりするのでは?」


 何処かワクワクしたようにクロヴィスにフィオレが聞く。

 けれど私はゲームで理由を知っている。

 それはフィオレが古い、クロヴィスを崇める司祭の血を引いているからで……あまりクロヴィスには聞かない方がいいと私は思う話なのだ。


 知らないから仕方がないとはいえ、どこか期待するようなフィオレとは対照的にクロヴィスは冷たい目でフィオレを見て、


「答えるつもりはない」


 そう、一言告げた。

 それにフィオレは大きく目を見開いて俯く。

 理由があるにしろ、もう少しい方があったのではと私が思っているとそこで、


「そういえばフィオレといったね。君は僕の、ふぁん? らしいけれど僕に何か聞きたいことがないのかな?」

「! ぜひ、ウィルワード様の、“人形魔法”を間近でみせて欲しいです!」

「そうなのかい? じゃあ折角だから作り方も教えてあげようか?」

「本当ですか! ぜひ、ぜひお願いします」


 目を輝かせるフィオレ。

 先ほどまでの悲しい雰囲気は微塵もない。

 その一方でクロヴィスは、そこはかとなく機嫌が悪い。


 私はどうしようかと思っているとそこでウィルワードが、


「この人形の魔法を教えるのは、ディアナ魔法学園のミレニアムちゃん以来だね。あの子には特別な才能があったな……多分、“血”によるもんだろうけれどね」

「……そこ、エリの出身の魔法学園ですよ?」


 フィオレに言われて、本来のゲームの主人公のミレニアムちゃんを思い出す。

 でも設定が少し違うようなと私が思っているとそこでウィルワードが、


「あそこに入ったことがありますよ。高い天を貫くような塔が5つほどあるのでしたっけ」

「た、確かそうだったかと」


 私は相槌を打つようにウィルワードに頷くと、ウィルワードは意味深に笑う。

 な、なんですかと私が不安になっているとそこでウィルワードが、


「そうそうクロヴィス、そんな不機嫌そうな顔をしていると幸運も逃げていきますよ」

「……ああそうだな、エリ、お湯が湧いているぞ」


 そこでクロヴィスは深々と嘆息して、お湯が湧いていると私に指摘したのだった。







 とりあえず紅茶を入れて、持ってきてもらった“シュー・ア・ラ・クレーム”の箱を開く。

 白い紙箱には、端の方にマリン堂という文字が赤くスタンプで押されている。

 その辺はいいとして、開くと同時に、真っ白な純白の生クリームと柔らかい黄色のカスタードクリームに香り高いバニラビーンズ……のようなものが入ったクリームがぎっしりつめられた“シュー・ア・ラ・クレーム”がぎっしり並んでいる。


