朝目が覚めると隣には見知った男が寝ていた
それから乱入してきたフィオレとライに私は盾にされてしまった。
これからどう料理してやろうかというかのように笑うアンジェロとフェンリルに、私まで向かい合わされる形になってしまう。
そんな状況で涙目になっているとそこでクロヴィスが、
「エリを巻き込むな」
と、今までで一番凍りついてしまいそうな冷たい声で言われてしまった。
助け船を出された私も怖かったのだけれど、すぐに腕をひっぱられてクロヴィスの横に連れて行かれてしまった。
そしてフィオレ達は、近づいていくアンジェロ達に、結局は温泉で隣につかる権利を渡していた。
一緒に並んで黙ってつかっている彼ら。
何処となくフィオレとライは幸せそうである。
フィオレの場合はこのまま仲直りして、アンジェロが連れて帰ってくれないかな……謎生物を作り出されても困るし、そう私が思っているとそこで、
「エリ~、こんな花を見つけたよ~」
そう言って、三つのピンク色の花と、一つは種になって枯れているらしい、計4つの花のついたそれをタマ達が持ってくる。
確かに綺麗な花だなと思って私が受け取るとそこでフィオレが、
「よつばの花……エリ、それ、ここの温泉街にしか咲いていない貴重な花で、購入するだけでも大変な額になるぞ」
「ええ!」
「むしろ弁償で許してもらえるかどうか……ああ、だからここは貸し切りなのか。この花を育てるために」
どうしてここが貸し切りで来たのかという理由は判明した。
だが、この花は魔法の材料になるので私自身も幾つも持っているというか、ゲーム内では一杯取れた。
確かにそこそこ値段は高かった気がするけれど、と思いながらその花を見る。
茎の部分がぶちっと切れている。
ど、どうしようと私は思いながら、ふと私は思いだした。
「そ、そうだ、植物の生長を促す魔法薬が……」
「それを使っても成長するには数日かかるし、その植物に合わなければ最悪の場合枯れる」
フィオレのその言葉に、そ、そうなんだと思いながら手に持っている花を見て、そこで気付く。
この花は“種”を持っている。
ならばこれを成長させれば、というかフィオレの力を使えばこの花は、茎と葉だけが残っているのだからまた大きく花を咲かせるんじゃないかと思って、そこで私は気づく。
このフィオレの能力を知るのは、もっと後の出来事。
つまり空の上に浮かぶ謎の種族の都市にいかなければならなくて、でも、そこに行くには複雑な条件が必要で、でも時間が少しでも惜しかったのだ。
だってそれは、仲間がある魔物に特別な“呪い”にかかってしまい、それを回復させるのに必要な道具があって、その時にフィオレの力を知るのだ。
そしてそのイベントはまだ起きていない。
だからそんなフィオレの能力は私は知らないのである。
どうしよう、どうやってフィオレに手伝ってもらおうと私は考えて……思いついた。
「フィオレ、あの食べ物を変な生物にしたみたいに植物を元気にさせたりって出来ない?」
「……やったことはないから知らない」
それは嘘だ。
フィオレは自分自身の“力”を知っている。
それを私はゲーム内で知っている。
でもフィオレは乗り気でないみたいだ。
なんとか使ってくれないかなと私が思っているとそこで、ばしゃんと温泉の水がその摘み取られた花にかかる。
「……温泉の影響で咲く花なら温泉をかければ咲くだろう」
つまらなそうにクロヴィスがそう告げて、同時に先ほどの茎から花が咲く。
四つ全部花が咲いているものだ。
驚いたようにフィオレはクロヴィスを見ていて、反対にアンジェロは少し警戒するようにクロヴィスを見ている。
また、ライとフェンリルはなにか思う所があるのか探るようにこちらを見ている。
けれどそんな四人の視線など気に求めていないらしいクロヴィスは、少しすねたように、
「真っ先に俺を頼らないんだな」
「……そうだね、クロヴィスに頼ればよかったね。その、ありがとう」
そう答えて、私は微笑むと、クロヴィスは仕方がないなというかのように笑う。
何だかんだ言って、戦闘に連れだそうとしたりするけれど、クロヴィスは私に対して優しくて“甘い”。
そしてリリスとタマが、ごめんエリと抱きついてきたり、この花は私がこっそりお持ち帰りしてもいいことになったりした。