 しかも表面には薄く粉砂糖がまぶされていて見た目も可愛らしい。

 それを見ながら私は一つづつ、お皿の上に載せていく。

 そして皆でその“シュー・ア・ラ・クレーム”を食べたわけだけれど、


「美味しい!」

「本当だね!」

「いい味だ」

「うまうまにゃ~」

「美味し~」


 クロヴィス以外の全員がそう言って、持ってきてよかったよとウィルワードが告げる。

 何故かクロヴィスは沈黙したまま“シュー・ア・ラ・クレーム”を食べており、一つまるまる食べ終わると席を立ち上がり、


「出かけてくる」


 そう言って席を立ち上がり歩き出す。

 どことなく機嫌が悪そうだし、私を戦闘に連れて行かない辺りでよほど機嫌が悪いのか、落ち込んでいるのだろうかと不安に駆られた私は、すぐにクロヴィスを追いかける。

 家を出た直ぐ側で私はクロヴィスに追いついたので、クロヴィスの手を握ると、


「どうした?」

「え、えっと、何だか機嫌が悪そうだから……その、あまり気にしないほうがいいと思う。フィオレに悪気があったわけでもないと思うし」


 クロヴィスの正体を知っているけれどそれを隠すようにして慰める。

 それにクロヴィスはほんの少し驚いたような顔をしてから微笑んで、


「……分かっている。エリにも心配かけた。でも、少し気が滅入ったからストレスを発散させてくる。夜には帰る。ウィルワードがいなくなった頃に」

「うん……行ってらっしゃい」


 そうやって私は手を降って送り出し、家に戻ると丁度、様子を見に行こうと皆がドアの前に集まっている所だった。

 なので、クロヴィスは夜まで帰ってこないと告げるとフィオレがどことなくしょんぼりしたように、


「やっぱり私の質問は無神経だったのだろうか」

「これから気をつければいいよ。クロヴィスもあの力に思うところがあるみたいだし」

「そう、だね。気をつけよう」


 そう答えるフィオレ。

 と、ウィルワードがそんなフィオレに、


「クロヴィスと同じ力って何の話かな?」

「! あ、いえ……その、あの……」

「……そういえば君の顔、どこかで見たことがある気がするね。メルクリル家と関係がないよね?」

「私の家ですが、ごぞんじですか?」


 少し警戒したようにフィオレがウィルワードを見ているけれど、ウィルワードは楽しそうに笑いながら、


「君の秘密の力も全部知っているよ。諸々の理由で“関係者”だからね」


 フィオレが沈黙すると同時に、ウィルワードはちらりと私を見てから、次にライやタマ達を見て、


「まあこの辺でやめておきましょうか。それでそろそろ人形の作り方でもお教えしましょうか?」


 ウィルワードは大量の地雷をまきつつ話を終わらせたのだった。








 はた迷惑な人だというのをしみじみと感じていた私は、更に地雷だと感じていた。

 それは人形作りの最中。

 作った犬の人形を見て、フィオレが、


「これ、以前、エリが使っていた人形に似ているかも」

「そうなのかい? 一応私がこういった人形は作って売りはしていたのだけれど、特定の人にしか売っていなかったし、これは売っていなかったはずなんだけれどな」


 私は人形を作る手を止めて凍りついていた。

 だって本来のゲームならば、このウィルワード本人にそれを聞いているはずだったから。

 辻褄の合わないその話に私はどう言い訳しようか迷っていると、そこでウィルワードが、


「ああ、そういえば一人だけ作り方を教えた事があったかな、確か、ミレニアムちゃんだったかな。その子関係で話が伝わったのかもね。なにせ、三年ほど恋人にふられて引きこもっていたから」


 フィオレがショックを受けたようにウィルワードを見た。

 私が言っても全然嘘だろうみたいに流しやがったくせに、酷いと私は思う。

 そんなフィオレはしばらく固まってから、


「ど、どんな恋人だったんですか?」

「“深淵の魔族”、黒髪に赤い瞳の綺麗な人だよ。心が強い所があったから、僕は心が弱かったから振られてしまった。もちろん諦めてはいないんだけれどね」

「……“深淵の魔族”は“敵”です」

「“敵”とはいうものの感情も知能もある“深淵の魔族”だからね。好きになることだってあるよ。それに……君は少し頭がかたすぎる。だから何も聞いていないのかな?」

「……何がでしょうか」

「うーん、もう少ししてからの方がいいかもね。時期もあるし。それにエリにも関係があるからね」

「え?」


 そこで疑問符を上げたのは私だった。

 フィオレの秘密を語っていたはずなのに、何故か私まで巻き込まれそうになってくる。

 そんな私にウィルワードが、


「エリがいなければ私の教え子のミレニアムちゃんもその計画に組み込まれる予定だったんだけれどね。いわば身代わりのようなもの。さて……知っている情報によって得られる知識と質は異なるけれど、エリ、君は今の話で何を感じたかな?」