いずれ“呪い”にかかった時、それを解除するのに必要な魔法薬の材料なので、偶然とはいえ冷や汗をかいたりもしたけれど手に入ってよかったように思う。
そんなこんなで温泉街を後にしようとした私達が、巨大な透明な怪物というウィルワードの新作入浴剤と戦う羽目になったりして散々な目に合うのはそれからすぐ後の事だった。
「う、うう、ようやく家に辿り着いたよ……」
フラフラになりながら私はようやく家に辿り着いた私達。
色々あって、温泉に入ったので癒された気がしたけれど、その後のウィルワードのアレがきつかった。
「温泉街の三階建ての建物よりも大きな温泉の化け物が……うう、服がびしょびしょになるし酷い目にあったよ、うう……」
フィオレもライも含めてクロヴィス以外全員がボロボロな感じだった。
ただあの巨大生物と戦った後、フィオレとアンジェロは少しだけ仲直りしたように見えた。
何だかんだ言ってアンジェロもフィオレが大切で仕方がないのが、戦闘時にフィオレにも伝わった様なのだ。
けれどそれでもフィオレの中ではまだ心の整理がつかないらしくて、もう少し私達の家にいたいらしい。
ただ、その時アンジェロは気になる事を言っていた。
「……やはり、この私が簡単に説得されてしまうのが問題かもしれませんね。惚れた弱みというものでしょうか。そうですね……私らしくありませんね」
と、フィオレも真っ蒼になる様な顔で暗く笑っていたのが気になる。
何をする気なんだと、フィオレはアンジェロに詰め寄っていたが、アンジェロは嘘っぽく笑うだけで答えなかった。
そういった意味で心労がたまっているフィオレは、帰ってきてすぐにベッドにもぐりこんだ。
リリスとタマも、眠るのにちょうどいい場所を見つけたとかで二人揃ってこの家の何処かで眠っているらしい。
またライといえばふらふらになっている所でフェンリルに何かをささやかれて、敵意むき出しで睨みつけてそのまま用があるからと途中で別れた。
後で私の家に戻ってくるらしい。
機嫌が悪くなって帰ってくるのかなと私は思ったけれど、帰ってくるまで私は起きていられないかもと思う。
そう私も眠りたくて堪らなかった。けれど、
「とりあえずこの花、“よつばの花”の種を植えて生長促進剤をかけておこう。生長促進剤“すくすくにゅるにゅる君・バ-ジョン1.5”。上手くいくと良いな」
空いている小さな植木鉢に、種を二つ放り込んでその生長促進剤“すくすくにゅるにゅる君・バ-ジョン1.5”を振りかける。
枯れませんようにと思っていると"ムクリ"と即座に芽を出す。
どうやら上手くいったようだ、と思うと疲れが出てきてふらりと倒れ込みそうになると、後ろで誰かに支えられた。
いたのはクロヴィスだ。
流石はラスボス、あの戦いでも服すら濡れていない。
少しだけ精神的な疲れが見える気がするが。と、
「そんなにふらふらで、もう眠れ」
「うん、そうするよ、ふえっ」
そこで私は浮遊感を感じる。
気付けばクロヴィスに抱きあげられていたが、そこまでしか私は考えきれず、むしろクロヴィスの体温が服越しに感じられて気持ちいいな、すや~、という状態だった。
そしてそんな私を見てクロヴィスが、
「だからどうしてそんなに無防備なんだか……。このまま俺のベッドに引きずり込んでやるよ」
笑うようにそう告げたのは私は気づかず、誰かに抱きしめられているのに気づいて私が悲鳴を上げて目を覚ますのは、次の日の朝の事だった。
ライが連れ込まれたのは、とある宿屋だった。
それも高級なもので居心地の悪さを感じる。と、
「それで君が目的としているのは、エリという不思議な子だね。まあ、魔族が異世界から何かを呼び寄せたのはこちらも掴んでいたけれど」
「その様子を探る為にわたしライがここにいると話してもいいのかな? と囁いて私を呼び寄せる貴方の性格の悪さには辟易しています」
「……もう少し私に媚びて情報を引き出そうという気はないのかな?」
「貴方に媚びるなんてお断りです。そしてそれは私の役目じゃない」
「そうかな? 君に誘惑されたなら、私は何でも話してしまいそうだけれどね」
笑うフェンリルのその余裕が気に入らずに、ライは更に不愉快になりながら、
「それで、私に何か用ですか?」
「君たちの目的を少し聞きたいと思ってね。それと」