 ウィルワードが私にそう問いかけてくる。

 それは私がどこまで知っているのかという問も含まれている気がする。

 ゲームの主人公がこの後どうしたのか、どういった結末を迎えたのかは私は知っているけれど、


「よく、わかりません。ただ、石版は集めています」

「それが重要なものという認識はあるんだね。白い歯車と黒い歯車の意味、君は理解しているのかな?」

「……神話という程度です。でもウィルワードさん、遠回しに私達に聞こうとするのはやめてくれませんか? 何だか気分が悪い」

「はは、ごめんごめん。なんだか最近クロヴィスも人の噂になるのを気にしたりと、人間味のあるいい兆候が見え始めたから、嬉しくなってつい」

「クロヴィスは、元々、色々感じて気にしたり、感情表現が豊かで、意地悪だと思います」


 それこそゲームの時よりもそんななのだ。

 確かに他のものにはあまり興味はないようだけれど、私に対してはアレである。

 けれどそんな答えにウィルワードは更に目を輝かせて、


「素晴らしい。さすがはクロヴィスが選んだだけのことはある」


 その言葉に同調するようにフィオレが頷き、


「……確かに、エリの前ではクロヴィスはちょっと違うな。やはり見た目か、それとも禁呪一歩手前の魔法が使えるその才能を見ぬいたのか、やはりエリは只者ではないな」

「禁呪一歩手前の力が使えると。なるほど、愛されているね~」


 楽しそうなウィルワードだが愛されているね、とはどういう意味なのか。

 というか禁呪の類も本当は大量に使えたりするので、その辺りの魔法は気をつけて使おうと私は決意する。

 ただ、ウィルワードの話を聞いていると、私が異世界から来たことなども含めて全部バレているような気もしたけれど。

 そこで更にウィルワードは私達と、そしてライとタマに問いかける。


「そういえば君達、エリとどうやって出会ったんだい?」

「私の場合はそこの駄目猫に私のソーセージが食われたのが原因でした」

「駄目猫は酷いにゃ~、僕はお魚をくれたので飼う権利を与えることにしたにゃ~、エリも好みにゃったし」

「私は偶然遭遇したのが縁かな」


 フィオレ、タマ、ライの順で答える。

 ライの場合は、魔物としての遭遇が先だったんだよなと私は思い出していると、


「なるほど、ほぼ偶然か。偶然なのに面白い集まり方をしている……そしてクロヴィスもエリのそばにいると」

「そういえばそうだ。私もエリのそばにいるし。……クロヴィスなんて昔私がパーティに誘ったら無視された挙句私のことなんて覚えていなかったからな」

「クロヴィスらしいね。僕も始めそうだったからね。ただ、色々巻き込んでしまってそういった意味で腐れ縁かな」


 色々の部分がすごく私は気になったが、それ以上は聞くのを止める。

 何となく、クロヴィスが可哀想なことになっていそうだからだ。と、そこでウィルワードが、


「何となくエリの居場所が強引に作られているんじゃないかと思ったけれど、上手く馴染んでいるようだね」

「……ウィルワードさん、意味深なことをいうのは止めてください」


 バレたら私、本当に困るんですと思ってそう告げるとウィルワードはごめんごめんと答えながら、


「箱入りらしいからね。潤沢な魔道具等が見渡すとあるようだから言ってみただけだよ。対人能力も問題ないようだね。この世界が、エリは好きかな?」

「クロヴィスと同じことを聞くんですね。私はクロヴィスやフィオレやライ、タマ、リリス達皆がいるこの世界は気に入っています」


 それは私が今現在思っている本心だった。

 そしてそれをわざわざ口に出させられるのも少し恥ずかしい気がした。

 だからそういった意味で私はちょっとだけ不機嫌になったのだけれどそこで、


バリバリバリガッシャーン


 大きな音を立てて私の家の屋根に風穴を開けて、何かが降ってくる。

 ガラス製の道具の上に落ちたので、幾つかの道具が割れたような音を聞きながら私が青くなって様子を見に行くとそこにあったのは、


「人形?」


 ひげのついた青い帽子をかぶった男性の人形が私の砕けたガラス道具の上に鎮座していたのだった。







 その人形に私は見覚えはなかったけれど、人形というとウィルワードという妙なイコール関係が頭に浮かぶ。

 浮かぶけれど、いやいやまさかと私が思いながら、硝子に気を付けて人形を拾う。

 突然空から落ちてきたのを考えると、鳥か何かが人形を掴んでいてたまたま落としたか、可愛い女の子が空を飛んでいる途中で何かを落としたに違いない。


 ただの可愛い人形だしと私が心の中で納得しようとしていると、


「あれ? それは僕の作った人形だね」


 ウィルワードが私を後ろから覗きこみ、その人形についてそう言った。