「それと?」
「ライのことが未だに忘れられなくてね。君と出会ったら抱きたくなった」
「お断りです」
「でも、こちらの動向、そう、“クロヴィス”に対する対応について、君は知りたくないのかい?」
「……」
ライがフェンリルを睨みつける。
それはライ達にとってほしい情報のはずだった。
けれどその見返りが何なのかを既に提示されていて、ライはそれに気付いて握りしめる手に力を込める。
本当はまだ、“怖い”のに。
けれどそれしか方法がないとライにはわかっていた。
だってそれ以外に彼が何を望むのか何もライには分からなかったから。だから、
「分かりました。好きにしてください」
「……というのは冗談で、今日はこれから美味しい物を私と一緒に食べて、少し情報交換をするだけにしようと思うのだけれど、どうかな?」
フェンリルがライにそう告げた。
あまりな発言に凍りつくライ。
そしてライはそのフェンリルの笑みを見て、自分の先ほどまでの不安と決心は一体……という気持ちになりつつ、
「どうしてそういった嫌がらせをするのですか?」
「ん? 好きな子を落とすにはあまり怖がらせないようにしようと、そう判断しただけだよ」
「……まるで私のことを本当に好きみたいじゃないですか」
「本気だからね」
にこりと微笑みながら優しげな眼差しでフェンリルはライを見ている。
この男は苦手だ、そう思いながらライは、いくつかの情報を交換したのだった。
どことなく全体的に明るい気がする。
どうやら朝になったようだと私は思って、眠い目をゆっくりと目を開くと目の前にクロヴィスがいた。
「うぎゃああああああ」
突然、私の顔面に広がったクロヴィスの寝顔に大きな悲鳴を上げたわけですが、その声にクロヴィスが薄っすらとまぶたを開ける。
吸い込まれそうな青い瞳。
眠そうなその瞳には私の驚いた顔が映っているが、そこでクロヴィスが一言、
「うるさい」
「ふぎゅ、うぎゅっきゅ……」
そこで私はクロヴィスに抱きしめられた。
しかもそのまま顔を胸元に擦り付けられるようにして強く頭を引き寄せられ、声が出せない。
けれど私としてはこんなふうに抱きしめられる状況から逃げ出したいというか、恥ずかしいというか、意識してしまうというか……そんな理由から、ジタバタジタバタしてしまう。
だがそんな暴れている私の手をクロヴィスに掴まれて、そこで、
「……そういえば、エリをベッドに引きずり込んだのか」
「そ、そうだよ! 私はどうしてこんな所に……」
最後の記憶は、確かクロヴィスに抱き上げられた所で終わっている。
その後は、疲れていたせいもあって覚えていない。
そんな私の不安を見ぬいたかのように私を見ながらクロヴィスがとてもいい笑顔で、
「昨日、エリがこの部屋に来た後、何があったか知りたいか?」
「は、はい」
まさかR18な展開に……と私が思っているとクロヴィスが苦笑して、
「抱き上げたらやけに幸せそうだったから、一緒に寝た、それだけだ」
「そ、そうだったんだ。良かった……幸せそう?」
「ああ、抱き上げたら安心したかのように眠っていたからそのまま連れてきてだき枕にした。俺も気持ちよく眠れた気がする」
「そ、そうなんだ、良かった」
「そうだな、背が小さいから子供みたいに体温が高いのか?」
「……」
私は沈黙した。と、
「それで、そろそろ起きたほうがいいんじゃないのか?」
「あ、フィオレ達も起きているかも。ちょっと様子を見てくる」
クロヴィスにそう答えて私はベッドから起き上がり、私の部屋に向かう。
そんな私が、あの花の影響でアレなことになっているライとフィオレの惨状に気づくのは、そのすぐ後の事だった。
“マルイポテト”という、じゃがいものようなものを使った、グラタンもどきの朝食と紅茶。
昨日の今日で、疲労のためかフィオレとライは食欲があまり無いようだった。
もっとも夢見が悪いのも多分にあると思う。
そこには特に突っ込まず、タマにはグラタンを、リリスには粉砂糖で作った砂糖のお花をあげる。
二人共嬉しそうに食べているのをほのぼのとしながら見ていると、玄関のベルが鳴らされる。
こんな朝早くから誰だろう、そう思って私は玄関に向かい、開くと、
「やあ、折角だから遊びに来たよ」
そう言って、ウィルワードが現れたのだった。