 やっぱり関係があるんだと私が思っていると、更にウィルワードはその人形をじっと見て、


「この人形は、空に浮かぶあそこのメンテナンスの人形だったはず」

「そうなんですか。でも何でここに?」

「壊れた様子もないから、何かの拍子に間違って落ちてきたのかも。人に当たらないで済んで良かった」

「そうですね。それでこの人形がここにあるとその空飛ぶその何かに問題って発生しませんよね?」


 ふと不安にかられた私がウィルワードに聞くと、笑顔で沈黙した。

 何ですぐ答えてくれないんだろうと私が思っていると、


「大丈夫だよ、多分」

「凄く不安になってきた」

「ははは、クロヴィスみたいな事をいうね」

「いえ、この場合、クロヴィスで無くてもそう言うと思います」

「大丈夫大丈夫。おっと、そろそろお昼だね。これから用があるから」


 そう言ってウィルワードは足早にその場を去っていく。

 そんなウィルワードを玄関の外で見送るんだとフィオレがついていって部屋の外に行ってしまう。

 けれどあとに残された私の中で、本当に大丈夫なんだろうかという疑惑がむくむく膨れ上がる。

 そこでライが呟いた。


「あのウィルワードという魔法使いは、フィオレの役割について知っているみたいだったね」

「あれ、ライ、何か知っていると?」

「……その内分かるよ」

「ライも教えてくれないんだ」

「……私が知っているそれが真実だとは限らないからね。もっと確証が出来たら、気が向いたら話してあげるよ」


 ライがそう、つれない事をいう。

 とはいえ、そろそろお昼が近いのでお腹が空いてくる。

 なので今日のお昼は何にしようと私が聞くと、


「お肉!」


 とタマが言うので、ローストビーフとパン、サラダに決定したのだった。








 オレンジ色の夕日が綺麗な頃。

 私は一人台所の傍のテーブルに座っていた。


「私の居場所が強制的に作られている、か」


 何となくその言葉が引っ掛かって口から出てしまう。

 居心地が良いし、皆いい子だし、クロヴィスは意地悪だけれど優しい。

 けれど目覚めさせてしまったウィルワードが、甘い夢から私の目を覚まさせるように囁く。


 多分、悪い人では無いと思う。

 何かの目的があるのだ、ちょっと迷惑な人だけれど。


「この世界の崩壊が、それをくい止めるのがゲームの趣旨だった」


 その役目を私にさせ様としているのだろうか。

 ……。

 ふっと意識が遠のいて、ふと随分とぼんやりしていた気がする。


 何を考えていたんだっけ、そう思った所で家のドアが開く。


「あ、クロヴィス、お帰り」

「ただいま。折角だから戦闘の依頼を幾つかこなしてきた。そしてエリが好きそうな果物があったから持ってきたぞ」

「わー、パイナップルだ」

「“水のパイナップル”。触手の木になる果実だ」

「……」

「どうした、変な顔になっているぞ?」


 クロヴィスがやけに楽しそうで、けれど私としては切実な不安があるわけで、


「……これ、葉っぱを植えたら触手が生えてきたりしないよね?」

「無いだろう、“水のパイナップル”は種で増えるはず」

「そ、そうだよね。うん……」


 私は納得して後で食後のデザートのパイナップルケーキにしようと決める。

 そこでクロヴィスが動きを止めた。


「何でこんな所にあいつの作った様な形の人形があるんだ? ああ、エリが……」

「これ、昼間空から落ちてきたんだ。何でも空飛ぶそれのメンテナンス……」

「早めにそれを元の場所に戻してこよう。折角だから観光も兼ねて」

「……大丈夫だってウィルワードさんいっていたよ?」

「あいつの大丈夫は信用できるか! 面倒な事にならないうちに戻しに行こう。そうだな、明日辺りこの魔の山に登って何処にあの空飛ぶあれがあるか確認しよう。戦闘もするからエリを連れていくのに丁度いいし」


 狼狽するようにクロヴィスがいう。

 そういえば人の噂を気にしたりするのが良い兆候だとウィルワードは言っていたけれど、今は急いで元に戻して巻き込まれないようにと言っている。

 クロヴィスが、この世界を気にしているという事に他ならず、そしてゲームの最後の方の台詞を思い出した私は、自然と笑みがこぼれて、


「そうだね、早く返しに行った方が良いかもね」

「……エリ、嬉しそうだな。よし、戦闘はエリに明日はできる限り任せてやる」

「やめてぇえええええ」


 クロヴィスが私を見て意地悪く笑ってそう告げる。

 そして次の日の朝早くから、以前登った山に、今度は一緒に行って空飛ぶあれを観測したいというフィオレとライ、タマを連れて頂上まで登る事となったのだった。



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